腕が覚醒しちまった。
もう人間に戻れないんだ。
ガギギ……ガ……ギ、ギャグ(ガ行覚醒活用)
気が付くと私は、理事長の椅子を車椅子のように押して、廊下を爆走していた。
校内放送からは、エマージェンシーコールが鳴り響き、廊下のLEDライトは赤く点滅していた。
「もっとだ! もっと速く走れ!! 間に合わなくなっても知らんぞ!!」
「羽根をしまってください!!」
「断る!」
さっきから顔面にバサバサ当たってんやが。
前が見えない!!
「よし! そこを右だ!!」
「え! うわあああ!」
私達は曲がりきれなかった。さらに、衝撃波が通り過ぎると、廊下が砕け落ち始めた。
「く……! 落ちる!」
自由落下特有のふわっとした感じを感じた。下には、緑の温泉みたいなやつが広がっている。
あれは……ライフストリーム!? やべぇ!
私達は最上階から転落した。
―――
――
―
私は母なる生命の鼓動に揺蕩っていた。
「今、母って言った?」
「いや、言ってないけど」
一瞬、ママ化した誰かの顔が湖面に見えた気がしたが、気の所為だった。
なにが、どうなったんだっけ……。
そうだ! 怪獣の戦争みたいなのが起きて、転落したんだ!
その時。
「ぎにゃモン……ぎにゃモン……ぎにゃモン……」
不思議なスクリュー音を響かせて、メタルな外見の猫型六本足潜水艦がこちらに向かってきた。2つの目が、サーチライトの様に光っている。
潜水艦は私を見つけると、グルグルと私の周りを周った。一体何なんだ。
すると、何処からともなく声が聞こえてきた。
「……こっちよ、こっち。こっちよ……」
私の目の前に傷だらけのロン毛少女が現れた。いや、だれ??
「くすくすくす。付いてきて」
「ぎにゃモン……ぎにゃモン……ぎにゃモン……」
私を先導するように、猫型潜水艦に掴まった少女は遠くに滑っていった。どこいくねーーん。
「まっ……まって!」
付いていかないと不味いことになる。そんな予感に突き動かされて、私は必死に前に進んだ。
後ろからはドロドロとした闇が迫っていた。
「ひえ〜!!」
すべてを飲み干すような流れが、ドロドロから発せられた。
私は必死に泳いだ。ここで飲み込まれたら終わりだ!!
「ぜぇぜぇ……」
なんとか泳ぎきった私は、湖面に上がった。
そうだ、理事長は!?
理事長は空を飛んでいた。
「えぇ!? 飛んでる!?」
「遥か古から存在する〈ヒラガゲンナイ〉という技だ。何をしている。早く行くぞ……うっ」
理事長は、そのままフワーッと少し進んだあとに、突如石化して落ちた。
「理事長!? なんで!?」
私は慌てて理事長の所へ移動した。
「ぐす、ぐす……ぐす」
すると、理事長が落ちた瓦礫の前で座り込み、すすり泣く傷だらけのロン毛少女を見つけた。きっと理事長の娘だろう。
私は無言で瓦礫をどけると、無事だった豪華な椅子に石化した理事長を乗せた。石化したタイミングが良かったのだろう。キン肉バスターみたいにうまく収まってくれた。
「ついてこい!」
「ぐす」
私がそう言うと、少女はちゃんと樺地みたいについてきた。二人を脱出艇に送らなくては!
「先生! こっちです! こっち!」
たくさんの生徒達がグランドを挟んだ向かいで手を振っていた。ベロニカ先生やフローラ先生、そして婦警のりりぃさんが見えた。
「くそ! まにあえ!!」
私は必死に走った。
後ろからは暗いドロドロが迫っていた。
ライフストリームから溢れ出してきたのだろう。
脱出艇が見えた。え、なんでロケットの形してるの!?
その時、空から光が降り注ぎ始めた。
光の中には薄っすらと、フロントダブルバイセップスポーズを取るムキムキ男の黒いシルエットが見えた。肩に冷蔵庫乗ってる!?
これはあれか、いよいよ迎えに来たな。
「ぎにゃ……ぎにゃ……」
「ぎにゃ……ぎにゃ……」
「ぎにゃ……ぎにゃ……」
公園にいた沢山のブサ猫達も私と共に走ってくれた。
遅れていた少女を背中に乗せて。
間に合った!!
ロケットがある場に溢れた猫達によって、泣き虫少女と石化した理事長が脱出艇に押し込まれた。何匹か猫も混じっていった。
「無事に逃げてくれ!!」
「何やってるんだ!? お前も来るんだ!! オリヴィア! オリヴィアァァ!!」
私は思いを託して、少女を送り出した。
泣き虫少女が窓から何か叫んでいたが、全く聞き取れなかった。
黒いムキムキ男の影が脱出艇を担ぎ上げ、光が降り注ぐ方へ走り始めた。え、発射しないの?
「パーオキシアセチルナイトレートォォォォ!!!」
よく分からない掛け声で、突然超加速したロケットは光る空に消えていった。
「終わったな……。無事だと良いが」
「なんにしても、これからは私たちの戦いです」
みんなで発射された(?)ロケットの雲を眺めていると、ベロニカ先生やフローラ先生がぽつりと言った。
理事長は生徒全員を脱出させろと言っていたが……。そもそも、あのロケット二人乗りだった。
背後では街が破壊され、角の生えた女型巨人が悔しそうに慟哭していた。
唐突に、私は使命感に燃えた。残ったままのケンタウロスと女型巨人の相手だ。奴らはこの街を破壊し尽くしている。
「怒りで我を忘れているんだわ!」
「え、自我あるの!?」
カティア先生が叫んだ。どう考えてもバーサーカーだよコイツラ!?
その時、私の耳がかすかな声を捕らえた。
「ぷ、ぷ、ぷり……ぷ……ら。ぷぷっぷぷりぷら」
「この声は!?」
声の元を慎重に探ると、甲冑みたいな鎧に包まれた巨大なケンタウロスから発せられていた。
「そんな……、まさかプリ子!?」
彼は悲しみのあまり、あんなちん〇んの大きそうな怪物になってしまったんだ。くそ、私がのんびりしていたから!! すまない、プリ子……すまない。
「あれとぉ、戦う?」
「え?」
金髪巨乳が私の傍に近寄って言った。戦う手段があるんディすか!?
金髪巨乳に言われるがまま戦隊モノの赤いタイツを着た私は、ずんぐりとした猫型超兵器に押し込まれてしまった。
生徒や先生たちも、次々にこの巨大ロボへ乗り込んだ。
操縦席には、様々なボタンがあり、棒が一本だけ飛び出していた。
「出発よ! お行きなさい!」
無線からカティア先生の声が聞こえた。ええ!? くそ、どうすればいいんだ!? 操縦がわからねぇ!!
すると、無線からくぐもったベロニカ先生の音声が聞こえてきた。ベロニカ先生は……確か機関室にいたはず!
「く……ザザッ! 聞こえるか!? そ……の、赤い…ザザッ…ン……押して……ろ!」
やべぇ、全然聞き取れねぇ。あ、そうか!
繋がっているのはオペレーター室だ。口頭で使い方をレクチャーしてくれるようだ。
「赤!? これか!!! 押したぞ!」
「超加速装置になっている。絶対に押すな」
「どういう文法の使い方!?」
超加速装置が起動し、私はシートに押し付けられた。
「ぎにゃああああ!」
吠えた猫型超兵器が、大暴れする女型巨人に突っ込んだ。
「ぐああああ!」
プッピガァンという衝撃が私達を襲った。
くそ、受け止められただと!?
女型巨人と腕を合わせて拮抗していると、ケンタウロスのプリ子が巨大な弩を構えて発射した。やべぇ!
「任せてください!」
フローラ先生が無線の向こうで叫んだ。
すると猫型ロボットが女型巨人を蹴りとばし、飛んできたホーミングする巨大な矢を高速でビンタし始めた。
えぇ……なんでビンタ……。
ベロニカ先生から再び通信が入った。
「く……ザザッ! 聞こえるか!? このままでは分が悪い! 離脱するぞ! そ……の、青い…ザザッ…ン……押して……ろ!」
「肝心なとこ聞こえねぇんだけど!?」
私は明らかに自爆スイッチです、と主張する横の青いボタンを押した。
「ええい、ままよ!! 青を押したぞ!!」
「今、ママって言った?」
「いいから座ってろ!!!」
いつの間にか、後ろの席にいたママ達が立ち上がって話しかけてきたが、私は雑に振り払った。
その時、ベロニカ先生の鮮明な通信が聞こえた。
「ベクターキャノンになっている。絶対に押すな」
「いい加減にしてくれ!?」
プリ子ケンタウロスに突撃した猫型ロボットは、ケンタウロスを蹴り上げると空中に向かって両手を突き出した。腕が分解され、巨大な砲身が姿を現した。
どこか機械的な音声が聞こえる……。
__ベクターキャノンモードへ移行__
__妖気エネルギーライン、全段直結__
__
__
__ライフリング回転開始__
「撃てます」
後ろの席でママが言った。お前が言ってたの!?
「発射」
「えぇ……」
私の意思とは関係なしに発射された。早漏かよ。
虹色のビームが空中のケンタウロスを撃った。曇り空に罅が入り、ケンタウロスのプリ子は、映画で最後にかめはめ波を食らう敵のようになっていた。
「プリ子ォォォ!」
空が砕け散り、プリ子は回転しながら暗い空へ旅立っていった。短い付き合いだったけど……、成仏してくれ……。
女型巨人が起き上がって猫型ロボットと対峙した。こいつも復帰が早い。しかも、猫型ロボットは、ベクターキャノンの反動で片膝をついてしまった。
「まずい、出力が足りない!!」
エネルギーゲージが半分を切っていた。
「……」
「ぐああああ」
無言の女型巨人が突進してきて、吹き飛ばされた。なんというパワーだ。
「く……ザザッ! 聞こえるか!? まずいぞ! 攻撃しろ! そ……の、桃色…ザザッ…ン……押して……ろ!」
聞き覚えのあるベロニカ先生の声が聞こえたが、私は自棄になってボタンを押した。
「押せばいいんだろ押せば!!」
吹き飛ばされ、尻もちをついて座り込んだ猫型ロボットの背中が割れ、何かが射出された。
猫型のミサイルポッドだった。
「ぎにゃにゃにゃにゃ」
飛び出した猫ミサイル達は、ファンネルのように私の言うことを聞いた。よし! 行けるぞ!!
雲を引きながら、空に駆け上っていった猫達は、空中で17個に分かれると女型巨人に降り注いだ。
視界が覆われるほどの爆炎が発生し、対象を見えなくした。
これほど打ち込んだんだ。無事ではすむまい。
「……倒した。倒したぞ!」
煙が晴れると何もいなくなっていた。よっしゃ、倒した!
無線からみんなの歓声が聞こえた。
「……」
しかし、私の目が何かを捕らえた。
それは、一本角を生やし、背中からは4枚の翼が飛び出していた。人間より少し大きな大きさで、全身が焼けただれたように赤い色をしていた。
金色の瞳とロボのカメラが合った。
「……遊びは、これまでよ」
ぼそりと、一本角の化け物が言うと、強烈な圧が発せられた。やばい。最終形態になりやがった!
一本角の化け物の指が伸びて、猫型ロボットに刺さった。空中に浮いた化け物は、その大きさからは信じられない力を発揮して、猫型ロボットを持ち上げて投げた。
「ぐああ、やべぇ。制御できねぇ!!」
空中で猫がじたばたと泳いだ。さらに、指の触手がロボの体に次々と刺さった。
「……最後がこれってどうなのよ」
「……後輩の為に最後の意思を使えるのは、僥倖だよ姉ぇさん」
その時、空を泳ぐ猫型ロボットから、2人の生徒が飛び出して一本角の化け物にしがみついた。自爆する気だ!!
「まて、やめろお前ら!!」
眼帯をつけた金髪と、スケバンみたいに改造した制服を着たツインテだった。
問題児のラファエラとルシオラだ。
奴らは猫を飼いすぎて停学になっていたはずなのに!
「さようなら、先生……」
光に包まれ、すさまじい衝撃が世界を穿った。
色々あったけど、次回から正気に戻ります。