〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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ダーエの考察について

原作では、プリシラについても深く考察していますが、本作では超越者の話で終わりです。
強力な憎悪と自らへの嫌悪が強さの源泉という結論でしたが、他にも要因はあるように考えています。というか、ないと他の戦士との差別化ができなくなりそう。
ダーエ自身も、同じように実験した素体もプリシラほど強くはなかったと言及していますし……。
最後の遺志で幼子を見えなくする辺り、プリシラにも輝く魂があったように思えます。
サイコパスーヌもナンバー1の覚悟に焼かれて、文字通り消滅するし……。
オフィーリアみたいに情緒が不安定な戦士ほど強い……、とも違うような、何なんでしょうね。



らきーぬ

 

「オリヴィア!?」

 

 急に起き上がったイライザへ、仲間達が驚いた視線を向けた。

 

 時はクレアを救助した後の一刻後。

 ラボナで拠点にしている建物での出来事だった。

 

「そうか……気絶して。いや、させられたのか……」

 

 眠って幾分か冷静さを取り戻したイライザは、自分の状況を俯瞰した。

 

「まったく……。手を掛けさせやがって」

 

 そう言ったのは、イライザを気絶させたヘレンだ。殴り飛ばされた意趣返しで気絶させた……わけではなかったが、そういう気持ちがなかったといえば嘘になる。しかし、心配して付きっきりとなっていた。

 

 

「起きたか……」

 

 ちょうどその時、ミリアが戦士の装備に身を包んだクレアを伴って入ってきた。

 

「クレア……もういいのか?」

「あぁ……、心配をかけた。もう大丈夫だ」

 

 クレアの後ろにはラキが控えていた。

 

 

 

「皆に聞いて欲しいことがある」

 

 小さな丸椅子に座り直したクレアが言った。

 

「あらたまってなんだよ。いてっ」

「黙って聞いてやれ」

 

 ヘレンとデネヴのいつもの寸劇を見て、クレアは相好を崩した。

 咳払いをするとクレアは続けた。

 

「……あの覚醒者の集合体と一本角の化け物……プリシラについてだ」

「!?」

 

「まず、私と奴の確執を知ってほしいんだ。……奴は私の仇であり、私が戦士を志した理由そのものとなる」

「!」

「私の恩人……テレサは組織の戦士だった。テレサは妖魔に弄ばれていた私を助けて……組織に反逆した。そして、当時討伐隊に混じっていたプリシラに……。いや、覚醒したプリシラによって首を刎ねられたんだ。……私の身体には、その時のテレサの血肉が埋め込まれている」

 

 胸に手を当ててクレアが言った。

 

「それじゃあ……」

「あぁ、私は4分の1(クオーター)だ」

 

「〈微笑〉のテレサと言えば、歴代のナンバー1の中でも指折りの実力者だったと伝え聞くが……」

(そうか、それで……)

 

 ガラテアの言葉に、ミリアは初めてクレアと手合せしたときの悪寒と違和感を思い出した。当時のミリアは、最弱の戦士クレアの中に最強格のテレサを一瞬だけ感じ取っていた。

 

「組織は強い戦士の永続継承をしたかったようだ……。その時の私にとっては、都合が良かったんだ。しかし……」

「……」

 

 クレアは拳を握り、悔しそうに俯いた。

 

「しかし、出来上がったのは4分の1(クオーター)の戦士、与えられたナンバーは最下位の47だった……というわけか」

「あぁ……。……私は弱い」

「……」

 

 引き継いだデネヴの言葉に、クレアは悲痛そうに声を絞り出した。

 

 

 その時、急にフォーカスが、壁際に立っている二人に移った。

 

(いや……。お前が弱いとしたら、私はどうなるんだ……)

 

 冷や汗を垂らした元ナンバー40のユマと、FXで一瞬のうちに全額溶かした顔をしている元ナンバー37のナタリーの心の声が被った。

 元下位ナンバーの2人は、追い付けない最下級の戦士に絶望した。しかし、空気を読んで発言しなかった。

 きっと直情的なオリヴィアがいれば、弱音を吐いたクレアを、2人の代わりに即座にぶっ飛ばしてくれていただろう。

 

 隣通しの2人は偶々顔を見合わせたが、何方ともなくスッと視線を逸した。

 

(……こいつと一緒は嫌だ)

 

 最近技も被り気味だ。

 戦士にありがちなことだが、なんだかんだ言って二人とも我が強かった。向上心の塊ともいう。

 

 

 

「だが、私は生命を賭してでも奴を討たなければならない。……皆にそれを知っていてほしかったんだ」

 

「お前と出会ってから、大凡8年か……。やっと言ってくれた、と言いたいところだが」

「言うのが遅すぎるぜ」

「まったくだ」

 

 クレアと特に親交の深かったミリア達の顔には、呆れが浮かんでいた。

 

「お前の覚悟はわかった。だが、あの集合体を放置するわけにはいかん。生命を賭してでも、というのは……生き残った我々にとっては今更の話だ。それに」

「それに、オリヴィアを助けなくちゃいけない。ちがう?」

「……お前達」

 

 ミリアやイライザの言葉にクレアは呆気にとられた。

 

「けっ、クレアが出てこれたんだ。あいつもすんなり出てくるだろうよ。あたしはやるぜ」

 

 オリヴィアの姉貴分であるウンディーネも、鋭い視線を向けた。

 

「……。それと……。私はあの融合体の中で、オリヴィアに会った気がするんだ。脱出する時に、私の背中を押してくれたんだ。だから、オリヴィアもあの中で、きっとまだ戦っていると思う」

 

(そう言えば……。あのとき、一瞬だけオリヴィアの頭が見えた気がしたが……。やはり、全員全裸になれば……)

 

 クレアの言葉に、ナタリーはサブリミナル射精を思い出したが、またもや声には出さなかった。言ったところで、助けに行くのは変わらないからだ。

 

「助けに行くのなんて、当たり前の話だ。オリヴィアを取り戻す。そして、そのプリシラを倒す。今の私達に必要なのはそれだけだ」

「ユマさん……それ、デネヴさんやオリヴィアさんが言ったやつです」

「そ、そうだったっけ?」

 

 ユマが決め顔で言ったが、大剣を引き抜いたシンシアのツッコミに、タジタジとなった。

 

「全員で必ず生き残りましょう。今度こそ!」

「!」

 

 まるで北の戦いの焼き回しのように、シンシアが大剣を掲げた。命を投げ売って自棄っぱちに成っていたシンシアは、これまでの出来事を通りしてそれを乗り越えていた。

 

「あぁ! 必ずだ!」

 

 この場にいる全員が、顔を見合わせて大剣を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 まずは、東から迫る〈深淵の者〉を倒すことになった。迫る覚醒者は、プリシラの分体と言って等しい。融合されては、手を付けられなくなる。必ず先に倒さなければならなかった。

 

「……駄目だったか」

 

 そう溢したのは、ラボナ東部の門に立ったガラテアだった。顔を向けた先では、ミリア達が戻ってきていた。

 融合体から何れ産まれ出る超越者。

 その分体の討伐を、先の理由からラボナ近郊に集まった覚醒者へ、ミリアが焚き付けに行っていた。

 

「ああ。奴らにとっては……、組織を潰した偉業を成したとはいえ、我々はいつでも潰せる羽虫程度にしか思われていないようだ」

「〈叛逆者〉ミリアだってよ」

 

 護衛について行ったヘレンが、沈んだ空気を除けようと覚醒者に言われた渾名を戯けて言ったが、完全に空気を外していた。

 

「……」

「……やめろ」

 

 ミリアとデネヴが頭痛がするように、それぞれ眉間や頭へ手を当てた。

 

 圧倒的な戦力不足。

 東の地で〈深淵の者〉に相当する3体が融合した化け物は、本体に劣るとは言え、もう1人の超越者と言ってよかった。

 

 吉報としては、自身では弱いと言っていたが、実力者であるクレアが戦線に復帰出来そうな事が挙げられた。

 しかし、交換するようにメンバーの中で強力な突破力を持つオリヴィアが不在となっていた。

 

「しかし、すぐに動かなければならない。もう、時間がないな」

「ああ……」

 

 ガラテアが遠くを見透かすように、〈深淵の者〉へ顔を向けた。

 〈深淵の者〉はすぐそこまで迫っていた。

 

 

―――

――

 

 

 

 クレアが復帰して数時間後。

 討伐メンバーは、緩い谷間の上を飛ぶ〈深淵の者〉の前に立っていた。谷間には青々とした木が茂っていた。

 

 ラボナにはガラテアを筆頭に、最低限の守りを残した。討伐メンバーは、北の仲間達に対空戦闘が可能な二人を加えた構成となった。

 

討伐のメンバー

 

元NO.6 ミリア

元NO.11 ウンディーネ

元NO.14 シンシア

元NO.15 デネヴ

元NO.17 イライザ

元NO.22 ヘレン

元NO.37 ナタリー

元NO.40 ユマ

元NO.47 クレア

 

現役ナンバー

 

NO.7 アナスタシア

NO.8 ディートリヒ

 

 

 

 現役の2人は、対空戦闘において北のメンバーよりも一日の長があり、必須だった。ちなみに、オリヴィアと絡んでいたナンバー5のレイチェルは、〈羽根持ち〉のアナスタシアがお膳立てしても空を飛べなかった。

 

「妖気同調を使い、シンシア、ナタリー、ユマの3人で〈深淵の者〉の中に眠る2人の意志を呼び覚ます。中途半端な融合をしたはずの〈深淵の者〉を分解できるはずだ」

 

 

 覚醒者達の協力を得られなかったミリアは、〈深淵の者〉を分解し、各個撃破する作戦に切り替えた。ミリアの予測では、カサンドラ、ヒステリア、プリシラの3体分の意志が存在しているはずだ。

 

(特に我の強かったヒステリアは、プリシラに身体を乗っ取られている状況を、良としないはず)

 

 以前、ヒステリアと大剣を合わせたミリアには、自ずとそれが分かった。

 

 

 目標は空中に浮かぶ覚醒者。

 既に形を変えて、シルエットだけ見れば、皿に乗った麺状の何かのように見える。

 空から垂れ下がる太い触手の先端には、カサンドラの首が生えて、無機質にぶら下がっていた。

 端的に言えば、蝶のような羽の生えた触手の怪物の姿をしていた。

 

 

 アナスタシアが空中に張り巡らした足場に、全員が登った。

 

「足場にした髪の毛に妖気を込めろ。それで強度を調節するんだ」

「なるほど……」

 

 初見のクレアは、ディートリヒに訓示してもらっていた。

 束ねて握りしめた髪の毛に妖気を込めると、強力な反発力を感じた。

 

「込める妖気の大きさで具合を調節するんだ。人間1人くらいなら、余裕で支えられる。もっとも、バカには乗れないらしいが……」

「……バカ?」

 

 ディートリヒは脳筋のレイチェルや〈痴呆〉先輩のオリヴィアに対して、小言が漏れた。

 

「良かったな。バカじゃないみたいだ」

「なんだと!? ちっ……。ヘレンに言え」

「それもそうだな」

「おめーら!」

 

 それを聞いていたデネヴが、ウンディーネに突っかかったが、ウンディーネは軽やかにヘレンにトスした。

 オリヴィアとの絡みで、ウンディーネのレスポンスバトル力は無駄に良く鍛えられていた。

 

「いくぞ!」

 

 ミリアの号令で弛緩していた空気が引き締まり、空中にいる討伐隊の全員が大剣を手にした。

 

(万全の状態で放つ〈高速剣〉……。現実で放つのは7年ぶりか)

 

 クレアは、先の戦いで妖気解放をしていた。

 既に抑えていた妖気は漏れ出ており、片腕だけの完全妖気解放を行う、これまで禁じられていた〈高速剣〉を使うのに後ろめたく思うことはなかった。

 

 猥褻物から救出された後、クレアは西の戦いで消耗していた力が万全の状態に戻っていた。更に言えば、普段よりも力が漲る感覚を得ている。

 

(あの中で、何か力を得ることができたのかもしれない)

 

 夢現(ゆめうつつ)の状態だったが、1度目に飲まれた時、ラファエラの記憶や仲間の記憶を継承していた。プリシラと戦うときには持て余していたが、そこには戦闘技術も含まれていた。

 2度目に飲まれたときにも、何がしかの作用があったのかも知れなかった。

 

 他のメンバーから先んじて足場から飛び跳ねた先、無数にある触手のうちの2本がクレアに襲いかかった。

 クレアは空中で歯を食いしばり、限界を超えた妖気を右腕へと蓄えた。

 

〈高速剣〉!

 

 接近した触手は、もれなく切り込みが入り、クレアに触れるそばから砕けていった。

 クレアの指向性のある〈高速剣〉は、敵の妖気に反応して巨大な顔が付いた2本の触手を、一瞬でバラバラにした。

 あっけなく散った肉片が、ボトボトと地面に落ちていった。

 

「うっひょー。〈高速剣〉ってあんなに凄かったっけ……?」

「あれが、あいつの7年間の……修行の本当の成果なんだろうさ」

 

 口を開け呆気にとられヘレンに、デネヴが誰にともなく呟いた。

 

 右腕の地力強化。

 フローラの〈風斬り〉を体得するために強化した腕は、〈高速剣〉においてもその力を発揮した。

 クレアは腕を受け継いだ元ナンバー2のイレーネを思い出していた。

 

(ようやく……ようやく追いついたぞイレーネ。7年掛けてお前の〈高速剣〉に追いついた。……しかし、感知能力も上がっている……? ラファエラの技術か)

 

 クレアは体の表皮に妖気の薄い膜が張られていることに気づいた。

 無意識に行っていた、身体の外側に薄い妖気の膜を張る戦い方。

 微細な妖気の動きを感知するのに、長けているようだった。

 

 その後も迫りくる触手に、クレアは隙き無く〈高速剣〉を放ち続けた。

 

「我々もいくぞ!」

「了解だ! おらァァあ!」

 

 デネヴとウンディーネも負けじと飛び出した。

 触手は多く、不足はなかった。

 

 

―――

――

 

 

 場所は変わって、戦闘の傍ら、少し離れた岩場にナタリー達が立っていた。

 

「まずい……な」

「まずいですね、これは……」

 

 しばらく前から、ナタリーとシンシアは、ユマを引き連れて〈深淵の者〉の中にある人格を探っていた。

 ミリア達が〈深淵の者〉を引き付けて、その間にシンシア達が人格を引きずり出す。そんな作戦だった。

 しかし、肉一片に渡っても、それらしきものを捉えることができなかった。

 

「これは……、私が可笑しいんじゃないんだろうな?」

「大丈夫です、ユマさん。私達にも人格が捉えられません」

 

 シンシアが困惑するユマを慰めた。

 

「何も無い……。がらんどうだ。一体何があいつを動かしているんだ……?」

 

 目を瞑ったままのナタリーも困惑していた。

 感じ取るに、戦闘は佳境を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

 アナスタシアが張り巡らせた髪の反発力で、ヘレンは空中を駆けた。

 

「はぁぁっ!」

 

 回転する腕を突き出し、最大まで破壊力を高めた〈旋空剣〉が、〈深淵の者〉の片側の翼を貫通して崩壊させた。

 

「今よ!」

 

 イライザが叫んだ。

 片側へ傾く〈深淵の者〉へ、追い打ちをかけるように空中を駆ける戦士達が殺到し、もう片側の2枚羽を破壊した。

 

 墜落しながらも迫りくる無数の触手へ、クレアを庇うようにウンディーネが〈瞬剣〉を放った。

 

「オラァっ! いけ! クレア!!」

 

 道が開けた。

 近づく胴体。

 クレアが飛び込んだ先で、〈深淵の者〉のプリシラの上半身が生えた胴体が切り刻まれた。

 

 細切れに切り刻んだ身体を通り抜けたクレアは、後ろを振り返った。

 

「!?」

 

 瞬間、全てを巻き戻すように、破壊された身体が生えた。

 

「う、嘘でしょ……」

「はぁ……はぁ……」

「はぁはぁ。こいつ……底無しかよ……」

 

 その後も攻撃を加え続けたが、〈深淵の者〉は驚異的な再生力で再生し続けた。

 

(くそ! シンシア達は、まだか……。ここで、このまま倒すにしても決定打が足りない! オリヴィアさえいれば……)

 

 四肢から細切れになる覚醒者を想像し、ミリアの脳裏に弱気な思いが浮かんだ。

 目では捉えられない無数の連撃を放つクレアの〈高速剣〉。

 全戦士中の最強の突きを繰り出すヘレンの〈旋空剣〉。

 強靭な膂力から同時の4撃を打つウンディーネの〈瞬剣〉。

 巨大な身体の持ち主に対して力を発揮するそれらも、この覚醒者の再生力の前では型無しだった。

 

 

 

 思考する刹那、〈深淵の者〉から地面に楔が打ち込まれ、空中で右へ左へ揺れ始めた。

 

「!?」

「何をする気だ」

 

 揺れに上下への動きが加わったとき、ミリアは〈深淵の者〉の意図に考えが及んだ。

 

(あれはカサンドラの……!?)

「総員離脱しろ!!!」

 

 楔を起点に、巨大な船が墜落するように触手の嵐が吹き荒れた。

 それはまるで、拡大したオリヴィアの〈千剣〉のようだった。

 本来、極低い位置から往復するように攻撃を放つ、カサンドラの〈塵喰い〉。

 翼を得た〈深淵の者〉は、その技を三次元的に放った。カサンドラの技とヒステリアの覚醒体の技が合わさった攻撃は、一帯を地形ごと崩壊させた。

 

「足場が!?」

 

 幸いにして、先見の及んだミリアの掛け声で、距離を開けたメンバー全員が無事だった。

 しかし、アナスタシアが張り巡らせた足場は、重量級の台風によって全て破壊されてしまった。

 

 

さらに、

 

「フォォォォォオオオオ!!」

 

 遠くの方から汚い汁を吐き出す果物のような叫び声が聞こえた。

 

「なんだ……?」

「いかん」

 

 ゾクゾクと走る悪寒。

 メンバーが困惑する中、ミリアは声の正体に思い当たった。

 

「何だこの気配は!?」

 

 大剣を取り落としそうになる中、ディートリヒは妖気の気配を探った。

 

「あの融合体から生まれた、超越者だ!!」

「!?」

 

 最悪のタイミングで、超越者が目覚めてやってきた。

 足場を張り直す、そんな時間は残されていなかった。

 

「ミリア! このままだと間に合わないぞ!!」

「分かっているが……く!」

 

 振り返れば、そこには虹色の竜巻が空へと昇っていた。

 

(あれはまずい! 激動する妖気の坩堝だ。近づいただけでも、気を狂わされかねない……!)

 

 瞠目するミリアの判断は早かった。

 

「総員! シンシア班を回収して離脱しろ!!」

 

 散開した直後、高速で迫りくる虹色の竜巻が全てを飲み込んでいった。

 

「くそ! 間に合わなかった……!」

 

 ミリアの歯の根が悔しげに鳴った。覚醒者を引き込めていればと思ったが、見える惨状から、最早超越者自体を止められそうになかった。

 

 

 

 

 膨大な土煙が晴れたとき、景色は一変していた。ゆるい谷間がすり鉢状に削れ、クレーターと化している。

 

「な、何が……」

 

 深く捲られた土が風にさらわれたとき、超越者が姿を表した。

 

 青白い顔に4枚の皮膜の翼、額から一本の角が生えている。先程の姿とは、打って変わった小柄な姿だった。

 

「ガッ! グボェアアアアボエェェェ! ェァオロロロロ」

 

 白目を剝いたままの一本角の覚醒者はえづくと、口から巨大な卵を遠くへ発射し、続いて黒い汚泥を吐き出した。

 直後、千切れた馬の身体を上空に蹴り上げた。7本足の馬の体が千切れ飛び、六本足となった身体が空中で触手に切り刻まれた。

 

「は、ハハハ。ゆ、融合しちまいやがった……」

 

 目を剥くメンバー達の間に、ヘレンの涙目の乾いた笑いが響いた。

 大剣を取り落としそうになるほど、感じ取れる妖気の圧が尋常ではなかった。

 

「なんだか、ひどく長い間眠っていた気がするわ。あぁ……。内蔵たべたい」

 

 

 完全体になった頂上の存在が目を覚ました。

 

 

 

◆◆◆

 

 ラボナにて、ラキは馬を使って駆け出した。

 駆けるのは超越者の滅ぼした悪路。

 既にガラテアの制止は振り切った。

 

「クレア!」

 

 ラキーヌは覚悟を決めた男の顔をしていた。

 

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