〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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本日で、少し連投いたします。


クレイモア1

 高速で滑る風景。

 男が馬を走らせていた。

 馬の背に乗っているのは、筋肉が隆々とした偉丈夫だった。

 背負っているのは、丈の長い長剣。普通の人間には、扱うことの難しいロングソードだ。

 

「ラキ―……ぬ」

「!?」

 

 呼ばれている気がする。

 ラキがそう思ったのは気の所為ではなかった。

 遠くで、何かが呼んでいる。

 ひどく懐かしい声がした。

 

「なんだ……?」

 

 ラキは馬の鼻先が向かう方向を変えた。

 いかなければならない。

 そんな、脅迫感にとらわれた。

 

(クレアを助けに行かないといけないってのに!)

 

 ラキは自分の心がわからなかった。

 

 いかなければいけないという焦りと、こちらに向かわなければならないという脅迫感に似た感覚が(せめ)ぎ合った。

 

 ラキが向かった先では、地面が深くえぐれていた。

 覗き込んだラキの視界の先には。

 

「え!? ちxこ!?」

 

 そこには一本の大きなイチモツが突き刺さっていた。それはまるで、傘を開いたキノコの化け物であった。

 先の方には、益荒男の口が付いており、しきりにラキを呼んでいた。

 

「ラキ! ラキぃ! ラキぃぉ! ラキィィヌッ!」

「うわ、なんだこれ!! うるさっ!?」

 

 催眠音波のように飛んでくるラキ連打に、苦しむように両耳を押さえたラキは、膝の力を失って窪地に落ちた。

 

 転がり落ちたラキがイチモツに触れると、キノコは叫ぶのをやめた。

 

 暫くして、叫んでいた肉の身が、腐れ落ちるように剥げていった。

 それはまるで、自身の役目を果たしたようにラキには思えた。

 

「これは……クレイモア(戦士の大剣)……?」

 

 クレイモア(戦士の大剣)には、中心に沿った線の縁に両腕を曲げて盾を構えたような抽象的な線が走っていた。

 

(誰の大剣だ……?)

 

 しかし、この大剣を手に持って行かねばならないという思いが沸き起こった。

 

「よし!」

 

 しばらく考えたラキは、代わりに背負っていた長剣を突き刺した。

 直感だったが、ラキを呼んだ謎の存在には、きっと必要なものに思えた。

 

「貰っていくぞ」

 

 誰とも知らぬ存在に声を掛けたラキは、窪地を登って馬へ跨った。

 

 クレアがいるところまでは、もう少しだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 青白い顔に4枚の皮膜の翼、額から一本の角が生えている。

 

「プリ……シラ……!」

 

 クレアは歯を食いしばった。

 あの超越した存在ですら、プリシラは食い破って出てきてしまったのだ。

 佇むプリシラの周りに、超越者だったものの残骸が散らばっていた。

 

「そ、そんなはずないわよね……? オリヴィアは? オリヴィアはどこ……?」

 

 足元に散らばる残骸を見て、イライザが放心しながら呟いた。

 オリヴィアはあの中に取り込まれていたのではなかったのか。

 メンバー全員がそのことに思い当っていた。

 

「イライザ! 自分のことに集中しろ!!」

「……ぅ。分かってるわよ!!」

 

 ウンディーネの叱責(しっせき)で肩を跳ねさせたイライザは、涙声で叫んだ。

 

(戦うしかない。ここで、何があったとしても!)

 

 デネヴが覚悟を新たにしたとき、プリシラの独白が響いた。 

 

「思い出した……。思い出したわ……」

 

 掌を見つめたプリシラが言った。

 一見隙だらけの身体。

 しかし、溢れる強烈な圧に、戦士たちは誰も動くことができなかった。

 

「ミリア隊長!」

「ミリア!」

 

 その時、遠くから異変を感じたシンシア達が合流した。

 融合する異質な妖気を捉えていたのだった。

 

「ギリ。……ガァァ!」

 

 歯の根を合わせたクレアは、妖気を開放すると、プリシラへ向かって駆け出した。

 クレアの発した衝撃波がメンバーの髪を揺らした。

 

「待て!? クレア!!」

 

 クレアの行動へミリアが静止を掛けた。

 分身体との戦闘による疲労の回復もままならない状況で、クレアは独り駆け出してしまったのだ。

 

〈高速剣〉!

 

 飛び掛かったクレアの〈高速剣〉が、無防備なプリシラを襲った。

 

「!」

 

 眼で捉えることのできない無数の刃が、反射的に飛びのいたプリシラの右足を砕いた。

 

「やった!」

 

 ヘレンが歓喜の声を上げた。

 しかし、プリシラの足が一瞬で生えた。

 

「!?」

「……その技。どこかで見覚えがあるわ……。!?」

「はぁぁ!」

 

 直情的なクレアに呼応したイライザの上空からの切り下ろし。

 プリシラに再び躱され、地面に地面に浅くクレーターを作るに留まった。

 

「クソ! 畳みかけろ!!」

 

 ミリアの号令によって、足の竦んでいた戦士たちに活が入った。

 

「はぁぁ!」

「やぁぁ!」

 

 ナタリーとシンシアの挟み込むような大剣の挟撃。

 プリシラは、翼を羽ばたかせて上空へ躱した。

 

「もう少し、思い出したことに浸らせてほしいのだけれど」

「プリシラァァァァ!」

 

 クレアは妖気解放して上空のプリシラへ、〈高速剣〉を再び放った。

 しかし、翼を羽ばたき前に出たプリシラによって、初動を取られて腕を掴まれた。

 

「!?」

「ちょっと待って。あなたのことも思い出せそう」

「ガ……アァァア!」

 

 掴まれた腕を起点に、クレアは逆さになった。そして、妖気で()()()足技を放った。

 

「あれは……カティアの!?」

「いや、違う。あの動きは初めて見るぞ!」

 

 動きを見ていたユマとデネヴが、驚いた表情を見せた。

 

 腕を起点に逆立ちしたような姿勢の中。

 180度広げた隆々の脚が、生き物の様に、関節を駆使してプリシラの首に襲い掛かった。

 右足のかかと落とし、躱された。

 次いで、左足からの挟み込むようなサマ―ソルト。

 

 クレアを掴んでいたプリシラの肩口が砕けた。

 しかし、一瞬で再生してしまった。

 

 羽ばたき空中に留まるプリシラに対して、解放されたクレアは地面に吸い込まれていった。

 

「くそ! !?」

「クレアさん!」

 

 アナスタシアによって張られた髪の足場によって、クレアは辛うじて墜落を免れた。

 

「はぁぁぁ!」

「!」

 

 プリシラが飛ぶ空。

 さらにその上空から、元ナンバー3相当の実力を持ったディートリヒが眼前から墜落するように技を放った。アナスタシアの髪を利用した上空からの一撃だった。

 プリシラは反応しかけたが、慮外の攻撃だったようで、肩口から半分に割断された。

 

「やったか!?」

 

 イライザが感嘆し、着地したディートリヒが地上で止めを噛み締めた。

 

 しかし。

 

「さっきから、羽虫がうるさいわ……。この糸。そうか、これが邪魔なのね」

 

 そう言い放ったプリシラの全身から、触手の雨が降り注いだ。さらに、回転するように触手を振り回したプリシラは、アナスタシアの髪の結界をすべて取り払ってしまった。

 

「避けろ!」

 

 ウンディーネの掛け声に皆言わずとも避けたが、あまりの射出速度の速さにアナスタシアとディートリが胸を貫くように負傷してしまった。

 

「がっ!」

「……うぅ」

 

 特に、攻撃してヘイトの高かったディートリヒのダメージは深刻だった。

 

「ディートリヒさん!」

 

 すぐさま、シンシアが触手を切り払い、負傷したディートリヒの再生に入った。

 

 プリシラは目を細めて、それを冷たく見下ろしていた。

 

「飛べば……あなた達は追って来られないわけね」

 

 プリシラが冷たく言い放った。

 

 メンバーを眺める最中、プリシラの胸に大剣が突き立った。

 

「!?」

 

 ユマの投擲だった。

 妖気を伴わない慮外の攻撃。

 プリシラには有効だった。

 片側の羽を貫通するように刺さった大剣によって、プリシラは墜落を余儀なくされた。

 

 墜落途中のプリシラへ、ミリアが駆け出した。

 

(何度も技は使えない……。先ほどの分身体との戦いで力を使いすぎた……。しかし!)

 

 ミリアは歯を食いしばった。

 

「今だ!」

(羽を奪って機動を殺す。勝機はそこだ! )

 

 ミリアの〈幻影〉と〈新幻影〉を掛け合わせた速度。

 その速度に、墜落したてのプリシラは反応できなかった。

 

「はぁ!」

「ガッ!」

 

 羽をもがれ、仰け反ったプリシラへ。

 全速力で駆け寄ったクレアの〈高速剣〉が放たれた。

 

「終わりだぁぁぁ!」

 

 クレアの〈高速剣〉が、プリシラの身体を捉えて、7割以上を細切れに変えた。

 

「やった……!」

(やったか……!)

 

 ユマの声が響き、全員の顔が明るくなった。

 

(終わった……!)

 

 クレアの中に達成感が芽生えようとしたとき。

 プリシラの半壊した身体が即座に再生した。

 

「……次は頭を狙うことね……。くす。まぁ出来ないだろうけど」

「なにっ!?」

 

 瞠目したクレアの右腕から血が滴り落ちた。

 力を振り絞って、これまで戦い続けてきたのだ。

 〈高速剣〉の代償は大きかった。

 

 技を出した直後。

 硬直するクレアへ、プリシラが掌を差し出した。

 

「!?」

「ガッ!」

「デネヴ!」

 

 クレアへの攻撃に割り込むように、二本の大剣を構えたデネヴが前に飛び出した。

 プリシラの触手がデネヴの肩口を穿った。

 

「今だ! 食らわせてやれ!!」

「おらぁぁ!」

 

 デネヴの声に呼応したヘレンの〈旋空剣〉。

 最大回転数55回まで力を蓄えられた技は、地面を穿ち、プリシラの四肢を砕いていった。

 

(今度こそ……!)

「もういいわ」

 

 歯を食いしばるヘレンの思いとは裏腹に、プリシラの冷たい声が響いた。

 体を半分以上砕かれてなお。

 プリシラは空中で突きの体制をとっているヘレンを、蹴とばした。

 

「ガァッ!」

「ヘレン! うぅあッ!」

 

 全身を貫かれたままのデネヴが、触手に引っ張られてヘレンと衝突した。

 プリシラに至近距離で沈められた二人は、衝撃で陥没した地面で気を失ったように見えた。

 

「ヘレン! デネヴ!!」

 

 庇われたクレアの悲痛な声が轟いた。

 

「まだだ!」

「なに?」

 

 高速再生に入り、ほとんどの傷が癒えたデネヴが、二刀でプリシラへ襲い掛かった。

 表情を少しだけ変えたプリシラの両手で、デネヴの大剣が掴まれた。

 

「ガァツ」

「!?」

 

 口から放たれた触手が、今度はデネヴの腹を穿った。

 

「アァッ!」

「!」

 

 デネヴは叫んだ。

 しかし、目の死んでいないデネヴを、プリシラは訝しんだ。

 

 叫びは合図。

 自身を囮にした不意打ち。

 この覚醒者の攻撃を直に耐えることができるのは、デネヴだけだった。

 

 プリシラの背後から迫る戦士。

 妖気の消えたままの、たった1人の仲間だった。

 

 完全な無知覚からの袈裟斬り。

 長い髪を一房に結ったナタリーの髪が翻った。

 

「ここだぁぁぁ!」

「……妖気が無くて、戦士の格好をしている貴女を。私が警戒していないとでも思った?」

 

 覚醒体の鋭い五指の一撃。

 呆気ない腕の一振りが、ナタリーの土手っ腹を大きく切り裂いた。

 飛び散る装備。回転する身体。

 

 ナタリーは攻撃を受けた衝撃で、地面へうつ伏せに叩きつけられて動かなくなった。

 

「ナタリィィィィィ! ガハッ」

「ふん……」

 

 身体の再生に入っていたデネヴが、瞠目して叫んだ。プリシラはまるで蝿を潰すように、触手で貫いたデネヴを捨てた。

 

「ちきしょう、てんめぇぇぇ!」

「ヘレン駄目だ!」

 

 ウンディーネの制止も聞かず、ヘレンが力を溜めかけていた二度目の〈旋空剣〉で、プリシラを襲った。

 しかし、回転数が足りず。

 驚異的な破壊力を生み出すには至らなかった。

 

「芸がないわね」

 

 伸びきったヘレンの腕を、プリシラが捕まえた。

 

「う、あああああ!」

 

 捕まえた腕を鞭のように振るって、ヘレンを遠くへ無造作に放った。

 

「ヘレンさん!」

 

 ディートリヒの再生を行っていたシンシアが、ヘレンの身を案じた。

 

「く、くそ……。強すぎる……」

 

 うつぶせのデネヴが再生しかけの体で、震えるように絞り出した。

 

 絶望。

 戦士たちの間に暗い感情が湧き上がった。

 

「どうしたのかしら、組織を潰したんでしょ? その戦士の力が、こんなものなはずないでしょう?」

 

 

 絶望する仲間の内、倒れた戦士の一人へ焦点は移った。

 ナタリーは生きていた。

 意識を取り戻したナタリーは、状況の把握に努めた。

 

(そうか。あの瞬間、鎧が胸で弾け飛んで……。致命傷にならずに、助かったのか……。起きなけれ……ば。いや、最良の機会まで、このままでいい。妖気読みに集中しろ。最良のタイミングで、一撃で倒すんだ)

 

 ナタリーはひたすら息を顰めることを決めた。

 眼を開いたとき、ユマと一瞬目が合ったが、再び目を閉じた。

 

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