〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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クレイモア2

 

 

「つまらない」

 

 一方。

 プリシラは、吐き捨てるように言葉を紡いだ。

 

「なんというか、生き残ったのが戦士としても2流のあなた達なんて……。なんて、つまらない。でも、目が折れていないのが居るわね。はぁ……いいわ。先輩として、改めて格の違いを教えてあげる」

 

 プリシラはそう言うと、身体が少し縮んで、短い茶髪の少女の姿になった。

 小さな人間体に変じたプリシラは、右手に妖気を集中させて大剣を形成していった。

 

「へぇ。高慢ちきな男だったけど、手品としては使えそうね。これ……」

 

 形成されていく大剣を見てプリシラは、そう言った。

 覚醒体イースレイの妖気物質化の力。全てを喰らい尽くしたプリシラへ受け継がれていた。

 切っ先まで生成されると、片眉をあげたプリシラは戦士達を一瞥した後、考え込んだ。

 

「そうね……。強さはどのくらいにしようかしら……。戦士になりたてのナンバー2の強さなんてどう? それなら、多少はいい戦いになるんじゃないかしら。まぁ、力を上げていくけど……ね!」 

 

 そして、突如目にもとまらぬ速さで移動した。

 

(この子が再生の要ね)

「!?」

 

 狙いはシンシア。

 この戦いの復帰のキーパーソンだ。

 プリシラは、先ほど負傷した戦士を回復する様子を見ていた。

 

「な!?」

(間に合え!! これ以上、失わせるな!!!)

 

 ミリアは自分に言い聞かせるように駆け出した。

 限界を超えた〈幻影〉。

 ヒステリアをも下したその技は、ミリアをプリシラがいる高みまで一気に押し上げた。

 

「!? さすが隊長格……ね」

 

 流石のプリシラも、ミリアの一撃は無視できなかった。

 大剣に半ば食い込むミリアの刃。

 その時。

 ミリアの力を受け止めたプリシラの大剣が、力を受け流すようにあっさりと折れた。

 

「なにっ!?」

「今のは少し、危なかったわ」

 

 肩透かしになった攻撃の勢いを、ミリアは殺しきれなかった。

 速度を制御できずに、陥没した地面を転がった。

 

「ミリア!?」

「……」

 

 仲間が声を上げる中。

 片側の口角を上げて嗤ったプリシラが、片膝をつくミリアへ襲い掛かろうとした。

 

 プリシラは、肉の大剣を再び形成した。

 

「させるかぁ!」

 

 今この瞬間に、ミリアを追撃しようとしたプリシラ。そこへ下から斬り上げるように、クレアが襲い掛かった。

 

〈高速剣〉!

「思い出したわ。それ、あの人の技でしょ?」

「!?」

「さっき試しに受けて見たけど。大剣の範囲外で、あなたと等速以上で下がれば……。当たらない。違う?」

 

 〈高速剣〉を知らない相手であれば、その一撃でバラバラになっていただろう。

 しかし、プリシラは違った。

 

(避けられた!)

 

 必殺の間合いを見切られた。

 クレアの肌に張り巡らされたレーダーが、無拍子のような動きでプリシラが後ろへ下がるのを感じた。

 

(戦士としても、こんなにも格が違う)

 

 その事実は、クレアの心を蝕んだ。

 徐々に離れていく、敵。

 極限の集中により引き延ばされた視界で、クレアは臍を嚙んだ。

 

「はあっ!!!」

(ここだぁ!)

 

 下がった人間体のプリシラへ。

 背後から、妖気が限界まで高められたウンディーネの〈瞬剣〉が放たれた。

 

 ウンディーネは先の分身体との戦いから、己の消耗具合を正確に把握していた。そして、これまで力を温存していたのだ。

 最善のタイミングまで。

 

「!?」

 

 大剣を振りぬく大ぶりの一撃。

 それの高速化。

 腰のねじりによる渦動を、妖気によって往復する力にまで高めた技だ。

 

 〈瞬剣〉――8連。

 

 斬撃数が何倍にもなったこの技を使えば、ウンディーネはしばらく立ち上がることができないだろう。

 しかし、強敵への覚悟が、ここで使うという選択をした。

 

 限界を超えて左右へ振れるウンディーネ。

 

 しかし、その背中を、交差する斬撃の軌道を見切ったプリシラがそっと押した。

 

「ガッ!」

 

 押す。

 いや、足蹴にするのと同時に、プリシラは危険な刃を刈り取るのも忘れなかった。

 ウンディーネの残された片腕が飛んだ。

 

「ちきしょ……!」

「少し、ヒヤッとしたわ。でもよく見れば、対処は容易い。私に傷をつけるには程遠い」

 

 自身に帰ってきた捻れた力が制動できずに、ウンディーネは仰向けに転がってしまった。

 そのすぐ脇に、大剣が刺さった。

 腕は大剣を握ったままだった。

 

「ウンディーネ!?」

 

 妖気を絞り出したクレアが、ウンディーネを助けるべく更に追撃した。

 込められた妖気によって、クレアの右腕の血管から血が噴き出した。

 

〈高速剣〉!!

「しつこいわ」

「ガァァッ!」

 

 しかし、プリシラはクレアの攻撃を真っ向からすり抜けた。

 

「……馬鹿な!?」

「馬鹿なのは貴女よ。先程まではともかく、今の速度なら、私も出せるわ」

「く! ガアアア!」

 

 クレアの〈高速剣〉と見紛う斬撃の速度で、プリシラも応酬した。対するクレアも妖気を振り絞った。

 耳を塞ぎたくなるような高速の打撃音が、辺りに響き渡った。

 プリシラとクレアの大剣が競り合った音だ。

 

「ぁ……」

「くす……」

 

 刹那。

 クレアの〈高速剣〉が敗れた。

 

 血飛沫を吹き上げたクレアは、自身の血の海に沈んだ。

 

「クレアさん!? がっ!」

「クレア! くっ!」

 

 助けに入ろうとしたシンシアが蹴飛ばされ、ミリアが大剣で遠くへ弾かれた。

 

(間に合わない)

 

 誰もがそう思う中。

 そのままクレアに歩み寄ったプリシラが、片手で大剣を振り上げる。プリシラは、感じ取れる因縁に終わりを告げるつもりだった。

 

「!?」

 

 その時。

 クレアに止めを刺そうとしたプリシラの首を狙う軌道で、大剣が音も無く飛んできた。

 

「次から次へと……。……?」

 

 プリシラは、余裕を持って躱した。そう思ったが、違和感のある首元を確認した。

 プリシラの首筋が浅く切れた。

 大剣を投げたのは、いつの間にか回収をすませていたユマだった。荒く息を吐いた表情から、幾筋もの汗をかいていた。

 

 血を拭って確認したプリシラが、ユマを睨んだ。

 

「逃げろユマ!!」

 

 デネヴが叫んだ。

 

「雑魚かと思えば……。こうなった私に、最初に傷をつけるのが……。またあなたなんてね!」

「きゃ!」

「くっ!」

 

 プリシラは周りで斬りかかろうとしていた、イライザやアナスタシア、ディートリヒを大剣で一蹴した。

 死に体のウンディーネやクレアを放置して、プリシラは高速で飛び出した。唯一の武器を手放したユマは、丸腰だった。

 

「え、え!? がっ!?」

 

 ユマは反応できなかった。

 勢いよく転ばされ、目を開ければ、逆光で顔の暗くなったプリシラが見えた。

 倒れたユマを、プリシラが足で押さえつけていた。

 

「死ね」

 

 片腕を振り上げて、持ち替えた大剣を真下へ突き刺した。

 ミリアは駆け出した。

 これ以上、仲間をやられるわけにはいかなかった。

 

「ユマァァァ!!」

 

 駆け出したが間に合わない。

 ミリアの悲痛な叫びが響いた。

 しかし――。

 

「おまえ……?」

「へへ……。私も雑魚のままじゃないんだ!」

 

 プリシラの大剣は、首の皮一枚で避けられていた。

 左手で右手の手首を押さえたユマが、プリシラの腹に掌を向けていた。

 外部からの妖気操作。

 大剣をただ突き下ろそうとしたプリシラの関節の制御へ、ユマは割り込んだのだった。

 

(一瞬でいい! 止まってくれ!!!)

 

 ユマはそのまま妖気を高めて、プリシラの動きを制止しようとした。

 

「今だ!! ナタリィィ!!」

「はぁああ!」

「!!」

 

 ユマの上、大剣を地面に突き刺したプリシラを狙った大振りの横なぎ。

 不意の一撃。

 

 しかし、寸前で大剣に防がれた。

 ユマのつたない妖気操作では、プリシラを縛り付けるには至らなかった。

 

 プリシラは勢い付いた大剣に振り回され、ユマと離れた遠くに着地した。

 今度は、首が深く切れた。しかし、切断には至らなかった。

 傷が徐々に塞がり、流れた血もすぐに止まった。

 死角から大剣を振ったのは、ナタリーだった。

 

「死んだはず……。いや、鎧で滑らせて躱したのね? 妖気がないから、判別が出来なかったわ」

「いいや。外れだ!!」

「……何にしても次で殺すだけよ」

 

 オリヴィアのおっぱいブートキャンプ(マッサージ)の効果。

 ナタリーは自信満々に外れを叫んだ。

 極限の緊張と、この強敵の裏をかけたことで、ナタリーの脳内に快楽物質が大量に分泌されていた。

 

 立て続けに、ミリアが再度襲い掛かった。

 今回は、速度を正確にコントロールした動きだった。

 

「ハァァア!」

「ふん……」

 

 

 

 ミリアが戦っている間、アナスタシアは髪を紡いでいた。

 

(初めに一撃で破壊されたように、空に張ったところで、あの覚醒者には立体的な攻撃など意味がないかもしれません。それでも)

 

 そんな考えの元、アナスタシアが絡めているのは、味方への糸。反発力を利用して、ミリアを助けるべく動いていた。

 

 思い出すのはオリヴィアのあやとり。

 船の中で教わった紐を使った遊びだった。

 

(一本の紐も絡めれば、形が変わる。そうですよね!)

 

 

 

 

 

 ミリアとプリシラの戦いには、イライザ、ヘレン、ディートリヒが続いた。先ほど善戦したユマやナタリーも参戦したが、警戒されていたのか、プリシラによってあっさりと退場させられてしまった。

 他のメンバーは、ケガや消耗で死に体となっていた。

 

「クレアさん!」

「く……!」

 

 シンシアがクレアの再生に入った。

 傷は深く深刻だった。

 妖気同調によって塞いだはずの傷口から、血が飛び散った。

 

「!? クレアさん、あなた……?」

「いいんだ。続けてくれ! 必ず治るはずだ!」

「……」

 

 クレアの妖気は既に枯渇寸前だった。

 真剣な表情になったシンシアは、治療を止めた。

 

「やめないでくれ! シンシア! 必ず治る!!」

「クレアさん……。もう休んでください。貴女は一番弱いくせに、大きな力をその身に宿して戦い続けてきました。もう休んでください。あとは、私が引き継ぎます」

「シンシア!?」

「私こう見えて、ウンディーネさんに次いでナンバーが浅いんですよ?」

 

 そう笑ったシンシアは、妖気解放するとプリシラの方へ飛んで行ってしまった。

 

「そんな……待ってくれ……。私はまだ戦えるんだ。待ってくれ……」

(身体に妖気を満たせ。絞りだすんだ! できる! 動け!!)

 

 クレアは涙を零しそうになりながら、大剣に縋り這うように立ち上がった。

 

 今、クレアが使える持ち札は少なかった。

 〈高速剣〉も全盛の力を使えるのは、ほんの一瞬だけだろう。疲労した状態の〈風斬り〉も、どこまで通じるかわからない。

 なんとしても、必殺の間合いまで近づかなければならなかった。

 

(大剣が重たい……。〈高速剣〉を使いすぎた……)

 

 クレアは直情的に〈高速剣〉を打ち放ったことを悔いた。

 仇を前にはやる気持ちが、クレアにそれを強いているのだった。

 

 遠くの戦いで、ヘレンやイライザが負傷したのが見える。

 

(みんなが倒れていく……。駄目だ!!)

 

 涙目でクレアは、倒れそうになる足を進めた。

 

 そんなクレアの前に、傷の治りかけのデネヴが立ちふさがった。妖気が、もはや足りていないのだろう。大剣を杖に、必死な形相だった。

 

「どいてくれ! デネヴ!」

「なんて顔してやがる。クレアよく聞け。それ以上動くな!」

「!?」

 

 デネヴから戦いを止められたことで、クレアの頭の中は衝撃で満たされ、真っ白になった。

 

「違う。そうじゃない。戦いを止めろと言ったんじゃない」

「え?」

「力を温存しろ。チャンスはたったの一回だ。皆もう限界だ。だから、お前に託す。ミリアの最後の策だ」

 

 

―――

――

 

 

 まともに戦えるのは、いつの間にかミリアだけになっていた。

 プリシラは徐々に力を戻しており、既に翅のない覚醒体へと変じている。

 

「あなたには、わかっているんでしょう?」

「はぁ……はぁ……」

 

 限界は近い。

 全員身動きできないほど、消耗しているのだった。

 ミリアに至っても技を放つことができるのは、あと1度だけだ。

 

「力差が。どんなに振り絞っても勝てないってことを」

(まだか……!)

 

 その時、ミリアの小指に結んだ髪の毛が一定のリズムで引かれた。

 

(来た!)

 

 顔を伏せたミリアは、その場に沈み込んだ。

 

「最後まで……」

「!?」

「やってみなければ、判らないだろう!!」

 

 限界を超えた〈幻影〉。

 その動きを既に何度も見たプリシラは、怪しく笑った。

 

「またそれ? 避けるのは大変だけど、難しくはないわ」

「ガァァ!」

 

 衝突の刹那。

 技の初動を見切ったプリシラは、衝突の力を大剣を使っていなした。

 折れるプリシラの大剣。

 

 ミリアにも、躱されることが分かっていた。

 もう何度も見せた技だ。

 ヒステリアの様に、何度も同じ技に付き合ってくれる相手じゃないのは分かっていた。

 

「フフ」

 

 プリシラは接触によって切断された大剣を、ミリアの大剣の懐で繋げた(再生した)

 

「がっ!?」

 

 中途半端に接合された大剣は、ミリアを切断するには至らなかったが、撫で斬りの様にミリアに傷を負わせた。

 

 凄まじい速度で、遠くへ転げていくミリア。

 プリシラの中で落胆が広がった。

 

「これで全員倒れた。なんて、あっけない……ぅ!?」

 

 プリシラの胸から飛び出すのは、大剣の刃。

 あの瞬間に、ミリアの〈裏刃〉が届いていた。

 思慮外の攻撃を受けたプリシラの動きが止まった。

 

 その瞬間。

 

「ぁぁ!!」

 

 弱々しい妖気が眼前へと迫っていた。

 

「!?」

(こいつら、糸で繋がって!?)

 

 空中に煌めくのは、アナスタシアの髪の毛。

 糸に引っ張られて迫ってくるのは、弱々しい体に不釣り合いな力を蓄えた戦士。

 クレアだった。

 

 倒れこんだ戦士達の手には、髪の毛が握られていた。

 ウンディーネに至っては、口で喰らいついていた。

 

 みんなの気持ちは一つ。

 

(いけぇ! クレア!!)

 

 プリシラの打倒。

 全員の力が結ばれた、絆の作戦だった。

 

 衝突までの数瞬、プリシラは半分だけ残った大剣で、ミリアと全員の糸を断ち切った。

 

「!?」

 

 速度が急激に落ちるクレア。

 しかし、もう止められない。

 

 もう、プリシラの攻撃を躱す力は残っていない。

 クレアは目を瞑り、攻撃に全神経を集中させた。

 

〈高速剣〉!!!

「馬鹿よね。あなた……」

「はァァァァ!!」

 

 互いの攻撃の寸前。

 プリシラの首元から大剣が生えた。

 

「!?」

 

 通り過ぎる刃に、プリシラは不思議と思い至った。

 

「あっ……」

(私の、大剣……?)

 

 クレアから放たれる無数の刃。

 硬直したプリシラは躱せなかった。

 

 飛び散る肉片。

 頭すらバラバラとなった。

 そして、クレアの見る視界の向こうで、あのラキが大剣を突いていた。

 

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