〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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中々じっくり座って作業する、まとまった時間が取れないようです。
お待たせしております。



この文章を書こうと思った切欠は何だったのだろうか。
読めるように修正・加筆していると、ふと思います。


死人

『ぬおー! とれねぇ!!』

 

 リフルの体の一部に巻き取られ芋虫状態となっている。どんなに妖力を込めても外れる気配はなかった。瓦礫に隙間があるので辛うじて息はできるが、こう暴れていては酸欠で普通に気を失いそうだ。

上の階ではドッカンドッカン音が鳴っており、すさまじい戦いが起こっているようだった。場合によっては、ここ崩れて生き埋めになるのでは……。こんな状態になっている時に崩れてくるとか確実に死ぬ。やべぇ!!

覚醒者の力量によって、切り離された体の一部等の硬度が変わるのだが、一級の覚醒者であるリフルのパーツとか壊せるわけがない。くそ、この酢昆布が!!

 

 

「オリヴィア!」

 

 結局、足を治したクレアが降りてくるまで挟まっていた。もがもが言ってるところを見つけてもらった。頭だけ埋まっている私をクレアから見れば、俎上で目打ちされたウナギのように見えただろう。どうやら、戦闘をガラテアに任せてジーンを救出にいくようだ。

 

 助け起こしてもらった後、拘束をとってもらうようにお願いした。普通に歩けないので、ピョンピョン跳ねながらだけれど。屈辱だ!

 

「とって! とって! 『あ、できれば私には傷をつけないように丁寧にお願いします』」

「くっ。奴の棒でないにしろ、この拘束は硬すぎる!」

 

 素手で取れなかったのか、クレアが大剣を構えた。

 

「!」

「おい! ちょっと待て、何処へ行くオリヴィア!」

 

 今までに無い死の恐怖を感じ、慌てて逃げた。おまえの高速剣を食らったら挽き肉になるわ!! 丁寧に扱えって言っただろ!

 ダフが通るために開けたであろう穴に、また落ちた。いや違うんだ、ドジで落ちたとかじゃないんだ。踝から首付近まで拘束されてるので、孵化したての卵ダッシュみたいになってバランスがとれなかったんだ。

 

「どっ! ひっ!『痛っ!』」

 

 最下部まで転げ落ちたのか、広い居間があった。転げまくったせいでクラクラする。酢昆布拘束のお陰で、却って痛くなかったのは皮肉だ。これで鎧作ったら強そう。あ、また鼻血が。あ、そうか顔に拘束具ないんだった。くそっ、出血多量で死んだらどうするんだ! 顔までやれよ! どうしてこう、今日は、嫌なことが連続で起きるんだ……。

 

『ちくしょう! バカにしやがってぇー!』

「ここは……! そうか、案内してくれたのか」

『……いや、殺人鬼から逃げただけ』

 

 顔面から地面に沈んでるせいで、くぐもった声になった。うつ伏せの姿勢から芋虫運動で、なんとか跳び跳ねて立ち上がった。大剣どこいった? 上に置いてきてしまったか。キョロキョロしているうちに、クレアが先に進んでしまった。

 

 クレアはジーンを見つけると、私を放置して駆け寄っていった。この酢昆布を取り除いてもらうためには人手か時間が必要なため、すっかり私のことを忘れてるクレアを追いかけた。走ると転ぶから、ピョンピョンで。クレアもしょうがないなぁ、私を忘れるなんて。若年性健忘症かな。

 

 ジーンは完全に覚醒しており、一見して人面ちょうちょの化け物みたいな外見をしていた。これ飛べるのかな、飛行系空爆覚醒者とか絶対勝てねぇ、と思いつつ近づいていく。しかし、拘束のせいで可動域が少なすぎて完全に牛歩だこれ。全然進まねぇ!

 

「もどれる! 例え茨の道でも私と共に歩むんだ!」

「たの……む……。わたしに……ひ……ととしての……やすらかな……しを」

 

 クレアが叫び、衝撃波がジーンを中心に発生した。その衝撃に煽られて、倒れて頭を強打してしまった。まただよ。今日だけで、どんだけダメージ受けるんだよ。ダメージのストップ高だよ!

 

 倒れた先には、穴だらけの仲間の遺骸があった。

……まじかよ。全然助けられなかった……。私を連れ戻したミアだけは生きているのは幸いか。訓練生の時、周りの子たちがポコポコ死んでいたが、本当に命の軽い世界だ。

 

「私の手……」

「半覚醒だ。詳しいことは解らないが、当分の間、人でいられる」

 

 ジーンが人の姿に戻り、クレアが外套をかけた。クレアがジーンへ妖力同調を行い、人側に引っ張ったのだろう。クレアは、呼吸を乱して座り込んだ。相当に体力を消耗するようだった。私もピョンピョン走りで消耗した。

あとはもう任せてしまってよくないか? 酢昆布外せないし、傷心したから煎餅食べて寝てるわ。この世界に煎餅あるのかな? 恋しい……食べたくなってきた。

 

 その時、クレアがハッとした顔で上層を見上げた。

 

「まずい。ガラテアが限界だ! 急いで戻るぞ!」

「私の名はジーン。お前に救われた命だ。この命、好きな時に好きなように使え」

「おまえの命だ。おまえのために使え。オリヴィアはそこに居ろ!」

 

 妖気感知で上の戦闘状態がわかるのだろう、クレア達は焦って戻っていった。原作の熱いシーンが見れて嬉しかったのだが、酢昆布まみれの私を置いて行った。ここに居ろと言われ、望み通り置いて行かれたのに……、何なのこの気持ち。

酢昆布が取れないのは分かるけれど、放置はひどくない? 一回くらい二人で外すの試そうよ。

 

 

 何にも生きる者のいない部屋で、一人ぽつんと寝ころんでいると本当にここにいるのか分からなくなる。普段は深い山で独り、焚火を眺めることも多いのだが、虫の音、木々のざわめき、明るい星の煌めきで世界が色付いて見えていた。本当に命の気配を感じないのは、訓練生の時のタコ部屋で周りの子たちが朝死んでいた時以来だ。あれはひどく冷たい朝だった。どこか嗅ぎなれた赤い匂いがする。これ誰の記憶だ? どくどくと自分の心臓の音が聞こえた。

 

――生きて、オリヴィア。

 

 手が頭に置かれた。

 ハッとして顔を上げると、死んだはずのカティアが青白い顔で目の前にいた。思わず叫ぼうとした。

 

「い! ぶるマッソぉ……」

 

 死ぬほど驚いて、舌を噛んで変な声が出てしまった。またダメージ受けたんやが??

ってかあれ? カティア生きてんの君? 覚醒したんじゃないの君。

 

「あなた……生きていたのね。……どうして、こんなところ……に……。捕まったの?」

 

 息も絶え絶えの様子でカティアは言った。いや端的に言うと、自分で来て捕まったんだけど。そんな情けないこと、なんて説明すればいいんだ……。

 

「私。……なんでか、分からないけれど……。拷問の途中で見逃されたの……」

 

 カティアの話をコクコクと頷いて聞いた。これあれか、薬入り干しブドウ乾パンのパワーかこれ。無駄じゃなかった!!

 しかし、体中にダフ棒が刺さってた穴が開いてる。カティア攻撃型だろうに、治るのか……。おそらく拷問途中に気を失って虫の息になり、妖気が途切れたから死んだ判定されたのだろう。急いで穴を塞いで止血しないと、せっかく助かったカティアも死にかねない。何かいいアイデアは……。そうだ!

 

「ラケルのからだ使って、なおす」

「……えっ?」

「つかわないと死ぬ。傷にいれて」

 

 簡単な単語を使って、何とか言葉を紡いだ。くそ発音でもぎりぎり通じたようだった。転生した日本人にもやさしくして。それはともかく、死体が妖魔になるジンクスもあるこの世界では、死体に対して忌避感が半端ない。私達戦士にしてもそうだ。しかし、組織の研究者では死体を使った研究をしまくってるやつもいるくらいだ。死した戦士の細胞も恐らく、完全には死んでいない。継ぎはぎの再生くらいには使えるはずだ。クレアだって他人の右手を使っている。

 

「……。わかった……わ」

『頼むぅ。生き残ってくれぇ』

 

 覚悟を決めたのか、カティアが私の目を見て言った。自身が攻撃型で、そのまま再生に入っても死ぬことを悟ったのかもしれない。私にできるのはお祈りしかない。カティアの肉体の損傷具合は、右足がほとんど千切れかかっており、左足の損傷も激しい。上半身では既に傷口が塞がりかけているところもある。傷は腹部が一番重症だった。

 

 カティアに何とか指示を出しながら、ミンチを穴に詰め込ませた。一部の重症化した傷をもう一度抉るときには、聞くに堪えない悲鳴を上げたが作業自体は何とかなった。

 

「やって」

「うわああああああああああああ!」

「やって! いける、しぬな! 『どうしてそこで諦めるんだ!』 あきらめるな! 『応援してるやつのことも考えろ!』」

 

 これでカティアが痛みから逃れるために覚醒したら、恐らく私はここで死ぬだろう。なんとなく、カティアに信用されてる気がするのはなんでだ。まぁいい。日本語交じりの適当な発音で必死に応援した。

 

 その後、カティアは暴走しかけつつも、妖力を安定させてなんとか傷を癒した。

 しかし、もう戦うだけの力は残っていないだろう。息も絶え絶えな様子で、こちらを見ている。まじでよかったぁ。何とかなったぁ。

 

「外して」

「はぁはぁ……。ええ、わかったわ」

 

 酢昆布を斬るのは相当厳しかったが、瓦礫と大剣で梃子の原理を使って何とか破壊していくと、やっと動けるようになった。あの腐れ外道ニート酢昆布、マジで覚えてろよ。バラバラに刻んでキャベツと和えてやる。

 

 カティアと共に上層近くまで戻り、地面に刺さった大剣を拾った。

 

「カティア。はなれて」

 

 カティアとは一度共に隊を組んだことがあり、何をするか分かったようで、頷いて後ろへと下がった。

 

 一呼吸置いて、踊りを始める。音から察するに、ダフとの戦いも終盤の様だ。酢昆布野郎に一矢報いないと、溜飲が下がらない。加速するために連続のバク中から始める。殆ど空中に浮いた状態になるまで続け、横ひねりを加え剣の型に変えていく。破壊の舞いを再び踊る。

 次第に大剣が空気を裂く音が変わり、風が吹き荒れた。カティアからは無茶苦茶な動きに見えているだろう。慣性の力の一部を足に渡し、一気に上階を目掛けて跳んだ。

 

「いくぞ! 『口の悪い短髪の仇だ!』」

 

 

 クレアとジーンは、戦闘が行われている上層に向かっていた。

 ジーンは、地下の場にクレアと共にいつの間にか居た、26番のオリヴィアについて思い返していた。

 

(あいつは、あのとき。……死んだはずだ)

 

 ジーンがリフルに旋空剣を打ち込んだ時、リフルによって攻撃を絡めとられ地面に叩きつけられた。リフルの動きがあまりにも速く、何をされたのか一瞬分からなかった。

 

「がはっ! くっ、26番!」

『こなくそー!』

 

 そこに、妖力解放を行ったオリヴィアが飛び込んできた。声を掛けたがいつも通り、何を言っているか分からなかった。金眼が異様に爛々としていた。

 

 そこからのリフルの攻撃を受けて、どんどん加速を続けていくオリヴィアの動きを、ジーンは目で追うことができなかった。しかし、リフルはまだ余裕があるようで、両腕を人型から覚醒体へと戻して、オリヴィアをあしらっているようだった。

 

「くっ! 鬱陶しいわね! !?」

「りふる!」

 

 リフルと打ち合っていたオリヴィアは突然消えると、リフルの背後に現れた。ダフが慌てた声をかけた。オリヴィアの顔面に目元から黒い痣がまだら模様に広がっていた。

オリヴィアが今までの動きが嘘のような急静止をすると、急制動の反動か、大剣が甲高い耳障りな音をたてた。

 

『しね!』

「……あなたは、もういらないわ」

 

 何事かオリヴィアが呟いたが、リフルが冷たい声で言い、オリヴィアの首を刎ねた。遅れざまに吹き出した血が、幼い戦士の肩口を濡らした。

 

「捕まえて話を聞きたかったけど。そんなに力が強い戦士じゃなかったから、まぁいっか」

 

 リフルは、人間体に戻るとそう呟き、ジーンたちに向き直った。

 

 その後、ジーン一行は捕えられて、筆舌に尽くしがたい拷問を受けることになる。

 

 

 ジーンは思い返した記憶を(かぶり)を振って追い出した。

今はクレアの手助けをする方が先決だった。




多分泥酔してたんでしょうね(開き直り)
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