あれは嘘だ。
◆◆◆
戦いのあった窪地。
そこに馬を並べた、二人の黒づくめの男たちが立っていた。
「まさか……。戦士達が勝利するとは……」
「普遍的な戦士が、最強の超越者を下すか……。まぁ、本国のやりたかったことではあるんだろうがな」
馬から降りたダーエは、いそいそとしゃがみこんだ。
視線の先には、プリシラが吐き捨てた黒い
この期に及んでも、ダーエは収拾を止めようとしなかった。
先の戦闘からしばらく経っており、既に戦士達はここを離れている。
恐らく、治療に適したところにいるのであろう。そう二人は予測した。
「拾ってどうするつもりだ?」
「なぁに。自身の研究の成果を眺めるだけさ……クク」
(こいつは……)
黒いサングラスをかけたルヴルの頭の中に、ダーエを必ず除かなければならないという考えが浮かんだ。
放っておけば、この島の組織の様に、新たな実験が執り行われてしまう。
「クク……。私を殺すかね?」
「!?」
そんなルヴルの考えは、ダーエに見破られていた。
「ふん……。この間も言ったが……。組織は終わりだよ」
「……」
「それに、貴様も終わりだな」
「なに……?」
振り返ったダーエの目に、ルヴルは気圧された。
「そらきた」
「!!」
ダーエたちの前に現れたのは、身体の殆どが損壊したプリシラだった。
(馬鹿な……まだ、生きているのか?)
「おなかすいた……おなかすいた……おかなすいた……」
「もはや、元あった自我も今再び消え失せているのだろう」
プリシラは、猟奇的な目で二人を見た。
「損壊した体を補うために、本能的にここに来たんだろう。排出したとはいえ、ここにある力は本物だ。まぁ、取り込んでどうなるのかは、保証しないがね」
そのまま、ダーエ達を無視したプリシラは、泥を啜るように黒ずんだ肉片を貪り始めた。
「そうさなぁ。ここで、喰われて死ぬのもいいが、最後に一つだけ見たいものがあったんだよ」
「……」
芝居がかったようにダーエは空を仰いだ。
「まさか、とは思っていたが。この黒さ間違いなく奴の肉片だ。どうして、ここに紛れているのかは知らんが。それが
「私は戻ることにする」
付き合っていられないと、ルヴルは馬へ跨った。
「そうかぁ。精々しなんようにな」
「……」
貪るプリシラを横目に、ルヴルは無言で窪地から出た。
ダーエの予測は、一つだけ外れていた。
プリシラとダーエの予測していた〈涅〉のサルビア。
そこに一片の不純物が混じっていた。
「おなか……すい……た。ぁあぁああ」
プリシラが突如、痙攣するように動いた。
「はじまったか」
傷口から体を覆うように出てくるのは、白い肉。
プリシラを取り込んだテカテカと光る皮が、人の顔を作った。
「生き残れた……。ははは、やったわぁ!」
複数ある残機を失いながらも、たった一つだけ命を残していたバキアだった。
そんなラバーマンを見つめたダーエは、一言だけ呟いた。
「だれだ貴様」
「あらぁん。人間? 組織の人間かしら?」
完全に間を外した存在の登場に、ダーエの中に落胆が広がった。
「……何て詰まらない結末。いや、作り出した戦士の一人であることは、一つの救いでもあるのかもしれんな」
「何をごちゃごちゃと言っているのかしら。あたしの糧となりなさい」
そう言って、白いバキアはダーエの胸から下を素手で引きちぎり、下半身を腹に収めた。
「最後に名前を聞いておこうか」
「あらぁん。そんなになっても言葉が話せるなんて……お仲間?」
「見ての通り、つぎはぎの身体でな。多少死ぬのが遅いというだけだよ」
くねくねと考え込んだバキアは、ゆっくりと名乗った。
「まぁいいわ。あたしは〈サルビア〉。芸術家のサルビアよ……!?」
「くくく。やはり! 貴様が誰かは分からんが、一介の覚醒者では、やはり吸収しきれんか」
「なんで!? いや、消えたくない。生き残ったのに! あぁがああぁああぁぁ! マ゜ッ!」
高い半濁点のような裏声を出して、バキアが裏返った。
ボコボコと姿かたちを変えて現れたのは、全身が影の様に黒い女だった。
異形。
頭から生えた二本の触手が、髪を二つに結んだツインテールのように見えた。
人間のような顔は、埴輪尚ように穴の開いた空洞になっているのが見える。
額には縦に割れた瞳が埋まっていて、ぎょろぎょろと辺りを伺っていた。
女は何かを探すようにダーエの元へ歩いた。
「くくく……。そうか。肉親を失い、目的を失っていたコイツにとって、私が最後の枷だった訳だ……。そうか、そうか、くくく。やっと産まれたか。長かったなぁ。ハッピーバースデ」
下半身を失い、ニヤけた表情のダーエの頭は潰された。
「オリヴィア……オリヴィアは何処……?」
黒塗りの女は辺りを探すように、頻りに顔を往復させた。
そして。
「死んだ? あの時に? 嘘よ、嘘よ。そんな……ぁ。あぁあぁ、あああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアア!!」
黒塗りの女は空に向かって絶叫した。
「ああぁぁぁ……」
しばらく泣き叫んだ黒い影は、肩を落とした後に、妖気を複数感じる方向へ飛び出していった。
ギャグパートでふざけ過ぎたンゴねぇ。