〈痴呆〉のオリヴィア【完結】   作:peg

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段々と暑くなってきました。
麦茶がおいしい季節です。
皆さまも体調管理には気を付けてください。


次話以降再び整理に入ります。
平日の更新は厳しいかもしれません(予防線)


意志の力

 飛び出した勢いで階層を突き抜けた。降り注ぐ床材の破片やダフ棒も、斬撃の結界に触れると粉微塵に砕けた。なんか強敵に会って成長したのだろうか。前よりも力がみなぎっている気がする。もしや、これが復讐の力か。拙者、鬼と化す!

 

「!」

「なっ!」

「!? あの拘束が自力で解けたっていうの?」

 

 地面から飛び出ると全員が瞠目した。リフルは既に片手を覚醒体へと変化させており、ジーンを押さえ込んでいた。地面にめり込んだジーンは頭から血を流している。

 

「なんだ、あの出鱈目な動きは!?」

「! あれが〈千剣〉か……」

『うおおおおおおお!』

 

 もっとも近い位置にいる、ジーンを捕らえている酢昆布へ最初に攻撃を見舞った。最大まで加速した剣は、リフルの触手を容易く刻んだ。ざまぁみやがれ! キャベツパーティーだ!! ふりかけみたいになってるけど!

 

「ちっ……厄介な!」

「どうなっている? 奴の妖気が重複して感じられるぞ!」

 

 リフルが舌打ちし、ガラテアがなんか言ってた。しかし簡単に酢昆布を断裂できたのは、油断したところに見舞ったからだろう。

 すぐさま完全な覚醒体となったリフルは、密かに潜り込ませていた下半身の触手で、私が着地するはずだった足場を崩した。慣れたフワッとする感覚があり、再び股がヒュンとした。

 

『うわあああああ!』

「オリヴィア! くっ!」

 

 大規模に通路が崩れ、クレア達も階下へ落とされてしまった。リフルが巨大な覚醒体となったことで、廃墟の天井が吹き飛び、青空が見えた。でっっっっか! 城塞サイズとか、勝てるかこんなの!!

 

「あーあ。気持ち悪い子から受けたことは不本意だけど。一応、これで一発もらったことにしてあげる」

 

 ダフを抱えた方の反対の手をプラプラと振ったリフルは、クレアに対して言った。もう手が治ってんじゃん。チートかよ。でも一矢報いたかな。やったぞ短髪。でもリフルが、ゴキブリのごとく私を嫌っているのはなぜだろうか……。敵とはいえ美人に嫌われるのは辛い。

 クレアがイースレイとかプリシラの話をここで聞くんだったっけ。あー、なんやかんやあったけど、生き残れてよかった。いやぁ、ほんとよかった。

 

「……力を測られるの嫌だったんだけどなぁ。その子の事といい、組織も抜け目がないわね」

 

 青空を見上げながら寝転んでいると、リフルから一瞥された。なんか含みのある言い方だったな。ちゃんと言えよ。

 また会いましょう。と上品に姿勢を正し、一言告げたリフルの巨体が消えた。遅れ様に強風が吹いた。速すぎわろた。

 

「なん……!? あの巨体が一瞬で……」

「くそっ! なにもかもが遠すぎる……」

 

 クレアは、呆然と遠くを見るようにして呟いた。わかる。分かるよぉクレア君。私もほとんど何もできないくらい実力差が離れていた。

 これ時間かけても実力差が埋まるものなのか……。無理だな。GG!

 

「さて、47番。組織からお前を連れ帰るように命令されている。それが、例え死体でもだ」

 

 そんなクレアに非情にもガラテアは言った。ジーンが座り込むクレアの前に立ち、大剣を構えた。

 この流れに全然関係ないけど、短髪埋葬しないと。大剣はどこだ。カティアの回復に使ってさらにひどい状態になってるから、組織に見つからないように隠蔽しないと。本当にありがとな、短髪。

 

「ジーン。なんの真似だ」

「私の命はこいつに預けた。こいつのために死ねるなら本望だ」

 

 そんなジーンの様子にガラテアは興覚めしたような顔を向けると、大剣を仕舞い背中を向けた。フッ、ガラテアよ。戦場で背中を向けるとは、斬られたいようだな!(復讐)

 大剣を構えようとすると、ガラテアが大剣に再び手をかけた。あっ、こいつ神目だった。ダメだ、……死角がない。卑怯じゃない?

 

「深淵のものに会敵し、バラバラになったお前らの死体など私は探す気にならなかった、と言うことだ」

 

 どうやらガラテアは、クレア達を見逃すようだ。結局、ムキムキガラテアを見ることができなかったのが唯一の心残りだろうか。さらばガラテア。次に会うときはスタバ(ラボナ)で会おう。これ見よがしに隣でフカフカのベッドに寝てやる。

 

 

 ガラテアが去ったあと、カティアと共に地下へ降り、短髪のラケルを運び出した。遺骸は殆ど原型を残していなかった。酢昆布の拠点に置いておくのも可哀そうだ。カティアが(しき)りに、ラケルへお礼と謝罪をしていたのが印象的だった。運び出した後、クレアとジーンも埋葬を手伝ってくれた。やさしい。

 

「カティアにオリヴィア。よく生きていたな。二人とも死んだものだと思っていた」

 

 埋葬の後、ジーンがそう問いかけた。私は薬で死を偽装していたし、カティアもうまくいったんだ。

 

「私もなんで目が覚めたのか、良くは分からないわ」

「乾パンたべた」

 

 カティアも分かっていなかったので、右手を出してネタばらしをすることにした。半分に割れた妖気を消す薬を見せた。一個残しておいてよかったぜ!

 力尽きたらって、何て言うんだっけ。死んだらでいいか。

 

「これは……。妖気を消す薬か」

「なぜこれを……」

「半分に食べると、死んだら消える」

 

 三人とも興味深げに覗き込んだ。ふふん、これで大体わかったろ。カティアとかが生き残ってるのは、私のおかげだぞ。感謝しろよ。そういや、ミアは大丈夫か?

 

「?」

「……あの?」

「……何を言っているんだ。こいつは?」

 

 全員が唖然とした顔をしていた。全然伝わってなかった。うそやろ。

 その後、一生懸命説明したがうんうん頷いて聞いてくれるのはカティアだけになった。

 

 

 焚き火に薪をくべた。場所は、リフルが拠点にしていた廃墟から少々離れた林だ。近くには小川が流れており、野営には打って付けの場所だった。薪はクレアが倒木を細切れにしてくれた。高速剣便利じゃない? 薪が不揃いなのが難点だが。薪っていうか、所々フリスビーみたいになってるけど。

 

 4人で焚き火を囲んだ。一晩過ごして体を休めたら、クレアは別れるということだった。ジーンはクレアに付いて行くらしい。そして、なんやかんやあってご飯を食べてなかった。酷くひもじかったことを思い出した。ご飯は手頃なサイズのウサギ5羽だ。これ巣穴に一杯いるのよね。

 

 適当に捌いて火にかざし、焼けるのを待った。この待っている間が好きだった。焚き火の音、夜の(さえず)りが色々聞こえてくる。誰も話をしなかったが、嫌な時間ではなかった。いつもは()()だが、今はなんとなく温かい気がした。

 ふと、大岩に座ったクレアが言った。

 

「おい。カティアも重症だったんだろう? 攻撃型だと先程聞いたが、どうやって治したんだ? よく見れば肌の色も違っている」

「それは……」

 

 カティアは私を見た。いや、見られても。……もう閉店ですよ。ご飯タイムだからね。先に食べるからね! 話に夢中になってるとなくなるよ。

カティアは垂れた髪を耳に掛けて言った。

 

「朦朧としてて、あまり詳しくは思い出せないのだけれど。26番ちゃ……オリヴィアに言われるがまま、ラケルの体を使って傷を治した……わ。あまり、褒められたことではないのは分かってるわ。でも、私は助かった……」

 

 カティアは苦し気に言った。目には涙が浮かんでいた。そんなカティアにジーンが夜空を見上げて言った。

 

「仲間の命が助かったんだ。ラケルも本望だっただろうさ……」

「しかし、防御型の戦士の遺骸を使って傷を治すか……。一体、どこからそんな発想が……」

 

 全員の視線がウサギの頭に齧り付く私に刺さった。全然聞いてなかったけど……。えっ? 欲しいの? しょうがないなぁ。

 

「ん!」

「いや。……そうではない」

「……」

 

 齧りかけのウサギを差し出すと、ジーンに断られた。えー。クレアもどちらかと言うと冷たい目で見ている。えー。

 カティアは、自身の手を見て言った。

 

「それに……。一瞬だけれど限界を超えたはずなの。でも、必死に呼びかけるオリヴィアの声のおかげで戻ってこれたわ……」

「……それは、ここにいる全員が経験していることだ。オリヴィアは……、違ったか……」

「ふん。自慢ではないが、私など体は完全に覚醒していたよ。私もクレアに何とか引き留めてもらって、ここにいる」

 

 結局みんなで話し込んでいたせいで、私が準備した食事は一口ずつしか食べてくれなかった。しょうがないので、私のお腹(おなか)に全て収まった。食品ロスはいけないからね。しょうがないね。

 

 翌朝、クレアとジーンは一緒に旅立って行った。

 今後、どうなるかなんて分からないが、また生きて会えたら。と言葉を交わした。

 

 

 

「お前は歴代最強だよ……。アリシア……」

 

 場所は、リフルの居城から離れた狭い谷にある組織の拠点だった。リフルの力を測っていた傑作の戦士を前に、恍惚とした顔で継ぎ接ぎだらけの男が呟いた。

そこへ、一人の黒尽くめの男が現れた。

 

「はぁ。玩具遊びも、良いがなダーエ」

「オルセか。後進の教育はいいのか?」

 

 オルセは研究者ダーエと旧知の仲だった。付き合いの始めは、オルセが担当した微笑のテレサへと遡るが。本来、老齢で死んでいるはずのダーエをオルセは一瞥した。ダーエは、自身の体すら改造するマッドサイエンティストだった。

 

「ふん。戦士の成り損ないに教えることなど少なかろう……」

 

 オルセが引き継ぎを担当している後輩は、本国での戦士に不適格なものだった。左遷され、この大陸に送られてきているのだった。その男は目が潰され、金属製のバイザーで顔を覆っていた。

 

「それはそうと、例の話だ」

「ふむ。……あれは早々ばれる事でも無かろうに」

「それが、そうもいかんのだ。さすがに相違も出てきている」

 

 オルセが言うには、敵国からの工作員が組織に紛れ込んでいるらしい。これまでの研究履歴を洗い、在ることないこと組織の上に通告しているとのことだった。

 

「ふん、くだらぬ。あれが今後の研究に差し支えるなら消してしまえばよかろうに……」

「はぁ。いいんだな?」

 

 顎でしゃくるようにダーエは言った。一度興味を失った対象へ感情をなくすのはこの男の悪癖であった。オルセは、溜息をつきつつダーエの言葉に返答を返した。

 

()()()ある意味では、お前の研究の集大成だっただろうに……」

「くくく、かかか。()()()()などという不確かで意味の無いものに、いつまでも縛られる私では無いのだよ。それよりも、見たまえ! この戦士たちを。これまでのものを超えて有り余る!」

「はぁ。そうかい……」

 

 溜息を零した黒服はそういうと闇に消えた。

老獪な男はその背後を見やって言った。

 

「意味の無い感傷に浸るか。くくく、それが貴様の上限よな」

「……」

 

 其の研究者の傍には、黒い鎧を着た2人の戦士が無言で佇んでいた。

 




やはり麦茶は炭酸に限りますね!(プシュ)
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