そのウマ娘の名は   作:ニモ船長

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※キングヘイローさんが高松宮記念に挑むそうです。

 


本編
そのウマ娘の名は


 

 

 シニア級、3月下旬。

 彼女にとっては正しく運命の分かれ道となる一世一代の大舞台が、この日開かれようとしていた。

 

 

 「ついに、この日が来たのね」

 

 

 そう零すのは、今日のG1レース、「高松宮記念」に出走する俺の担当のウマ娘だ。

 整った顔立ちに、焦げ茶色の如何にもなお嬢様ヘアー。緑のドレス風の勝負服を纏って腕を組みながら、控室の椅子に座っていた彼女は、しかし一応の心の準備が出来たのか、刮目してトレーナーである俺に話しかけてきた。

 

 

 「……本来、三冠路線を狙ったウマ娘は、中長距離を狙うのが定石。しかし私はここに来たわ。短距離の王を決める、『高松宮記念』へ。

 ――私らしい一流の道を、歩むために」

 

 

 ウマ娘のデビューからの三年間は非常に大切な時期だ。

 そして二年目であるクラシック級にて、彼女は一生に一度しか出場する事の叶わない三つのレース、「皐月賞」、「日本ダービー」、「菊花賞」に出走した。自分こそが一流のウマ娘であると、世間に知らしめるために。

 

 

 「たとえこの道すらも誤りだったとしても……私は後悔しない」

 

 

 それら全てにおいて、彼女は敗北した。

 「皐月賞」は二着、「日本ダービー」は大敗して十四着。「菊花賞」も振るわず五着に甘んじ、世間の関心は彼女と同期である「黄金世代」、スペシャルウィークやセイウンスカイ、グラスワンダーにエルコンドルパサーへと向かってしまっていた。

 「偉大なウマ娘であった母親を持つご令嬢」。彼女を名前ですら認識しなかった当時の評価すら、今は消え去ろうとしていたのだ。

 

 

 「もし、そうだとしても――」

 

 「その時は」

 

 

 だが。そのクラシック三冠と呼ばれる三大レースの終着点、「菊花賞」のレースの後、彼女と俺は決めたのだ。

 世間を、彼女の出走に反対する母親を、振り向かせる事は止めようと。誰にも囚われない、彼女だけの道を歩もうと。

 

 

 「その時は、また一から頑張ろう」

 

 

 そんな俺の一言に、彼女は一瞬目を見開いた様子だったが、直ぐにニヤリと口角を上げて応じる。

 

 

 「……ふふっ」

 

 

 俺には、彼女の気持ちが少しだけ分かる。

 重賞、と呼ばれるウマ娘が走るレースのうち規模の大きいものの中で、更にその頂点に位置するG1レース。それを何度も勝ち、アメリカG1では驚異の七勝を達成して惜しまれつつ引退したのが彼女の母親だ。その娘として生を受けた彼女は、周囲からは過度な期待を掛けられ、当の優秀過ぎる母親からは適性がないと烙印を押され、今までそのプレッシャーと常に戦ってきたのだ。

 ――どんなウマ娘をも重賞で活躍させる、変幻自在の一流トレーナー。九年連続で専属ウマ娘最多勝率を誇った顕彰トレーナー、それが俺の父親だった。

 そんな彼が数年前にトレーニング中の不慮の事故で引退を余儀なくされ、それまで親父のチームのサブトレーナーとして研修していた俺が突然、代わりにメイントレーナーを任されて……そして、そんな時に出会った、実質初めて全面的に受け持ったウマ娘こそが、彼女だったのだ。

 

 

 「あなたも覚悟済みってワケね」

 

 

 彼女の戦績の低迷と同時に、トレーナーである俺も責任を幾度となく追及された。

 伝説のウマ娘の御令嬢と伝説のトレーナーの息子の二人三脚でありながら、目覚ましい結果が出せない現状は多くのファンを失望させたことだろう。俺達を書いたバッシング記事なんて、調べればキリがない程に出てくるのだ。

 ……だけど。今回のレースは、誰かに認めてもらう為の勝負ではない。

 自分の道を行く為の勝負。彼女が彼女らしい、彼女だけの一流の道を歩むための、第一歩なのだ。そしてそれは多分、俺にとっても。

 そう思い、彼女をパドックへと送り出すべく、最後の励ましの言葉を考えていた、その時。

 

 

 「……あら、お母さまね」

 

 

 それは彼女のデビュー戦や「日本ダービー」のレース後にも掛かってきた、彼女の母親からの電話だ。

 「ほかの道の方が幸せになれる」そして彼女がそれに応じるたびに、母親は迫ってきた。「あなたに走りの才能はない、諦めなさい」……。

 

 

 「ふふん、ちょうどいい機会だわ。

 あなた、私の代わりにこの携帯を持って」

 

 「……えっ?」

 

 

 だけど。今の彼女は、もうあの頃とは違う。

 

 

 「え、じゃないの。ほら、手を貸しなさい」

 

 

 ――取り繕った励ましの言葉なんて、不要だったようだ。

 彼女は電話を掛けてきた母親に、堂々と宣言したのだ。自分はプロだと。数々のレースを走った、一流のウマ娘としてこのレースを選んだのだと。

 

 

 

 

 「誰にどんなことを言われようとも、私には勝機も自信もある。

 誰でもない、――――としてのレースを、見せてあげるから!」

 

 

 

 

 

 

 

 「わあっ、人がたくさんだー! みんな、いらっしゃーい!」

 

 「ウララはさー、今日はキングのレースだからね?」

 

 

 耳をぴょこぴょこさせながら笑顔で辺りを見回す一人のウマ娘と、その隣で彼女にツッコむ、これもまた一人のウマ娘。

 

 

 「ま、元気なのは良い事だよなぁ……あれ、スカイも来てたのか?」

 

 「あっ、トレーナー! こっちこっちー!」

 

 「おっ、キングのトレーナーじゃん。

 にゃはは、そんなんじゃないよー。ちょっと暇つぶしに来ただけー」

 

 

 ハルウララと、セイウンスカイ。

 「彼女」のルームメイトであり、ほぼ同時期にうちのチームに加入したウララは、是非「彼女」の応援に行きたいとついて来てくれたから当然なんだけど、セイウンスカイ……先程も名前を挙げた三冠のうち、「皐月賞」と「菊花賞」にて一着を勝ち取った黄金世代の一角である彼女が来るとは、同じチームメイトでもないのに意外だ。

 

 

 「……まあでも、ちょっと心配にはなっちゃったかなー。

 あれだけ一流一流って言ってたキングがさー。こう、路線を変えられるとね……気になるじゃーん」

 

 「意外とスカイって、お人好しだよな」

 

 「そうだよー! セイちゃんね、いっつもウララに色んな事教えてくれるんだよー! 忍法とうめいの術とか!!

 

 「よーしスカイあとで話そうか」

 

 「おっけー、いちぬーけたっ!!」

 

 

 ……とはいえ、大事なレースの前なので実際に追いかけっこなんてする筈もない。だいたいスカイはウマ娘だし、追いかけたって追いつきやしないんだけど。

 ただ、スカイも今は俺がそういう気分じゃないってことを理解してくれていた様で、変に逃げるそぶりを見せていないというのがちょっと癪だ。

 

 

 「っていうかさ、チームの他のみんなはどこにいるのかなー? まさか、ウララと二人でやって来たわけじゃないでしょうにー」

 

 「ああ、今はパドック前で声を掛けてると思うぞ。ウララと俺は一足先に話は付けたから、先にこっちに帰ってきたんだよ。

 ウマ娘同士でしか語れない事も、あるのかも分からんなと思ってさ」

 

 「そうですね。トレーナーさんのそういう優しいところ、素敵だなって思いますよー?」

 

 

 おや、どうやら噂をすれば影だったようだ。後ろを振り返れば、いつの間にかチームのみんながずらりと並んでいた。

 

 

 「スーパークリーク先輩、ご無沙汰してます」

 

 「あら、スカイちゃん。いつもうちのキングちゃんの事を気に掛けてくれて、ありがとうね~」

 

 

 ――流石にスーパークリークは世代の都合もあって、俺の担当ではなかった。厳密には親父がトレーナーとして受け持ったウマ娘だ。

 だが実際はどういう訳か、当時新米も良いところだったサブトレーナーの俺を彼女がよく甘やかした面倒を見てくれた事もあって、チーム内でも実質的には俺が担当しているかのような雰囲気が出来上がってしまっていたのだ。勿論、トレーニングの作成とかは殆ど親父が組んでたし、やっぱり一から全責任を負って鍛え上げた「彼女」とは色々と違うものがあるのも事実なのだが。

 とはいえ、彼女とオグリキャップ、タマモクロス達との数々の勝負を経て、俺もトレーナーとしての心得を彼女から学び取っていたのは間違いない。

 

 

 「スカイは優しいからなぁ。キングが負けるたびに、大丈夫そうですかってうちにこっそり聞きに来てたよね。

 素直にキングに言ってあげれば、喜ぶと思うけど」

 

 

 ――そしてこっちがメジロライアン。

 ウマ娘の一族として名家であるメジロ家の出身で、今年の夏にはデビュー戦が控えている。実は高等部で、親父の一件のせいでデビューが少々遅れてしまったのが悔やまれるし本当に申し訳ないが、そんな彼女もウマ娘としてはメンバーの中でも熟練の風格の持ち主で、既に重賞で走っている娘と併走させても引けを取らない実力を秘めている。今では同時期にデビューする、同じメジロ家のメジロマックイーンとの駆け引きが気になるところだ。

 

 

 「にゃはは、メジロライアン先輩も手厳しいですねー。

 ……でも、それを求めてないのは多分、キングの方だと思いますよ」

 

 

 「皐月賞」ではセイウンスカイに勝ちを譲り、二着で終わった。

 そして「菊花賞」を制したのもまた、彼女だ。

 一流として手に入れるべきだった栄冠を二度も奪われた、その相手との間に、「彼女」が何も感じていない筈がない。結果として、クラシック三冠を戦っていくにつれてその確執は深くなっていった……残念ながら、それは間違いないのかもしれない。

 だというのに、それでもキングを見限らなかったスカイには、感謝の言葉もない。 

 

 

 「……それは、どうだろうな」

 

 

 だから、そんな彼女に、朗報だ。

 

 

 「どうだろうって、どういう事かなー?」

 

 「そうだな……ま、今日のレースを見れば分かるかもしれないぜ」

 

 

 順位は抜きにしても、今のキングは……今までとは全く違う走りを見せてくれるはずだ。

 そんな俺の意図を知ってか知らずか、スカイはふーん、と相槌を返すのみで。

 

 

 「そうだよー! キングちゃんはぜったいに勝つよ!

 わたしは知ってるもん! ずっと、ずーっと頑張ってたんだもん!」

 

 

 ……そして直後に飛び出たウララのその無邪気な言葉に、彼女も俺達と一緒に小さく笑う事となった。

 

 

 「そうね、ウララちゃん。キングちゃんはもう立派な、うちのエースですものね~」

 

 「信じましょう! 大丈夫、困った時は筋肉が何とかしてくれます!」

 

 「……相変わらずですねー、ライアン先輩」

 

 「おかげでこっちは筋肉痛が……って、もう始まるぞ」

 

 

 ――高松宮記念のファンファーレが鳴ったのは、まさにその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高松宮記念。芝1200ⅿ。

 今までは中距離主体の走り方を身体に叩きこんでいた私にとっては、その距離は予想以上に短かった。

 トレーナー曰く、私の脚は中長距離で力を残し続けるよりも、一瞬のうちに爆発的に駆けて出し切る能力に優れているのだそうだ。だからこそ今回の作戦は「差し」。ぎりぎりまで脚をためて、最後の直線で一気に……。

 

 

 (……ふん。そんな事、あなたに言われなくても……本当は分かっていたのよ)

 

 

 分かっていた。

 自分には適性がない事を。お母様どころか、スペシャルウィークさん達に並ぶほどの才能すら、自分にはないという事を、去年私は嫌と言うほどに思い知らされていたのだ。

 でも、それでも私は勝ちたかった。才能という言葉が、結果の後に付いてくるものだとしたら……私はそれを創り出したかった。

 勝って、証明したかったのだ。自分が一流だと。お母様の娘としてではなくて、ただ一人の一流のウマ娘として。

 ……そうでなければ。

 

 

 (そうでなければ、私を応援してくれているファンも、チームの皆さんも……トレーナーも。

 全員の『一流』を、裏切ってしまうじゃない)

 

 

 私は一流のウマ娘だ。だから、今となっては少数派であるかもしれないけれど、それでも私を応援してくれる人は一人残らず、見る目のある「一流」だ。

 だからこそ、私は……私は、まず自分自身で自分が一流である事を証明しなければならなかった。それが出来ないという事は、単に皆の期待を裏切るだけに留まらずに、皆の私を見出した才能までも否定してしまうから。

 ……才能が、素質が否定される。それがどれだけ辛いかを、私はよく知っているから。

 

 

 「だから、今度こそ……っ……!?」

 

 

 しかし。繰り返しになるけれど、距離が短い。

 気付けば私の周りで走っているウマ娘達はもう、スパートをかけている。中距離ではあり得ない早さだ。トレーニングでも幾度となく確認してはいたけれど、こんなにもレースの流れが速いなんて。

 ――気付けば私は、一瞬で纏まったバ群の中から弾き出されて、最終コーナーの外を大きく回されていたのだ。

 

 

 (そんな……っ!?)

 

 

 最後の直線が見える。外を回された分、他の選手たちは前に進んでいってしまっている。

 そして、今までのレースで分かってしまっていた。この段階でこの順位。差し切るには……厳しい。

 

 

 (また……私は、負けるの)

 

 

 皐月賞で、日本ダービーで、菊花賞で。

 いや、実はそれだけではない。その三つはあくまで大きなレースに出場した回数でしかない。

 私は合わせて十度、敗北を味わっているのだ。

 

 

 (……勝つって、どんな感覚だったかしら)

 

 

 負け慣れたつもりはない。その都度立ち上がってきた。

 だけど……それと同時に、デビュー戦で味わったような勝利の記憶は確実に薄れていく。

 だから、私が知っているのは、負けるとは何を意味するのか、それだけだ。

 

 

 (誰も、私の名前を呼ばない)

 

 

 ただでさえ伝説の母親の娘だ。結果を出せなければ存在すら忘れ去られてしまう。

 

 

 (誰も、私を誇ることが出来ない)

 

 

 「菊花賞」の時は、誰も私を見てくれていないと思っていた。実際は違った。見てくれる人はいた。

 ……その人達の名誉まで、私は汚してしまう。

 

 

 「…………嫌よ」

 

 

 脚を強く芝に踏み締めて、いよいよ最後の直線を駆ける。飛躍的に上昇した速度が、バ群後方の選手を追い抜いていく。

 駄目だ、届かない。入賞に届くかどうかがやっとだ。

 

 

 「…………嫌よっ…………!」

 

 

 頭がごうごう鳴り響く。まるで身体の速さに、心がついて行っていない様だ。

 辛い、辛い、つらい。走るのが辛い。努力が実らないのが辛い。誰かの期待を裏切るのがつらい。

 ……そして、何よりも。

 

 

 

 

 

 「呼んでよ」

 

 

 

 

 

 ――誰かの中で、自分が忘れ去られてしまう事が、一番つらい。

 

 

 

 

 

 

 

 私の名前を、呼んでよ(Call me KING)……!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「「「「「キング!!」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その瞬間。

 重なった声が、届くはずもない声が、確かに私の耳を突き抜けていった。

 

 

 

 「キングちゃーん!! 負けちゃダメーっ!!」

 

 

 

 ――ウララさん。

 どんなに負けても、笑顔で楽しそうだったウララさん。私が苦しい戦いにもがいている事を知ってか知らずか、寮でもいつも変わらず、明るく接してくれたウララさん。……本当はあなた、私が負けた日を見計らって私の布団に入って来てたんじゃないかしら。

 

 

 

 「頑張れキングーっ!! 筋肉を信じろーっ!!」

 

 

 

 ――メジロライアンさん。

 呆れるほどの筋肉おばかでしたけど、マックイーンさんに引け目を感じて、筋トレをしないとやって居られなかったって聞いた時、実はちょっとだけ親近感を抱いてしまったわ。

 でも知っているんですからね。あなた無自覚の内に、ちゃんと一流を目指している事を。

 

 

 

 「キングちゃん! 誰よりも頑張っていた事、私は知っていますよ~!!」

 

 

 

 ――スーパークリーク先輩。

 チームのお母様、というか。他のウマ娘にならともかく、先輩が直ぐにトレーナーを甘やかすのを見るたびに、どういう訳かモヤモヤした気持ちが頭から離れませんでしたわ。

 でも、誰よりも裏方に徹して、最後までメンバーのケアを欠かさないあなたの事は、ちゃんと尊敬しているんですよ。先輩がいなければ、私はとっくに潰れてしまっていたでしょう。

 

 

 

 「キング!!」

 

 

 

 ――す、スカイさん!?

 あなたがどうしてここに……あなたはもっと、スペシャルウィークさん達と同じ舞台に立つべきウマ娘でしょう?

 

 

 

 「負けるな!! キングの、思うように走れ!!」

 

 

 

 ……そう叫ぶスカイさんの目は涙を湛えていて、表情は未だかつて見たことがない程に真剣で、痛切で。

 そして、彼女の次の言葉を聞いた時。

 

 

 

 

 

 

 

 「――キングも、黄金世代でしょ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 ああ。

 そうなのね。

 

 

 

 

 (……礼を言うわ、皆さん)

 

 

 

 

 踏み込む足は、まるで羽根を得て浮いているかのように軽かった。

 残り200m。よく見れば外を走らされた分、前には誰もいない。

 

 

 

 (ここからは、私だけの道)

 

 

 

 勝てるかは分からない。

 負けるかもしれない。

 忘れ去られてしまうかもしれない。

 

 

 

 

 だけど。それでいい。

 

 

 

 

 「……いけ、キング」

 

 

 

 

 良いわよね、トレーナー?

 だって。

 

 

 

 

 

 

 

 キングの誇り(Pride of KING)は、その程度では砕けない!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――黄金世代の死闘から一年後、高松宮記念。

 

 

 

 

 『さあ、大外から……大外から、やはり――――飛んできた!! ――――飛んできた!!』

 

 

 

 

 ――そのウマ娘は十度の敗北を超えて、才能を証明した。

 

 

 

 

 「行け、キング!!

 俺は知ってる! 俺は見てきた! 俺は分かってる!!

 お前が、お前こそが、(キング)なんだ!!!」

 

 

 

 

 ――敗れても、

 

 

 

 

 『……トレーナー、一周だけ走り込みに付き合う権利をあげるわ』

 

 

 

 

 ――敗れても、

 

 

 

 

 『私は認められるべきウマ娘なんだから……っ!』

 

 

 

 

 ――敗れても、

 

 

 

 

 『本当に……全然……。かっこつかないんだから……っ。

 ……なんで、こんなにへっぽこなのかしら……っ! 私たちはぁ……っ!』

 

 

 

 

 ――絶対に首を下げなかった。

 

 

 

 

 「「「「「行けえぇぇっっ!! キング!!!」」」」」

 

 

 

 

 緑のドレス、不屈の塊。

 

 

 

 

 

 

 「だ……ああああああああっっ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのウマ娘の名は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『キングヘイロー、差しきってゴール!!

 キングヘイローがまとめて撫で切った! 恐ろしい末脚! ついにG1に手が届きました!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ごきげんよう、皆さん」

 

 

 

 割れんばかりの歓声の中、キングは立ち上がった。そして、観客席へと向き直る。

 見れば、最前列まで駆け寄って、仲間たちが狂喜乱舞していた。メジロライアンとハルウララは抱き合って、それをスーパークリークが赤く染まった目で見つめている。セイウンスカイは目尻を強引に服で拭うと、にゃは、とこちらに気持ちよく笑って見せる。

 そして、トレーナーは。

 

 

 

 「あら。『菊花賞』の時も泣かなかったあなたが、随分涙もろくなったものね」

 

 「……ちくしょう、流石にやられたよ」

 

 

 

 ボロボロと涙を流す自分のトレーナーに、キングはクスリと笑った。

 不思議と、涙は溢れなかった。

 

 

 

 「……ちょっと。まだそんなに泣くのは早いんじゃないの?

 私達の覇道は、まだ始まったばかりよ?」

 

 

 

 その代わりに、溜まった涙は陽の光を宿して、その瞳をきらつかせていた。

 ――そしてその不屈の王、キングヘイローは、自分のトレーナーに手を差し伸べるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さあ、行きましょう。私達だけの一流を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「キングちゃん、すごかったよ! ウララもじーんってなっちゃった!」

 

 

 

 「トレーナー、わたしも一着取りたいな! キングちゃんみたいに諦めなければ、いつかは取れるかな!?」

 

 

 

 

 

 

 

 了

あら、もう有馬記念まで終わっているじゃない。続くかは分からないけれど、今後どうすればいいか、考える権利をあげるわ!

  • 過去編(クラシック級とか)
  • ウララ編(翌年の有馬でオペラオーと激突)
  • チーム全体編(スピカやシリウスみたいに)
  • 日常編(うーららー)
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