※一流ウマ娘のクラシック時代から、二十年が経ったようです。
『残り600m、第四コーナーを切って、最後の直線コースに入ります!!
先頭はやはり十二番、皐月賞ウマ娘! 後続も続く坂の上りの攻防です!!』
――それは、呪いと呼ばれていた。
『内から、背後から、外から、凄まじい競り合いが続いております! 誰が一着になってもおかしくない総力戦だ!!』
二十年余りの、歳月の中で。
そのチームは一度も、ダービーの栄光を手にすることはなかった。
『逃げ切るか、逃げ切るか皐月賞ウマ娘、二冠を掴み取るか……いや!!』
敗れて、敗れて、敗れ去った。
二度の二着には漕ぎつけても、決して頂点を取ることが出来なかった。
『ここで、十七番が来たっ!!
かの大敗北から、十八年のダービー無冠!! その呪いを打ち破るべく、まくって上がってきた――!!』
それでも、決して挫けなかった。
七転八起の血脈が、チームメンバーには流れ続けていた。そんな連綿とした負けの歴史に、多くのウマ娘が抗い、戦い……そして、夢破れていった。
『突っ込んでくる、先頭に立つか、先頭に立つか! 念願のダービー制覇なるか……!!』
――そう。
そのウマ娘は、十八度の敗北の後に……不屈の血統を証明する。
『ゴーーール!! ついに……ついにやりましたっ!!
チームポラリス、十九年の時を経て……先代からの悲願達成、東京優駿の栄冠に輝きました……!!』
「……ふふっ」
――控室に取り付けられた液晶テレビの中で、
それを見つめる彼女の瞳は……眩しい程の慈愛を湛えていた。
「世間じゃ君が掛けた呪いだって、散々噂されてたよな」
「心外も良いところだわ。私だってあの時は……精一杯だったのよ」
「うん。知ってる」
身長は、少し伸びただろうか。
当時もかなりモデル体型というか、すらりとした体格の持ち主だったが……こうして見ればあれでもまだ、彼女の成長の途中だったのだと思い知らされる。ぴんと立った耳に、優雅に背中まで伸びる髪。玉のように澄んだ色の腕と脚を、肩下に纏うマントの中に隠すその姿は、まさに誰もが振り返る絶世の美女のようで。
……まるで当時の、彼女の母親そっくりだ。
「……とっても、美人さんになりましたね~♫」
そして。
隣でそう感慨深げに言うのは、対照的にあの頃と殆ど変わらない……強いて言うならほんの少しだけ、声音に年季が入った栗毛のウマ娘だった。
――スーパークリーク。ドリームトロフィーリーグで「永世三強」と思う存分戦ったのちに競走ウマ娘を引退して、その後に中央トレーナー資格を取得。晴れてうちに舞い戻ってきて、今では欠かせない往年のサブトレーナーとして右腕を担ってくれている。
「もう……クリークさんったら。それはレースの勝敗には関係ないでしょう?」
――当然よ! 私こそ、一流の……。
そう威勢良く言わなくなった辺りに、やはり月日の流れを感じざるを得ないなと……ひとり思う。
あのジャパンカップで彼女が頂点に立った後も、しかしうちは何度も挫折を味わうことになった。取り巻きーズの二人はなまじスターウマ娘ばかり目にしてきてしまったせいで自分の不甲斐なさに長いこと悩み続け、カワカミはエリザベス女王杯の降着処分を受けてから成績が落ち込んでしまい、その後に加入してきた多くの娘もそれぞれの苦悩を抱えていた。
決して一等星の、それこそ親父の頃みたいな絶対的な強者を輩出するトップチームにはなれなかったのだ。
「そうでもないぞ。今でも君はうちのエースなんだからさ。
誰もが憧れる姿でいてくれて……本当に助かってたよ」
それを支え続けていたのは間違いなく、生ける伝説としていつまでもレースに出走し続ける、彼女の走りだった。
ジンクスとしてクラシック級で成果が出ないと噂されるうちのみんながそれでも、自らの意志でその運命に立ち向かって、そこで敗れてもシニア級で花開くことが出来たのは……今や誰よりも敗北の味を知る彼女がいたからだ。
その振る舞いと、言葉と、レースでの走りが、チームの誰もの希望に……栄光になっていたのだ。
「……あら。
助かってた、って。まだ過去形にするのは早いわよ?」
――そうだな。これは今も続く物語なのだから。
彼女は今日、トゥインクル・シリーズ最後のレースに臨む。二十年余りのキャリアに区切りを付けて、しかし次はドリームトロフィーリーグにて、その人生の残りの全てを競走に捧げる予定なのだ。
「まったく、いつまでもばかな人なんだから。
……そろそろ時間ね」
そうして、俺の愛バは立ち上がる。
あの頃から修繕を重ねて、未だに着用し続けている緑の勝負服と……母から授かった、王者のマントを纏って。
「誇りをもって。あなたはもう、誰もが認める一流ウマ娘なんですよ。
……ね? トレーナーさん?」
――ドアを開けて、地下バ道に出た先には……馴染みの仲間が勢揃いしていた。
かつて制服姿だった彼女達は、しかし今はそれぞれの私服を着こなしている。
「ああ……見せつけてやろうぜ。
君の、『一流』の物語を」
『さあ、オオカン桜が見守るもとでの、電撃六ハロンの熱き戦い!
今日はなんとあのウマ娘の、重賞最後の引退レースです!!』
――かつての勝利から十九年後、高松宮記念。
「わあっ、人がたくさんだー! みんな、いらっしゃーい!」
「ウララはさー……ほんっと、変わらないよねー」
「だって、すっごくワクワクするんだもん! セイちゃんだって、嬉しそうだよ?」
「え~? そう見える~? ……にゃはっ」
――そのウマ娘は数多の敗北を超えて、一流を証明した。
「あははっ、変わらないのはあたしだって同じだよ。マックイーンには控えてって言われてるけど……まだ筋トレやってるし」
「流石ライアン先輩ですわっ!! 今度ぜひわたくしと共に、心のゆくまで身体を鍛えてまいりませんこと!? エルさんも、グラスさんも、ぜひぜひっ!!」
「い、いえ~……私はちょっと……」
「ど……同感デース……」
――敗れても、
「はあぁ……なんだか緊張するべー……! 大丈夫かなぁ……?」
「うふふっ、スぺちゃん、心配してくれて、いいこいいこ~♫」
「わわっ……クリークさんっ!?」
――敗れても、
「だって……ずっと私の、大好きな……!」
「スぺちゃん……?」
「もう私は引退しちゃったけどっ、それでも、私達の王様は、いつだって……」
「あの子ったら、愛されてるのね~♪」
「ままっ……マルゼンさんまでっ!?」
――敗れても、
「でも、ね。きっと大丈夫よ。
だって……あたしが焦がれても焦がれても手に入らなかったものを、あの子はたっっっくさん持ってるんだから!」
――絶対に首を下げなかった。
「「誰よりも強いーー!?」」
「勝者~!」
「ほらほら、みんな、声もっと出して〜!」
「そのうち楽しくなってくるよ〜! 取り巻き歴二十年のわたし達が言うんだから、間違いないよ〜っ!」
緑のドレス。不屈の塊。
『さあ、ついにパドックに、あの不屈の王者が姿を現します!!
今年の夏にはサマードリームトロフィーへの出走を予定!! 一流の走りは……まだまだ終わらない!!』
――さあ。行ってこい、相棒。
「……ええ。トレーナー」
そのウマ娘の名は。
完
んもーーっ、一番良かったレースはどれだったかなんて! キングは過去を振り返らない主義だって言ってるでしょ!
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高松宮記念(キングヘイロー)
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有馬記念(キングヘイロー)
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JBCスプリント(ハルウララ)
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有馬記念(ハルウララ)
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天皇賞(春)(メジロライアン)
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宝塚記念(メジロライアン)
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天皇賞(秋)(スーパークリーク)
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有馬記念(メジロライアン)
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ジャパンカップ(キングヘイロー)