それではどうぞ!
…眼の前に広がる大海原、永遠に見ていても飽きなくなり心が洗われる、そのような気持ちになる、そんな感想が似合う共和国のとある岬に来ていた。
そんな岬の先端に目立つ石碑が置かれており多くの名前がそこに書かれていた、
また岬を囲うようにして大量の花が植えられており、心を癒すかのような香りがして来た。
誰が管理してあるだろうと思えるくらい綺麗に磨かれており、石碑の周りを花束やぬいぐるみ、はたや結婚指輪だろうと思える指輪まで綺麗に揃えてあるが、周辺には民家は存在せず、人の気配すら無かった、
そのような場所にレイ、クローゼ、ユリア、そして女王陛下の四人で花束を持ち立っていた。
共和国の首都から遠く離れ、辺境迄とはいかないが精々写真が好きな人間しか訪れないような岬に何故来ていたかというと、ここにクローゼの両親と多くの犠牲者が眠っており、供養の為に建てられた石碑がここにあるために、遠くリベールから離れここまで来ていたのだ。
厳密には更に先の海上ではあるが、ここは陸の先端の中でも一番近く、海原一面を見通せるため、ここに石碑が置かれる事になり、毎年墓参りと同時にここまで参拝しに来ている事になっていた。
そして事故当日から少し開けた位に来るため参拝する人間は居る筈もなく、貸し切りの状態で参拝できる事になっている。
護衛に就任してから一年が経った、陛下からどうか共に来てくれないかと言われ、陛下、クローゼ、そしてユリアも護衛にここまで来ていたのであった。
ユリアに聞くとこの場所には、毎年ユリアを含めた三人のみでここまで来ていたのだが、今年は俺も含まれていたのであった。
…それにしても綺麗だ。
最初に陛下は持ってきた花束を添え、全てを慈しむ様な顔つきに変わり手を合わせて祈り初めた。
クローゼが花束を添え、それに続くようにして、ユリアとレイも花束を添えた。
「(どうか、安らかに眠って下さい…)」
暫くし、そろそろ帰ろうとすると、一人の老人が此方に向かって来るのが見えてきた、手に水の入った桶を持ち、年に似合わずシャキッと歩いている、皺が目立つが顔つきは精悍である、そんな印象であった。
「こんにちわ」
帽子を取り、笑顔で挨拶してくれたのだが、いったいこの老人は…誰なのだ?
「始めまして…えーと」
「失礼、私はここいら周辺を管理しているポンセと言う者ですよ、…まあ勝手にしているだけですがね」
すると綺麗に磨かれているのはこの男性が磨いているのか。
「そうでしたか…ありがとうございます、遺族の者として心より感謝を致します、ありがとうございます」
「いえ、……私もそのエテルナ号に乗っていた兄の遺族でもありますので…気にしないで下さい」
その顔は悲しく何かを思い出させてしまったような表情であった。
「そうでしたか…失礼しました」
「いえ、…とんでもありません」
話を聞くと、このポンセと言う老人はエテルナ号に乗っていた船員の兄で、元々離れた場所に住んでいたのだが、事故により唯一の身寄りである兄を亡くし、この近くに住むことを決め定期的に掃除に来るようにしているとのことであった。
「そうでしたか…そうだ!これに見覚えはありませんか?」
ポンセがポケットから出した物は少し錆び付いたロケットのような物であった。
「ここにいると遺留品が稀に流れ着いたり生存している人に渡されたりとしているのですが、そして大体は遺族の方に返しているのですが…これだけは持ち主と遺族の方が分からず仕舞いで…見覚えはありませんか?」
それを確認すると、陛下の顔つきは変わり驚愕といった表情であった。
「こ…これは!?」
「…生存者に兄の親友である船員の一人がいましてね、なんでも沈む直前に足を怪我した男性に渡されて娘に渡してくれと言われたそうです…」
「そのお方は…」
「残念ながら去年亡くなりました」
「そうでしたか…そのお方から何か聞いていませんでしたか?」
「…ここで話すのもなんですから、私の家に来て下さい、対したおもてなしは出来ないですが」
陛下はただ一言分かりましたとだけ言いポンセの後を追い、それに続き俺らも行くこととなった。
◇◆◇◆
岬から離れた町に近い森の中にポンセの住むらしき一軒家が見えてきた、道から離れた場所にあるゆえ気がつかなかったのだろう。
家の中に招かれ、銀色の綺麗なマグカップにお茶を淹れてそれを出してポンセは知っている限りの事を語った。
「…私も聞いた限りの事ですが、沈没し海水が船内部に入り始めた頃、私の船長、兄や親友である船員が避難誘導していたのですが、如何せんパニック状態になっており、とても良い状況とは言えないものらしかったです、そんな中二人の夫婦が周りを宥めて場を沈めて兄達と共に避難誘導に買って出たそうです」
一息付き、自分で淹れたお茶をすすった。
「その夫婦の旦那さんは、とにかく的確に子供や老人を優先し、奥さんは残った乗客を必死に宥めて落ち着かせていたそうです……いやはやその時ばかりは船長を初めとする船員も感服していたそうですよ、圧倒的なカリスマ性があり、誰もが指示に従ったそうです…」
「なんと…」
「しかし、高波が兄達を襲いまして、旦那さんが船の帆に足を挟まれたそうで…奥さんと私の兄、船長はその時に既にいなくなってしまったようです………」
下を向き、何かを思うかのようになったが続けた。
「そして、兄の親友は旦那さんからこれを託されたそうです」
再びロケットを出して、陛下に丁寧に渡した。
「旦那さんは、『もう、私は助からないだろう…どうか私の代わりに娘に渡して下さい…』と、その後再び高波に襲われたそうですが、奇跡的に親友は救助隊により助けられたそうです……おそらくその時に旦那さんは……」
「そうですか……拝見してもよろしいでしょうか…」
ポンセはただ静かに頷いた。
「!、やはりそうでしたか…」
ロケットの中には綺麗な状態のままの写真が入っており、慈しむような顔で我が子を抱える母と、それを見守るように写っている父の写真が中に存在した。
「お祖母様…それでは」
「ええ、貴女の両親ですよ…」
陛下とクローゼの目に一筋の涙が光、ポンセの目にも涙が見えた。
「そうでしたか…兄の親友は生前勇敢な人達だったと言っていました、そのロケットを渡せなかったことだけが無念そうでしたが、なんとか形は違いましたが、渡せてよかったです」
託された人物は違えど渡せたことを喜ぶポンセ、そして実の子 両親の最後を知る事ができ、それを誇りに思う母、そしてこんなにも愛されていた事を知る事が出来た娘。
この場にもしかしたら空の女神が舞い降りたのかもしれんな。
ひっそりと岬を囲う花、ポンセが鎮魂の為に植えた物であり、それは唯の偶然であるがクローゼの両親が好きな花であった。
センニチコウ 花言葉
変わらない愛情
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