ではどうぞ!
レイが護衛に付いて四年の月日が流れていた
春が終わり、夏に向けて日差しが強くなりつつある日ひとつの決断を心に決めていた。
辞職して再び旅に出よう。
初めは一年程で辞職しようとしていたのだがなかなかどうして、居心地が良く辞める機会がなかったのだが、先日クローゼがジェニス王立学園に編入する事が決定し、いい機会という事もあり、俺は辞職する事を決め、再び旅に出ることを考えていた。
一番初めに立場上上司のヒルダ婦人に挨拶に行くことになった。
「女長官、お世話になりました…」
「前々から話は聞いていましたが、そうですか…貴方がいなくなると寂しくなりますね…」
「これお返しします」
しっかりと畳まれた今日まで着ていたスーツをヒルダに渡したのだが、それを受け取らず、笑顔で答えた。
「レイ、これは貴方が持っていて下さい、サイズが大きすぎて貴方にしか合ませんので、あっても仕方がありません」
「しかし…分かりました」
「ふふ、いつでも戻って来れますねこれなら」
「…はい」
互いに微笑み合い俺は部屋を後にした。
次に一番世話になったであろうサラに別れを告げに行ったのだが、半ベソをかかれてタジタジになってしまったのだが、なんとか分かってくれたようだ……
「今まで世話になった…サラ」
「うん…ありがとう……レイ」
挨拶を済ませて、レイは今日まで使っていた部屋の扉を閉めて、部屋を後にした。
部屋に1人取り残されたサラは
「…さよなら、私の初恋の人……」
サラの目から一筋の涙が零れ落ちた。
最後に陛下と今日まで護衛兼養育係を勤めていまクローゼに最後の挨拶をするべく二人の下へと向かって行った。
「陛下、クローゼ、今日までお世話になりました」
陛下とクローゼに向けられたお辞儀は今までとはまた違い特別な思いが込められていた。
「お疲れ様でしたレイさん、無理を言って今日まで孫のお世話をして頂いて、この数年間の時間は何事にも変えられない日々だったと思います、ありがとうございました、そして何よりもクローディア…そして私自身も大きく成長出来たと思います」
陛下は席を立ち、レイの目の前まで行き深く頭を下げた。
「…レイさん、今日までありがとうございました…」
強がっているのが良く分かるまでクローゼの表情が曇っていた。
「…ありがとうございました陛下、…クローゼ、それではそろそろ行かせて頂きます」
レイはもう一つお辞儀をし、来た道を戻り部屋を後にした。
………………
数分経過し、部屋に取り残されたクローゼは溢れそうな涙を拭い、何かを決めたような顔つきに変わり、レイの後を追っかけるようにして、部屋を飛び出た。
◇◆◇◆
一度今まで寝泊まりしていた部屋に戻り、荷造りの最終確認をしていた、…と言っても殆ど荷物も無く、メイドの女中の子や、サラから貰った選別を鞄に詰め込み一度ロレントの自宅へと帰る準備をしていた。
「…好きです……か」
選別に混じり、手紙などが入っているのだが……
嬉しいのだが、複雑だ。
微笑みながら準備を終え、部屋から出ようとした丁度その時、扉が開き誰が入って来たようだ。
粗く、何かを急ぐかのように開かれた扉の方を見てみると、クローゼが何かを決めたかのような顔つきで少し息を切らし、扉の前に佇んでいた。
「クローゼか、どうした?」
「…レイさん、何故辞めてしまうのですか?」
辞めてしまうかか…
「…最初はクローゼ、お前さんの為に働きだしたのだが、…もう俺は必要ではない、精神的にも肉体的にも強くなった、そう思い俺は去る事を決めた」
その言葉を聞き、ますますクローゼの表情は一段と曇り始めた。
「…私はまだ強くありません」
「……」
二人の間に沈黙が生まれていた。
「…では、何故クローゼよ、ジェニス王立学園に編入する事を決めたのだ?」
あの、城内の中から中々外出すらしたことが無いクローゼが全寮制の学校に通うと聞いた時は、本当に嬉しく思った。
それこそあれだけの箱入り娘が成長した、いい証になるだろう。
少し返答に困り考えていたものの、答えは立派な物であった。
「…最初はお祖母様から言われた一言から始まりました、レイさんは知っていると思いますが、…王位を継いで欲しいと、そのために一国民として、様々な事を…勉学だけでなく人々 多くの友人とそれこそ城内では学べない事を…違う視点から」
…そこまで話が回っていたのか。
「…正直私は王位を継ぐなど…まだよくわかりません」
冷静に考えれば当たり前の事である、クローゼはまだ15歳 幾らかしっかりしていようが…しかし、レイから見ればまだ子供…葛藤の一つや二つは幾らでもあるだろう。
「ですが、私は自分の足で自分の道を歩いてみたい!、もっと広い視野を持ちたい!、そう思いました、まだお祖母様に答えは出せませんが、何時迄もお祖母様、ユリアさん、そしてレイさんに頼り切りでは行けないと、自分の人生を切り開けないと思い、ジェニスに行くことを決めました。」
雛鳥めが少しは大きくなったようだな…か、フッ少しは師父の気持ちが分かった気がする。
形は違えど、少しは己の師父であるロフウの気持ちを理解出来、クローゼの成長を心より嬉しく思う事が出来た事が……何よりも今までの事が報われただろう。
レイの胸の中は感無量、この言葉以外当てはまらない位まで満たされていた。
「そうか、ならば俺はもう…「いえ」?」
少し食い気味にクローゼが割り込んできた。
「私はまだ、貴方が必要です!…ですから、せめて無事学園を卒業して、レイさんも旅を終えた時、…私の答えを出すためにも共に居て下さい…」
…答えを出す為にか、そこまで俺は…俺は大それた人間では無いというのだが…
「…考えておく…しかし、俺も見てみたくなった、行く末を…お前の未来を…」
この時は予想もつかなかっただろう、こんなにも早く再開し、そして答えが導き出されるとは…そして。
こうして、波乱に満ちた護衛生活は幕を下ろした、しかしこれからの生活が始まる序章に過ぎないと思ってはいないレイであった。
あと一話でやっと本編に突入出来そうです!
…予定よりも長くなったな…