それではどうぞ!
南斗の軌跡 23話 時は流れ…ついに伝説は幕を開けた!!
リベール王国 地方都市ロレント
百日戦没から十年、町のシンボルである時計台も数年前に復興作業で新しく建て替えられた、
こののどかな田舎町の中元気な声が響いている。
「こら!待ちなさいアリル!」
一人の元気な娘が一匹の子猫を追っていた。
栗色の髪をツインテールにし、自分の身長よりも長い棒を背負いながらも、その身のこなし方は見事なものであった。
「エステル」
その後ろからついてきている黒髪で琥珀色の目を持つ弟ヨシュアは少々振り回されながらもエステルの後をしっかりと着いていった。
「ふう〜やっと捕まえた!」
子猫は行き止まりに突き当たってしまい、観念したのかエステルに抵抗せずに、抱きかかえられた。
「見てヨシュア!捕まえたよ」
「うん お疲れ様、それじゃ依頼主の下に行こうか」
優しく子猫を抱きかかえ、エステルは依頼主の女性に渡すと、女性は喜びながら感謝をしていた。
「ふう、それじゃあエステル、ギルドに戻ろうか」
『遊撃士《ブレイサー》』リベールの平和と民間人の安全を守る為に働く戦闘の専門家だが、実際には戦闘だけでなく、こう言った民間人からの依頼も少なくは無い、一見花がありそうだが、実際には地味な仕事も多いいが、二人はなんとも言えない充実感に満たされていた。
この一年で二人の成長は著しく伸びただろう、シェラザードとレイによるマンツーマンで訓練は二人文字通り体だけでなく、心も随分と養われ、準遊撃士の試験も楽々と突破できた。
そのことを鍛えてもらったシェラとレイに褒められ、エステルなど涙腺が崩壊し、一気に解放されて心の底から感謝したそうだ。
ギルドの扉を開けてアイナに報告しようとすると困った様子で、二人が報告する前に口を開いた。
「二人とも、落ち着いて聞いてちょうだい、…ルックとパットがね、今朝から行方不明らしいの」
!!
ルックとパットはロレントに住む子供で、ヨシュアには懐いているが、よくエステルにつっかかったりしているやんちゃ盛りな悪ガキである
「今ご家族から遊撃士協会に連絡があったの、二人とも昼にも家に帰ってきてないんですって…」
一筋の冷たい汗がエステルの頬を走った。
「それで、協会も情報を集めたのだけど…二人とも北の郊外の『翡翠の塔』に行ったらしいのよ」
「なっ!!」
ロレントの郊外にある翡翠の塔、そこは魔獣の住処になっており、大人でも寄らないような危険な場所に…
「でも今カシウスさんも他の遊撃士も出払ってて、せめてレイがいれば「何を言ってんのよアイナさん!」?」
エステルは胸を張り、拳を前に突き出した
「ここにいるじゃない! あたしたちが二人を連れ戻してくるわ!!」
「エステル!でも」
アイナが止めようとしたがヨシュアが前に出て
「アイナさん!皆の帰りを待っている時間はないと思います」
ヨシュアの一言で落ち着きを取り戻し、アイナは真剣な表情に移り変わった。
「準遊撃士エステル ヨシュア 直ちに子供達の保護に向かいます!」
アイナは表情を曇らせながらも、時間はない事を悟り、覚悟を決めたようであった。
「…分かりました、二人とも気をつけてね」
二人は頷き、北の翡翠の塔に向かい走り出した。
………………
翡翠の塔、シェラ姉やレイ兄にはまだ近寄ることも許されない場所ではあるものの緊急事態だ、正直不安が無いかと言われると嘘になる。
…だけど、私達は遊撃士だ!
しばらく走ると、翡翠色の高い塔が見えてきた
「ヨシュア!此処が」
「うんそうだね、気を引き締めて行こう」
双方頷き塔の扉を開けて中に入って行った。
……………………
塔に入ると今にも消えそうな声が聞こえてきた。
「暗いよ…怖いよ」 「そんなに怖がるなよ〜!…まだ最初の階じゃないか」
二人の無事にとりあえず安堵し、エステルは声を張り上げた。
「ルック!パット!居るなら返事しなさい!!」
塔全体に響き渡るように声を張り上げたが、反応は無かった。
「あ、あんにゃろうども〜!あたしを無視するつもり!?」
「行こうエステル、とにかく奥に進もう」
二人で階段を登り二階に進むと叫び声が聞こえてきた。
「うわわわわっ!?」
「助けてぇぇっっ!」
階段を登ったすぐそばに二人の姿を確認することが出来たのだが、二人を今にも魔獣が襲おうとしている最中であった。
「!!いけない!?」
エステルは有無言わず一目散に魔獣へと突貫し突き進んで行った。
「エステル!?…仕方が無い、ったく、鉄砲娘め…」
こうなっては作戦もくそもないが今は一刻を争う、仕方が無くヨシュアもエステルの後ろに続いた。
「うりゃあああっ!!」
エステルが敵陣に突っ込んだおかげで、注目は二人の方に向かい、二人目掛けて魔獣が襲い始めた。
魔獣は飛び猫と言われており、ロレントによくいる魔獣で準遊撃士の二人には敵にはならなかった。
それを二人は難なくさばいて行き殲滅し終えた。
「楽勝、楽勝!」
楽観的に喜んでいるエステルとは対照的に、ヨシュアは深いため息をついていた。
「楽勝、じゃないだろ?ロクに状況確認をしないできないでいきなり突入するなんて…」
「まーまーうまくいたからいいじゃん」
再びヨシュアはため息をついた。
「お、終わったの?」
「すっげえええっ!?エステルって強いんだな!オンナのくせにやるじゃんか!」
魔獣がいなくなり二人の子供は無事に安堵し2人に近づき、はしゃいでいた。
「このおばか!」
はしゃいでいる二人にエステルの一喝が入ったゲンコツがルックと言われると少年の脳天に突き刺さった。
「いってぇ、何すんだよー!」
「全くあんたはもう、乗り気じゃないパットまでこんな所に連れてきたりして」
その言葉により、ルックはバツが悪そうに下を向き、逃げようとしたが、すぐにエステルに捕まりエステルに羽交い締めにされ、ジタバタしていたのだが。
「エステル後ろ!」
「へっ?」
間抜けな声を上げ、後ろを向くと新たな魔獣が目の前まで接近していた。
「やば…」
「…っちぃ!」
ヨシュアが再び武器を出し、魔獣の前まで接近しようとすると、
「ひゃう!!」
一瞬にして、疾風の如く階段を登り目にも止まらぬ速さで魔獣は切り刻まれた。
エステルは状況を掴めずに、ただ呆然としていた。
「へっ?」
「よかった、来てくれたんですね…レイ兄さん」
その場にいた四人が目を見開き魔獣がいた場所を見てみると、黒の長い髪を持つ、エステルとヨシュアの兄が立っていた。
「ふう、…まだまだ甘いなエステル、見えざる脅威に備えるため常に感覚は済ませておく、それが遊撃士の心得じゃなかったのか?」
「レ、レイ兄!?どうしてここに?」
「なに、アイナからな話を聞いて遊撃士ではないが、親父や他の遊撃士の代わりに見てきてくれと頼まれてな……まあ及第点だな、フッ、詰めは甘いが」
「うう、面目ないです…」
「助かりましたレイ兄さん、すいません僕が付いていながら」
「なに、まだまだお前らは伸びる…精進すればそれでいい………と、親父なら言うだろう、俺から見ればまだまだだけどな」
「はい!」
ヨシュアはレイの言葉を受け取り、元気よく返事を返した。
「それじゃ帰るぞ、…坊主ども、歩けるよな」
先程までエステル達に付きっ切りだった二人は一目散にレイの元にも走り「かっこいい」や「エステルよりも強い」だとか懐いていた。
「…二人とも、最初に助けに来た二人に礼を言うのが先ではないのか?」
二人は声をそろえ「うっ……」と言いながらもちゃんとお礼を言っていた、やんちゃではあるが素直なんだろ。
帰り道、エステルは若干納得がいかないようであった。
「うー、助けてくれたのはありがたいけど、……何で美味しい所は持って行っちゃうのよ〜、レイ兄
納得いかない!」
「はは、それは仕方が無いよ、あのレイ兄さんだからね、……それともまたあの頃のように兄さんに稽古をつけてもらう?納得いかないなら兄さんに対抗できる位まで……」
ヨシュアも自分で言ってて、顔色が少し悪くなってきたようであった。
「……うん、やめようヨシュア、………あの頃には全体に戻りたくないから、…今日は納得する」
二人揃って少し震え始めた、…………余程戻りたくないのだろう
街に着くと、報告を済ませて二人は家に向かう帰路を歩いている所だった。
「ねえヨシュア、あたし…遊撃士に向いてるかなぁ?」
「…………まあ父さん、レイ兄さん譲りの武術の腕前もそれなりのレベルになったと思うけど、困っている人を放っておけないお節介な性格にも合ってるし、…もしかして塔での出来事を気にしてる?」
「うん、納得はいかなかったけどレイ兄がいなかったらもしかしたら…こんな調子でやっていけるのかなって…」
エステルの表情は徐々に曇り始めてしまった。
「…………何、らしくない事を言ってるのかな」
「へっ?」
「今日の失敗は明日取り返せばいいじゃないか、先の事を考えて尻込みするなんて君らしくない、ずっと憧れていた仕事だろ?この程度でへこたれてどうするのさ」
「ヨシュア…」
エステルは笑顔になり、決めたようにヨシュアの目を見て立ち直った。
「そうだね、こんなのあたしらしくないよね!」
「そうだよ、それにレイ兄さんもこれから精進すればいいって、エステルは何も考えずに笑っていた方が自然だよ」
「って、どういう意味よ!
全く一言多いんだから……まあいいや、早く帰ろう!レイ兄や母さんや父さんがいるだろうから!」
「そうだね」
「フッ…」
このことを二人は教訓にできただろう、レイは遠目から見ていたが二人を見守っていた。
「……もしかしたらと思っていたが、どうやらいい方向に成長しそうだ」
二人を追うようにしてレイも家へと帰路についていた。