突然の出来事であった…エステルから発せられたたった一言により、言葉を失い辺りは静寂に包まれた。
意味が解らず聞くと、どうやらボース上空で親父が乗っていた飛行船が消息が不明になってしまった……これは何の冗談だ。
ただ母親が料理していた鍋の《グツグツ》と言う音のみあるだけで、誰一人として、言葉がでてこなかった。
誰も信用しない………いや出来ないと言った方が正解か。
そんな悪い冗談みたいな事を信用できる筈がなく、本来ならばあり得ないが…エステルは冗談半分でもこんなにも巫山戯た事は言わない、…何よりも三人の顔つきが証明されていた。
それはレイも例外ではなかった。
◇◆◇◆
「…ヨシュア、シェラ、………飯の準備が出来た……」
あの後、母さんは寝込んでしまいエステルも部屋に篭ってしまった、仕方がなく残りの味付け盛り付けなどを俺がやり、食事の準備が完了した
…誰一人として手を付けようとはしないが。
「…有難う御座います兄さん、…エステルと母さんは?」
「エステルは分からんが母さんは大分落ち着いたようだ…」
「そう…流石にあの元気娘も今回ばかりは堪えたみたいね」
「…無理、ないですよ。
何だかんだ言って仲のいい父娘ですから」
「そうね…」
人数が三人も少ない食卓は心細く、通夜の様に静かであった。
「…兄さん、シェラさんはどう思いますか?今回の件、事故なのか事件なのか…」
「…正直、なんとも言えない。
先生は一流の遊撃士よ、こと危機管理に関しては桁外れの能力を持っている。事故だろうが事件だろうがその場に先生がいるんだったらすぐに解決されているはずだわ。
だけど実際、定期船は先生ごと行方不明になった……」
「まさにあり得ない事が起こったか……シェラ、二人と母さんを頼む俺は少し…「ああ〜お腹すいた〜」
んっ?」
何かと思い階段の方を向くと、背伸びをしながらテーブルに向かってくる元気なエステルがいた。
「はっ…?」
「エステル…あなた大丈夫なの?」
三人は先ほどまでの半べそだったエステルとは違い、普段の姿であるエステルに対して困惑していた。
「もーダメダメお腹すいて倒れる寸前だよ。うわ、美味しそう!これレイ兄が作ったの?」
「あっ…あぁ母さんが途中まで作っていたからな…仕上げをしただけだが…」
「いっただきまーす!」
エステルは目の前にあるスープグラタンを一口食べて頬を緩ませていた。
「美味しい!レイ兄、いい仕事してるね!」
「あぁ、それよりエステル…何をしていた?部屋に篭っていたが…」
「んー?ああ、替えのパジャマを探していたの。奥にしまったお気に入りがなかなか見つからなくてさ〜。
」
「…何故だ?」
「それと旅行用具一式、どれだけかかるか分からないし備えあれば憂いなしってやつよ」
「エステル、まさか先生の消息を確かめにボースへ行くつもり?」
「モチのロンよ、あの悪運の強い父さんに何かあったとは思えないけど…」
…なんというか、いい意味で期待を裏切られたな。
レイはその場で微笑みながら妹の心の強さを改めて実感する事が出来た。
夕食を食べ終え、エステルとヨシュアは先に寝床に着いたようで、俺も準備を始めた。
(…親父が言っていた机の二段目……一体どういう事だ…)
先日親父から何かあったら開けと言われ、言葉道理に開いてみると…一枚の名刺と住所が書かれた紙が入っていた。
…行かなければわからんか
定期飛行船は運行を見合わせており、俺は住所道理王都へと歩きで向かうことを決めた。
月が傾き真上に来た頃、準備を終えて家を出る前にシェラに母さんの事を頼みに行こうとすると、二階から階段を降りようとする二つの足跡が聞こえてきた。
「レイ…何処に行くの?」
母さんが心なしか弱く尋ねてきた。
「…少しな」
「…それはカシウスさんの事ですか?」
「…そうだ」
母さんは何かを決めたようにして、レイの目の前まで近づき、手を取った。
「レイ…お願いします。だけど貴方も……気をつけて」
「あぁ、…シェラ母さん達を頼む」
シェラザードはただ静かに頷いた。
……………………
王都まで走って5日位か……仕方ない。
定期飛行船が運行を見合わせている中、いつ再び元のダイアルに戻るか分からない今、王都まで自分の足で行くしかないが、行かなければならない。
「…後は頼むぞエステル ヨシュア」
一度家を向き、すぐさま王都へ向けて走り出した。
◇◆◇◆
翌日、エステルとヨシュア シェラザードはロレントの遊撃士協会に赴き、シェラが手続をしている間に、二人は時計台に来ていた。
最上階に二人は登り心地よい風を受けていた。
「エステル、そういえばどうしてここに?ここは普段近寄ろうとしないのに」
エステルは景色を見渡していたのを辞め、ヨシュアの方へと振り向いた。
「うん別に近寄りたがらないって訳ではないんだけど………ここは特別な場所でいつか最後に此処に来たくて、とっておこうと思ってね。
…ここは私にとってのスタート地点だから」
「? どういうことだい?」
再びエステルは振り向きロレントの町並みを見渡した。
「十年前、百日戦没の時。もしかしたら私とお母さんは此処で死んでいたかもしれないの…」
「!?」
「あの日、私とお母さんは避難していて、その時にね…この時計台が崩壊した時に瓦礫に巻き込まれそうになって……」
エステルはあの日の事が今でも目に焼き付いていた。
「その時に初めて会ったレイ兄に助けて貰ったの。全く関係の無い赤の他人の私たちを…」
「…………………」
「その後も、避難してる最中に帝国兵に囲まれた時も、…お母さんが目を隠して私に見せないようにしていたけれど…少しだけ見てた。
自分だけでも逃げればいいものを私たちを守りながら帝国兵を薙ぎ倒していく姿を………なんて言ったらいいかな、…天下無双?疾風迅雷?…そんなものじゃなかった…」
「…そんな事が」
「…やっていた事は褒められた物では無いと言う事は分かっている、理由はどうであろうとも殺生だから…でも私もそうなりたいと思ったの。
あの日私達親子を救ってくれたレイ兄のように………だからここは何かを決めた時に最後に来ようと決めていたの」
「…そうだったのか」
ヨシュアはその場を経験していなかったが、エステルの意思 覚悟を改めて認識した。
「ヨシュア…またここに帰って来よう、また五人で食卓を囲もう!」
「あぁ、そうだね」
まだまだ頼りないが、エステルとヨシュアの金の翼と銀の意思は少しだけ輝き始めた瞬間であった。
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