「さて…"5日"も掛かってしまったか、…まぁ過去を振り返っても仕方あるまい…」
王都グランセルへと続く道であるキルシェ通りをレイは駆け足で颯爽と掛けて抜けていた。
定期船が運行を見合わせており、いつ再開するのかが分からなかった数日前、現状歩いて行くしか無いのだが…時間が掛かり過ぎてしまったな。
リベールは山々に囲まれ、移動手段としては定期船がベストであり、動力車など大地を駆け回る乗り物は適さず、故に徒歩が現状ベターであるが、…いかんせん時間が掛かり過ぎた、聞いた話だが今日には定期船のダイアルが戻り、ボース上空以外の経路が再び元に戻るそうだ、…つまり現状ロレントから王都行きの定期船は再開しているという事、悪い言い方をすればただ疲れを溜めていただけであった。
「まぁ、チケット代が浮いたと考えればいいか……大した額では無いが」
早とちりとは言え自分の感が頼りにならない事に少し呆れながらも楽観的に考え、足を早めた。
レイからしてみれば時間が掛かり過ぎとは言っているが、ロレントから王都まで5日と言う常識外れな事をエステルやヨシュアは知ったらどうなる事になるのだろうか?……
◇◆◇◆
「さて…この辺りなんだが…ここか」
王都の西地区、新聞社が近くにある一軒の雑貨屋、名刺の通りの住所で間違えが無ければここなんだが…どう言う事だ?
店内を見渡しての第一印象は……唯の雑貨屋だな、店自体は新しく立ったばかりだろうか外見は綺麗だが、中は少々汚く掃除をほっぽらかしているようだ。
「ん、らっしゃい…あんたここら辺じゃ見ねえ顔だな。何を探してるんだ?ウチには無いものが多いいが取り寄せることも可能だぜ」
奥から出て来たのは、無精髭が目立ちヨレヨレのシャツを着たフランクな男であった。
「親父の…カシウス・ブライトの紹介で来たものだが…」
一言言うと男の目つきが変わった。
「…へぇ、あんたが…まあいい、中に入りな」
男は店を閉め、レイを店の奥へと案内した。
◇◆◇◆
中は更に汚く、そこら中にゴミや食べかけのカップ麺の容器が散乱していた。
「っと、汚くて悪いな…ほれ」
そう言いながら所々欠けているマグカップにコーヒを淹れてレイの前に置いた。
「…頂こう」
酸味、苦味などバラバラなお世辞にも美味いとも言えない…いや美味いか不味いかも分からないようなコーヒであった。
「あんたも思うだろう?インスタントってのは偉大だ、何せ湯を注ぐだけで出来るもんなんて誰が想像出来た?コーヒ叱りラーメン叱り紅茶だって…っと城で勤めていたあんたには邪道か…」
「気にするな…飲めればそれでいい…それであんたは何者なんだ?親父が頼りにしろと言っていたが…」
「あっ?…旦那から何も聞かされて無かったのかよ…」
頭を乱雑に掻き男もコーヒを一口飲み喋り始めた。
「俺は昔カシウスの旦那に軍にいた時に世話になったローズって者なんだが…まあ、今はしがらない雑貨屋の店長兼、情報屋さんだ…」
「情報屋?」
「おうよ、一見さん御断りのな、旦那はここの常連だ」
情報屋か…故に親父はここを紹介したのか。
確かに困った時に一番最初に役立つのは情報だ、俺にはそんな伝は無いからな。
しなしなになったタバコにローズと呼ばれる男は火をつけふかし、話し続けた。
「あんたの事も聞いているよ旦那から、息子のレイ・ブライトだろ?この前まで城で勤めてて、っの前は旅をしていただとか…んでもって何でも旦那よりも強いなしいな……化けもんかよ」
「…ほっとけ」
はははと笑いながら手を叩き少しすると真剣な眼差しでレイに話しかけてきた。
「んでだ、あんたの知りたい事はこれだろ?今旦那は行方不明って事になっているが…旦那は無事だ、ここに一度来るはずだったが、予定を変更し独自のルートで帝国に入ったそうだ、定期船が行方不明になった後に連絡を受けたから間違いない」
「…そうか、しかし一体何故だ?」
「ほう、あんま驚かねえようだな…」
ひとまず安心する事が出来た、元より親父なら問題無いと思っていたが…しかし何故帝国に?
「…今、メディアに規制が掛かり渡っていない情報だが………帝国の遊撃士協会はほぼ壊滅状態らしい」
「!?」
帝国の遊撃士協会が壊滅状態だと!?
「…悪いがよくまだ情報が入ってこないが。とある結社が一枚噛んでいるらしい…」
「…結社だと?」
「ああ、…あんたも名前位聞いたことがあるだろ…身食らう蛇《ウロボロス》だ!」
「!!」
身食らう蛇《ウロボロス》ほぼ都市伝説のような存在であるが、名前なら精通している者なら誰しも一度は聞いたことがあるビッグネームだ。
「故に旦那は誰にも悟られる事なく帝国に入国し、事件解決に手を焼いているそうだ、まぁまさかあんなイレギュラーに遭遇するとは微塵も考えていなかったらしいがな」
ローズはニヒルに笑い、コーヒを口にした。
「とまぁ、そんな事より、旦那からあんたに伝えなきゃいけない事があるんだが…軍には気をつけろ、何でも結社と関わりがある…んでもって何か企んでるらしいから代わりに頼むって伝言を預かってる、微力ながら俺も情報が入り次第遊撃士協会でいいか?連絡する」
「…分かった、済まないが頼む」
そう言いながら残っていた冷めたコーヒを一気に口の中に放り込んだ。
◇◆◇◆
「済まないな、見送りまで」
店を出るとローズは迎えるため共に店の外まで見送りに来てくれた。
「なに、これからあんたも常連になりそうだからな…今回は旦那からせしめるが次からは貰うぞ、…安心しろこんな所だ」
そう言いながらローズは10本全ての指を開いた。
「…10万か、いいだろう」
「頼むぜ、そうしなきゃ俺は飯にありつけねんだよ、ったく百貨店のせいで客はこっちに来ねえからな…副業も中々信頼出来る奴もいねえしな」
……それよりも、掃除をしたらどうなんだ?少しでも綺麗にすれば…と言いたかったが、藪蛇になりそうで口には出さなかった。
「そう言えばあんたは軍に居たと言っていたが…どうしてこんな所で雑貨屋など…軍に居れば安定した生活が出来たと思うが…」
「ああ?」
面倒くさそうにローズは頭を掻いた
「こんな所で悪かったな…《好奇心は猫を殺す》って奴だ、知り過ぎたんだよ色んな事をな、ただのペーペーがな」
「…そういう事か」
「まっ、今の生活に不自由なんざねぇよ、趣味でやってるようなもんだからな副業なんて、かっこいいだろ?表は雑貨屋のオヤジで裏は情報屋なんてよ!」
「そうか…」
後にしようと店に背を向けると、ローズが「っと、待ちな」呼び止めレイが足を止めた。
「…何でもあんたの妹と弟がボースで事件を解決し、ルーアンに向かっているらしい…何にも無けりゃルーアンに向かってみるのもいいかもな」
「…そうか、済まないな」
「別に、構わねえよ。……気をつけろ、余りにもきな臭さ過ぎる」
「…忠告痛み入る」
レイはその場を後にした。
◇◆◇◆
レイを見送りに店へとローズは戻ろうとしようとしたが、その場から一切動かなかった。
「…居るんだろう、…リシャール」
誰も居ない筈の建物の物陰に話しかけると、軍服を着た金髪の男…リシャールが出てきた。
「…気が付いて居たのですね」
「ああ、…あと彼奴も気が付いて居たと思うぜ」
「そうですか……それと何故私が居るか分かりますか?」
「…ああ、遅い位だと思ったぜ」
「そうですか…すいません、ボースで一悶着ありまして遅くなってしまいました。…では申し訳ありませんが貴方を拘束させて頂きます、貴方は少し厄介でしてね…"アレックス・ローズ元中佐"安心して下さい、少しの間ですから、それと衣食住には困りませんよ」
「へいへい、そりゃ感動的だ俺的には不満しか残らねえが…」
満足そうにリシャールは頷き懐から手錠を出した。
「…あの鼻垂れが今やペーペーだった俺よりも上だとはな…分からねえもんだな」
「ご謙遜を、貴方がペーペーでしたら軍の九割はペーペー以下ですよ」
「はん、…店の掃除くらいしておけよ、税金の無駄遣いしてる位なら少し位還元してもバチは当たらねえだろ?」
「…分かりました、ハウスキーパーを雇って置きますよ」
抵抗せず、ローズは甘んじてリシャールに手錠を掛けられた。
「(…済まねえなレイ。どうやら無理そうだ)」
心残りを残して。
「では行きましょうか、ローズ中佐」
「…"元"だ、今はしがらない雑貨屋のオヤジで十分だ」
「ふふ、そうですか」
ローズの後ろを歩き満足そうに歩いているリシャールに向かってローズは一言添えた。
「ただ気をつけた方がいいぞ、"リベールの水鳥"…彼奴は太い奴だ、少し話したが彼奴は凄え奴だな」
「…ご忠告どうも」
リシャールは満足そうな顔から一転、影が差し込み真剣な表情に変わった。
オリキャラのアレックス・ローズやポンセは気が付いた人が居るかも知れませんが、歴代のベイスターズの助っ人外人の名前を文字って作成させて頂いています、
…大丈夫かな………