ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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作者近況

タマ。

俺がタマ貯金を崩したのは、マンハッタンカフェが欲しかったからだ。

俺がタマ貯金を使い果たしたのは、キタサンブラックのサポカを強化したかったからだ。

すまない……


お出かけ作戦

 トレセン学園にある職員室は、一般的な中高一貫校のものよりも遥かに広い空間である。

 理由は簡単でトレセン学園には、普通の教師とトレーナーと二種類の教員が存在するからだ。基本的には教師は教師、トレーナーはトレーナーでハッキリと仕事を分けているが、中には教職とトレーナー両方の資格を持ち、両方の仕事をこなしている猛者も存在する。ちなみに俺はトレーナー専業だ。ウマ娘はトレーニングが一日の大半を占めるため、トレーナーも基本的に彼女たちに付きっきりになる。また専属トレーナーが就いていないウマ娘たちに、簡単な指導を行う授業も行っているため、トレーナー業だけでもいっぱいいっぱいなのだ。

 そんなトレーナーと教師であるが、職員室では分かりやすく席が左右に分かれている。入り口から入って右の方に教師たちが、左の方にトレーナー達が集まっていた。俺の席は左の奥の方にあった。

 

「最近、お前のチーム調子いいじゃないか」

 

「お陰様でな。いずれはお前のベガに追い付いてみせるさ」

 

「そう簡単にはいかないさ。こっちにはカフェやスカイがいるからな」

 

 この職員室には学園に所属するウマ娘のデータが全て記録されており、戦績や脚質などがすぐに分かるようになっている。ここでトレーナー達はお互いにウマ娘の情報を交換したり、時にはレースの予定を見て強豪がいる場合は回避させたり、あるいはわざとぶつけたりしたり……まぁ、早い話がトレーナー同士の交流の場でもあるのだ。

 俺は今日、隣の席にいる三鷹と話していた。席順は同じ年代が集まるようになっているのか、俺の右隣は三鷹が。左隣には同じく同期で桐生院門下生である鮫島が座っていた。

 

「しかしお前のアンタレスも復活。鮫島のタキオンも調子良し。ようやく俺たち桐生院門下生も、様になってきたじゃないの」

 

 三鷹の言う通り俺たち三人は桐生院先輩の一番弟子であり、唯一の教え子でもある。これは桐生院先輩が後進の指導よりも、ウマ娘の指導を優先したためである。

 また俺達三人が色々と悪目立ちしてたのも原因の一つだとも思う。

 何せ新人のくせにリギルから期待のウマ娘を引き抜いた俺に、外見はかなりチャラい三鷹。自分が見つけたダイヤの原石しか指導しないと豪語する変人・鮫島と色んな意味で個性的で、一時期は桐生院三バカ兄弟と揶揄されていた。先輩には申し訳なかったが、それももう終わりだろう。

 

「暫くは大きいレースは無いし、チームレースが中心かな」

 

「ああ、それなんだか……」

 

 三鷹はそこで少し声を潜めて言った。

 

「最近、先生の調子が悪いんだ」

 

「・・・・・・それはチームが? それとも先輩自身が?」

 

「・・・・・・両方」

 

「師匠が調子悪いときは決まってアレだ」

 

 鮫島がさらに声を潜めて話に入ってきた。

 ちなみに桐生院先輩のことを三鷹は先生、鮫島は師匠と呼んでいる。

 

「アレって・・・・・・もしかして」

 

「スピカだ」

 

 苦々しげに三鷹が言うと鮫島が大きく頷いた。

 スピカ、その単語で俺も原因を察して大きく溜息をつく。

 桐生院先輩とスピカのトレーナーとは色々と話があるのだ。

 

「うちの先生もいい加減に諦めりゃいいのにねぇ」

 

「無理な話だろう。師匠にとってスピカのトレーナーは白バに乗った王子様だ。オレがタキオンやキングに運命を感じたように、師匠にとってはあの人が運命の人だったんだ」

 

 鮫島は俺や三鷹と比べ意識が高く、それでいてロマンチストだった。

 俺みたいに授業で不確定多数のウマ娘に指導したり、三鷹のように色んなウマ娘を育てたりしない。本当に自分のメガネにかかったウマ娘しか、関わろうとしないのだ。

 まあ、それで彼の目に止まったのがあの問題児・アグネスタキオンなのだが……。

 あと最近になってグラスの同期でウララと同室のキングヘイローという娘も気に入ったらしく、専属トレーナーを買って出ていた。

 鮫島はこの二人のウマ娘を献身的にサポートしており、日頃から忙しそうだった。

 

「この前もデートに誘おうとしてスピカのウマ娘に阻止されたらしい」

 

「あそこはサイレンススズカやトウカイテイオーがいるからな・・・・・・先生じゃ荷が重いだろう」

 

 三鷹の言うとおり、スピカの先輩はとにかくモテる。

 担当するウマ娘は勿論、桐生院先輩やたづなさんもスピカの先輩に好意を抱いていると噂があった。

 桐生院先輩もあの手この手でスピカの先輩にアピールしているのだが、その度にスピカのウマ娘たちに妨害されているらしい。

 そしてナーバスになった桐生院先輩は、ウマ娘への指導も迷走しチームの調子も悪くなる。

 定期的に起こる問題であった。風物詩とも言う。

 

「ここは門下生として、俺たちが一肌脱いでやらなきゃ駄目だろう」

 

「三鷹、職員室でタバコは止めろ」

 

 ごく自然にタバコを咥えようとした三鷹を鮫島が止めた。そもそも職員室内は禁煙だ。

 

「俺たち三人でどこかへ連れ出して、気分転換をさせてあげるのはどう?」

 

「まあ、それがいいだろうな。先生もトレセン学園に缶詰じゃ気が滅入る。元々、良家のお嬢様で遊びを知らねぇしな」

 

「ふん。お前が軽薄すぎるのだ。三鷹」

 

 呆れたように鮫島は言うと腕時計で時刻を確認する。

 

「そろそろタキオンの実験が始まる時間だ。オレはもう行く。後から予定だけ教えてくれ」

 

 それだけ言うと、鮫島は足早に職員室から出て行った。

 アグネスタキオンからモルモットくんと呼ばれている奴だが、こうも献身的だと色々心配になる。

 

「お前はどうする?」

 

 三鷹が俺の顔を見て聞いていた。

 

「俺も三鷹に任せるよ。桐生院先輩以上に俺は都会に疎いからな」

 

 そう言って俺もアンタレスの部室に向かうために席を立つ。

 もう放課後のチャイムが鳴り、グラウンドにはウマ娘の影がちらほら見え始めていた。

 

「頼むよ」

 

「おう、任せときな。お前は早くタマちゃん達のトコに行ってやれ」

 

 ヒラヒラと手を振る三鷹を背に、俺は職員室を後にするのだった。

 

「しかし、そうなると外出は久しぶりだな」

 

 ふとそんな独り言が出た。

 よくオグリの食料を買いに業務用スーパーに行ったり、レースで外に出たりはするが、それ以外では俺は全く外出しなかった。

 

「あら、トレーナーさん。お疲れ様です~」

 

 すると廊下の角で丁度グラスと顔を合わせた。 

 

「おう、グラスお疲れ様。これから部室へ?」

 

「はい。トレーナーさんもですか? でしたらご一緒に参りませんか?」

 

「ああ、そうだな。行こうか」

 

 俺がそう言うとグラスは嬉しそうに微笑んで、半歩後を付いてきた。本当にお淑やかな娘である。アメリカからの帰国少女であるのに、アンタレスの中で誰よりも礼儀正しく、日本文化に精通しているし……と考えた時であった。

 

「そういえばグラスは茶道で使う道具を買うために、よく学外に出るんだよな?」

 

「ええ……そうですね。何か問題がありましたでしょうか?」

 

「いや、大丈夫だよ。ちょっと今度、街に出ようと思ってね。グラスなら何処に行きたいかなって……」

 

「えっ……」

 

 するとグラスはピタリと歩くのを止めた。

 どうしたのだろうと俺も歩みを止めてグラスを見ると、彼女は頬を紅く染めてモジモジと体を震わせ始めたのである。

 

「そ、それは……わ、私とトレーナーさんとで二人……二人で行くという事でしょうか?」

 

「いや、色々あって桐生院門下生で街に出ることになってな。桐生院先輩が最近調子悪いから気分転換にって……どうした、グラス?」

 

 俺が説明すると先程のまでのソワソワした雰囲気は何処へやら、グラスは耳をしょんぼりと垂らして明らかに落ち込んでしまったようだった。

 

「だ、大丈夫かグラス?」

 

「……はい、大丈夫です。私が先走っただけですので……」

 

 そう言って暫く落ち込んでいたグラスだったが、少し思案したのち何かを思いついた顔になった。

 

「桐生院トレーナーも女性ですので、やはり甘いものがよろしいかと思いますが……」

 

「確かに先輩は結構甘いモノがすきだったな」

 

「やはり……では、最近出来た美味しい甘味処があるんですよ~」

 

「甘味処……」

 

 随分と時代的な言い回しだな。

 

「和菓子と抹茶が楽しめる純和風のお店で、大変人気があるんですよ」

 

「それは……確かにいいかもな」

 

「トレーナーさん、桐生院トレーナーとはいつお出かけになるのですか?」

 

「うーん。多分週末だと思うけど」

 

「……でしたら視察もかねて明日にでも二人で参りませんか? 次のレースまでには時間もありますし」

 

「確かに明日は予定もないし、気分転換にもいいかもな」

 

「そ、そうですか。では二人で……」

 

「それは楽しそうですね! 折角なので皆で行きましょう!」

 

 突然、そんな言葉と共にスカーレットが俺とグラスの間に割って入ってきた。

 

「す、スカーレット。お疲れ様」

 

「ふふ、トレーナーもグラス先輩もお疲れ様です♪」

 

 楽しげに笑いながらスカーレットは俺の腕に自身の腕を絡めてくる。

 女の子特有の柔らかい感触が腕を包み、甘いお菓子のような香りが鼻孔を突いた。

 

「偶然二人の後ろ姿が見えたので追いかけてみてみたら、面白そうな話が聞こえたので……折角ですし、皆で行きませんか?」

 

 先輩であるグラスの前だからか、それとも周りに他の生徒がいるかはなのかは分からないが、スカーレットは俺にも敬語で尋ねてきた。

 しかし彼女の言うとおりチームの皆で行った方が色んな意見を聞けて良さそうだな。

 そんなことを考えていたのだが。

 

「……スーちゃん。流石にこれは失礼じゃないかしら」

 

「抜け駆け禁止は前に先輩が仰った事ですけど、何か問題でも?」

 

「……とりあえずトレーナーさんから離れなさい。歩きにくいでしょ」

 

「ふふふっ、大丈夫ですよ。ね、トレーナー?」

 

「うふふ……」

 

「あはは……」

 

 何かグラスとスカーレットの雰囲気が悪い。

 理由は分からないが、とりあえず空気が張り詰めていくのは分かる。

 不味い。非常に不味い。とりあえずスカーレットを腕から離して仲裁しようとした時だった。

 

「あーっ! トレーナー! それにグラスちゃんにダスカちゃんも!」

 

 嬉しそうな声と共にウララが元気に駆け寄ってきた。

 

「偶然だねっ! 皆も部室に行くの?」

 

 グラスとスカーレットのピリついた空気も何のその、天真爛漫なウララは俺たちの間にトテテっとやって来て嬉しそうに笑っている。

 天使や……俺はすぐさまウララの手を取って、グラスとスカーレットの方に振り返った。

 

「ああ、皆で行こう! ほら、グラスとスカーレットも行くぞ!」

 

 ウララの手を取って部室に向かって歩き出す。とりあえず部室に行こう。そうすればこの空気もどうにか収まるだろう。

 俺の後をウララは嬉しそうに、後ろの二人は慌てたように付いてくる。もうタマがたこ焼きを焼いている時間のハズだ。

 

 …

 ……

 ………

 

「なる程なぁ。確かに暫く外に出ることはレース以外で無かったもんな」

 

「外に出るならまたカフェ巡りがしたいな。ふわふわのパンケーキ……」

 

 タマの作ったたこ焼きを頬張りながら、オグリが言った。

 前にオグリがレースに勝ったお祝いにタマと三人でカフェ巡りをしたものだ。確かにあれは楽しかった。

 

「いいなー、ウララも皆と一緒にお出かけしたいなぁ」

 

「ウララはまだチームに入ったばかりだからな。親睦会をかねて行くのもいいかもしれないな」

 

 隣に座って一緒にたこ焼きを食べているウララの頭を、オグリが優しそうに撫でた。ウララは気持ちよさそうに目を細めている。こう見るとまるで姉妹みたいだ。

 

「まあ暫く目標のレースも無いし、たまにはええんやないか」

 

 タマも今回の件については肯定的なようだ。

 

「じゃあ金曜日の放課後に皆で行くか」

 

「やったぁっ! 皆でお出かけだ! うっららーんっ!」

 

 嬉しそうにはしゃぐウララにタマも、頬を緩ませた。

 桐生院先輩の慰め会は週末だし大丈夫だろう。

 

「しっかし桐生院さんの恋も長いなぁ。トレーナーが学園に来る前からやろ?」

 

「ああ、桐生院先輩とスピカのトレーナーは同期だからな」

 

「へえ、そんなに」

 

 部室に入ったからか、スカーレットの口調も砕けたモノに変わった。

 やっぱりこっちの方が落ち着くな。

 

「俺が16でトレセン学園にトレーナー候補生として上京してきた時には、もう二人はトレーナーだったからな」

 

 俺と歳はちょっとしか変わらないのに、桐生院先輩はもう専属ウマ娘を持って指導していた。

 名家出身で当時最年少ということもあって周りの目は色々厳しかったが、それでもあのハッピーミークを育てたんだから本当に凄いと思う。

 

「でもスピカのトレーナーはやけにモテるしなぁ……ウチのクラスにも何人かファンがおるし」

 

「そういえばウオッカも気に入っているっていってたわね」

 

「あのゴールドシップと長年一緒にチームをやっている人だ。器が違うさ」

 

 トレーナーとしても男としても尊敬できる先輩だ。欠点と言えば、数多くの女性やウマ娘たちから好意を向けられているのに、それに気づいていない鈍感さ位か。

 

「でもさすがにスピカの先輩も教え子のウマ娘に手を出したりしないだろうから、桐生院先輩はチャンスがあると思うんだよなぁ」

 

「え、スピカのトレーナーさんはウマ娘、好きじゃ無いの?」

 

 ウララが目をパチクリさせながら尋ねてきた。

 

「いや、そんなこと無いさ。ただ、教え子を異性としては見れないってことさ。ウララには難しいかもしれないけど……」

 

 基本、未成年の女学生に教師が手を出すわけにはいかんだろう。

 

「トレーナーが在学中のウマ娘に手を出すことなんて、あっちゃいけないからな……」

 

 俺はそこまで言ったと同時に気が付いた。

 先程のグラスとスカーレットが醸し出していた異様な空気。その何倍も重い雰囲気が突然、部室内に流れだしたのだ。

 

「ど、どうした皆」

 

 直前までの和やかな空気が一変し、妙に刺々しい空気が部屋中に充満していく。

 

「むぅ……何だかモヤモヤする……」

 

 明るいウララが何だか面白くなさそうな顔をしているのが、もうヤバい。

 彼女はまだマシな方でスカーレットは明らかに不機嫌そうだし、グラスは能面のような笑顔を向けてくるし……

 

「今のはトレーナーが悪い」

 

 オグリにバッサリと言われたが、一体何が悪かったのかよく分からない。

 でもあのオグリがジト目で言ってきたんだから、結構不味いと思う……

 

「ま、トレーナーは女心をもっと分かれってことやな……まぁウチはあと二年で卒業やけど……」

 

 タマも何か最後の方でゴニョゴニョ呟いていたが、声が小さくて聞き取れなかった。

 その後、この妙な緊張感がある空気のまま、俺は練習をすることになるのであった。

 

 ……桐生院先輩よりも先に皆の機嫌を直さないといけないかもしれない……




スピカのトレーナーはアプリの育成シナリオのトレーナーをイメージしてます

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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