ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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今回はタマ視点です。

関西弁難しい


白の世界

 初めて走ったレースはただの駆けっこやった。

 近所の子供達が集まって、空き地で適当に決めた距離を走ることになり、そこで男子も年上も他のウマ娘もぶっちぎりで勝ってしまったのだ。

 皆から凄い凄いと言われて、ウチ――タマモクロスは初めて自分が走るために生まれてきたウマ娘という事を自覚した。

それが多分、ウチの物語の始まりやったと思う。

 

 ウチは大家族の長女として生を受けた。

 お母ちゃんは昔ウマ娘として活躍しとった人やった。

 グリーンシャトーって言ったら、年配のおっちゃん達は目を輝かせてお母ちゃんの武勇伝を語ってくれたもんや。

 尤も本人であるお母ちゃんはその話が恥ずかしいんか、あんまり話そうとせんかったけど。

 そんなお母ちゃんは生まれつき病弱で早々に現役を引退して、トレーナーだったお父ちゃんと結婚してウチを産んだ。

 その後も何人も子供を産んで、あっという間にウチの家は大家族になったんや。

 ウチは姉弟の中でも一番速くて、お父ちゃんは地元のトレセン学園に入れて一流のウマ娘に育てたいって言っとった。

 嬉しそうなお父ちゃんを見て、ウチも乗り気になっていつか中央に入ってレースで勝って、皆に楽をさせてあげたいなぁなんて漠然と考えとった。

 さあ頑張るぞといった矢先、お父ちゃんが仕事先で倒れて息を引き取った。

 それからはお父ちゃんが残した財産と、お母ちゃんの現役時代に稼いだ賞金。そして親戚のなけなしの支援で何とか食いつないでいくんがやっとやった。

 ウチも長女だったから、下のチビ達の面倒を見ながらお母ちゃんを助けんといかんかった。

 その時に、ウチはトレセン学園行きを諦めた。

 でもお母ちゃんやチビ達は違った。

 

「タマには才能がある。絶対にトレセンに行くべきや」

 

 お母ちゃんはそう信じて疑わんと、親戚中に頭を下げてお金を作ってきた。

 お父ちゃんの兄ちゃん――伯父ちゃんも信じてウチが学園に行く間は、家族の面倒を見てくれるって言ってくれた。

 チビ達も『タマねぇが走ってほしい』ってウチの背中を押してくれた。

 

 大勢の人の期待を胸に、ウチは中央に進学する事を決めた。

 学費はとんでもなく高かったんで、推薦を貰って入学することになった。

 特待生程ではないけど、実力を示さなあかん立場やった。

 そんなウチやったけど、現実は世知辛かった。

 

 中央、トレセン学園。

 そこには全国から集まった選りすぐりのウマ娘が集まっている。

 恵まれた血統に、生まれ持った才能。そんなウマ娘達が一カ所に集結するのだ。

 ウチとは比べものにならない恵まれた環境で、切磋琢磨してきたウマ娘達。

 選ばれしウマ娘達に、ただ駆けっこが早かっただけの井の中の蛙は、ただただ蹂躙されるだけやった。

 芦毛は走らない。

 トレーナー達が言っていた言葉も、ウチを苦しめた。

 模擬レースでも連戦連敗。

 同級生にも笑われ、日に日にウチはすさんでいった。

 関西から一人で上京してきたから友達もおらんかったし、荒れてるウチにわざわざ声をかけるトレーナーなんて一人もおらんかった。

 ……あいつ以外は。

 

「君の走り方じゃ駄目だ。ちょっと走り方を変えてみたらどうだ」

 

 ある日の模擬レース。

 いつものように惨敗したウチに向かってその男は、突然話しかけてきた。

 第一印象は、なんか冴えん男やなぁって感じやった。

ここにいるということはトレーナーの資格を持っているのは間違いないけど、それにしては若いし、抜けた顔をしとる。

それに芦毛でしかも負けたウマ娘に話しかけてくるなんて、冷やかしにしか思えんかった。

 

「知るかい。ウチはずっとこの走り方でやってきたんや。ぽっと出の知らんおっさんに言われる筋合いは無いわ」

 

吐き捨てるように言って、ウチはその場を離れた。イライラが止まらんかったけど、後からふとこの学園に来て授業以外でトレーナーに話しかけられるのは初めてやなと思い出した。

 まあ、どうでもええ。どうせからかいに来ただけやし、二度と会うこともないやろうとたかをくくっていた。

 

 次の日。放課後。

 ウチは一人、自主練のためにグラウンドの方へと向かっていた。

 中等部のウマ娘は大まかに二つのグループに分かれている。

 強く才能があり、トレーナー直々にスカウトされたウマ娘とされなかったウマ娘。

 優秀なウマ娘は自然と専属のトレーナーが着いて、彼らの率いるチームの元で練習をする。トレーナーにスカウトされなかったウマ娘は、合同練習という新人トレーナーやチームを持たないトレーナーの下で練習を行う。

 ウチはどちらでもなかった。

 チームに誘われることは勿論、この他のウマ娘との環境にも馴染めず合同練習に混ざることもできない。ただ一人、寂しく自主練するだけの毎日やった。

 そう言えば隣のクラスのスーパークリークっちゅう子はもう何人もの追っかけトレーナーがいるっちゅう噂や。同じウマ娘でもここまで違うんやなぁ……ウチに話しかけてくるなんて昨日のあんちゃん位……

 

 ――ぶんぶんっ!

 

ウチは頭を降って脳裏に浮かんだ男の顔を、弾き飛ばした。なんであんなやつのことを思い出してしもうたんやろ。

 あいつは冷やかし、じゃなかったら只のバカや。

 そんなことを考えながら、下駄箱まで来たときやった。

 

「よぉ、おチビちゃん」

 

 ……嫌な奴らに出会った。

 

「今日も一人で練習? いいかげんどこかチームに入ったらどうなの?」

 

 ニヤニヤ嫌らしい笑みを浮かべて近づいてきたんは、同じクラスのウマ娘三人やった。

 名前はモブサイクロン、モブトルネード、モブノロマン。

 何かとウチに絡んでくる、うざい奴等や。

 

「あんた等には関係ない。ほっとき」

 

 しっしっと手を払って、ウチはさっさとここから離れようとする。

 

「まぁまぁそう言わないでよ。よかったら、あたし達のチームに入れたげようか? 丁度、トイレが汚れてて清掃員を探しててさ」

 

 下卑た笑い声をあげる三人に青筋が立つ。だが言い返せばますます相手を付け上がらせるだけなので、ウチは黙って上履きを脱いで靴を取り出した。

 

「あたし達のトレーナーは優しいからさ、タマちゃんみたいな落ちこぼれも面倒見てあげるってさ」

 

「よかったじゃん。どうせどこのチームにも入れないんだしさ。惨敗続きで後が無いでしょ?」

 

「しかもお家は貧乏だし、このままじゃ退学になっちゃうんじゃない? こんなのでも推薦なんだしさ」

 

 家族のことを言われ、思わず頭にカッと血が上った。ウチのことを馬鹿にするんは構わんけど、ウチを信じて送り出してくれたお母ちゃんやおっちゃん、チビ達を侮辱されるのは許せんかった。

 

「なに、やる気?」

 

 相手も構えた。そしてウチは――

 

「それは駄目だ! タマモクロスは俺のチームに入るんだっ!」

 

『…………』

 

 あまりにも場違いな声が後ろから聞こえてきた。

 振り替えると昨日の男が息を切らしながら立っている。

 

「よく聞こえはしなかったが、チームの勧誘だろう……だがタマモクロスはもう俺のチームに勧誘済ぐぶほっ!?」

 

「このドアホっ! ちっとは空気読まんかいっ!」

 

 アカン、素でつっこんでしもうた。

 さっきまでの怒りも一気にすっ飛んで、ウチは思いっきりつっこんでしもうたんや。

 絡んできたアホ三人はポカンとしとった。

 男は痛がりながらもどこか嬉しそうやった。

 ああ、コイツは冷やかしやない。只のバカやったんや。

 ウチは気が付いてしもうた。

 

「い、いくで!」

 

 咄嗟に手を取って走りだした。

 自分でも何でこんなことしとるんか分からんけど、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、このあんちゃんに興味が湧いてしもうたんや。

 

 …

 ……

 …………

 

「で?」

 

 学園の片隅に置かれた小さなベンチ。

 ウチが密かに見つけた、人気のないスポット。

 そこにウチはこのあんちゃんを連れてきた。そしてそのままどっかりとベンチに腰を降ろすと、前で佇んでいるあんちゃんに尋ねた。

 

「どういうつもりなんや」

 

「……昨日はすまない。緊張で上手く伝えられなかったんだが、改めて言う。俺のチームに入ってくれないか?」

 

 すんごいド直球で言ってきおった。

 いや、もっと前置きとかあるやろ。昨日の今日やで。しかもさっきの……その……あれ……

 

「俺の担当ウマ娘になってくれ」

 

「……本気かいな」

 

 ウチがあんちゃんの目を見ると、まっすぐな目でうんと頷いた。

 今まで散々勧誘を待っとった癖に、いざ本当に勧誘されると何が何だか分からんくなってしまう。

 でも……

 

「何でウチを勧誘しようと思ったん? 昨日のレース、見とったんやろ?」

 

「ああ、見させてもらったぞ」

 

 昨日の模擬レース。ウチは散々な結果やった。あのレースを見て、ウチを誘うなんて普通は考えられないやろ。

 ……もしかしてウチの秘めたる才能を見抜いて……

 

「なんでウチなんや?」

 

 緊張しながらもウチは聞いた。

 もしかして、この人はウチの――

 

「君の走りにビビッてきた。俺のトレーナーの本能が言っている。君は――」

 

「ほなさいなら」

 

 そのままウチはベンチから降りると、そのままスタコラさっさと歩いて行く。

 やっぱりコイツは馬鹿や。

 関わらん方がええ。

 トレーナーの本能やと? そんな訳わからんもんでレースに勝てたら、トレセン学園なんていらんわい!

 

「ま、待ってくれ!」

 

 ウチは駆けだした。

 ちょっとした駆け足であるが、それでも普通の人間には追いつかれへん。

 さっさと撒いてしまおう。そう考えながらウチは逃げていくのだった。

 誘ってくるのは嬉しいけど、ウチだって人生がかかっとる。

 不確定な要素に頼るトレーナーを信用できんかった。

 

 …

 ……

 …………

 

 結局、あの後練習する気も起こらず適当にプラプラしてから寮へと戻る途中やった。

 嫌な人影を見つけた。

 三つ。こちらに気付いたのか近づいてくる。

 

「おかえりチビちゃんー。待ってたよ~」

 

 逃げるのも負けたみたいで嫌やし、適当にあしらってさっさと自室に帰ろうと考えとった時やった。

 

「あのトレーナーはどうしたの?」

 

 わざとらしく辺りを見渡してモブサイクロンが言った。

 

「さぁな。それにあの人はウチのトレーナーやないで」

 

「ええー残念。チビちゃんにお似合いだと思ったのにな」

 

「ふん。そうか、よかったな。ほなお先」

 

「だってあの『アンタレス』のトレーナーだよ? チビちゃんにぴったりじゃん」

 

 ――アンタレス。

 その単語を聞いて、ウチは思わず顔を上げた。

 

「アンタレス? あの?」

 

「知らなかったの? まあ田舎からきたんじゃしかたないか」

 

 馬鹿にするように言ったがウチはそんな事も気にならんかった。

 チーム・アンタレス。

 その名を知らんウマ娘なんてこの学園にはおらん。

 スーパーカーの異名を持つマルゼンスキー先輩を輩出したチーム。それは知っとった。

 でも……

 

「可哀そうに。エースのマルゼン先輩が抜けてチームはボロボロ。トレーナーさんはトチ狂って、あんたをチームに誘う始末」

 

「でもーあたし達のトレーナーさんはあんなのただのラッキーマンって言ってたよねー。マルゼン先輩が凄かっただけって」

 

「まあそう考えると駄目トレーナーと駄目ウマ娘同士、最高の組み合わせ何じゃないの?」

 

 嘲笑に囲まれながらもウチはハンマーで殴られたような衝撃で、固まってしもうとった。

 あのアンタレスのトレーナーがあんな若いあんちゃんなんて知らんかったし、そんな彼が何でウチを勧誘したんかも分からんかった。

 そして。

 

「言いたいことはそれだけか?」

 

 何でか知らんけど無性に腹が立った。

 ウチは悪く言われるのも慣れとる。これくらいなら腹は立てども、ここまで怒ることはなかった。

 でも何故かあんちゃんを馬鹿にされることが堪らなく癇に障ったんや。

 

「お、やる気なの?」

 

 だが相手は三人。しかもウチより背も高い。勝てる見込みは無い。

 会ったばかりの変なトレーナーに肩入れして喧嘩なんて、自分でもアホやと思う。

 でも、本当に何故か我慢出来んかったんや。

 

「前々からイラついとったんや。そろそろ〆させてもらうで」

 

「ふふ、大阪の野蛮ウマは怖いねぇ」

 

 じりっと空気がひりついた正にその時やった。

 

「ま、待て! 待ってくれ!」

 

 またこの声が聞こえてきた。

 息を切らしながら走ってきた男はうんざりするウチを相手から引き離した。

 

「け、喧嘩はいけないぜ。喧嘩はよ。キミ達は大事なウマ娘なんだ。万が一があったらどうする……」

 

 そこまで言うとあんちゃんは走って疲れたのか、息を切らしながら地面に突っ伏した。

 もしかしてあの時から走ってウチを探してたんやろうか……

 

「はぁ……はぁ……とにかく、ここは俺の顔に免じて……仲直り……」

 

 息を必死に吐きながらあんちゃんはそう言った。

 先程までの空気が一変し、何かこう……何ともいえん空気になった。

 

「あーもー! 調子狂わせてくれるなぁ、あんたは!」

 

 ボリボリ頭を掻きながらウチはトレーナーを抱え上げた。

 ちょっと前までの殺伐とした空気は一気に失せ、ウチは溜息を吐くとそのまま踵を返した。

 

「あっ! どこにいくんだ!」

 

「今日は終いやー」

 

 背中にぶつかってくる三人の罵声を受けながら、ウチは入り去っていった。

 不思議とイライラがなくなっていることに、この時のウチは気が付いてなかった。

 

「落ち着いたか?」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 再びベンチに戻ってきたウチはあんちゃんを降ろして、落ち着かせてから話しはじめた。

 さっきの話が本当かどうか。それが気になったんや。

 

「アンタはマルゼンスキー先輩のトレーナーやったんやろ?」

 

「……ああ。俺はマルゼンとアンタレスを作ったんだ。よく知ってたな」

 

「まぁな。そんな凄いウマ娘を育てたトレーナーが何で……何でウチみたいなウマ娘をスカウトしたんや……」

 

「言っただろう直感だって」

 

 そう言うとあんちゃんは、空を見上げた。既に朱く染まっていた空は、段々と夕闇に呑まれていく。

 

「初めてマルゼンスキーの走りを見た時、衝撃が走ったよ。なんて美しい走り方をするんだろうっ、てな」

 

 懐かしそうにあんちゃんは言う。

 

「あの走りを間近で見ていたい。一緒に走りたいと心から思ったんだ」

 

 そう言うあんちゃんの目はとてもキラキラしとって、本当にマルゼン先輩が好きやったんやろうなって思った。

 

「……そんな走りをするウマ娘はマルゼン以降現れなかった。でも俺はそんな心から夢中になれる走りを求めていたんだ」

 

 あんちゃんがウチの方へ視線を向けた。

 

「そして君に出会った」

 

 胸が熱くなるのを感じた。

 滅茶苦茶なことを言っとるのに、この人は何か惹きつけるものがあった。

 

「タマモクロス。俺と一緒に走ってくれ! 俺は君と一番になりたいんだ!」

 

 肩をガッシリと抱いて、あんちゃんは真剣にウチの両目を見て言った。

 初めての勧誘。

 思わず心臓が高鳴った。

 けど……

 

「ごめん。ちょっと考えさせてくれへんか?」

 

 この話を素直に信じられる程、ウチは良い子ではなかった。

 

「……次のレースは何時だ?」

 

「へ?」

 

「次のレースで勝てるように、俺が指導する。そしてそのレースで勝てたら、俺を君の専属トレーナーにしてくれないか?」

 

 あまりにも唐突な提案。

 この人は出会った時からホントに滅茶苦茶な人やと思った。

 でも。

 

「面白そうな話やないか。その賭け、乗ったで!」

 

 ウチの胸の中も熱く燃えるのを感じた。

 どうせトレーナーなんかウチにはおらんかった。ならこの人に付き合ってみてもいいかもしれん。

 何もせんよりはきっと進むことが出来る。

 そう思いウチはあんちゃんの手を取ったんやった。

 

「ウチを満足させてみぃよ」

 

「……ああ、必ず君をアンタレスに引き込む」

 

 ……こうしてウチと、このトレーナーとの日々が始まったんやった。

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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