ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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 日刊ランキングに初めて載りました! 本当にありがとうございます!

 レースを書くのすごい難しい……

 上手く書いている作者様を心から尊敬します。

 あと、この小説はアプリ版ともアニメともシンデレラグレイとも違うパラレルワールドのつもりです。

 シングレ面白いよね……でもアプリの育成シナリオも王道で最高なんだ……


タマモクロス

 

「よし、いいぞタマ! 仕上がりはバッチリだ!」

 

 ストップウォッチを止めて、俺は叫んだ。小さな液晶に表示された数字は、今回のタマのタイムである。

 縮まっている。確実に以前よりも速くなっている。

 それは前までただただがむしゃらに走るだけだった彼女が、勝つための走り方を憶え、それを実行できるようになった証だった。毎日のトレーニングで基礎能力が上がったこともまた事実である。

 

「お疲れ様、タマ。タオルと飲み物」

 

「おおきに」

 

 息を切らせながらタマは俺が差し出したタオルで汗を拭き、スポーツドリンクを飲んで息を整えた。

 

「今日はここまでだな」

 

 ふと空を見上げる。

 既に空は紅から漆黒に変わり始め、他のウマ娘たちも練習を切り上げつつあった。

 

「もう少し……もう少しだけ続けてもええか? まだちょっち不安なんや」

 

「本番は明日だ。今日はもう休んで、本番の体力を備えた方がいい」

 

 ただでさえ、タマは他のウマ娘よりも体力が劣る。しっかり休まなければ、本番で実力を発揮出来ずに終わる可能性もあった。それだけはトレーナーとして避けなければいけない。

 タマも分かってくれたのか、軽く会釈するとそのまま共用の更衣室へと向かっていく。簡易なシャワーもあるので着替えて汗を流してくるだろう。俺のチーム・アンタレスのホームであるバラックにはシャワーがないので、ここを使った方がいいだろう。しばらくして、タマは制服に着替えて戻ってきた。

 

「いよいよ明日やな」

 

「ああ、やれることはやった。あとは本番に臨むだけだ」

 

「……なぁ、あんちゃん」

 

今日のタマは何だかナーバスだった。声にもいつもの張りがない。二週間の付き合いであるが、俺も彼女が豪胆に見えて意外と神経質なところがあることを少しずつ分かり始めていた。

 

「どうした、タマ?」

 

「いや、なんでもあらへん。今日もあんがとな」

 

 それだけ言うとタマは踵を返した。俺はタマに礼を言われる――それくらいには彼女に信用して貰ったことを内心喜びながらも、その小さな背中に声をかけた。

 

「もう少しだけ話さないか」

 

……

…………

 

 学園の片隅にある小さなベンチ。そこに二人で腰を下ろす。

 俺は自販機で買った缶コーヒーをタマに渡した。一番甘いヤツだ。彼女は軽く会釈してから、缶を受け取って一口飲んだ。

 

「美味いな」

 

「それはよかった」

 

 暫し二人でコーヒーを啜る。

 なんとも言えない穏やかな空気が流れていた。

 

「……ありがとうな」

 

 ボソっとタマが言った。

 

「何がだ?」

 

「……二週間、ウチに付き合ってくれたことや」

 

「……おいおい。元はといえば俺がタマのトレーナーになりたくて始めたことだぞ。俺が無理矢理押し通した賭けだ」

 

「でもな……ウチのトレーナーになりたいなんて、今までアンタしかおらんかった。最初は変な奴やなって思っとったけど……」

 

 タマは顔を上げた。照れくさそうに笑う彼女の小さな顔が、夕闇の中で輝いて見えた。

 

「今はそれなりに感謝してるんやで。ウチは負けるわけにはいかんかったからな」

 

「……なぁ、タマ」

 

「なんや」

 

「……ウマ娘にとってレースに勝ちたいと思うのは当然のことだ。誰もが皆、レースに勝利してウイニングライブのセンターで踊ることを夢見る。でもタマは……」

 

 俺は彼女の宝石のような瞳を真っ直ぐ見ながら問うた。

 

「タマの勝負に対する執念は特別だ。一体何がキミをそこまで駆り立てる?」

 

 ずっと気にしていた事だった。

 タマの勝負根性、そして負けん気は度を超えている。

 トレセン学園の門を叩いた者であれば、勝ちたいという思いを持つのは当たり前である。だがタマの勝利への執念は、他とは明らかに違っていたのだ。

 

「…………」

 

 タマは俺の問いを聞いて俯いた。

 

「あ、いや、別に無理して答えることはないぞ。ただちょっと気になって――」

 

「ウチの家な、ぶっちゃけ貧乏なんや」

 

 俺の言葉を遮るように、タマは話し始めた。

 

「お父ちゃんはウチが10の時に死んでしもうてな。お母ちゃんは体が弱くて、仕事も満足に出来ん。だからウチの家はずっと金が無かったんや」

 

 ぽつりぽつりと、彼女は自身の身の上を話し始めた。

 

「親戚のおっちゃんから援助して貰うとるけど、厳しくてな。ホントならウチがトレセン学園に通える余裕なんて無かったんや」

 

「……………」

 

「ウチだって、自分がトレセンに行けるとは思っとらんかった。でも、お母ちゃんとおっちゃんがお金を出してくれたんや」

 

「……そういえば推薦入学って聞いたな」

 

「うん、お母ちゃん達が無理してお金を用意してくれたんや」

 

 タマは苦笑した。俺は今、一体どんな表情をしているだろうか。

 

「……ウチはな、昔から走るのが好きやった。お父ちゃんもお母ちゃんもチビ達も……ウチが駆けっこに勝つと喜んでくれた」

 

「愛されてたんだな」

 

「特にお父ちゃんは喜んでくれてなぁ……ウチの走る姿がまるで雷みたいって……『白い稲妻』って言ってくれたのもお父ちゃんなんや」

 

「白い稲妻か……確かに、キミにピッタリじゃないか」

 

「……ありがとな。ウチはそれが嬉しくて、走るのが大好きやった」

 

 走るのが好き――元来、ウマ娘なら誰しもが心に抱いて生まれ来る感情である。

 どんなウマ娘でも大なり小なり走りへの渇望が渦巻いている。マルゼンは特にその欲求が強かった。

 ウマ娘は走るために生まれてきた。

 俺はそう考えていた。

 

「このまま走り続けられたらなって、思っとった。でもな、そうもいかんくなった」

 

「……家族のことか」

 

 タマはコクンと頷いた。

 

「ウチの夢はな。レースで勝って。勝って勝って勝ちまくって、賞金ガッポリ稼いで……家族に、お母ちゃんやチビ達に楽させてやることなんや」

 

「…………」

 

「チビ達に美味いもんいっぱい食わせて、欲しい物何でも買ってやって、お母ちゃんもちゃんとした病院つれてって、おっちゃんたちにも恩返しして……」

 

 そこまで言ってタマはハッと顔を上げた。

 

「すまんな。急にこんな話してもうて……」

 

「いや、聞いたのは俺の方だ。こちらこそゴメンな。あんまり話したいことでもないだろうに」

 

「……そうや。こんなこと話すことなんて……こんなこと他人に話すなんて……ちょっと前までは考えられへんかった……」

 

 唇を震わせながら、タマは立ち上がった。さっき買った缶コーヒーは空っぽになっている。

 

「これ、あんがとな。もう帰るわ」

 

 それだけ言うとタマはベンチから離れていく。

 

「タマ」

 

 俺の声を聞き、タマは立ち止まった。だが振り返りはしなかった。

 

「『白い稲妻』だ。もし熱くなったときは、その言葉を思い出せ。走る楽しさと、ハングリー精神。この二つがあればキミは無敵だ」

 

「……本当に下手なべしゃりやなぁ……」

 

 それだけ言うとタマはそのまま帰って行った。

 あのタマが自分のことをあそこまで話してくれたのだ。

 絶対に勝たせてやる。

 俺は、そう心に誓うとベンチから立ち上がったのだった。

 

 …

 ……

 …………

 

 いつものような、緊張は無かった。

 毎回模擬レースに出場する時は心臓が激しく高鳴り、神経がピリピリするのが恒例やった。でも、今日はそれがない。

 ただ体が本番の勝負へ向けて熱くなっていくのを、感じるだけやった。

 これまでのレースは一人。たった一人の真剣勝負やった。でも今回は違う。ウチの背中を押してくれた人がおる。それだけでも大分、気が楽になった。

 

 簡易的に設置されたゲートに向かう。

 既に他のウマ娘が何人か揃っとって、その中に一人、見知った奴がおった。

 

「はぁい、おチビちゃん」

 

「……なんでお前がおるんや」

 

 馴れ馴れしく声をかけてきたのは、モブサイクロンの奴やった。相変わらず、人を小馬鹿にしたような態度で虫酸が走る。

 でも同時になんでこの模擬レースに出場するかが分からんかった。このレースは専属トレーナーの着いていないウマ娘たちが、同じく専属のウマ娘を持たないトレーナー、あるいはチームを持つトレーナーに自身を売り込むためのモノや。こいつにはもう、トレーナーが着いていたはずやが……

 

「あらら、折角話しかけてあげたのにつれないわね」

 

「ほっとき。冷やかしでレースに出るんなら帰れや」

 

「ふん、弱いおチビちゃんにはわからないだろうけど。模擬レースを見に来るトレーナーは毎回変わるのさ」

 

「それがなんや?」

 

「これだから……今の担当よりも能力のあるトレーナーにアピールするために決まってるじゃない」

 

 呆れたような口調で放った言葉に、ようやくウチは納得した。早い話、優れたトレーナーに引き抜いて貰うべく、自己アピールしに来たんや。

 こういう輩は珍しくない。

 そりゃ強くなるためには、腕のいいトレーナーの強いチームに所属するのが手っ取り早い。だからこそレースで勝って実力を示し、目に留りやすいようにする。特に中等部ではレースが少ないから、模擬レースや選抜レースに出なきゃならんのやろ。

 

「ここで勝ちまくって、いずれはスピカやリギルに……ふふふ」

 

 嫌らしい笑みを浮かべながら言うサイクロンの横顔を見ながら、ふとウチの頭の中に考えが浮かんだ。

 もしこのレースで勝ったら、ウチはあのあんちゃんとトレーナー契約を結ぶ。

 そしてその後のレースでもバンバン勝っていったら。

 スピカやリギルやシリウスといった名門チームからスカウトされるんやろうか。

 そん時、ウチはあんちゃんとの関係をどないするんやろうか――

 

「――何や、もうウチの中で担当は決まっとったんやな」

 

 体を縛っていた鎖がドロドロに溶けていくようやった。

 こんな清々しい気持ちでレースに出るんは、ウチがこの学園に来てから初めてや。

 火照り始めた体を押えるように両腕を振りながら、ウチは簡易ゲートに入っていった。 

 そして間もなく、乾いた金属が開く音が鳴った。

 

 出場者は16名。距離800m、芝右回り。

 前の模擬レースと全く同じ、ウチのゼッケンも奇しくも7番やった。

 ゲートが開くのと同時に飛び出す16の影。ウチは体に溜まった熱を排出するような力強さで、勢いよく飛び出した。

 今まで感じたことの無い手応え。ウチははやる気持ちを抑えながらも、周囲を確認して息を落ち着かせる。

 レース中は前方で力を貯めリードをキープし、最後の直線で一気に爆発させる……それがトレーナーの作戦やった。

 トップはあのサイクロン。その後ろに数人がぴったりとくっついとる。ウチは5番手っちゅうところか。後方のウマ娘も離れすぎない距離でこっちを窺っとる。

 ……驚くほどウチは冷静にレースの状況を観察できていた。

 今まではただゴールまで辿り着くことだけを考えとった。自分でも変わってきていると自覚できる。

 あとは勝つだけやな。

 そう考えながら第一コーナーを曲がり、そのまま第二コーナーにさしかかった。

 800mは短い。この第二が最終コーナーでもある。

 順位は相変わらずで、ウチは先頭集団のすぐ後ろに控えていた。

 ここを抜ければ、一気にぶち抜く……そう思い息を整えた時やった。

 

「っ……!」

 

 ウチの進路の前にサイクロンのヤツがスライドしてきおった。丁度、前を塞ぐような位置。斜行とか進路妨害とか色んな単語が頭に浮かんだが、どれが正解かわからん。

 ただ、一つ分かる事は。

 

 ――こんなとこでも喧嘩売ってきおったか!

 

 歯ぎしりすると、ウチはサイクロンへと肉薄した。

 

「今日は頑張るじゃん、チビ助ちゃん」

 

 ほんの少しだけ後ろを向いたサイクロンから漏れた言葉に、ますますウチの頭は熱くなる。

 今までの恨みもある、このまま思いっきり――

 

「タマーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」

 

 不意に、そんな声が聞こえた。

 耳を立てんでも分かるほど、大きな声量。

 ここんところ、ずっと近くで聞いとった声。

 

「白い稲妻だ!」

 

 まるで雷が体を貫いたようやった。

 怒りで見えなくなっていた視界が澄み渡っていく。

 ハッキリと見える。

 今まではこんな事はなかった。また背中を、押して貰うた。

 ウチを嘲笑うサイクロンとそれに併走する他のウマ娘たち。

 そしてその間に生まれた僅かな隙間。

 コーナーは曲がりきった。残るは。

 

「直線っ!」

 

 姿勢をより前に突き出すようにウチは勢いよく踏み出した。

 

「なっ!?」

 

 挑発に乗らんかったことか、それともウチが加速したことに驚いたか。

 サイクロンはそんな声を上げおった。

 ウチとあいつの距離が縮まっていく。

 3バ身、2バ身、1バ身――そしてついに並んだ。

 

「このっ……」

 

 再びサイクロンの身が迫る。

 一触即発、肩が触れるか触れないかの距離でウチはぐいっと身を乗り出した。

 風を切る音が聞こえる。

 相手の息を呑む音が真横から聞こえた。そしてそれは次第に遠ざかっていく。

 気が付くと、前には誰もおらんかった。

 嗚呼、これが先頭……本当の……

 頭が真っ白になった――

 

「レース終了。一位はゼッケン7番、タマモクロス」

 

 模擬レースには実況も解説もいなければ、掲示板も無い。

 ただゴールの前にいる上級生が淡々と結果を告げるだけや。

 それでも、ウチの耳には確かにハッキリと聞こえていた。

 勝利。勝利や。ようやく中央で一番になれた。

 緩やかに速度を落としながら、ウチはその事実をゆっくりと理解していった。

 脚がガクガクする。これは疲れか、はたまた緊張か。

 荒れる息を整えながら、ウチはぼぉーとする頭を冷やしていく。

 ようやく体が止まり、膝を両手で押えた時。

 

「タマっ!」

 

 声が聞こえた。

 レース中、ウチを救ってくれた声が。

 いや、もっと前からウチを助けてくれた。 

 誰からも見て貰えず中央で腐っていくだけやった一人のウマ娘を、見つけてくれた声が――

 

「ホント、よくやったな……」

 

 温かい感触が肩を包む。

 思った以上にゴツゴツして硬いそれは、男の人の両手やった。

 

「……ウチ、勝ったんやな?」

 

「ああ、お前の勝ちだ。お前が勝ったんだよ」

 

 いつもはキミ言うとったのに、素やと結構荒っぽい話し方なんやな。それくらい興奮しとるってことなんやろうけど……

 

「……どや? ウチの実力、見てくれたか?」

 

「見てたさ。よくやったよ、タマ」

 

「ありがとうな……」

 

 ウチは一呼吸置くと顔を上げて、あんちゃんの顔を見ながら笑った。

 

「トレーナー」

 

 …

 ……

 …………

 

 無我夢中で俺はタマを抱き上げていた。

 小さな体はレースで火照ったのか、炎のように熱い。

 恥ずかしさからか耳まで真っ赤にしながら、彼女は。俺の愛バは何やら叫んでいる。

 でもそれすら耳に入らない程、俺は興奮していた。

 最高の走りだった。

 マルゼンスキー以来、俺が求めて焦がれた走り。

 しかもこれで終わりでは無い。

 きっと修練を積めば彼女の走りはより素晴らしいモノへと変わるだろう。

 やはり俺の目は間違っていなかった。

 ようやく。

 ようやく見つけた新しい太陽。

 

「俺は今日から、お前のトレーナーだ」

 

 白い稲妻を俺は空に掲げた。 

 

「そしてお前は、アンタレスのタマモクロスだ!」

 

 透き通ったように輝く美しい芦毛が、青い空へと溶けていった。




これでタマモクロスと主人公の出会いの話はひとまず完結です。

次からはまた日常回へと戻る予定です。

でもいつかオグリとの話も書きたいと思いますのでどうかよろしくお願いします。

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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