ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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明けましておめでとうございます。

今年もゆっくりと書いていきますので、よろしくお願い致します。

一周年アニバーサリーがもうすぐなので、楽しみですね


太り気味

 グラスワンダー、目標・朝日杯FS。

 ハルウララ、目標・ユニコーンS。

 ダイワスカーレット、目標・チューリップ賞。

 

 ホワイトボードに書かれた3つのレース。俺はその文字をトントンと、マジックで叩いた。

 

「見ての通り、三人にはまずこのレースを目標にしてもらう。準備期間もたっぷりとある。だが油断しては駄目だぞ。この一年で三人とも徹底的に鍛え上げて、万全の状態でレースに向かって貰う」

 

 チーム・アンタレスのホームであるプレハブ小屋。そこで俺は今後の予定を皆に説明していた。

 

「朝日杯……ジュニア級の最強を決める、大事なレースですね」

 

「ゆにこーん? なんだか分からないけど、凄いレースなのかな?」

 

「あたしの目標であるトリプルティアラの一角、桜花賞の前哨戦……チューリップ賞ね」

 

 それぞれが三者三様の反応を見せつつ、レースへの意欲を燃やしている。

 特にグラスは日頃から競い合っているエルコンドルパサーやキングヘイローと初めて戦うG1レースだ。レースに対する熱意も大きいだろう。

 

「目標レースまではチームレースで実戦の勘を鍛える。朝日杯とチューリップ賞は両方ともマイルだから、スカーレットとグラスは交代でマイルを走って貰う。ウララはダートだな」

 

 基本的に目標レースと大きな重賞レース以外にはウマ娘を出走させずに、練習で基礎を鍛えていく。桐生院先輩からの教えだった。

 

「年末の朝日杯は兎も角、ウララとダスカは本番までかなりあるな」

 

 オグリの言うことも一理あった。

 

「ああ。チームレースで物足りないようなら、スカーレットはホープフルステークス。ウララにはオープン戦を幾つか走らせることも考えている」

 

「どっちにしても、まだまだ先みたいね」

 

 スカーレットが大きく息を吐いて言った。

 若い彼女たちにとってはもどかしく感じるかもしれないが、年単位でスケジュールを組むのも俺たちトレーナーの仕事なのだ。

 

「私とタマはやはり天皇賞か?」

 

 するとオグリが俺の袖をくいくい引っ張って尋ねてきた。

 

「ああ、だが今年タマは出場しない予定だ」

 

「え……な、何故だ……」

 

 俺の言葉を聞いて、オグリはショックを受けたようだった。確かにオグリとタマは去年の天皇賞(秋)で激突し、大接戦の末タマの勝利で終わった。その後の有馬記念でリベンジしたものの、オグリはやはり天皇賞でもう一度タマと戦いたかったのだろう。

 

「オグリがそう言うてくれるんはありがたいんやけど、ウチはチームレースを主戦場にするで。これはこれで稼げるしな」

 

「しかし……」

 

「それにウチらはもう2年。チームの後進の育成とドリームトロフィーリーグの準備もせんとな。まあ、幸いドリームリーグで稼げるくらいにはG1も勝っとるし」

 

 実力のトゥインクル、人気のドリームトロフィーと言われるのが現状である。

 多くのスポンサーが付き、トレセン学園時代の倍は賞金が払われるのがドリームトロフィーリーグだ。

 そこに進めるのは、トゥインクルシリーズで活躍したウマ娘の中でも極一部のみ。

 それほど狭き門なのであった。

 

「それにレースばっか出場して体壊したら、元も子もないからな! オグリだって春に脚痛めて大阪杯と春天に出れんかったんや。何とかチームレースには出れたけど、秋までに体休めんとな」

 

 そこまで言われオグリも理屈は通じたのか、しゅんと耳を下げて頷いた。

 昨年の有馬でタマとデッドヒートを繰り広げたオグリだったが、それが祟って繋靱帯炎を発症。そのまま治療に専念したために、年始のレースには出場できなかったのだ。

 この前のチームレースは地味に久々のレースだったりする。

 

「でも有馬には出場する予定やで! 去年のオグリのリベンジは勿論、平成もとい永世三強をぶっ倒して白い稲妻が健在っちゅうことを知らしめたるで!」

 

「そうか……ならば私も完璧に仕上げて、君に挑もう。その前にクリークと春天で台頭してきたイナリを倒さないとな」

 

「よし、これで皆の目標も決まったな……じゃあ早速、練習開始だ」

 

『オーっ!』

 

 五人が拳握って、元気よく叫んだ。

 グラスとスカーレットはマイルなので二人で併走。

 ウララはパワーを重点に置いてオグリと練習。

 タマは両方の手助けという格好になった。

 皆で練習し、切磋琢磨して本番に備える。

 これがチームとしてのやり方だった。

 そして日も暮れ、練習を終えた皆がプレハブ小屋に戻ってくる。

 我がチームのホームにはシャワーが無いので、一旦校舎のシャワー室で汗を流してからの集合だった。

 

「皆、お疲れやで! 今日はこのタマモクロス特製のたこ焼きスペシャルや!」

 

 そして振る舞われる、タマのたこ焼き! 

 いつも練習前か練習後に俺とタマが交代で軽い食事(ウマ娘基準)を作る。練習がハードな時は後から作るようにしているのだ。

 

「やはりタマの作るたこ焼きは美味いな……」

 

「本当に……たまりませんわ」

 

 舌鼓を打つオグリとグラス。しかし結構動いた後に、これだけ食べられるのは本当に凄い。

 やはり人間とウマ娘は違うということを、まじまじと実感していた。

 

「しかし皆、よく食べるなぁ」

 

「成長期だからな!」

 

 もう高等部2年生のオグリがハムスターのようにたこ焼きを頬に詰めて言った。

 これで更に成長するとか、凄いな……

 

「確かにこれだけ食べて太らないのは羨ましいな。勿論、レースとかで動くのもあるだろうが……」

 

「まあそれに体を作るのに飯は必要やからな! ウチがあんまり喰えんかった分、皆には食べて欲しいからな」

 

「ありがとう、タマ……感謝するぞ」

 

「タマ先輩、おかわりをお願いします」

 

「おう、まかしときっ!」

 

 平穏な日常。 

 トレーナーである俺がこんなことを思うのはいけないかもしればいが、こんな日常が続いていけばいいな……

 そんな日常の風景だった。

 だがコレで終わるほど、人生は中々甘くない。

 意外な落とし穴がその後に待っていたのだ。

 数日後。 

 

「太り気味……だな」

 

 ふくよかになってしまったオグリとグラスを見て、俺は頭を抱えるのだった。 

 

 確かに思い当たる節は幾つもあった。

 目標となるレースまで大分、時間があること。

 その間は基本チームレースだけであること。

 練習量はそこまで変わらないこと。

 それなのに食事量を変えなかったこと……

 

「全部俺の責任だ。すまない……二人とも」

 

「いや、ウチも皆が食べて喜ぶのを見とうて作りすぎた」

 

 なんだかんだ言って、自分が作った料理を喜んで食べてくれる人を見るのは、嬉しいモノなのだ。

 

「このグラス……一生の不覚。悔やんでも悔やみきれません……」

 

 ぽっこりとなってしまったお腹を擦りながら、グラスが悔しげに俯いた。

 オグリが凄まじすぎて目立たないが、グラスワンダーも結構な健啖家なのだ。

 

「すまない二人とも……私も節操なく食べ過ぎた……ところで、今日のまかないは何だ?」

 

「食べる気なんかい! ちっとは気にせぇや!」

 

 相変わらずマイペースなオグリにツッコミいれつつ、タマはウララとスカーレットの方を見た。

 

「そう考えると二人は太ってヘンな」

 

「ウララはオグリ先輩たちほど食べてないからだよぉ」

 

 ウララもいつも通りの朗らかさで答えた。確かに、ウララは食べることは食べるがオグリ達に比べれば一般的な量であった。

 しかしそう考えるとグラス並みに食べているスカーレットはどうなんだろうか。

 

「いえ……実はあたしもちょっと……」

 

「何々? 太ったんか?」

 

 目ざとくタマが突くと、スカーレットは頬を朱くして俯いた。

 

 ――バチン!

 

 瞬間、そんな音と共にスカーレットの胸元から何かが飛んだ。

 

「やだ……またボタンが……」

 

 開けた胸元を両手で恥ずかしそうに隠しながら、スカーレットは体を縮こませた。

 なる程、彼女は胸に栄養が集中するタイプらしい。

 とはいっても未成年の少女の胸を見るわけにはいかないため、俺は咄嗟に目を逸らした。彼女がチラチラ俺の方を見てきた気がするが、あえてスルーした。

 

「……グラス……何で神様はこんな残酷なんやろうな」

 

「違いますよ、タマ先輩。残酷なのは世界なんです……」

 

 異様にテンションが落ち込んだタマとグラスの背中を擦ってあげている、ウララはいい子だと思う。

 

「と、言うわけでダイエットだ。勿論、二人だけとはいわん。俺も同じように食を減らすから、一緒に頑張ろう」

 

「あたしも参加します。勝負服が苦しくて……」

 

「スーちゃん。もしかして喧嘩を売っているのかしら~」

 

「ちょっ……そんなつもりじゃ……」

 

 予想以上に卑屈になっているグラスに、さすがのスカーレットも狼狽えていた。

 だが彼女以上に狼狽しているのは、オグリだった。

 

「だ、ダイエット……だと……」

 

 まるでこの世の終わりのような表情で、オグリは立ち上がった。

 

「本気なのか……トレーナー」

 

「ああ……」

 

「食べられないのか……君とタマの料理が……」

 

 瞳を潤ませて上目遣いで見てくる彼女に一瞬、決心が揺らぎかける。大型犬みたいで本当に可愛い……が、心を鬼にして俺は頭を立てに振った。

 

「一緒に……頑張ろう」

 

「あああ……タマ……」

 

 すがる様にオグリはタマを見た。

 

「言っとくけど、ウチは容赦せんで。痩せるまでビシバシいくで」

 

「ほんのちょっと……いつも通りの、ほんのちょっとだけでいいんだ」

 

「いつも通りだとアウトやろ」

 

「オグリ先輩。私も不退転の覚悟で挑みます。共に骨身削って、身体を搾りましょう」

 

「ぐ、グラス。顔が怖いぞ……」

 

「……私はお腹でスーちゃんは胸なんて……こんな理不尽……許されない……」

 

 かなり私怨も混じっていそうだが、グラスはやる気のようだ。

 

「摂取したカロリーよりも動けば自然と痩せていくはずだ。だからここでカロリーをよく使う、スタミナとパワーを鍛えるトレーニングを行なっていく」

 

「確かに水泳やタイヤ引きか、確かに痩せそうやな」

 

「ウララもぱわーの練習するよ! 一緒にがんばろー!」

 

 元気いっぱいのウララに絶望的な顔で連れていかれるオグリと、凄まじく強張った顔でついて行くグラス。

 こうしてチーム・アンタレスのダイエットは始まったのであった。

 しかし……

 

「オグリっ! 何、食堂でがっついとんねん!」

 

「チームのホームで何も食べられないんだ……ここで食べるしか無い……そう思った」

 

「グラス先輩! 落ち着いて下さい! あれは食べ物ではありません!」

 

「離してスーちゃん……ライスのシャワー……つまり、夢の炭水化物」

 

「ライスちゃんはご飯じゃないよ-」

 

 食堂で盗み食いしようとするオグリに、ウララの友人であるライスシャワーを食べようとするグラス。

僅か3日でこの有り様だった。

 

「オグリは兎も角、グラスもここまで追い込まれるとは思わんかった……」

 

 オグリを椅子に縛り付けたタマが、げっそりとして言った。

 

「元々、成長期であるのとアスリート

として体作りのために沢山食べてたからな」

 

生き物の三大欲求の一つを封じているのだから、その辛さも人一倍だろう。これも俺の管理能力の甘さが招いたこと。二人には申し訳ない……たまたまウララと一緒にいただけで襲撃されかかったライスシャワーにも申し訳ない。怯えてウララの影に隠れてしまっている。

 

「どないすんや? このままじゃ餓えた二人が暴れだすは時間の問題やで?」

 

「……そうなったら止められるか?」

 

「……天然のフィジカルモンスター、オグリとチーム最大の武闘派グラスを止めれると思うか?」

 

「…………」

 

 考えただけで絶句する。二人とも人智を越えたパワーを持つウマ娘。そんな彼女たちがリミッターを外して襲ってくれば、俺はミンチより酷い状態になりかねない。

 

「……仕方ない。可哀想だけど、最後の手段を使う」

 

「最後の手段?」

 

 目をパチクリとさせながら、タマは俺の顔を覗き込んで尋ねた。

 

「……週末、合宿を行う。用意しておいてくれ」




後編に続く……予定です

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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