ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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遅くなって申し訳ありません。

アニバーサリーで追加された新シナリオとか、新しい育成とか、チャンミとか色々楽しすぎて、中々書けませんでした・・・・・・

あと長距離育成難しい。


オグリキャップ物語3

 ――タマは最大の好敵手であり、最高の親友なんだ。

 後にオグリ先輩はよくインタビューでタマ先輩のことを尋ねられると、一貫してこう答えていたようです。オグリ先輩にとってタマ先輩がどれだけ大事な存在だったかが、よく伝わってきます。そんな二人がオグリ先輩の転入初日から出会えたのは、正に運命といって差し支えないでしょう。

さて、ここでもう一人。後にオグリ先輩の運命を左右する、重大な人物がここから登場します。その人はオグリ先輩は勿論、私たちチーム・アンタレスにとってなくてはならない存在なのでした――

 

毎朝五時に起きて自主練を行うのが、オグリキャップのカサマツ時代からの日課であった。朝になると自然に目が覚める。オグリはベッドから体を起こすと、両腕をぐいと伸ばした。

今日も快調だ。頑張ろう。そう思い、ふと横のベッドに視線を向けた。

昨日タマモクロスが目を覚ましたのはオグリが食堂から帰って来た後であった。自身がオグリを誘っておきながら寝落ちしてしまったことを彼女は謝ると、すぐに食堂に行って軽食を済ませ戻ってきた。そしてすぐに消灯時間となり、二人はほとんど会話も出来ないまま、寝床に就いたのであった。

タマモクロスのベッドは既に空になっている。この時、彼女はオグリより早く起きて朝練に向かった後であった。オグリはそこまで知らなかったが、漠然ともう走りに行ったんだろうなと考えた。ならば自身もと、ジャージに着替えてから部屋を後にするのであった。

「……むう」

 

数分後、オグリは学園の中庭で途方に暮れていた。

 

「おかしい……歩いても歩いても同じ場所に辿り着いてしまう……」

 

 辺りをキョロキョロ見渡しながら、オグリは淡々と呟いた。すでにこの道を4周は回っている。それなのに見える景色はほとんど同じに感じられた。

 

「ひょっとして中央には同じ場所がいくつもあるのか……」

 

慣れない土地とはいえ、オグリの方向音痴は度を越していた。山や森といった自然豊かな土地なら彼女は問題ないのだが、人工物多い都市部ではかなり方向感覚が狂ってしまう性分なのである。

 現在もオグリは朝練のためにグラウンドへ向かっているのだが、全く辿り着けずに同じところをウロウロしているだけであった。

 

「ううん……一体どうすれば……」

 

 困った様子で、オグリが眉をしかめた時だった。

 

「どうしたんだい?」

 背後から急に声をかけられた。

 ふと声の方向に振り返るとそこには男性が一人、立っている。

 第一印象は、特に変わったところのない人だなという感じだった。。

 目立った特徴も無い、若い青年。朝だからか、動きやすそうなジャージを身につけている。

 恐らく中央のトレーナーだろうが良くも悪くもこれといった特徴が無く、存在感の薄そうな男であった。

 

「不思議なんだ。グラウンドへ向かっているはずなのに、先程から何度も何度も同じ場所に辿り着いてしまう」

 

 何の警戒心も抱かずにオグリは答えた。

 

「この学園には全く同じ見た目の場所がいっぱいあるのか?」

 

「丁度よかった。俺もこれからグラウンドに行くんだ。一緒に行かないか?」

 

「む……それならいいな。すまないが、頼む」

 

「ああ、任せて欲しい」

 

 青年はにこやかに微笑むと歩き出した。オグリもその後をゆっくりと着いていく。

 

「……ところで、キミは誰だ? そういえば知らない顔だ」

 

「ああ、ここでトレーナーをやっているんだ」

 

 学園所属のトレーナーなら安心だろう。オグリは無邪気にそう思うと、彼の横に並んだ。

 自分より頭二つほど大きく、思った以上にガッチリとしている。

 

「君も見ない顔だな。もしかして新入生かい?」

 

「ああ……昨日編入してきたばかりだ。よろしく頼む」

 

「こちらこそ。俺は実技の教育にも出てるから、もしかしたら授業で会えるかもな……っと、着いたな」

 

 あっという間にグラウンドへ到着した。先程まで全く辿り着けなかったのが嘘のようだ。

 早朝のグラウンド。まだ寒さの残る季節であり、人影もまばらだった。

 そんなグラウンドの中にいるウマ娘の一人に、トレーナーは声をかけた。

 

「タマっ!」

 

 手を挙げて声を上げると、小さな芦毛のウマ娘がひょこっと顔を上げる。

 その顔はオグリの見知った顔だった。

 

「おう、トレーナー。待っとったで……って、お前はオグリキャップやないか。どしたん?」

 

「なんだタマ。この子と知り合いか?」

 

「知り合いも何も、昨日ウチが言うた新しいルームメイトや」

 

「そうか……君が」

 

 トレーナーはじっとオグリの顔を見た。

 彼は恐らくタマモクロスのトレーナーなのだろう。それは理解出来た。

 だが学園のトレーナーとはいえ、年上の男性に顔を凝視されるのは、オグリでも少し恥ずかしかった。

 

「ああ、すまない。改めまして、タマモクロスのトレーナーだ。ウチのタマがこれから世話になると思うけど、よろしくな」

 

「……ああ、こちらこそよろしく。オグリキャップだ」

 

 ずいっと伸びてきた右手を握る。昨日のタマモクロスを思いだして、何となくこの二人は似た者同士なんだなぁと思いながら、オグリは握手を交わした。

 

「あ、もしかしてあんたも朝練か?」

 

「ああ、毎日の日課なんだ」

 

 それだけ言うと、オグリキャップは黙々とストレッチを行ない始める。いつも行なっている簡単な柔軟体操だったが、気が付くとタマモクロスとトレーナーが彼女を注視していた。

 

「あんた、柔らかいんやなぁ」

 

「ああ、凄いな。こんなに柔軟なウマ娘は見たことがない」

 

「そ、そうか?」

 

 カサマツでもよく言われた体の柔らかさだったが、改めて言われるとやはり照れる。

 オグリは照れくささを隠すように立ち上がると、気合いを入れるように両肩をぐるんぐるんと回した。

 

「……せや、折角やから二人で走ってみんか?」

 

 何の気も無しにタマモクロスが提案してきた。

 ルームメイトとの仲を考えて、誘ったのかもしれない。

 

「いいのか?」

 

「ああ、袖振り合うも多生の縁てな。ちょっとひとっ走り付き合えや」

 

「おいおい、タマ。いくらルームメイトっていっても、相手は昨日編入してきたばかりの子だろ? さすがにいきなりお前が相手じゃ……」

 

 この頃、タマモクロスは既に重賞を幾つも制していた。

 一方のオグリキャップは実績はあるものの、中央で走ったことは皆無。

 トレーナーが心配するのも無理も無いことだった。

 

「私は構わないぞ。中央のウマ娘と一度走ってみたかったんだ」

 

 なんでもないように言うオグリに、さすがのトレーナーも苦笑した。

 

「よっしゃ、ええ度胸や! さっそく走ろか! 距離は800位でええか?」

 

 気合いを入れたようにタマモクロスはスタートラインに立った。

 それに続いてオグリキャップも横に並ぶ。

 

「む・・・・・・」

 

 トレーナーの口からそんな声が漏れた。

 若いとは言え桐生院葵の元で修行し、マルゼンスキーやタマモクロスを見てきた男である。

 ウマ娘の体つきを見て、オグリキャップが何となく他のウマ娘と違う事を朧気ながら理解したのだろう。顔色が少し変わった。

 

「位置について、よーい・・・・・・スタート」

 

 トレーナーが腕を振り下ろした瞬間だった。

 

「――っ」

 

 風が吹いた。

 綺麗なフォームで一気に飛び出したのは長身の芦毛。

 オグリキャップは好スタートを切ると、そのまま一気に加速していく。

 トレーナーは思わず自分の愛バを探した。オグリキャップの真後ろ。ピッタリ着いている。

 タマモクロスが出遅れた。いや、オグリキャップの出だしが想像以上に好調だったのだ。

 だがそれ以上にトレーナーを驚かせたのは。

 

「な、なんだあの走りは・・・・・・」

 

 オグリキャップの走法であった。

 地面に着かんばかりに頭を下げ、倒れ込むように走り進んでいく。

 体を前に出せば体も前に行く。ならば身体を傾けて前へ前へ進むように走ればいい。

 超前傾姿勢。

 そう呼ばれる走法だった。

 シンプルであるが危険な走り方。これは理論上可能だが恐らく使いこなせるウマ娘はいないだろうと、彼は師である桐生院葵に教えられた。

 当たり前だ。前のめりに体を傾ければ走るよりも先に体が倒れる。

 普通なら不可能な走法であった。

 それを。

 ごく当たり前のようにやっている。

 

「マルゼンともタマとも違う・・・・・・」

 

 思わずトレーナーはオグリキャップの走る姿に釘付けとなった。

 

「なんて走りだ・・・・・・ダートの癖が抜けてないが・・・・・・そうか、柔らかさか・・・・・・」

 

 ストレッチの時に見せた身体の柔軟さ。それがあの走り方を可能としているのだろう。

 そしてあの加速とスピードを維持するバネの強さ。

 並の才能ではない。トレーナーは思わず拳を握りしめた。

 

「何てウマ娘だ・・・凄い・・・・・・だけど」

 

 ――タマには勝てない。

 

「っ・・・・・・」

 

 オグリキャップが大きく息を呑んだ。ゴールが迫る直前で一気にタマモクロスが抜けた出したのだ。

 タマモクロス本来の走り。

 並ぶと強い勝負根性。それが爆発した。

 

「すまんが・・・・・・先いくで!」

 

「くっ・・・・・・」

 

 オグリキャップは必死に食らいついたが、それでもタマモクロスとの間は縮まらなかった。

 一歩、二歩、三歩・・・・・・タマモクロスはオグリキャップを引き離していく。

 縮まりそうで縮まらない、永遠の差。

 そして遂にタマモクロスがゴールを迎えた。

 

「・・・・・・すげぇ」

 

 トレーナーはストップウオッチのボタンを押すのも忘れて、二人の勝負に魅入っていた。

 自身が育ているタマモクロスに、彼は絶対の信頼と自身を寄せている。そして彼はトレーナーとしてそこそこ場数を踏んでいるからこそ、贔屓目抜きにウマ娘の実力を把握することが出来た。

 タマモクロスの実力は同世代の中でも抜きん出ている。

 今のトレセン学園で彼女と互角に戦えるウマ娘はほとんどいない。

 思い当たる近い世代はスーパークリークくらいだ。

 しかしこのオグリキャップはそれを遙か上を行った。

 もしも、という話はレースには無いが。もしもオグリが修練を積めばタマを刺せるかもしれない――

 

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・くっ・・・・・・」

 

 レースを終えたオグリキャップは悔しそうに俯いている。

 

「・・・・・・・・・・・っはぁっ! あ、あんた強いなぁ! ビックリしたで!」

 

 その横で息を切らしながらタマモクロスはオグリを激励するのだった。

 

「・・・・・・中央には・・・・・・強いウマ娘がいっぱいいると聞いたが・・・・・・本当だな・・・・・・ありがとう、タマモクロス」

 

「タマでええで」

 

「・・・・・・そうか、ありがとうタマ。私の事はオグリでいい」

 

 オグリキャップはどこか嬉しそうだった。

 そしてそんな二人に近づく影が一つ。

 

「す、すごかったぞ君!」

 

 タマモクロスのトレーナーだった。

 彼は興奮を隠そうともせず、オグリキャップの手を取った。

 

「タマとここまで走れるとは・・・・・・いや、凄いのはその走り方もだ! 超前傾姿勢走法を本当にやれるウマ娘がいるなんて・・・・・・」

 

「い、いや・・・・・・」

 

「どうだい? 俺のチームに入らないか? 君ならきっとタマに匹敵するウマ娘にひでぶっ!?」

 

「いきなり何を言うとるんや! オグリが困っとるやろ!」

 

 喰い気味でオグリキャップに迫るトレーナーの頭をタマモクロスがぶっ叩いた。

 

「痛いじゃないかタマ」

 

「この阿呆! オグリが気になるんは仕方ないとして、誘い方が強引なんや!」

 

 タマモクロスは強引にトレーナーを引き剥がすと、オグリキャップにペコリと頭を下げた。

 

「すまんなオグリ。ウチのトレーナーが驚かせてしもうて」

 

「・・・・・・いや、大丈夫だ。少し驚いただけだ」

 

 オグリキャップは息を落ち着かせてから、二人の方を見た。

 

「二人はチームを組んでいるのか?」

 

「せや! チーム『アンタレス』! ウチはそのエースやで!」

 

「・・・・・・まぁ、タマしかチームにいないんだけどな・・・・・・」

 

 ずーん・・・・・・トレーナーとタマモクロスは肩を落とした。

 アンタレス・・・・・・どこかで聞いたことがあるな・・・・・・とオグリは考えたが上手く思い出せなかった。

 

「でもなオグリ。ウチらのチームは人手が少なくてな。オグリやったら大歓迎やで!」

 

「ああ! 一緒にチームで頑張らないか?」

 

 トレーナーとタマモクロスは笑顔で誘ってきた。

 

「・・・・・・うん。誘いはありがたいのだが・・・・・・少し考えさせてくれ」

 

 オグリがそう言うのも無理は無かった。

 中央では専属トレーナーかチームに所属しなければ公式のレースに出場出来ない。

 だからこそ中央トレセン学園では、どのトレーナーと組むか。どのチームに所属するかが大切になってくるのだ。

 ここでいきなりチームを決めるのは、さすがのオグリでも早いと思うのは当然であった。

 

「まぁ、そうなるな。でも、もし興味があったらウチらのチームに興味があったら何時でも見学しに来てくれや! 待っとるで!」

 

「ああ・・・・・・そうさせて貰うぞ」

 

「せや! 折角やし今日の放課後も一緒に併走せんか? オグリ位走れるウマ娘なんて中々おらんからな・・・・・・」

 

「むう、それは・・・・・・すまない。実は放課後には先約があるんだ」

 

「先約?」

 

「ああ。ルドルフと併走する約束を昨日したんだ」

 

「るどるふ・・・・・・? ルドルフって・・・・・・まさか」

 

 オグリはすっ・・・・・・とトレセン学園の校舎の方を指差した。その方角には生徒会長室があった。

 

「せ、生徒会長・・・・・・皇帝・シンボリルドルフか!?」

 

「知っているのか?」

 

「知ってるも何も・・・・・・この学園で知らんヤツなんておらんやろ・・・・・・」

 

「さすが地方から転入してきただけはあるな・・・・・・まさかあのルドルフとは」

 

「どうした、汗が凄いぞ」

 

「・・・・・・会長とは色々あってな・・・・・・」

 

 アンタレスのトレーナーはかつてマルゼンスキーをシンボリルドルフが所属するチーム・リギルから引き抜いた過去がある。

 その時以来、ルドルフは何となくアンタレスに強く当たっている気がするのである。

 

「そうか・・・・・・それはすまなかったな」

 

「いや、トレーナーがそう思い込んどるだけや。気にせんでええで」

 

 そんな時だった。

 

 ――ぐぅううううううううううううっ!

 

 オグリの腹が大きく鳴った。

 

「・・・・・・お腹が空いたな。タマ、一緒に朝食にいかないか」

 

「・・・・・・思った以上にマイペースやな」

 

 タマは苦笑すると立ち上がった。

 

「迷わないように一緒に行ってやれよ、タマ」

 

「モチロンや。ほら、オグリ。着いてき!」

 

「む、タマのトレーナーは行かないのか?」

 

「俺はまだ仕事の準備があるから・・・・・・また後でな」

 

 トレーナーはヒラヒラと手を振った。

 

「・・・・・・何だか変わった人だな」

 

「せやな。ウチのトレーナーはちょっと変わっとる。でもな・・・・・・いい兄ちゃんやで」

 

 嬉しそうにタマモクロスは言った。

 その様子がオグリキャップには何となく羨ましかった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 放課後。トレセン学園の校庭はにわかに盛り上がりをみせていた。

 

「・・・・・・ふぅ」

 

「併走感謝するよ、オグリキャップ」

 

 トレーニングコースを併走する二つの影。

 片方はこの学園の生徒会長、皇帝・シンボリルドルフ。そしてもう片方はオグリキャップである。

 二人は外周を一周してスタートラインに戻ってきていた。

 そんな二人の練習風景を多くのトレーナー達が注目して見守っていた。

 現トレセン学園で最強と名高いシンボリルドルフと注目の転入生であるオグリキャップが併走するのだ。

 トレーナーとしてはオグリキャップの素質を確かめるための絶好の機会である。

 だからこそトレセン学園中のトレーナーが、ここへ集まってきたのだった。

 

「おーおーいきなり会長さんと併走とは、とんでもない転入生が入ってきたな」

 

 そんなトレーナーの輪から少し離れた所にいた三鷹が、オグリキャップの方を見ながら言った。

 その隣には同期の鮫島が立っている。

 

「しかも皇帝に勝るとも劣らない体のバネと足腰の力・・・・・・間違いない。本物だ」

 

「へえ、お前がそこまで言うとはな・・・・・・なら是非ともウチに欲しいところだが・・・・・・」

 

 そこまで言って三鷹は苦笑した。

 

「東条ハナ女史か・・・・・・皇帝繋がりで勧誘に来たか」

 

「それだけじゃねぇさ。あっちにはスピカの先輩とシリウスの爺様もいるぜ」

 

「南坂先輩に師匠もいるな」

 

「ココにいるトレーナー全員がオグリキャップ狙いってわけか・・・・・・ホントに怪物がやってきたようだな」

 

「あの才能ならどんなチームでも通用するだろう。ダイヤの原石どころか、ダイヤモンドそのものだ」

 

「ああ。どんなトレーナーだって欲しいと思うさ・・・・・・しかし、なんであいつは来てないんだろな?」

 

 三鷹はそう言って誰かを探すように、周囲を見渡した。

 トレセン学園の有力チームのトレーナーがほぼ全員集まる中で、只一人このグラウンドに姿が無いトレーナーがいる。

 それは三鷹と鮫島がよく知る男であった。

 そしてその男は熱気渦巻くグラウンドから、大分離れた場所にいた。

 

「・・・・・・なぁ、トレーナー」

 

「何だタマ?」

 

「会長とオグリの併走、見に行かんでもよかったんか?」

 

 チームアンタレスのホーム。噂のトレーナーは担当バのストレッチを手伝っていた。

 

「うーん。確かに気にはなるけど・・・・・・オグリの走りはもう見せて貰ったからな」

 

 小さなタマモクロスの背をゆっくりと押しながら、トレーナーは続けていく。

 

「まあ勧誘はするつもりさ。あんな凄い走りをするウマ娘は中々いない。是非とも育ててみたい逸材だ」

 

「・・・・・・やったら」

 

「でも今はタマの方が重要だ。なんたって春の天皇賞が控えているんだからな」

 

 タマモクロスにとって天皇賞は特別なレースだった。それを知っているからこそ、トレーナーも彼女の勝利のために全力を注いでいた。

 

「何、心配するな。今日は多くのトレーナーが勧誘に行くだろうからな。俺みたいな若輩がオグリに近づける機会は無いさ」

 

 そこまで言ってトレーナーは大きく息を吐いた。

 

「だが、必ず俺も勧誘にはいく。ただ、今はタマの練習に全力出さないとな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「絶対に春天を獲って、白い稲妻の名前を天下に轟かせてやろうぜ」

 

「・・・・・・せやな。チビ達や、チームのためにもビシッと決めてやらんとな」

 

 タマモクロスとトレーナーはお互いの顔を見て、ニカっと笑った。

 この時のトレーナーは自身が言ったとおり、天皇賞に向かうタマモクロスが最優先であったし、オグリキャップのことは気になっていたが今のチームに入ってくれるかどうかは自信が無い状態だった。

 何せあのポテンシャルだ。他のトレーナーだって黙っていないだろう。

 そして現在のアンタレスは練習器具さえ満足に使えない貧乏チームである。そんな所にあんな才児が来てくれるとは内心、思っていなかった。

 

「・・・・・・でも折角、同じ部屋なんや。それに同年代であれだけ走れる奴はおらん・・・・・・」

 

 タマモクロスはトレーナーに聞こえるか聞こえないかの声で、人知れず呟くのだった。

 

 ――これ以降、タマモクロス先輩とオグリキャップ先輩はよく一緒に行動するようになったといいます。

 ウマが合う、というんでしょうか。

 クラスは違いましたが、休み時間や放課後は仲良く並んで走っていたそうです。

 特にオグリ先輩は方向音痴の気があったので、タマ先輩は迷子になったオグリ先輩をよく探しに行ったそうです。

 同年代でこの二人の走りについていけるウマ娘などほとんどいませんでしたし、互いにどこか変った所のある二人はまさに名コンビであったのですね。

 そしてオグリ先輩がタマ先輩と一緒に行動することで、自然とトレーナーさんともよく顔を合わせるようになりました。

 トレーナーさんはオグリ先輩をよくチームに誘ったようですが、この時のオグリ先輩はまだチームやトレーナーとの契約の仕組みについてよく分かっていないようでした。

 なので、オグリ先輩がアンタレスに入るのはまだまだずっと先の話なんですね。

 むしろオグリ先輩にとって、大きな問題がこの後に訪れます。

 クラシック登録と日本ダービー。

 オグリ先輩をトレセン学園内部から一気に世間へと有名にしたこの事件が、正に刻一刻と迫っていたのです――

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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