ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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オグリとイチャイチャしたい日々でした。


買い物に行こう

「トレーナー、何処かに行くのか?」

 

 放課後。学園の駐車場に向かっていた俺の後ろから、そんな声がかけられた。

 

「おお、オグリか。授業は終わったのか?」

 

 振り向くと芦毛と澄んだ瞳が美しい少女が立っている。

 

「ああ、今さっき終わった。これから部室に行くところなのだが・・・・・・トレーナーは?」

 

「俺は今から買い出しに行ってくる。食料が尽きてな・・・・・・」

 

 俺がそう言うと、オグリの表情が変わった。

 

「なん・・・・・・だって・・・・・・それじゃまさか」

 

「ああ、このままではお前に料理を作ってやる事が出来ない」

 

 オグリが大きく目を見開いた。

 レース中でも滅多に表情を変えない彼女だが、食に関することだと目まぐるしく顔色を変える。

 こういう意外な所が結構可愛かったりする。

 このまま世界が滅びるんじゃないかと思うくらい絶望的な顔をしながら、オグリはよろよろと俺に縋り付いてきた。

 

「・・・・・・食べられないのか。キミの料理が・・・・・・」

 

「・・・・・・いや、そんなことはないぞ!」

 

 俺はオグリの震える肩を抱いて力強く言った。

 

「オグリに毎日、料理を作ってやる・・・・・・俺が約束したことだ。必ず、守るよ」

 

「と、トレーナー・・・・・・」

 

「今すぐ、食材を買いに行ってくる。待っていてくれないか」

 

「ひ、一人でいくのか?」

 

「いや、タマと行く。いつも一緒に買い出しに行ってくるからな」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 俺がオグリに毎日料理を作っている――といっても焼きそばやお好み焼きと言った簡単なモノだが――のは彼女がこのチームに入るときに交わした約束だった。

 ・・・・・・餌で釣ったわけではないぞ。決して。

 だがオグリは俺の予想する量の400倍くらいよく食べた。

 そもそもこのトレセン学園には巨大な食堂があり、学園関係者なら消灯時間までは何時でも自由に使えるようになっている。

 食べ盛りのウマ娘たちが利用する施設だけあって、かなりの量の食材がここには備蓄されていた。

 だがそれを使えるのは食堂の料理人のみ。まあ、当たり前だ。

 なので俺がオグリに料理を振る舞うときは、食材は自己調達である。経費でも落ちなかった。

 普通に考えて、食堂があるのにわざわざウマ娘に料理を振る舞うトレーナーなどほとんどいないだろう。

 だが俺はそのほとんどいないトレーナーの一人だった。

 おかげで俺の給料の大半は食費に消え、常に金欠状態を維持している。

 そして冷蔵庫が空になれば、車を走らせ業務用スーパーに調達しに行く。これがチーム・アンタレスの日常だった。

 だが今日は少し違った。いつもなら買い出しは俺とタマで行くのであるが・・・・・・

 

「きょ、今日は私が行こう」

 

 オグリがそんなことを言ってきたのだ。

 

「いや、大丈夫だぞ。オグリはグラスとスカーレットと一緒に練習を・・・・・・」

 

「私が行こう。行かせてくれ」

 

 結局強引に押し駆られる感じで、俺はオグリと買い出しに出かけたのだった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

 軽トラを暫く走らせて、だいたい30分の場所に行きつけの業務用スーパーがある。

 俺はいつものように駐車場に軽トラを停めると、オグリと一緒に入り口へと向かっていく。カートの上と下にカゴを入れて準備完了。

 そのままカートを押して店の中へと入っていく。

 

「いらっしゃいま――ああ、トレーナーさん。何時もご苦労様です」

 

 入ってすぐに店員さんが挨拶してきた。

 このスーパーにはよく通っているので、店員さんとはすっかり顔馴染みになっていた。

 

「あれ、今日はいつもの娘と一緒じゃないんですね」

 

 店員さんは俺の横にいるオグリを見て言った。

 彼の言うとおり、いつもはタマと一緒に来店するから今日のオグリは新鮮なんだろう。

 

「ああ、タマは今日用があってね。代わりにこの子が手伝ってくれてるんだ」

 

「こ、こんにちわ・・・・・・」

 

 緊張しているのか、オグリはぎこちなく頭を下げた。

 

「はい、いらっしゃいませ。トレーナーさんにはいつもお世話になってますよ」

 

「は、はぁ・・・・・・」

 

「今日もモヤシを貰うよ。あと、キャベツと人参も欲しい」

 

 キャベツはちょっと高いけど・・・・・・食物繊維豊富だし、あったほうがいいだろう。

 

「いつものですね。ちょうど補充したばかりですよ」

 

 俺は慣れた手つきで野菜をカゴに入れていく。特にモヤシは安いから買い込んでおかないと。

 その後はお好み焼き粉を買い、そのまま精肉のコーナーに向かう。

 安い鶏肉は我がチームにおける食料の要なのだ。

 

「あら、いらっしゃい。あれ、今日はタマちゃんいないのかい?」

 

 精肉コーナーに辿り着くと、精肉のパートさんが話しかけてきた。

 この人は普段からよく話かけてくれて、タマとは仲がよかったのだ。

 

「ええ、今日は用事がありまして。代わりにこの子が来てくれました」

 

「あらまあ。随分、綺麗な娘なこと。トレーナーさんも隅に置けないねぇ」

 

 こういうゴシップが好きなおばさんは、そんな風に俺とオグリを交互に見てニヤニヤ笑った。

 

「な・・・・・・い、いや、私とトレーナーはそんな・・・・・・」

 

 冗談に慣れていないのかオグリは珍しく赤面し、しどろもどろになってしまう。

 

「この子もタマと同じ、俺の担当しているウマ娘ですよ。そういった関係じゃないですよ」

 

 全く女の人は男女が揃っているとすぐにそういう関係だと邪推するんだから・・・・・・と考えていると脇腹に痛みが走った。

 見るとオグリが頬を膨らませながら、脇腹を抓っている。

 

「な、なんだオグリ!?」

 

「・・・・・・なんでもない」

 

 俺が尋ねてもオグリは頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 突然、不機嫌になったオグリに違和感を感じつつも、俺は鶏肉をカゴへと入れていく。

 そんな二人の様子をパートのおばさんは微笑ましい顔で見守っていた。

 

 やがて買い物は終わり、パンパンになったエコバッグを両手に俺とオグリはスーパーを出た。

 オグリはさっきから何故かむすっとしていて、ちょっと素っ気ない感じだ。

 荷台に荷物を載せて、エンジンをかける。

 隣の席にオグリが座った時だった。

 

「オグリ、これを」

 

「むっ・・・・・・これは・・・・・・パンか?」

 

「ああ、さっき買った惣菜パンだ。腹減っているだろ? 先に食べておけ」

 

「え・・・・・・い、いいのか?」

 

「ああ。買い物に付き合ってくれたお礼だ」

 

 俺はそのまま軽トラを発進させる。

 オグリは無言でパンを見つめていたが、やがて袋から取り出すとかぶりつき始めた。

 

「・・・・・・トレーナーは」

 

 暫く走った所でオグリが口を開いた。惣菜パンはもう食べてしまったらしい。

 

「何時もこんな風に裏で働いてくれていたんだな。私はいつもご飯を食べるだけだった・・・・・・」

 

「それでいいんだよ。オグリは。食べて走って踊るのがウマ娘の仕事だ。それをフォローするのが俺たち、トレーナーなんだしな」

 

「・・・・・・いや、私達は同じチームだ。やらなければならないことは、共に分かち合いたい」

 

「オグリは真面目だなぁ」

 

 進む道の先にトレセン学園が見えてきた。俺はほんの少しだけ軽トラのスピードを上げる。

 

「皆、待っているだろうし早く帰ろうか」

 

「・・・・・・ああ、そうだな」

 

 今日はお好み焼きを焼いてやろう。タマには色々言われるだろうけど、皆がいっぱい食べられるハズだ。

 そんなことを考えながら、俺は車を飛ばしていくのだった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「すまんなぁ、オグリ。本当はウチの仕事なのに、代わりに行ってもろて」

 

「いや、このチームで一番食べているのは私だ。ならば本来なら私が買い出しに行くべきだったのだ。だから今後は、私がトレーナーに同行しよう」

 

「いやいやいや。まだ東京に慣れんオグリに遠出させるのは辛いやろ。ウチが今まで通りにいくで」

 

「安心してくれタマ。私も最近都会になれてきた。大丈夫だ」

 

「待ってください先輩方。ここは最年少であるアタシが・・・・・・」

 

「抜け駆けは駄目よ~スーちゃん」

 

 その後、何故か誰が俺と買い物に行くかで四人が揉めていた。

 議論の結果、交代で俺の買い出しに同行してくれることになったのだが、それはまた別の話である。




四人は仲良しですが、トレーナーのことになると真剣にライバルになります。

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい

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