ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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練習風景

 俺たちチームアンタレスの最終期限が、刻一刻と迫っていたある日。

 

「すまん・・・・・・本当なら練習の指導をしなければいけないのに・・・・・・」

 

「ええよええよ。勧誘活動も大事や。グラスとダスカはウチらが責任もって指導するから、トレーナーは最後のメンバーを連れてきぃや」

 

「チームが無くなっては元も子も無いからな。トレーナーは出来ることを頑張ってくれ」

 

「すまん・・・・・・」

 

 胸を張って俺を送り出すタマとオグリに、俺は頭を下げた。

 勧誘活動も大事であるが、彼女達はあくまでもウマ娘の一人である。練習を疎かには出来ないのだ。

 そのため今日は俺が勧誘活動を行ない、皆は練習をすることにしたのだ。

 タマとオグリは高等部。トレセン学園に長く籍を置いているだけあって、練習慣れしている。特にタマは人に教えるのが上手かった。

 なので今日はタマ達に自主練をさせて、俺は勧誘活動に向かうことにしたのだ。

 頑張ってくれている皆のためにも、早く新メンバーを連れてこなければ。

 俺は胸にそう決めて、中等部の方へと進んでいくのであった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「よぅし! いい調子やグラス! そこまでや!」

 

 タマのかけ声と共にグラスがゴールへ到着し、ストップウオッチのボタンが押された。

 その直後にスカーレットもゴールし、同じようにオグリがタイムを計り終える。

 先程まで併せて走っていたグラスとスカーレットは肩で息をしながら、オグリから渡されたスポーツドリンクを飲み、汗を拭いていた。

 

「二人とも、タイム更新や! えらいいいあがりやなぁ。これなら次のレースにも期待できるで!」

 

「次のレースもいけるな・・・・・・」

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ありがとうございます・・・・・・」

 

「ふぅ・・・・・・オグリ先輩にそう言って貰えたら、自信になります・・・・・・」

 

 息を落ち着かせながらグラスとスカーレットは言った。

 怪物二世と呼ばれたグラスワンダーと、新鋭のホープと称されるダイワスカーレット。そんな既に若くして頭角を現している二人から見ても、タマモクロスとオグリキャップはやはり特別なのだ。

 

「さて、と。じゃあウチも走るとするか」

 

「そうか、併せウマは任せろ」

 

「ほう・・・・・・言っとくけどウチは練習だろうと手を抜くつもりはないで」

 

「奇遇だな。私もタマ相手に譲るつもりはない」

 

 タマとオグリはお互いニヤリと不敵に笑い、グラス達と入れ替わりでグランドに入っていく。

 

「タマ先輩とオグリ先輩の模擬レース・・・・・・」

 

「スーちゃん。しっかり見ておきましょう。二人のレースから学ぶ事は多いわ」

 

 息を整えたグラスとスカーレットが二人に視線を向ける。

 さらに周りで練習をしていた他のウマ娘達も集まり始めていた。

 

「グラス、スタート頼むで」

 

 タマがそう言ってホイッスルをグラスに渡してきた。

 二人は位置に着き、構える。それを確認するとグラスワンダーは一息ついた後、大きくホイッスルを鳴らした。

瞬間、風が吹いた――視界から二人の姿は一瞬で消え、地を蹴る音と共に巻き上がり、砂塵がグラスの頬に散っていく。

横にいたダイワスカーレットが息を呑む。二人の先輩は既にコースの彼方へ進んでしまっている。先頭を走るオグリキャップと、その後ろにぴったりと貼り付くタマモクロス。互いが牽制しあいながらも、2つの白い影は外周を回って、スタート地点へと戻り出していた。

 このコースは丁度、中距離レースと同じ2400mある。それは二人が得意とする距離の一つであった。

 

「す、凄い……」

 

 思わずスカーレットは呟いた。模擬戦とはいえ二人は本気である。その気迫、その力強さは本物のレースさながらだった。

 やがて最終コーナーを二人は回った。先行するのはオグリキャップ。その背後にピッタリとくっつくタマモクロス。

 大きく膨らんだ曲線を越えたところでタマモクロスが動いた。

 内側からぐんぐんと追い込み、一気にオグリに並ぶ。

 先に出ようとするタマと、逃げ切ろうとするオグリ。ラストスパートをかけ、ゴールまで一直線に駆け抜けていく。

 タマモクロスか、オグリキャップか。

 グラスもスカーレットも、いつの間にか集まった他のウマ娘やトレーナー達も固唾を呑んで、レースの行く末を見守った。

 ゴールに迫る二つの風。その白い閃光はほとんど同時にゴールに飛び込み、グラスとスカーレットはタイムウォッチを押した。

 同時に割れんばかりの歓声が飛び、二人の模擬レースは終わったのであった。

 結果は1/4バ身の僅差でタマモクロスの勝利。

 だが結果よりもトレセン学園でもトップクラスの実力を持つ二人が見せたレースに、観衆は大盛り上がりだった。

 

「お疲れ様です、先輩! 素晴らしかったです!」

 

 タオルとスポーツドリンクを持ってスカーレットが二人に駆け寄っていく。

 

「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・ありがとな、ダスカ」

 

「すまない・・・・・・」

 

 スカーレットから受け取ったスポドリを喉に流し込みながら、二人は肩で息をしながら答えた。

 

「タイムも上々です。ますますのご健勝・・・・・・素晴らしいですわ」

 

 グラスが感嘆の吐息を漏らす。ウマ娘として、そしてチームの後輩として、タマとオグリの勇姿は誇らしいものがあるのだろう。

 

「いやぁ、凄かった! さすが白い稲妻・タマモクロスと怪物オグリキャップだ!」

 

 突然、知らない声が聞こえてきた。

 見ると、集まっていたトレーナーの一人がこちらに話しかけてきている。その周りも他のトレーナーが集まっていた。

 

「これだけの力があれば学園では勿論、ドリームトロフィーリーグだって活躍できるだろう」

 

 芝居がかった台詞回しで男は近づいてくる。四人の顔が心なしか強張った。

 

「だけど今のままじゃ君たちはその真価を発揮できていない! そうは思わないかい?」

 

 男の言葉に同調するように数人のトレーナーがうんうんと頷いた。

 

「今のチームにいては、君たちは実力を発揮しれないと思うんだ」

 

 そこで何かを察したのかタマの眉間に皺が寄った。

 

「今のアンタレスにいては君たちは本来の実力を発揮できないだろう。それはウマ娘界の損失だ。だから僕のチームに移籍しないかい?」

 

 そこで残りの三人も、彼が持ちかけたのが引き抜きの事であることに気が付いた。

 チームの移籍。それは別に珍しい事では無い。

 より上位を目指すためにチームを変えるウマ娘。チームメイトとソリが合わず、新しいチームに変わるウマ娘。トレーナーに見初められて、引き抜かれるウマ娘・・・・・・様々な理由でチームを変わるウマ娘は多かった。

 特にトレーナーからしたら強いウマ娘を自身のチームに引き入れることは、そのまま自分の手柄になるのだから、イケイケのトレーナーは進んで引き抜きを行なっているのである。

 

「僕だったら君たちに適したトレーニングを施して、より強いウマ娘に育てることが出来る自信があるよ。少なくともあのトレーナーよりはね」

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

 スカーレットの眉がピクリと動いた。オグリも心なしかむっとした顔になり、グラスは徐々に冷たい笑みが浮かび始める。

 だが彼にとってはそれも予定通りなのか、話を続けていく。

 

「そもそも奴はマルゼンスキーの担当だっただけで、トレーナーとしてはまだまだ未熟だ。今だって君たちが強いからチームが存続できているだけで――」

 

「そこまでや。それ以上言ったら許さへんで」

 

 タマが男の声を遮るように言った。

 

「あんた、顔憶えとるで。昔、ウチのレースに顔を出しとったなぁ」

 

「え?」

 

 憶えがないのか、男は首を傾げた。

 

「あん時は『芦毛は走らない』って言われてたもんなぁ・・・・・・実際、どれだけウチが頑張って走っても勝てんかった。その時、あんたは何も言わんかったなぁ」

 

「え・・・・・・」

 

 憶えがないのか、男は困惑している。

 

「まあ、何言われようがウチはチームを抜ける気は無いし、他の皆も同じや。じゃ、失礼するで」

 

 その隙にタマは皆を連れて練習場を後にした。

 トレーナー達は何か言おうとしたが、何も言えず黙って彼女達の背中を見つめるだけだった。

 

 ・・・

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・

 

「タマ先輩、さっき言ってた事は本当ですか?」

 

「ん?」

 

 スカーレットにそう尋ねられ、タマは顔を上げた。

 暫し考え、ああ・・・・・・とタマは呟いた。それ程時間が経ってからのことだったのだ。

 

「今じゃ信じられんかもしれんけどな。ウチがデビューした頃は『芦毛は走れない』って言われとったんや」

 

 部室に向かう道でタマは言った。

 今でこそオグリやメジロマックイーンなど、活躍している芦毛のウマ娘は多くいるが、当時は皆無といっていい状態だったのだ。

 

「ウチは芦毛で、おまけにこの体格や。全然、期待されとらんかった。レースも連戦連敗で・・・・・・もうどん底だったんや」

 

 当時を思いだしたのか、タマは顔をしかめた。

 

「そんなウチを見てくれるトレーナーなんておらんし、チームに誘う奴なんて尚更やな」

 

「大変だったんですね・・・・・・」

 

 グラスにそう言われ、タマは苦笑する。

 

「でもな。ある日、そんなウチに話しかけてきた奴がおったんや。ちょっと走り方を変えてみたらどうだ、ってな」

 

 オグリがクスリと笑った。

 トレーナーだ。すぐに分かったのだ。

 

「そいつは別に専属トレーナーでもないくせに、色々世話焼いてくれてな。おかげで一ヶ月後にあった次のレースで初めて勝てたんや」

 

 昔を思いだしたか、遠い目でタマは言った。

 

「そしたらアイツ、自分の事みたいに喜んでな・・・・・・で、後からチームやってるて聞いて、入ることにしたんや」

 

 それがトレーナーとタマモクロスの物語だったのだろう。

 その結果チーム・アンタレスは息を吹き返し、オグリ達が後に参加することになるのだ。

 

「だから、ウチはこのチームから離れることは・・・・・・いや、トレーナーから離れることはないで。例え五人目が見つからんで、チームが解散してもな」

 

「ああ、私も同じ気持ちだ」

 

 オグリがそう言うとグラスとスカーレットも頷いた。

 校庭の端、チーム・アンタレスの部室が見えてくる。

 

「もうトレーナーは戻ってるかしら」

 

「時間的には戻っていてもおかしくないですね」

 

「練習でお腹が空いた。トレーナーに作って貰わないとな」

 

 四人はそんな事を言いながら、部室に帰っていくのであった。

 

「おう、皆お帰り。練習お疲れ様。丁度良かった、今日からこのチームに入ってくれることになったハルウララだ」

 

「ハルウララ、がんばりまーすっ!!」

 

 トレーナーの横に座っていた桃色の髪をした小柄なウマ娘が、元気よく皆に挨拶してきたのだった。

 

『え、えええええええええええっ!?』

 

 四人の叫びが、狭い部室中に響き渡ったのであった。

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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