ウマが合うからいつも一緒   作:あとん

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ハルウララ

 その日、俺が中等部に向かったのには理由があった。目的は勿論、ウマ娘を我がチームへ勧誘することであるが、今日はそれに大きく影響を与えるイベントが中等部で開かれているのである。

 

「おお、お前も来たのか」

 

目的地である中等部のグラウンドに辿り着くと、見知った男が声をかけてきた。

 

「よぉ、三鷹。お前も偵察か」

 

「そりゃそうだろう。なんたってチーム・リギルの選抜レースなんだからな」

 

 そう言って目の前の男――三鷹は俺の肩をポンポンと叩いた。

 俺と三鷹は同期で同じ師である桐生院葵の元で指導を受けた仲である。

 いわば同期の桜といった間柄で、トレーナーに昇格したのも、自分のチームを持ったのも同じ位の時。ライバルであり戦友、そんな間柄であった。

 もっともマルゼンが抜けて凋落した俺のチームに比べ、三鷹のチーム・ベガは今もAランクチームに名を連ねているのだが。

 

「俺だけじゃないさ。他のトレーナーも狙いにきているぜ。リギルのおこぼれをよ」

 

 そう言いながら三鷹が視線を移した先には、同じ様に集まってきたトレーナー達の姿があった。

 チーム・リギル。

 このトレセン学園で長きに渡って『最強』の名を欲しいままにした名門チーム。

 URA創世記から活動していた東条ハナ先輩率いるこのチームは、常に優秀なウマ娘を輩出している。

 そしてそのためにリギルは定期的に新しいメンバーを募集して、選別レースを行なっているのだ。

 当然、そのレースにはリギル加入を狙って多くの前途有望なウマ娘達が参加してくる。しかしそのレースで合格してリギルに入れるウマ娘はほんの一握りなのだ。酷いときは合格者0だってある。

 そしてリギルの選抜から落ちてしまったウマ娘の中で優秀そうな娘を勧誘するのが、俺たちの目的であった。

 何せリギルに加入を希望するだけあって、前途有望なウマ娘が多い。東条先輩から見れば不合格でも、俺たち下位チームから見れば喉から手が欲しいウマ娘なのである。

 

「リギルもスピカも最近はよく選抜レースをしてくれるからな、ありがたい」

 

「『カノープス』と桐生院先生の『ミーク』に最強チームの牙城を崩されたからな。あちらさんも必死なのさ」

 

 そう言うと三鷹は中等部のグランドを指差した。

 

「見ろ、今回も豊作そうだぞ」

 

 スタート地点でストレッチしているウマ娘達を、三鷹は一人ずつチェックしていく。

 既に下調べはしていたのか、幾つか名前も挙げてみせた。

 

「流石、バッチリ調べてるんだな」

 

「むしろ何も調べてないお前が凄いよ」

 

「すまん、そういうのは苦手で・・・・・・で、注目株は誰だ?」

 

「そうだな・・・・・・やっぱり一番株はエルコンドルパサーだな」

 

 実力はあるが束縛を嫌い、色んなチームを転々としている。と三鷹は語った。

 

「確かグラスのルームメイトだったな。実力はあるって聞いたぞ」

 

「ああ、間違いなく今回の大本命さ。まあ俺たちが狙うのは他のあぶれたウマ娘だがね」

 

「普通に考えたらそのエルコンドルパサーはリギルに入るだろうしな・・・・・・まあ、俺はレースの結果を見て決めるよ」

 

「結果・・・・・・と言っても勝ち負けじゃないんだろ?」

 

「ああ」

 

 俺がウマ娘に求めるのは実力じゃない。

 その走りがどれだけ魅力的に映るか、である。

 かなり曖昧で非現実的なことだが、俺はこれを一番にしていた。マルゼンスキーもタマモクロスも、それで勧誘したのだ。

 

「お、始まるぜ」

 

 三鷹の言うとおり、ウマ娘達がスタートラインに着いていく。ゴール付近には東条先輩とリギル所属のウマ娘・ヒシアマゾンがいた。スターターピストルを鳴らすのは、フジキセキのようだ。

 皆、真剣な面持ちである。その中で一人、俺の目に留まったウマ娘がいた。

 桜色の髪と瞳を持つ、小柄なウマ娘。

彼女がこの中で、スタート前に一番の笑顔を浮かべていた。

 

「あの子が気になるか?」

 

横に並んだ三鷹が聞いてきた。

 

「ああ。」

 

「……タマちゃんのときに思ったんだけど、お前ロリコンじゃないよな?」

 

「失礼な。俺はただ楽しそうに走るウマ娘が好きなだけだ。ほら、ほんとに始まるぞ」

 

俺がそう言った瞬間にスタートは切られ、ウマ娘たちは一気に駆け出した。

さすがチームリギルの選抜レースに出てくるだけあって、皆レベルが高い。特に三鷹が注目していたエルコンドルパサーは、好調なスタートを切って先頭を進んでいる。その中で、一人。ぶっちぎりで皆から遅れているウマ娘がいた。

 

「ふぇ~~~っ! み、みんな、はやいよぉ~~っ」

 

顔を真っ赤にして、息を切らせながら懸命に走っているその子は、俺がスタートの時に目を付けたウマ娘だった。両手を前に突き出した滅茶苦茶なフォームで走る様は、明らかに一人浮いていた。

 

「お、おい大丈夫かよ、あの子」

 

心配そうに三鷹が言った。他のトレーナーたちも彼女の圧倒的なレベルの低さにざわざわし始める。

やがて先頭のエルコンドルパサーが一着でゴールし、後続のウマ娘たちも続々とゴールしていく。そして件のウマ娘は一人遅れて、最後にゴールした。彼女のゴールで選別レースの一回目が終わり、走り終わったウマ娘たちその友達の馬娘やトレーナー達が集まり始める。一位のエルコンドルパサーは、東条先輩に呼ばれてそちらに向かっていった。

 

「くそっー! 」

 

「あともう少しだったのに……」

 

レースが終わり、負けたウマ娘達が悔しそうにゴール付近で歯噛みしている。一人の勝者とそれ以外の敗者。それが残酷なレースの現実だった。そんな中で一人だけ、笑顔を見せるウマ娘がいた。

 

「負けちゃったー! みんな強いねー、次は負けないぞぉーっ!」

 

最下位になったあのウマ娘であった。

本当にレースが楽しかったのか、汗まみれになりながらも、花のような笑顔で笑っている。そんな彼女の前に俺は一人で向かっていった。

「お疲れ様。がんばったね」

 

俺がそう言って手を伸ばすと、彼女は顔を上げてこちらを見上げてきた。桜色の大きな瞳が、興味深そうに揺れている。

 

「うん! 楽しんで、がんばったよ!」

 

何の警戒もせず、彼女は俺の手を取って立ち上がった。少女特有の柔らかい手の感触に、少しだけドキドキしてしまう。

 

「そうか、レースは楽しかったかい?」

 

「楽しかった! わたしね、にんじんと走るのがだーい好き! ってあれ、あなた誰?」

 

そこでようやく目の前の俺を疑問に思ったのか、少女は首を傾げて尋ねてきた。

 

「俺はこの学園でトレーナーをやっている者だ。君をスカウトしたくて、ここまで来たんだ」

 

「え、わたしを?」

 

少女もさすがに驚いたのか、自身を指差して聞いてくる。

「ああ、君の名前を聞かせてくれないか?」

 

俺がそう尋ねると、少女は満面の笑みで元気よく答えた。

 

「ハルウララ! わたしの名前はハルウララだよっ!!」

 

……

…………

 

「と、いうわけで今日からアンタレスの新しいメンバーに加わったということだ」

 

「と、いうわけって、あんたなぁ」

 

タマは呆れたように言った。グラスとスカーレットも同じように戸惑っているようだった。

「焼きそば、美味しいね!」

 

「ああ、トレーナーの作る焼きそばは絶品でな」

当のハルウララはオグリと仲良く焼きそばを頬張っていた。オグリはこの中でもただ一人、ウララよりも俺に焼きそばを作らせることを優先させたウマ娘だ。なんというか器が違う。

 

「えーっと、ウララやっけ? チームに入ってくれるのは嬉しいんやけど、大丈夫か? このチームが今あんまり良くない状況なのは知っとるんか?」

 

タマが不安そうに尋ねた。もしかしたらチームアンタレスが、解散寸前であることを知らないのではないかと思ったのである。

 

「大丈夫です! トレーナーとなら楽しく走れそうと思ったので!」

 

だがウララは不安など微塵も感じさせない笑顔で、元気よく言った。

それを見たタマは大きく息を吐き出すと、ニカッと笑う。

 

「なら、安心やな。ウチはタマモクロス。よろしくな!」

 

「うん! タマ先輩、よろしくお願いしまーす!」

 

「うふふ、私はグラスワンダーと申します」

 

「アタシはダイワスカーレット! よろしくね、ウララちゃん……そういえばウララちゃんってどこのクラスなの?」

 

「うん! よろしくね! ウララは中等部3年でC組だよっ!」

 

「えっ、先輩……」

 

「ど、同学年……」

 

スカーレットとグラスが驚愕する中、俺はようやく揃ったチーム・アンタレスにこれからの活躍に思いを馳せるのだった。

今後、展開について

  • 基本的にコメディで、時々シリアス
  • 基本的にシリアスで、時々コメディ
  • シリアスは無い方がいい
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