IS 〈インフィニット・ストラトス〉 蘇りし帝国の亡霊 作:トッキー
マルチ投稿が許可されたので、ここでも投稿させて頂きました。
1944年12月。
その日、オーストリア上空数百メートルの所で、一隻の飛行船が死に絶えようとしていた。
様々な装置を搭載した巨大な船体からは、あちこちから火の手が上がり、乗組員達は逃げ惑い、あわててその船から逃れようとしていた。
水素や弾薬などの可燃物に引火し、飛行船がさらに燃えさかっている。その中で、船内に設置された『門』の近くでは、一人の白衣を着た老人が、パイプやその他の機械類の下敷きになっていた。
左腕には、ハーケンクロイツの腕章を着けている。
彼は親衛隊の将軍が画策した、あるプロジェクトに加担していた。そしてその日、アイゼンシュタットに向け、成果を大々的に「お披露目」しようとしていた。
しかしその直前に、一つのほころびが生じ始めたのである。
どこから聞きつけたのか分からないが、連合国の工作員は、作戦に必要な施設や人員をいくつも葬り去り、作戦に影響を及ぼし始めていたのである。
パトロンであり重要な手駒でもあった、今は亡きヴィクター・ゼッタ将軍も、その一人だった。
それを受け将軍の―――正確には武装親衛隊少将、そして親衛隊超常部門最高責任者の肩書きを持つ―――ヴィルヘルム・シュトラッセ博士は、作戦の実行を早めたのである。
出力はいく分か不安定だったが、「お披露目」をするには十分であった。あとは充填されたエネルギーを、盛大に発射するだけだった。
ただそれだけの事が、突如として崩れ去ったのである。
例の工作員によって、護衛部隊もろともに装置がことごとく破壊され、コントロールを失ったヴェイル・エネルギーは、暴走を始めた。
それによって、飛行船下部の砲塔に集められたエネルギーが逆流し、人員や装置にさらなる混乱を引き起こしたのである。
当初、この老人は『門』がある部屋とは別の場所で調整をしていた。
しかしエネルギーが暴走したのを見て、彼は慌てて『門』を確認しにやってきたのだ。
『門』の向こうにはシュトラッセ博士と、その護衛のハンス・グロッセ大尉がいた。
護衛の大尉はどうでもよかった。だが博士は、「あの方」だけは失ってはならない。
その義務感に駆られ、部屋を訪れた彼は、機械類に押しつぶされてしまったのだ。
彼はなんとか逃れようともがいたが、ビクともしなかった。
周囲の者に助けを求めても、逃げ惑うばかりで、何の役にも立たない。
この役立たず共め!!
彼は内心毒づきながらも、自身を押しつぶしているものをどかそうと、躍起になっていた。
ふと『門』を見ると、誰かが飛び出してくるのが見えた。
シュトラッセ博士と思ったが、その飛び出してきた人物は敬愛すべき人物などではなかった。
その者は、あのアメリカ人のスパイ―――B.J.ブラスコヴィッツ。
あのヤンキーは、ことごとく我々の邪魔を!!
老人は手元近くに落ちていた拳銃を拾い、アメリカ人のスパイに向け発砲した。しかしわずかに照準が狂い、それが当たることはなかった。
やがて飛行船の角度がきつくなり、もうこの船は持たないことを悟った。作戦をことごとく邪魔し、第三帝国に、確実に勝利をもたらす為の兵器をも破壊された。
飛行船がある城に近づく中、彼はアメリカ人のスパイに対し、ありったけの怨嗟の声を張り上げた。
そして飛行船が城にぶつかる瞬間、『門』がより一層光り、その老人を包んでいった。
―――やがて、そこにあったもの全てが爆炎と閃光に包まれた。
ここは…どこだ…?
私は…。
そうだ…。
確か…シュトラッセ博士の指示で、「Black Sun」を研究…そのエネルギーを、兵器へと転用する事に成功した…。
そしてアイゼンシュタットで、それを大々的に「お披露目」する為に、飛行船で移動していた筈…。
だが…。
そうだ、思い…出した。
あの、アメリカ人…!!
ブラスコヴィッツ!!!!
「アイ…ツが、アイツの…せいで!!!!!」
あのアメリカ人のスパイに怨恨の念を吐いた時、喉が少々痛かったがそんな事気にもならなかった。
…しかし、今そんな事をボヤいていても仕方ない。何とか起き上がり周囲を見渡すと、飛行船の残骸かもしれない、何かしらの残骸が目に入った。
それに…城も。
城は見覚えがあった。あそこはシュトラッセ博士が連合国の目を欺く為に、ベルリンにあった研究施設を丸ごと城の地下深くに隠したのだ———あのウルフェンシュタイン城に。
しかしそこも城壁等が大きく崩れてしまっており、辛うじて城の名残を思わせる程度でしか無かった。
しかし可笑しい。
周りの残骸も、あの城も、長年放置されたままのように朽ち果ててしまっているように見えた。
そして飛行船が墜落したにも関わらず、何故私は無傷なのだ?それに体もとても軽く感じる。
ふと手足を見ると、肌は皺だらけではなく、まるで若者のようであった。
驚くべき事に、私は若返っているようだ。博士の下にいた時は、杖が手放せない程老いていた筈だ。
これは…?
しかしそんな事はどうでもよかった。
私はどの位倒れていたのだ?今は何年だ?第三帝国は、我等が総統閣下はどうなったのだ!
それに博士は!?
私はそれを確認しようと遥か遠くに見える人里を目指し、歩みを進めた。