IS 〈インフィニット・ストラトス〉 蘇りし帝国の亡霊   作:トッキー

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やっと・・・やっと書けた。

長くなってしまいましたが、どうぞ!


第十話

 「けぇぇぇくぅぅぅぅぅぅぅぅん!!!!」

 

 束達を突き飛ばす形で庇ったブラスコヴィッツは、激痛を感じながら目の前の者を睨みつけた。古いガスマスクを被ったそれは、奇妙なほどくぐもった声で、狂ったように笑いながら自身の名を叫んでいた。

 

 

 『ブゥゥゥラスコヴィィィィイイイイィッツ!!アハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

 

 その者は更に深く刃が刺さるように踏み込もうとしたが、ブラスコヴィッツはそれ以上刺さらないように目の前の人間の腕を掴み、グロックを素早く抜き、弾倉にある9mm弾を全て打ち込んだ。

 

 しかしそれをものともせず、その者は狂ったように笑い続け、さらに深く刺そうとしている。

 

 彼は、今度は弾切れになった銃を逆手に持ち、それをハンマーのようにして殴り続けた。

 殴る、殴る、殴る、殴る。

 ヘルメットが凹み、銃のプラスチック部や、マスクの目のレンズ部にもヒビが入っていたが、彼は止めなかった。

 

 やがてレンズが割れ、そこから覗く目を見て彼は、思わずその殴る手を止めた。

 割れた箇所からは、本来ならばその者の目があるはずである。

 

 しかしそこから覗いていたものは、真っ黒い皮膚と、不気味に青白く光る目であった。手が止まった瞬間を逃さず、目の前の人間は素早く刃を抜き、再び姿を消した。

 

 だが未だ周辺にいるのか、甲高い笑い声はあちこちから聞こえる。

 

 そして。

 

 

 「ぎゃあっ!!」

 「ぐあっ!」

 「な、何だ!!」

 「突然斬られて、ぎゃっ!?」

 

 

 見えないことに余裕が生れたのか、周囲の隊員達を次々と斬りつけていったのだ。

 千冬やハルフォーフ、そして束はISを展開し、周囲を見回した。

 だがなんと、ISの機能を使ってもあの不審者は探知できなかった。不気味な笑い声が間近で聞こえるにもかかわらずである。

 

 場が騒然とする中、出血によって意識が朦朧としていたブラスコヴィッツは、手元で何か光っていることに気づいた。

 

 ふとそれを見ると、束に渡そうとしていたメダリオンであった。

 そのメダリオンは、填め込まれていたクリスタルが青白く光っている。彼は藁をも掴む気持ちで、それを手に取った。

 

 するとどうだろう。

 突然彼の視界は、あらゆるものが、黄緑色がさらに緑がかったように染まったのである。それと同時に今まで見えなかったものも見えるようになった。

 そしてブラスコヴィッツは、予備のホルスターからグロック26を抜き、一人の部隊員に銃口を向けた。

 銃口を向けられた隊員や、周りの者が狼狽した時、彼は叫んだ。

 

 

 「伏せろ(・・・)!!」

 

 

 隊員が伏せ、彼は躊躇なく引き金を引いた。

 ブラスコヴィッツが虚空に銃弾を発射した時、隊員の背後から血が噴き出してきた。

 

 彼は一寸の狂いもなく、銃弾を切り裂き魔に全弾を撃ち込んだのだ。

 攻撃が予想外だったのか、それとも元々限界を迎えていたのか。それとも背中の機械類に当たったのかは、分からなかった。

 だがその者は姿を現し、咳き込みながら血を吐き続けていた。

 

 あの切り裂き魔は、今度は別の隊員の背後に回り、袈裟懸けで切り裂こうとしていたのが、彼は何故か、それがはっきりと見て取れたのだ。

 

 特殊部隊の隊員や、ISを所持しているハルフォーフ准尉が、即座にその者を取り囲んだ。

 千冬は一夏とドイツ首相の娘を守っている。

 

 そしてしばらく踞っていたその者は、マスクのフィルター部からも血を流しなから、狂ったように笑い続けていた。

 

 

 「アハハハハハハハハハハッ!あはハハハハハハははっはハハハハハハは!!」

 

 

 そして笑い声をあげながら、その者は突然、新体操選手さながらな動きで森に消えていったのである。

 一瞬の隙をつかれ、その場にいた者はみな呆然とした。

 

 しかし千冬やハルフォーフ、無事だった特殊部隊の隊員達は皆、その切り裂き魔を追うべく森に向かおうとした。

 だが次の瞬間、信じられない事が起きた。

 

 突然森の中から、大爆発が起きたのである。

 

 その威力は、森に突入しようとした部隊員をなぎ倒し―――幸い全員無事だった―――空中に展開したハルフォーフが姿勢を崩し、危うく地面とキスしそうになったほどである。

 

 ハルフォーフは再び空中に展開し、周囲を捜索したが、誰も見つけることが出来なかった。

 後に残ったのは、その切り裂き魔が残したであろう、巨大な爆発跡しかなく、今現在彼らにできることはごく限られていた。

 

 

 しかし、ブラスコヴィッツはそう簡単にはいかなかった。

 腹部を刺され、血を流しすぎた彼の意識は朦朧とし、いつ命を落としてもおかしくはなかった。

 

 

 「ミスター・ケヴィン、しっかりしてください!!」

 「ちょっとあんた!こんなところで死ぬなんて、許さないわよ!!」

 「おい、メディック!はやくしろ!」

 「お兄ちゃん、しっかりして!」

 「束、どうにかできんか!」

 「皆、ちょっとどいて!」

 

 

 彼を皆が取り囲んでいたが、束の鋭い声が響き渡った。

 すると、どこからか音が響いたと思ったら、彼らのすぐ近くにそれが降りてきた。

 

 

 「に、人参・・・?」

 

 

 誰かが静かに呟いた。確かにそこにあったのは、巨大な人参であった。

 

 それこそが束が移動時に使う、人参型移動式ロケットラボ『我輩は猫である』であった。そしてそのハッチ開き、金属ケーブルが伸びてゆき束の手に何かを手渡した。

 よく見ると彼女の手には、何かの液体が入ったアンプルが握られていた。

 

 

 「束、それは・・・?」

 「束さん特製のナノマシンだよ。まだ試作品なんだけど・・・ないよりマシだと思う」

 「でも・・・」

 「怒るのも、罵るのも後にして。今は・・・ケー君を何とかするのが先だから・・・ゴメンね、ケー君」

 

 

 そうして彼のそばまで来た束は、ブラスコヴィッツにそのアンプルを打ち込んだ。

 すぐにその効き目が現れ、彼の顔色が少々落ち着いたのが、目に見えて分かった。

 

 千冬は内心驚いていた。

 あの極端な人嫌いである束が、今日初めて会った人間に、こうまでするとは思わなかったからだ。

 

 

 「(まさか、この人に惚れたとか・・・)」

 「ちーちゃん。今、何を考えてるか当ててあげよーか?『なんで初対面の人間に、ここまでするのか』、でしょ」

 「・・・ああ。あの人間嫌いで有名なお前が、な・・・だが、なんでだ?」

 「・・・・・・分かんない・・・多分、他のヤツと違って・・・ケー君は初めて私を、ちゃんと叱って・・・『私』という存在を、しっかり見てくれたからかな」

 「・・・そうか」

 「うん・・・今までのヤツって、なんでも反対したり賛同したり・・・あと、利用しようとするだけだった。でも・・・ケー君は、なんとなく違う。だから、かな」

 

 

 そうして彼女達は、隊員達と一緒に病院に運ばれるブラスコヴィッツを追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 「博士!『アサシン』までもが!!」

 「落ち着け、イワン君。分かっている」

 「な、ならば!」

 「確かに、『アサシン』の損失は痛い。しかしそれ以上に、あれ(・・)は多くの情報を我々に与えてくれた」

 「で、ですが・・・」

 「なぁに、被験者は会社や軍隊を首になった者、浮浪者・・・今の世の中、探せばいくらでもいる」

 「わ、分かりました・・・」

 

 

 クリューガーと部下のグローノフが言い争っている時、ウルフェンシュタイン城の地下で警報が鋭く鳴り響いた。

 

 場所は地下研究所の生体保管室からであった。監視カメラを切り替えると、黒服を着た人物の背中が映り込んでいた。

 

 

 「は、博士!」

 「分かっている。お前達、ついてこい」

 『はっ!!』

 

 

 不審者の姿を捉えた彼は、入口付近を守っていた守備隊を率いて、現場に向かった。

 

 

 

 

 

 生体保管室にいた人物は、マフラーで口元を覆っているが、モンドグロッソの会場にもいた、あの単眼鏡をかけた人物だった。

 彼は保管されているサンプルを目にし、その成果に息を漏らしたが、同時に「惜しい」とも感じていた。

 

 今この場に保管されているサンプルは、悪い出来ではない。だがいずれも、まだまだ改良の余地がある。

 そして、彼はいかにここの責任者と話をすべきか、思案していた。

 

 

 すると大勢の足音、そして地震の背後にあるシャッターが開き、多くの兵士が自分を取り囲むように並び、銃口を向けていた。

 

 

 「ようこそ、この研究所へ!いかがかな、これらの研究成果は?」

 

 

 話しかけてきたのは、白衣にあのNSDAP (エンエスデーアーペー)の腕章を付け、杖をついた幾分若い男だった。

 

 老人は、この若い男の目を知っているように感じた。それにあの杖も。

 あれはどこだったか、今となっては一世紀ほど前に、かつて部下だった人間の…。

 

 男は相変わらず、抑揚のある声で話し続けている。

 

 

 「ここまでするのに幾分かかってしまった。だが、それに見合うだけの成果ではあると、私は自負しているがね」

 「確かに、いい線は行っている」

 

 

 単眼鏡をかけた人物は、それに同意した。そしてさらに言葉を続けた。

 

 

 「だが、これで満足するとは・・・愚かな」

 「何?」

 「確かにいい出来だが・・・若干ツメが甘いな」

 「なんだと!?」

 「見たところ、この『ヘビー・トルーパー』や『アサシン』には、少々無駄がある。投薬だけでなく、ヴェイル・エネルギーをもっと活用すれば、更なる活躍ができるだろう」

 「貴様・・・一体、どこでそれを!」

 「ふん・・・」

 

 

 呆れつつも、若干の暑さを感じたのか帽子とマフラーを外した老人は、若い科学者に改めて向かい合った。

 そして老人は、目の前の若造を見て、昔のことを思い出していた。

 

 あの目つき、あの仕草。

 ああ、そうだ・・・かつての部下の、アイツにそっくりだ。若返らせれば、ちょうど今のような・・・。

 

 マフラーが外され、老人の皺だらけの素顔を見た若者は、その正体に驚きの表情を浮かべた。

 

 

 「そんな、まさか・・・まさか。お、おい!お前達、銃を下ろせ!」

 「え、で、ですが・・・」

 「いいから下ろせ!!」

 

 

 若者の命令に、部下達は銃を下ろした。

そして若者は二、三歩前に出て、踵を甲高く打ち鳴らし、右腕を高く掲げた。

 

 

 「た、大変失礼いたしました!まさか、あなただったとは夢にも思わず!!ヴィルヘルム(・・・・・・)シュトラッセ(・・・・・・)博士!!」

  

 

 老人も内心、驚いた。まさか自分の名を言い当てられるとは、思ってもみなかったからだ。

 

 

 「何故、私の名を知っている?」

 「ああ、このお姿でお会いするのは初めてでしたね。信じられないかもしれませんが、私はかつて第二次大戦中、あなたの部下でした。名は」

 「もしや・・・エーベルハルト・クリューガー、か?」

 「覚えて、おられましたか」

 「お前のその目つき、それにその杖・・・やはりそうだったか」

 「よく分かりましたね」

 「貴様のような目つきを持つ人間の部下など、貴様以外にいなかったからな」

 

 

 老人を取り囲んでいた若者の部下たちは、皆驚いた。目の前の老人は彼の上司らしき人物とは思わなかったからだ。

 しかし白衣を着ている人物からは、この老人のことをあまり聞かされていなかった。

 ましてや何故大戦中の話になるのか、彼らはどうしても分からなかった。

 

だが知らないのも無理はない。

なにせ彼はかつての上官だったが、それは一世紀ほど前の昔―――第二次世界大戦当時まで遡らなければならない。

 

 

 「ははは、そう言われるとなんとも・・・ああ、失礼しました!どこか別の部屋に移りましょう。ご案内します」

 

 

 そうして彼―――エーベルハルト・クリューガーは、かつての上官を貴賓室に案内し、城の中を案内していった。

 

 

 

 

 

 

 ブラスコヴィッツは暗闇の中にいた。そしてそれは同時に、とても奇妙なものを覚えさせた。

 

 

 ―――なんだ、これは。

 

 

 上下左右が分からず、ふわふわ浮いているような感覚を覚えるが、彼はふと、これが夢であることをぼんやり気づいた。

 

 

 ―――ああ・・・これは夢だ。じゃなければ、あいつら(・・・・)が目の前にいるはずがない。

 

 

 暗闇の中でも分かる。目を開ければ、今まで死んだ者たちの姿が、自分を取り囲んでいる。

 

 今まで散々殺してきた敵、そして―――救えずに死なせてしまった仲間たち。

 多くの者が自分をつかみ、暗闇の沼に引きずり込もうとしている。

 

 それに身を委ねようとした時、彼は不意に思い出した。

 

 あの子達は?そうだ、まだ死ねない。あの子達が―――あの迷子がまだ。

 それに、仲間たちを殺した切り裂き魔も捕らえなければ。

 

 そう思った瞬間、彼は光に包み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 「う・・・」

 

 彼が目を開けると、今度は暗闇ではなく、見知らぬ部屋の天井が目に入った。

 

 真っ白い部屋。周りを見回してみれば、色があるのは寝巻きやその患者の持ち物、そして備品くらいのものだった。

 

 その患者とは、自分だった。

 

 そして鼻をつく消毒液の匂い。

 

 彼は今、自分がいる場所が病院であることに気付いた。

 

 

 「ミスター・ケヴィン、目が覚めましたか!」

 

 

 ふと目線を横にずらすと、キャロライン・シュナイダーの姿が目に入った。どうやら、彼女は今病室に着いたばかりだと思われる。

 

 

 「ミス・キャロル・・・私は?」

 「あの事件からもう四日経っています。その間、ずっと寝たきりで」

 「あの子達は、他の皆は、どうした?」

 「ミスター・ケヴィン、落ち着いてください。あの子達だけじゃなく、全員無事です。斬りつけられた他の隊員も、しばらく入院すれば大丈夫だと・・・」

 「そう、ですか・・・」

 「あまり無茶はしないでください・・・あの時、篠ノ之束がナノマシンを打たなかったら、今頃あなたは死んでいたんですよ?」

 「それについては・・・まぁ、職業病の一つですよ。」

 「はぁ・・・」

 「あの、切り裂き魔は?」

 「覚えて、いないのですか?」

 「ああ・・・予備の銃を抜いて、あの者を撃ったことまでは、なんとか・・・それ以降は」

 「実は、一瞬の隙をついて、あの者は森に逃げ込んだのですが・・・次の瞬間には、あの者は自爆したんです」

 「自、爆?」

 「ええ。信じられないでしょうが、あの者が爆発したと思われる跡を調査して、ほんのわずかですが、肉片や刃の欠片が発見されました。起き抜けで申し訳ありませんが、大丈夫ですか?」

 「ええ・・・構いません。続けてください」

 「では。その回収した欠片や肉片を解析してみたら、驚くべきことが分かりました」

 「一体何が?」

 「あの刃から、複数人のDNAが検出されました。それらは全て、あの切り裂き事件の被害者のものです」

 「アイツが」

 「それから、その犯人らしきDNAの持ち主は、1912年にこの世に生を受け、1944年に死亡したことになっているんです」

 

 

 彼は彼女からの報告を聞き、一瞬思考が停止した。しかし次の瞬間には、疑問が彼の口から湧いて出ていた。

 

 

 「ちょ・・・ちょっと待ってくれ。話が、見えないんだが」

 「これが報告書なんですが・・・」

 

 

 彼女は戸惑い気味に、脇に抱えていたファイルを読んだ。

 

 

 「今日の午前中に判明した事ですが、あの切り裂き魔の本名は、『ハウスロー・グレーム』。1912年にアルトマルクに生まれ、1939年に国家社会主義ドイツ労働者党―――あの悪名高いナチスに入党。その後武装SSに転属。表向きでは、1944年に所属していた部隊が、連合軍の爆撃を受け死亡。最終的な階級はSS中佐となっています」

 「表向き・・・?」

 「はい。この人物は、部隊が消滅する一ヶ月前に、極秘に別の場所に移動したことがわかりました」

 「見せて・・・いただけますか」

 「大丈夫ですか?」

 「なんとか」

 

 

 四日間も寝続けながら、起きて早々仕事をする彼に、彼女は驚いた表情を浮かべた。普通の人間ならば、起き抜けでは頭があまり回らないだろう。

 

 さらに彼は腹部に大きな傷を負っているのだ。

 そのことが彼女の驚きを助長させている。

 

 しかし軍隊時代からの名残で、前線では敵襲を受けるか分からなかった為に、すぐに活動できるよう、体が条件反射でそうなってしまっている。

 これは、OSAに入ってからも役に立ったことがあり、彼も直す気は毛頭なかった。

 

 また篠ノ之束のナノマシンによって、治療時間が短くなり、さらに活動できる時間が長くなっている。

 これはキャロライン・シュナイダーも、ブラスコヴィッツも知らないことであった。

 

 そして、彼女から受け取った報告書に目を通し始めた。

 

 

 『名前:「ハウスロー・グレーム」。

 1912年、アルトマルク生まれ。実家は時計店だったが、第一次世界大戦後のハイパーインフレと、大恐慌のあおりを受け閉店。その後成人した彼は、教師の職に就く。

 1939年、国家社会主義ドイツ労働者党に入党。教師を辞職する。その後、武装SSに転属し、数々の武勲を挙げる。(同時に、この時多くの戦争犯罪に加担していた疑いが高い)

 1944年、所属していた部隊が、連合軍の爆撃を受ける。この時、部隊の全員が戦死、及び行方不明だったことから、彼も死亡したものと思われていた。二階級特進によって、最終的な階級は親衛隊中佐』

 

 

 写真を見てみると、右目に上下に走る傷があり、とても二十代後半とは思えない険しい表情を浮かべている。

 ブラスコヴィッツはそこまで目を通すと、『備考』と記されている二枚目の報告書を読み始めた。

 

 

 『1944年10月、グレームはそれまで所属していた部隊から、突然極秘裡に、別の部隊に配置転換命令を受ける。その部隊は、その高い科学力によって当時の親衛隊、及び武装SSに多大な影響力を与えていた。最終的な経歴はここで途絶えている』

 

 

 『追記

 配置転換先の部隊の指導者の名は、「ヴィルヘルム・シュトラッセ」。通称「デスヘッド」。

 最終階級:国家社会主義ドイツ労働者党武装親衛隊少将。(※最終的な階級は、表向きは「少将」となっている。だが実質的には、当時上級大将に相当する権力を保持していた可能性が高い)

 当時の科学力を駆使し、兵器部門を中心に様々な開発を行う特設研究機関の総司令・指導者を務めていた。

 1944年、所属していた建物が連合軍の爆撃を受け、同時に徹底的に破壊される。恐く、この時に死亡したと思われる」

 

 

 二枚目の報告書に添付されていた、当時の部隊の指導者の顔は年相応の姿だった。だがその目は、確固とした信念を持っているようにも見受けられた。

 彼は全て読み終えると、その内容から、思わず目をほぐしていた。

 

 

 「つまり・・・今回の事件は、ナチスの亡霊が引き起こした、と?」

 「荒唐無稽で信じられないでしょうが、それが事実なんです。なにせ、調査にあの篠ノ之束も加わって行われたんですから」

 「は・・・?」

 

 

 彼はまたも、思考が停止してしまっていた。噂では篠ノ之束は極端な人嫌いだったはずだ。そんな彼女が、何故調査に加わっているのか。

 彼はそれが、どうしても分からなかった。

 

 

 「どういうことですか?」

 「なんでも本人曰く、『あの人は頭ごなしでなく、真正面から意見して、叱ってくれた人。その人に、あんなことさせる組織は絶対許さない』そうで・・・噂ではもう徹夜続きだそうですよ?」

 「・・・ふむ」

 

 

 彼女の言葉に、ブラスコヴィッツは幾分納得がいった。

 

 彼は単に倫理観に関することを口にしただけだったが、彼女はそうではなかった。親身に叱って、意見したのは恐らく彼が初めてに近い者だったからである。

 

 彼女の親は、叱ったことはあるかもしれない。

だが彼女にとってそれは、身近な存在が心配してするということではなく、嫌な存在がわめいている。そのように感じたのだろう。

 

 ただキャロライン・シュナイダーとの会話の中で、徹夜続きと聞こえたが・・・事実だとしたら彼女の精神はいかほどのものだろうか。

 

 

 「ですが・・・」

 「どうしました?」

 「何分、犯行の大元が、一世紀以上前の組織に関することなので・・・少々手こずっているようです。ネオナチの組織による犯行も、一応考慮に入れて調査が行われていますが・・・正直怪しいものが」

 「分かりました。ドクター・束と連絡を取りたいのですが」

 「ああ、ドクターからこれを預かってきました。なんでも自慢の逸品らしいです」

 

 

 彼女から小包を受け取り、それを開いてみるとそこにあったのは携帯端末だった。

 一通り操作してみると、普通の携帯となんら遜色なかった。

 

 するといきなり、その携帯に電話がかかってきた。

 名前を見てみると、なんと『篠ノ之束』だった。

 

 

 「もしもし?」

 「もすもすひねもすーーー!!ケー君のアイドル、たっばねちゃんだよー!よっろしくぅ!!」

 「ああ、ドクター・束。どうも」

 「もう、そんな他人行儀な。私のことは、『束』でも『お前』でも呼んでくれればいいよ!あ、それとも別の」

 「では・・・ミス・束。今さっきミス・キャロルから聞きました。私の命を、救ってくれたと」

 「うん・・・その様子だと、ちゃんと効いてるみたいだね」

 「ええ、ありがとうございます」

 「どういたしまして!そうそう、ケー君を刺した奴の話は聞いた?」

 「ええ、ちょうど今聞きました」

 「アレの残った肉片を調べてみたんだけど、面白い結果が出たよ」

 「面白い?」

 「そう。肉体のDNAは人間のものなんだ。だけど、妙な物質がそのDNAに複雑に絡まって、全く別の肉体構造を形成しているみたい」

 「その妙なものとは」

 「分っかんない」

 「・・・それは、どういう?」

 

 その答えに、彼は思わず聞き返してしまった。

 しかし、今現在彼を責める者はいない。

 今彼が話している相手は、世界中が追い掛け回している超が付くほどの天才科学者である。その彼女が、正しく匙を投げた状態なのだ。

 

 

 「つまり、その絡まり合っている成分がこの地球上には存在しないからなんだ」

 「ということは・・・」

 「これが宇宙からのものなのか、はたまた別の世界のものなのか、ということになるね」

 

 

 ブラスコヴィッツはいよいよ頭を抱える羽目になった。

 

 自分の同僚や罪のない人を殺し続けた人間が、一世紀以上前の人間で、そいつが今度は宇宙や異次元のものを身に宿していた?

 どこのSF映画だ!

 

 

 「ケー君?言っておくけど、これは紛れもない、現実だよ」

 

 

 そんな彼を見越していたのか、束の言葉がひどく彼に突き刺さった。

 

 

 「・・・ええ、分かっています。ただ理解出来ても、感情がついて行っていないだけです」

 「うん、その気持ちわかるよ。さすがの私もちょっと理解できなかったけど、今はなんていうか、もう・・・ハイテンションだぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」

 

 携帯端末の声が、病室内で響き渡る中、彼は言い聞かせるように言葉を紡いだ。

 

 

 「ミス・束」

 「ん、なーにケー君?」

 「・・・くれぐれも、ほどほどにお願いしますね。他の人を、変に挑発したりせず」

 「りょーかーい!」

 

 

 彼が発した声は、切に願うような声だった。

 そして彼女との通話が終わり、ブラスコヴィッツは思わずベッドに全身をもたれさせた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

 そんな様子を気にかけたのか、キャロライン・シュナイダーが声をかけてきた。

 

 

 「大丈夫です。ただ今まで感じたこともない疲労を、今、身をもって感じているだけです・・・」

 「大丈夫って言えるんですか、それは・・・」

 「・・・」

 

 

 彼女の問いに、ブラスコヴィッツは無言で答えた。

 時間にしてわずか二十分足らずの内に、彼は今までで一二を争う疲労を感じていた。

 

 あの天才と呼ばれる彼女がどの位周囲を・・・。

 

 彼はそこまで考えて、どうでも良くなった。

 

 

 「すみません、ミス・キャロル。少し休みます」

 「え、ええ分かりました・・・あの、何かありましたら」

 「ええ、ちゃんと看護師とかを呼びますよ。どうもありがとうございます」

 「では・・・ああ、でもその前に」

 「どうしました?」

 

 

 キャロライン・シュナイダーは自分の携帯を見せ、彼の目の前に持っていった。

 

 

 「私の電話番号とメールアドレスです。すぐに来られない時は、これに連絡を」

 「分かりました」

 

 

 端末の赤外線通信によってそれはすぐに終わり、彼女は今度こそ病室を後にした。

 彼は少ししてまどろみ始めたが、その心中はあまり穏やかではなかった

 

 

 「(今度はマシな夢を・・・)」

 

 

 そして彼の意識は再び沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 その城の地下では、数多くの音が響き渡っていた。

 

 多くの武器や、兵器を作る音。

 

 それらを調節し、実用に耐えるまで仕上げる音。

 

 そして・・・実験に耐え切れず、命を落とす際の断末魔の叫び声。

 

 そんな音を背景に、天井近くに設置されている一つの部屋では、それらの『作業場』の全てを見下ろすことができる。

 

そこには二人の男性―――一人は気骨あふれる若者、もう一人は皺だらけの老人―――がいた。

 若者は直立不動の姿勢で対応している。

 

 

 「博士、現段階における作業効率は73%を達成。これならば、いつでも戦争を仕掛けることが」

 「まだだ」

 「・・・は?」

 「まだだ・・・まだまだ足りんよ」

 「で、ですが」

 「それはここだけの数値だ・・・他はどうだね?」

 「あ、い、いや・・・それは」

 「我々は、もう少し・・・待つべきだ。裏だけでなく、表の方でも・・・そうだ。我々にはもう少し・・・時間が必要だ」

 

 

 老人は、その『作業場』を見下ろし、暗い笑みを浮かべながら呟いた。

 

 

 「来るべき―――」

 

 

 

 

 

 新秩序(ニュー・オーダー)の為に―――。

 

 

 

 

 そしてその城の地下には、老人の不気味な笑い声が響き渡っていた。

 

 

 

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