IS 〈インフィニット・ストラトス〉 蘇りし帝国の亡霊   作:トッキー

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第五話 戦闘開始

千冬は控え室で待機していた。もうすぐ試合が始まるというのに、あの不穏な空気は消えるどころか益々不愉快さを強めているのが感じ取れた。

 

 

(何なんだ、この空気は…?これではまるで…戦場ではないか)

 

 

 

 

 

 

 

    ・・・

彼女自身本当に戦場に行った訳ではない。五年前に日本を襲ったミサイルの大群を全て撃墜しても、ミサイル自体が本来有り得ない程の緩慢過ぎる動きだった為、撃墜する事自体何ら問題はなかったのだ。

そしてそれは後に彼女の親友から聞かされた事だったが、あの出来事は言うならば彼女の親友が自慢の作品を『お披露目』する為のデモンストレーションの意味合いも強かったのである。

 

そしてあの事件の後に世界各国から軍への勧誘が度々あったが、彼女はそれを拒否していた。

極稀に担当官紛い等の事をした事はあったが、あくまで『競技』、若しくは『護身術』の中での事と彼女は認識していたのである。

 

その為、彼女自身が「本物の」殺気を感じる事は全くといって良い程なかったのである。これは裏を返せば、『日本を救った英雄』の<ブリュンヒルデ>を戦場に立たせる訳にはいかないという、各国の思惑も存在した。

 

 

「IS」が台等してからというもの、『織斑千冬』は謂わば全世界の女性の憧れでもあり、同時に英雄でもあった。

そんな人物をもし戦場に出したらどうなるか?

当然、彼女の所属している国は国際的批判を受ける事は免れない。

 

その為に各国の軍関係者は下手でなり<ブリュンヒルデ>の協力を仰ぎつつも、彼女の技術を盗もうとした。

もし戦争になった時、少しでも自国の優位性を高める為に。

 

 

しかし彼女自身が非協力的だった為に、世界各国はヤキモキしていた。

彼女の弟を誘拐し言う事を聞かせようという計画もあったが、そんな事をすれば自分だけでなく、国が滅ぶ事自体容易に考えられた為、それもご破算になっていた。

そんな中での「モンド・グロッソ」とは、軍関係者にとっても魅力的な大会でもあったのだ。

 

なにせ、あの<ブリュンヒルデ>の戦闘技術を堂々と盗める。

 

その為、各国の軍関係者は自国のIS操縦者に「負けてもいいから、とにかく制限時間ギリギリまで粘るように」との密命を授けていた。

それは時間が長引けば長引く程、彼女の技術を手中に収める可能性が大きいからである。

 

 

だがしかし彼等のそんな思惑も外れ、織斑千冬はトントン拍子で決勝にまで上り詰めていった。

 

 

 

 

彼等は焦っていた。

 

 

 

 

もし何の成果もなく国に戻ったならば、彼等は逮捕され、強制労働が待っているのは目に見えていたのである。

運が良ければ左遷もあり得ただろうが、彼等のプライドがそれを許さず、そうなる前に大半は自身が所有している拳銃で頭を撃ち抜くのが殆んどであった。

 

その為に、例え決勝戦における<ブリュンヒルデ>の相手が自国の仮性敵国であろうとも、とにかくデータの一つでも取れれば御の字であったからである。

試合会場にいる人間の視線は、最早相手選手ではなく<ブリュンヒルデ>に向けられているといっても、過言ではなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな中、これまでの勝ち抜き戦を見詰める多くの視線の他に、一つだけ妙な視線があった。

 

その人物が彼女に注ぐ視線とは、彼女の動きを中心に見ながらとても冷たいものでもあった。

それはまるで彼女を人として見ていないかの様な…。

 

      ・・

(はてさて、あれはどのような戦い方で来るかな…?)

 

 

 

それを見つめる人物は、片眼鏡(モノクル)を掛けかなりの高齢の姿を見せていたが、それに反しその目には強い意志を感じさせるものがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

千冬はスピーカーから自分が呼び出されるのを聞き、会場へ向かおうとした。

その時、親友から連絡が入った。

丁度その時、何処からか分からないが振動が感じられたが、今の彼女にそんな事は関係なかった。

またふざけているのか、それとも応援なのか。彼女にはそれが分からなかったが、とにかく連絡に出る事にしたが、親友の口から驚くべき答えが帰ってきた。

 

 

「………どうした?束。応援か、それともおふざけか?何、安心しろ…。あとでゆっっっっっっっくりとOHANASHIを…」

 

『うん、OHANASHIは嫌だけど、それよりも大変なんだよちーちゃん!!いっくんが誘拐された!!』

 

「何いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!??」

 

『み、耳が…!た、多分、ちーちゃんを決勝戦に出させない様にする為らしいんだ!!一体どうする?』

 

「……言わなくとも分かるだろう?一夏は何処にいるか分かるか!」

 

『うん!ドイツ軍からの情報なんだけど、恐らく軍の駐屯地近くの廃棄された倉庫にいるらしんだ。地図はもう送ったから!!』

 

「よし、わかっ『大変です織斑さん!!って何処にいこうとしてるんですか!?』チッ。…すまない。決勝戦に私は出られない事になった」

 

「それどころじゃありません!!とにかくこれを見て下さい!!」

 

「何だ?…っな!?」

 

 

最愛の弟を救うべく、会場を出ようとしていた所を係の者に引き止められてしまった。普通ならば振り解いてでも向かおうとしただろうが、その係の人物のあまりの剣幕と、TVに映し出された光景を目に、思わず目を見開いた。

 

それはなんと、「謎のIS」らしきものが銃やバズーカ砲、そしてレーザー兵器らしき物や肩の大砲を使って会場中を破壊し、観客達を恐怖のどん底に叩き落としている光景であった。

 

そして複数のISや駆り出された特殊部隊が、「謎のIS」らしきものを鎮圧しようと、異常とも言える攻撃を加えた。その時の土煙によって、「ISらしきもの」の姿は見えなくなった。それを見た観客や、世界各国の関係者達は思わず歓声を挙げたが、煙が晴れた途端すぐにそれは絶望のものへと変わった。

なんとイージス艦でさえ鉄屑に変えうるだけの火力を食らいながらも、損傷らしきものは肩のパーツの僅かな破損だけしか見受けられなかったからである。

 

そしてそれをまるで気にせんとばかりに、それは今度は今しがた自身を攻撃してきた者達にその銃口を向けたのである。

そしてその様子を、一人のTVレポーターが懸命に視聴者に訴えていた。

 

 

『み、皆様分かりますでしょうか!突然謎のISらしきものが、会場に乱入しあちこちを攻撃しています!!ここはさながら戦場のようです!!』

 

『お、おい!あれ見ろ!!こっち向いてるぞ!?』

 

『な、何!?』

 

 

そこで突如カメラの映像は途絶えてしまった。今TVには、砂嵐しか映し出されていなかった。

 

 

「っこれは何処の映像だ!!」

 

「だ、第三会場です!!」

 

「分かった!!」

 

 

彼女はすぐに彼等を救うべく、「白騎士」を纏い会場に向かおうと部屋を出た。だがそこでまたしても親友から連絡が入ってきた。

彼女は会場に向かいながらそれに応答した。

 

 

「何だ束!今は手が離せない!!」

 

『ちーちゃん何やってるの!!いっくんが誘拐されたんだよ!?』

 

「分かってる!分かってるが…!『あれ』をそのままにしておく事も出来んだろう!!」

 

『別にあんなの放っといてもいいじゃん!!ちーちゃんはいっくんがどうなってもいいの!?』

 

「そんなわけないだろうが!!!!」

 

『じゃあ…!』

 

「だが彼等でも『あれ』を倒せるかどうか分からんのだ!もし彼等が倒されてみろ!会場中の人間が殺されるかもしれんのだぞ!!」

 

『…………じゃあ、どうするの?』

 

「……束、ドイツ軍はどうなってる」

 

『え?えっと今は、ちーちゃんの援軍として例の倉庫に急行してるけど』

 

「そうか…」

 

『ちーちゃん…?』

 

「…今は、一夏はドイツ軍に任せる。私は先に会場のあれを片付けてくる。一夏には…嫌われるだろうな」

 

 

最愛の弟か、それとも会場の人間か。彼女にとってそれは苦渋の決断でもあった。しかし彼女は先に会場で暴れている「あれ」を片付ける事にしたのである。

彼女は最愛の弟に嫌われる事を覚悟し、悲しみや寂しさが入り混じった表情を浮かべたが、親友から意外な返答があった。

 

 

『もう…しょうがないな、ちーちゃんは』

 

「束…?」

 

『後でちゃんと口裏合わせてあげるから、行ってきな!』

 

「っああ!!」

 

 

親友の気遣いを受け、彼女は会場に急行した。

そして会場に着いたが、そこは競技場ではなくさながら戦場の相を表していた。

 

ISを纏っていない鎮圧部隊は全滅しており、ある者は首が折れ、ある者は手足はおかしな方向に捻じれ、そしてある者は首がなかった。

そしてあの「ISらしきもの」は、ISが解除されてしまった操縦者の少女に近づいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女―――エレン・ジャクソンはISを操縦しているからといって、一概に幸運とは言えなかった。

逆にISによって家族を引き裂かれたといっても良い。

 

彼女の家は代々軍人の家系であり、彼女の父親もまた高名な軍人であった。

だがISが発表されてからというもの、彼女の父親は軍内部で微妙な立場になりつつあった。

ISの配備に反対していたというのもあったが、その大きな理由がとして、彼自身まだ年端も行かない少女達に『人殺し』の道具に乗せ、戦争に行かせる事が我慢ならなかった為であったからである。

これには賛成する人間も多くいた為、無下にする事が出来なかった。

 

 

しかしそんな中、エレンはISを起動させてしまったのだ。その為に彼女は父に嫌われる事をとても恐れていたが、そんな父は突き放す事無く、受け入れてくれたのである。

 

 

『お前は、お前だ。だが私の娘だ。そして…大事な宝物だ。何故嫌わければならない?』

 

 

彼女はそんな父の言葉に救われた。

だがそれに反して、父の立場は更に微妙なものになりつつあった。娘がISを起動しIS賛成派になると思ったら、相変わらず反対派だったからである。

 

その中で彼女の父―――ダニエル・ジャクソン中将は凶弾に倒れた。

 

ある下院議員の娘が適性検査を受けたのだが、何の反応もなかったのである。しかしエレンは反応するのを目にし、それに嫉妬して彼女を射殺しようとしたのだ。咄嗟に父のダニエルは彼女を庇ったのである。

 

この事態を重く見た議会や軍、そして裁判所はその娘に対し、死刑を宣告した。

「女性だから」という理由は一切通じず、更に世間もジャクソン一家に同情的であった。

 

しかし父が亡くなってからというもの、重要人物保護プログラムによって家族はバラバラになってしまった。

弟は母に連れられ、連絡すら付かなくなってしまっていた。

 

しかしエレンは挫けなかった。それは死の間際、父が残した言葉によるものが大きかった。

 

 

『自分を見失うな。そうなると、自分がどこにいて、何をすれば良いのかも見えなくなる』

 

 

そうして彼女は驕る事もなく、男女平等を貫いた為、知らない内に多くの人間に支えてもらう事が出来たのである。

またその実力を認められ、モンド・グロッソのアメリカ代表にまでなる事が出来た。

 

そして決勝戦であの<ブリュンヒルデ>の織斑千冬と対戦する事になったのだが、それも潰えてしまった。

いきなり謎のISらしきものが会場を襲撃し、観客席に向かって自身の火器を振るったのである。

 

 

彼女はすぐに会場内の鎮圧部隊や他のISと共に、撃退しようとしたが、その結果は痛いものになってしまった。

 

ISを装備していない鎮圧部隊は全滅。他のIS操縦者は恐れをなし、なんと逃げ出してしまっていたのである。

エレンのISはエネルギー切れで解除されてしまった。もはや瓦礫の山と化していたその場に残っていたのは、戦争の為に生み出された殺人兵器と、ただのか弱い少女しかいなかった。

 

その殺人兵器はとどめを刺そうと近づいてきたが、彼女は逃げる事も出来ず、ただ体を震わせる事しか出来なかった。

 

 

「い、嫌…嫌…」

 

 

そして巨大な殺人兵器が彼女の眼の前に立つと、肩の大砲を彼女に向け発射しようとした。

 

 

「嫌あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

 

 

千冬は気付いた時には、操縦者を救うべくあの謎の「ISらしきもの」に体当たりをし砲口を逸らした。

突然の衝撃によってそれは体制を崩してしまい、倒れこんでしまっていた。

 

 

「大丈夫か!?」

 

「は、はい…。なんとか…」

 

「早くここから逃げろ!あれは私が食い止める!!」

 

「で、でも…!」

 

「早く行け!!」

 

「…わ、分かりました」

 

 

たった今少女を助けた千冬は、目の前の謎のISに向き合った。

 

 

「来い、この化け物!!」

 

 

両者は激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその様子を、一人の人間が安全な物陰から見詰めていた。それは片眼鏡を掛けた先程の老人であった。

 

 

「あれは『スーパー・ソルジャー』か…?いや、あれはプロトタイプだな。だが何故あれが…?」

 

 

そう呟くと、その老人は思う所があったのか、すぐに闇に溶けこむようにしてその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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