GE2 OS・ブレイカー   作:黒槍

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復帰しました!

取り敢えず、こっちから更新しておきます。




 1-2 おでんパンと出来事

「極東のエイジスより、膨大な感応波を検知!!その影響でクレイドル・コアが…崩壊していきますっ!!!」

 

見渡す限りの計器が、危険域へと針を尖らせる。

 

それは、数十メートル四方の巨大な球体にとって、悪影響以外の何者でもない何よりの証拠だった。

 

「何だとっ!?ええい!!実験は中止だっ!!緊急停止っ!!!」

 

そして、今やその悪影響は、計器を通さず見て取れるほどの異様さを醸し出し、見る者の目に焦燥を植え付けた。

 

「だ、ダメです!!こちらからの制御を受け付けませんっ!!」

 

その焦燥は、燃え上がった大樹のような拡がりを見せ、瞬く間に空気を支配した。

 

「っ!!?…く、そおおおおぉぉぉぉ…!!!!ここまで来て、神は俺を見放すと言うのかっ!!!」

 

まるで炎の中にいるかのような息苦しさを全員が味わう中、ある一人の男が言った。

 

「…やはり、無理があったのだよ。我々の今の技術では、人為的にコアを生成することなど…出来なかったのだ」

 

その言葉は、むせ返るような臭いを放ちながら空気へと溶け込み、暗い塊を産み落とした。

 

「そんなことはないっ!!!出来ていたっ!!!たった今の今まで、正常に活動していたっ!!!!周囲のオラクル細胞を集めて、固着させていたっ!!!!」

 

暗い塊に微かな揺らめきが顔を覗かせるが、この場において重要な意味を為す事はなかった。

 

話が変わる。

 

「…これを見たまえ。今の感応波を受けて、クレイドル・コアが崩壊した箇所だ」

 

そう言って男が示した箇所は、それの外殻に当たる部分だった。

 

「!?………そんな…馬鹿な…!」

 

最も硬い箇所である外殻はひび割れ、崩れ、その内部を周囲へと晒していた。

 

「…これが現実なのだよ。我々が誇るオラクル、コア、そして神機…いかなる技術の粋をもってしても、足元に近付く事さえ叶わないのだよ。神の領域というものにはね」

 

すると、溢れ出す内部を塞ぐように、それを不透明な物質が覆った。

 

「…くそっ…くそおおぉぉ……!!」

 

最早、焦燥などというものは誰の目にも存在せず、ただただ深く暗いものだけが横たわっていた。

 

「…君は、まだ若い。だから、私の言う事の意味が、よく分からないかもしれない。だからこそ、今の内にしっかりと後悔するといい」

 

その言葉は、男にとっての優しさであり、最後の抵抗でもあったが、それに気が付いた者はいなかった。

 

その代わり、どうしようもなく名状しがたい何かが、周囲を包み込んでいく事だけは分かったのだった。

 

「…!?い、嫌だ!まだ、死にたくはない!!死にたくはないんだっ!!!」

 

その事に、恐怖した。

 

「…そうだね。けれど、その願いは叶わない。クレイドル・コアの崩壊が始まった以上、行き場をなくしたオラクル細胞は、不安定なコアの元で不安定な姿を形作り…」

 

五感を超越したよく分からないものに、恐怖した。

 

「…っ!!?」

 

その恐怖は姿を変え、形を変え、確かな名称を持ったものへと生まれ変わった。

 

「…我々は、死ぬ」

 

それは、逃れようのない結果。

 

「う、うわあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!!!!!!!」

 

それ以上の言葉など、その場には必要でなかった。

 

「…これが、クレイドル計画の結末か…皮肉なものだ。アラガミの揺りかごになる筈の研究が、我々の墓場になるのだから…」

 

そして、全ては闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おでんパンっ?!!」

 

奇怪な寝言とともに目を覚ましたミストは、まるで会話を完全に無視したかのような豪快な要約をかますと、顔を上げて周囲を見渡した。

 

すると、そこはブラッドへの配属初日に案内されたきり一度も戻っていないどころかそもそも存在していなかったのではないかと疑われる、自室である事が分かる。

 

ただし、ベッドの中の不自然な膨らみを除いて。

 

「…そっか…確か、訓練の後…」

 

ミストは、ベッドの中の不自然な膨らみを思考回路からも除くと、自室に戻って来た時より少し前の事を思い出した。

 

それは、実地訓練という名の実戦を終えた後の事だった。

 

返り血やら砂埃やらでドロドロに汚れた体を洗い流すべく、自室の比ではないくらい存在を危ぶまれるシャワー室へと入り、そのまま意識を失ったのだった。

 

「…訓練の後…何だったっけ…?」

 

意識を失ったのです。

 

二度も文章として表示したにもかかわらず、未だに思い出せない様子で疑問符を浮かべているミストは、何の気なしにベッドの脇に手を置いた。

 

すると、不思議な感触と不思議な擬音が、ミストの脳裏を刺激する。

 

感触の方は、クチャ。

 

擬音の方は、ヌチャ。

 

その二つを合わせるとクヌチャとなり、これはヘブライ語で愛を意味する。

 

嘘である。

 

きっと口にゃ。

 

「ひっ?!」

 

短い悲鳴めいた声を上げながら手を置いた方へ視線を向けると、先程は意識しなかった位置に、いつもならぴょこんと自己主張しているのであろう黒髪と、すやすやと気持ちの良さそうな寝息を立てつつ指を咥えているナナの姿があった。

 

ふと、その姿が親猫の乳に吸い付いたまま眠っている子猫のように見え、無理に起こす事がこの世の罪悪のように感じて、ミストはしばらくの間そのまま放置して観賞する事にした。

 

「何かと思ったら、ナナの口か…」

 

ヌチャヌチュッ、ニチュッ!

 

「ひぃっ!!?」

 

が、精神衛生上の問題でそれは無理そうだった為、ミストは素早くナナを起こす事に決めた。

 

「ナナ?ナナ!ナナー!」

 

動揺と焦りと恥じらいが交じり合ったような頭で、何度もナナの名前を呼びながら体を揺する。

 

「…ん…ん~…ん~…?」

 

すると、ようやく、咥えられていた上に舌に絡まれていた指を救出する事に成功した。

 

しかし、どういう事なのか、指先から微かに血が滲んでいるように見える。

 

「目、覚めた?」

 

ミストは、きっと吸われて赤くなっているだけだと思い込むと、虚ろな瞳で眠そうに見上げてくるナナに、改めて声を掛けた。

 

「あれ…キャンディーは…?」

 

キャンディー程度に舌を絡める必要性はないのではないかと思いつつ、未だ夢と現の狭間を彷徨っているらしいナナの顔を覗き込む。

 

「装甲だよ」

 

眠りから覚めたばかりの間特有の、ぽわぽわとした雰囲気に当てられて、ミストは思わずゴッドイータージョークを口走ってしまった。

 

これはもう、あれである。

 

ここが自室でなかったら、恥ずかしさのあまり射撃場に引き籠もってしまうレベルである。

 

「ん~…そこか~…わ~い…」

 

そんな氷上スキーのごときうっかり発言を、無邪気な笑顔と聞き間違えで流してくれるナナは、きっと特別な存在なのだと思いました。

 

ちなみに、ブラッドは特別な部隊だと、少しばかり時間が経ってからミストは納得する事になるのだが、それはまた後のお話である。

 

 

 

 

 

「遅かったな。いや、それは別にいいんだ。右も左も分からないような新人を、半ば無理矢理に実戦に連れ出したのだから、疲れていて当然だ」

 

何故かシャワー室から記憶がなく、何故か自室のベッドでナナと同衾していて、何故かその後ナナに自室から追い出されたそいつは、何故かロビーでジュリウスと会う約束をしていた。

 

「しかし…まぁ、なんだ。俺からとやかく言える事ではないが…職場内恋愛は、程々にな…」

 

「?…はぁ、忠告どうも…」

 

そして、何故か職場内恋愛について釘を刺された。

 

「…ところで、こうして君をここに呼び出したのには、理由があってな」

 

取り敢えずと、今釘を刺された理由について考え、一つの可能性に辿り着いたそいつは、話を仕切り直したジュリウスの言葉に我に返る。

 

「訓練の前に君達新人の名簿を確認させて貰ったんだが…どういう訳か、君の名簿だけ文字化けのオンパレードになっていた。仕方なく書類の方も確認したんだが、うっかりコーヒーを溢してしまってな…」

 

そう言うと、やれやれと両手を肩の高さまで持ち上げて、ジュリウスは幸薄そうな笑みを浮かべた。

 

(…この人、運に見放されてる系の人なのかな…)

 

本人が聞いたら落ち込みそうな事を考えながら、そいつはジュリウスの言葉の続きを待つ。

 

「そこで、せめて名前だけでも訊いておかなければと思ってな。さすがに、これから一緒に戦う事になる仲間に対して、君だのお前だのと呼ぶ訳にはいかないだろう」

 

確かにと同意の意を表明するが、そいつの脳内では既に、ジュリウスが戦場で君だのお前だのという呼称で仲間に指示を出し、誰が何の指示を受けたか分からず困ってしまう様子がシミュレートされていた。

 

どうにも、ジュリウスを可哀想な奴にしたい確固とした意志を感じる。

 

というか、実際に戦場に出ても、個別に指示を出すような事は出来ない気がする。

 

「…え~と…その…」

 

言い淀む。

 

それはそうである。

 

実は名前を覚えてなくて、同世代の女の子に適当に名付けられましたとは、軽々しく言える訳がない。

 

少なくとも、そいつにとってはキャラ的に無理があった。

 

「…ナナに、ミストという名前を、付けて貰いました…」

 

よって、そいつに出来た事と言えば、手短に事実を伝える事だけだった。

 

「…ふっ…そうか…」

 

それをどう受け取ったのか、ジュリウスは少し嬉しそうに表情を緩め、先程とは違う笑みを浮かべる。

 

「つまり、ニックネームという奴か。仲のいい友人同士の間でのみ成立するという、本名とは異なる特別な呼称…!」

 

その、あからさまに「ニックネーム」という単語の意味を暗唱しただけにしか聞こえない言い様は、二つ以上の意味でそいつの動揺を誘った。

 

一つは、ジュリウスが勘違いしている事から来た動揺。

 

もう一つは、ジュリウスには友人がいないのではないのかという疑惑から来た動揺。

 

さらにもう一つは、ジュリウスがニックネームに興味津々で、既にニックネームを考え始めているのではないかという困惑から来た動揺である。

 

もっと突き詰めて考えていけば、まだまだ出そうではあるが、この辺りで止めておく。

 

こういう事は、文系に興味がある人が考えていればいいのである。

 

とにかく、この場において重要な事というのは、本格的にジュリウスを可哀想な奴にしたいという意志と、その根源となるバイアスが存在するという事である。

 

「…ふっ…いいだろう。名簿が見られるようになれば、名前を知る事など造作もない。ならば、今ここで俺がすべき事は、仲間と友好的な関係を築く事だろう…!すまないが少し待っていてくれ!君に似合う見事なニックネームを考えてくるっ!」

 

その結果、ジュリウスはロビーから足早に立ち去り、その場にはそいつと、一部始終を目撃していたオペレーターのフランだけが残されたのだった。

 

 

 

 

 

いつまでも戻ってこないジュリウスに痺れを切らした事と併せて、取り除き切れていない疲労感に負けたそいつは、先に自室へ戻ろうとエレベーターの前まで移動する。

 

すると、タイミングよくエレベーターの扉が開き、中から見覚えのある人物がそいつの前に姿を現した。

 

「…あら?貴女は…」

 

エレベーターの中から姿を現したのは、モーニング・ドレスに身を包み、ベールから金色の長髪と青い瞳を覗かせる、車椅子に乗った女性だった。

 

「…うふふ…こうして会うのは初めてですね……体の調子はいかがですか…?」

 

その女性は、そいつに向けて、絶対至上の愛情とでも呼べる感情を織り交ぜた慈しみの笑みを浮かべると、それとは対照的な程に冷め切った蔑みの視線を送る。

 

そんな、表裏矛盾を形にしたような、どこかで何かが破綻しているような女性の表情に既視感を覚え、そいつは頭の奥底に埋もれていた、二度と使われる筈のなかった単語を溢していた。

 

「…マ、マ…?」

 

直後、はっとして口元を押さえ、頬を少し赤くしながら誤魔化そうとする。

 

「ま、まぁまぁですっ!」

 

それに気付いているのかいないのか、女性は満足そうに微笑むと、思い出したようにエレベーターから降りた。

 

「…そう言えば、まだ自己紹介をしていませんでしたね…私は……」

 

そう言いかけて、女性はくすくすと悪戯っぽく笑う。

 

「…いえ、それは後でも良さそうですね……では、また後で…ゆっくりとお話しましょう…」

 

どうやら、話はそれで終わったようで、女性はゆっくりと車椅子を動かし、そいつに背を向けた。

 

「はぁ…また後で…」

 

その女性にどう接すればいいのかいまいち掴めず、そいつはそれ以上考える事を止めた。

 

そんな事よりも、全身を襲う疲労感を解消する方が優越したのであった。

 

エレベーターに乗り込む。

 

そして、扉の向こうに女性が消えた事を確認してから、深い溜め息を吐いた。

 

「…今の人の、あの目…」

 

スイッチに手を伸ばす。

 

「どこかで見たような気がする…どこで見たんだったっけ…?」

 

一瞬の浮遊感がそいつの体を襲うと、そいつの意識は深い記憶の底へと吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

「んあ!んおはえいー!」

 

ぱたぱたと交互に生脚を上下させ、口に咥えたキャンディーにご満悦な様子のナナは、ミストの自室のベッドに腰掛けた状態で、ミストの帰りを迎えた。

 

その上、ご機嫌具合を表すかのように、片手の平をミストに向ける。

 

どうやら、ナナはあれから寛ぎに寛いたようで、ご丁寧にグローブとブーツを入り口付近に立て掛けてあった。

 

それを見て、自室では土足厳禁なのだろうかと思ったミストは、仕方なくブーツを脱ぐ。

 

そして、普段とは違った感覚に戸惑いを覚えながら、出た時より綺麗になっている気がするカーペットの上を歩いた。

 

「んく…さっきは追い出しちゃってごめんねー!ミストをシャワー室から部屋に運んだ後、まさか私も一緒に寝ちゃってたとは思わなくて…!」

 

どうやら、シャワー室に入った辺りからミストに記憶がなかったのは、そういう事らしい。

 

(…そう言えば、今朝までバレットエディットに夢中で、昨日から寝てなかったっけ…)

 

つまり、寝不足で倒れたのだった。

 

「でも、シャワー室の前で倒れてるミストを見つけた時は、すごくびっくりしたんだからね!あんまり無理しちゃダメだよ!」

 

しかし、そんな状態でも、ミストはなんだかんだでシャワーを浴びていたらしい。

 

その後、シャワー室を出た所で倒れ、ナナに運ばれて、現在に至るという事らしかった。

 

教訓、睡眠は大事。

 

「…うん、分かった。しばらくは、既存物で我慢する」

 

そして宣言、善処します。

 

ミストの言う既存物という単語が何の事かは分からないようだったが、ミストの曖昧な物言いに、ナナは少し納得がいかない様子で言及する。

 

「…しばらくって、どれくらいしばらく?」

 

「しばらくって今さ!」

 

瞬間、空気が凍った。

 

否、凍ったのはナナの表情だった。

 

どうしようもないやってしまった感が、ミストの背筋を駆け上がる。

 

すると、ナナの表情が春の訪れのような明るさを取り戻し、氷点下に迫る勢いで降下していた肌寒さを融かしてくれる。

 

その様は、雪原に舞い降りた女神のようだった。

 

「…ねえ、ミスト」

 

否、デミウルゴスだった。

 

「しばって、どれくらいしばく?」

 

くららが席を立ったようだ。

 

「ごめんなさい…」

 

こうして、ミストにバレットエディット禁止令が下されたのだった。




そう言えば、評価して下さった方、ありがとうございます!

暇を見つけてがんばります!

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