ナリタタイシンは、悩んでいた。
「どうしたんですかタイシンちゃん。そんな、ネックウォーマーのカタログをにらめっこしてて」
まだ、8月ですよ、と寮の同室者であるスーパークリークが話しかけてくる。
そんなに頻繁に話しかけてこない彼女であるが、タイシンがずっと見ていたのを気にしてか声をかけてくる。
「別に……まあ、通気性がよくて、そんなに肌が露出しないやつがないかなってちょっと見てただけ」
別に彼女には関係ない話だ、と思いながらも最低限のことを伝えて品定めを続ける。
「なるほどぉ……私のおススメはですねぇ、これかぁ、こっちですかねぇ」
スーパークリークも同じように商品を見て、タイシンに勧めてくる。
「これは、ちょっと薄すぎ。……こっちは、いい感じだけど、あの人には似合……」
しまった、と後悔するがすでに遅かった。
あらあらあらあら、とスーパークリークは目を輝かせている。
「すいません。これはタイシンちゃんじゃなくて、プレゼント用だったんですねぇ……お相手は、ウイニングチケットちゃんかビワハヤヒデちゃんあたりでしょうか」
「いや、別に関係ないでしょ。というか、そんなに詮索するほどクリークさんに関係ある話じゃないでしょ」
「タイシンタイシン!今夜、一緒に映画みようよ!もうハヤヒデも誘ってるからさ」
ああもう、とタイシンは苛立ちを抑えることができない。
スーパークリークとの問答を切り上げようした瞬間。
ウイニングチケットが最悪のタイミングで部屋に入ってきた。
何かしてたの、と疑問を浮かべているウイニングチケットに対してスーパークリークが経緯を勝手に話し出す。
「えー、私もハヤヒデもこの季節にネックウォーマーは必要ないよ」
「話は聞かせてもらった。おそらく、タイシンがネックウォーマーを物色していたのは彼女のトレーナーにプレゼントをするためだろう。……根拠としては最近、彼女のトレーナーは夏だというのに、校内でも襟まであるジャージを着て首元まで、チャックを閉めるようになった。……どうして、気づいたかというと、私たちが食堂などで会話しているとき、タイシンが他の場所を見ているときがあった。その視線を追うと大体彼女のトレーナーがいたからだ。どうして、首元を隠しているかの詳しい理由までは全く見当がつかない。しかし、タイシンがそれを気にして、ネックウォーマーを物色していたというのはおそらく間違いではないだろうと思う」
ウィニングチケットの後を追ってきたビワハヤヒデがいつのまにか現れ、自分の推理を披露する。
「さっすが、ハヤヒデ。名推理じゃん!」
「あらあら、じゃあ、トレーナーさんにぴったりのものを用意しないといけませんねぇ」
「あぁ、もう!お前ら全員出てけ!」
予想外に大きくなってしまった、この状況に耐えられなくなりナリタタイシンは吠えた。しかし、その声はむなしく響く。他のウマ娘たちはタイシンそっちのけで、彼女のトレーナーに最適なネックウォーマーを探し始めていた。
「ん、これ」
『包装紙? なにか入ってるの?』
「別に大したもんじゃないよ。開けてみれば」
放課後、トレーニング場でのこと。ナリタタイシンは、トレーナーに小包を渡していた。
言われた通り、包みを開けると、トレーナーは驚いているようだった。
『え、これって』
「いっつも、ジャージ首元まで閉めてたら息苦しいでしょ。それ夏用の通気性がいいやつだからさ……痣。目立たなくなるまで着けとけば」
普段やらない行為でどんな顔をすればいいかわからず、タイシンは思わず顔を逸らした。
「ほ、ほんとにいいの」
「今、渡したんだからどう扱うかはそっちで決めてよ」
「どうしよう。すごくうれしい。痣作っててよかったってすごく感謝してる!」
「いや、ふつうにやめて。というかそのことをうれしがられてたら、私すごく反応に困るし」
「タイシンから、初めてもらったものだからずっと大切にするね。いっつも身に着けておくよ!」
「いや、夏用だから、寒くなったら流石に、他のやつをつけなよ」
元はと言えば謝罪のつもりのプレゼントだったが、想定以上に喜ばれたことで、タイシンはひどく反応に困り、自分の首をさする。
「タイシン」
「ん」
「本当にありがとうね」
「別に」
タイシンは罵声や非難されることはあれども、感謝されるようなことはしていないと思っていた。
けれど、そんな弁解を口に出す気はなかった。
それはなんとなく、本当になんとなくだが、彼女の満面の笑顔を曇らせたくないなと思ったからだった。
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