蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
「A班!報告しろ!どうなってるんだ!!」
「B班とC班は旧市街区へ急行しろ。D班、F班は基地にて待機、民間人の避難を行え!!」
「隊長!!先行していたA班からの報告が入りました!!」
ハワイ諸島。霧によって封じ込められたこの島にはブザーや警告音が鳴り響き、監視塔からはサーチライトの光が闇夜の旧市街区を照らしていた。基地内は武装した兵士が慌ただしく走り回り、隊長格の男が大声で指揮を伝達している。基本的に不要な電力を使わないこの島で、蓄電池や予備バッテリーまで引っ張りだし使用しているこの状況はまさに切迫の一言だろう。
深夜2時、基地のスピーカーから響くブザーでサムは目を覚ました。正直あの禍々しい警告音で目が覚めるのは良いものでは無い。しかしそれと同時に身体が無意識に動く。
母さんを連れてシェルターに行かないと!!
実は以前にもこの様なことがあった。パール・ハーバーに放置していた戦闘艦撃沈の為に霧の駆逐艦群が湾内に侵入してきたのだ。幸いにも目標が無人の戦闘艦であった為か死者は出なかった。しかし流れ弾による施設への被害は霧の艦への底知れぬ恐怖を植え付けるきっかけとなり得た。あの一件以来軍人達は民間人を守る為にトラブルに神経質になっていたのだ。
廊下を走り母さんの部屋に急ぐ。基地の階段を駆け下り、非常ランプで赤く染まった狭い通路を疾走する。すると数人の兵士達に出くわした。
「やっと見つかった。サム、何処へ行くんだ!?」
「部屋にいないと思ったら……」
「早くシェルターに避難するんだ!!急げ!!」
基地で見慣れた兵士達、走り回っていたのか少し息が上がっている。どうやら僕を探していたらしい。
「ねえ、母さんは?母さんはもう避難したの?」
「お前の母さんならF班の連中が避難させた。安心しろ、お前が避難すれば全員避難完了だ」
良かった、母さんはもう避難してる。なら早く僕も避難しよう、彼らに迷惑はかけられない。
「分かった、シェルターまで避難するよ」
「よし、こっちだ。着いて来い!」
一人の兵士が避難シェルターへと誘導する。こんな状況ではパニックになる人間も少なからず存在する。その為に彼らがいるのだから。
避難シェルターはこの基地が建設された時から存在している。しかし最初からシェルターだった訳では無い。元々は地下の武器保管庫だったらしいが後に転用されてシェルターとなったらしい。そのため元武器庫だった為かシェルターに入るまでにはかなりの手間がかかる。しかし電力の節約の為に電子ロックの類は働いていない。
シェルターの中に入ると30人程が避難しており、中には泣き叫ぶ者もいた。5人程の兵士が慰め、対処をしている。深夜に叩き起こされたのもあるだろうが、やはり以前の霧の襲撃を思い出したのだろう。最もこの様な状況で怖がるなという方が無茶である。
しかし気になるのは原因である。先程から完全武装の兵士達を見かけるが原因が分からない。先程から攻撃を受けていない時点で霧の襲撃では無い筈だ。最も霧の艦の前には完全武装の兵士だろうと無力だが、そうなると原因が尚更分からない。こうなったら他人に聞くしかない。
「ねえ、レイチェル。今回は何があったの?また霧の船が入って来たの?」
近くの若い兵士に声をかけ、原因を聞いてみる。すると、レイチェルと呼ばれた20代の兵士は少し戸惑いながら答えた。
「サムか。混乱を避ける為に極力教えたく無いんだが、それでも聞くか?」
首を縦に振る、するとレイチェルは他人に聞こえない様な小声で教えてくれた。
「分かった。実はな、観測班の連中が騒いでたんだ。”幽霊”が出たって……」
幽霊?そんな非科学的なことで騒いでるのか?
いや、そんなことは無い筈だ。幽霊を見たってことは幽霊に見える何かが今この島にいるってことかな?
「実際は幽霊じゃない。でも観測班の奴らの話じゃ
「そいつらが言うには体温が考えられない程低かったそうだ。人間じゃああり得ないくらいにな、体温を遮る特殊コートの類の存在も確認出来ていないのに」
この段階では機械の故障ではないのかと言うことも出来た。実際問題、整備はしているとしても13年もの間使用しているのだから故障は不思議なことでは無い。しかしその考えは次の言葉で消えさる。
「そいつらは海岸で観測された。この意味が分かるか?」
背筋が凍りつく様な感触。この時代海から陸に何かが来るなど考えられない。海には霧がいるのだから。
まさか……その幽霊ってのは……
「そう言うことだ、サム。だからお前達民間人はこのシェルターから出ちゃいけない。もし何もいなかったら俺たちが観測班の奴らを笑ってやろうぜ」
体の温度が少しばかり下がる。今、旧市街区に潜んでいる存在を想像すれば嫌でもそうなる。
霧……それ以外の何物でも無いだろう。
「レイチェル!手を貸してくれ!人手が足りないんだ!!」
「分かった。じゃあ行ってくるな」
少し年老いた兵士にレイチェルが呼ばれた。この兵もアサルトライフルを背中に下げており、見えるだけでもかなりの武器をぶら下げていた。しかし、完全武装ということはまさか一戦交えるというのか?霧が敵対行為を取らないとは限らないのに!
「サム!!」
レイチェルを引きとめようとした時、後ろから呼ばれると同時に抱きしめられた。先程から自分が探していた人物、この島にいるたった1人の血の繋がった家族。
「母さん……」
「良かった……何処か怪我は無い?」
その女性の名はメアリー・ウェーバー。若々しい女性だが、何処か母性的な雰囲気を漂わせている。
彼女はこのハワイ諸島に取り残された民間人の1人であり、サムの母親である。置き去りにされた時彼女はサムを身籠っており、この島での一年目にサムは生まれた。その為か彼女もサムもこの島ではちょっとした有名人だった。
「本当に良かった……」
「そんなに心配しなくても大丈夫だよ、母さん」
少し顔を赤らめながら話す。避難中とはいえ、12歳の少年としては他人がいる場所で抱きしめられるのは複雑なものがあるのだろう。
「ごめんなさい、サム。でもウィルソンに続いて貴方まで失いたくないの……」
海軍軍人であり、サムの父親であるウィルソン・ウェーバー。旧式となったアーレイ・バーグ級駆逐艦サンプソンに艦長として搭乗し大海戦へと参加した海軍大尉だ。しかし結果、人類は大海戦に敗北した上にウィルソンの搭乗した駆逐艦サンプソンは霧によって撃沈されており、その際ウィルソンは行方不明となっていたのだ。その後、新たな報告を聞くことなくハワイ諸島は霧の海洋封鎖に呑まれた。生きているとは信じつつも本心では半ば諦めかけているのだろう。
「大丈夫だよ母さん、父さんはきっと生きてるよ。そんな気がするんだ……」
「サム……」
親子が地下シェルターで再開を果たしていると同時間。地上ではある兵器の準備が着々と進んでいた。
「ピース・キーパーの準備は出来たか!?」
「バッテリーは後2分で充電完了です!弾薬の装填については既に完了してます!」
「準備出来次第A.B.C班の元へ送るんだ!」
格納庫に響く大声。先程の隊長格の男が指示を出していた。
「動かせる奴は早く集合だ!!」
「隊長!集合完了しました!」
「遅い!!」
「申し訳ありません!!」
慌ただしく格納庫を走り回る軍人達。その真ん中には4本な足を持つ高さ4mほどの甲殻類に似た物体が置かれていた。その物体には見えるだけでも多銃身砲や擲弾発射器が取り付けられており、物体上部のハッチの様な場所からは操縦席らしきものが見えている。それはまるでSFの世界から飛び出して来たかの様な兵器だった。
ここハワイ諸島には試験用ピース・キーパーが6機残されており、うち3機を投入することが決定された。勿論使うなど微塵も考えていなかったのだから普段から最低限の整備しか行っていない。おかげで作業は混乱気味だった。
「全く……ピース・キーパーを出したって霧には敵わないってのに……」
照明に白く照らされた格納庫の中、3機のピース・キーパーを準備するエリオットの口から愚痴が垂れた。
しかし愚痴を言いながらもエリオットはピース・キーパーへバッテリーを差し込んで行く。長年動かさずに放置していた為かカーキ色の迷彩は剥がれかかっており、放置されていた期間の長さが伺える。
「確かにあの軽装甲車じゃあ頼りないだろうけど、まさかピース・キーパーを使うなんてな……」
格納庫に駐車されている4輪装甲車を傍目にため息をつく。
軍人達は今回の侵入者達が霧と関係があることは薄々気づいている。だからこそ歩兵のみでは危険だと判断したのだ。
何も軍人達は戦争がしたい訳では無い、しかし用心することは悪いことでは無い。ところが基地には戦車など当然無い。あるのは12.7mm重機関銃搭載の偵察用軽装甲車のみ。そこで白羽の矢が倉庫内のピース・キーパーに立ったという訳だ。代わりが居ない以上背に腹は変えられないが、普段整備していない兵器を実戦投入するのは現場からすれば勘弁して欲しいものだろう。
「全く……ツイてないな……俺達ってさ」
目の前の3機のピース・キーパーを眺めながらエリオットの口からは愚痴がこぼれた。
同時間、基地の格納庫付近から市街地へ向けて走る2つの人影。今回の騒ぎの原因であるが、本人達の自覚は薄い。
「なんだよアレ!?なんで歩行兵器なんてSF臭全開な兵器準備してるんだよ!!」
「知らないよ!!大体バレるなんて思ってなかったんだから!!」
ハワイ諸島の旧市街区を全力疾走しながら愚痴をこぼす
「まさか海岸線に監視設備が残ってたなんて………ツイてない……」
「昼間にスキャンした時は止まってたのにね」
予め上陸予定地点はスキャン済みだった。しかしそれらのセンサー類は唯電力節電の為に電源を切っていただけであった。そうとは知らずに夜の砂浜に上陸した時にこの2人は見事にセンサーに引っかかったのだ。おかげでこの騒ぎである。
「とりあえず、これからどうすればいい?」
「保険だけど私の船体ならすぐ近くの海に隠してるよ?」
アイオワの船体か、陽動には適任だろうがその手段は極力使いたくないな。住民を無闇やたらにパニックにさせるつもりはない、もう十分なっている様な気がするが。それに周囲にいる霧の駆逐艦や軽巡洋艦を刺激することになる。
「残念だがアイオワの船体は陽動には使え無いな」
「そっか。まあ確かにそうだよね」
今回ここハワイ諸島に来たのには当然理由がある。目当ての物は廃棄された戦艦ミズーリだ。世界中の戦艦が解体されていく中、アイオワ級戦艦は改修を行いながら生き残り、博物館やモスボール状態となっていた。その中ハワイ諸島にはミズーリが記念艦として残されていた。
そのミズーリが目的だったのだが、45000tの巨体を引きずるのは流石にバレる。回収した後にバレるのは構わないが回収時の姿を見られるのは此方としても困る。そこで2人が直に上陸、陽動を行いその混乱に乗じてミズーリをアイオワの船体を使用し回収する予定であった。
しかしこの2人は海岸線のセンサーに引っかかっるという痛恨のミスをやってしまったのだ。こうなると最早プランは成立せず、完全なアドリブである。
「とりあえず、予定は狂ったけど出たとこ勝負でやってみよう」
「出たとこ勝負?それってダメなんじゃ……」
アイオワ、痛いところ突かないでくれよ。
「まあ、幸か不幸か、今兵士の注意は俺達に向いている。あの様子じゃあ民間人は全員基地内部に避難してるだろう」
「つまりギリギリセーフってことかな?」
「いや、俺達からすれば限りなくアウトに近い。予定じゃあハッキングで起こすはずだった陽動を俺達が直にやらなきゃならないんだからな」
「それって……その……まさか……」
「兵士やさっきの歩行兵器から自分の足で逃げて時間稼ぎだな」
「うわぁ……」
アイオワ、絶句しないでくれ。というかメンタルモデルなんだからまだマシじゃ無いのか?流石に殺傷する気は無いが此方にはクラインフィールドって盾があるんだし。
「とりあえず、逃げ回っていれば大丈夫だ。アイオワ、船体の準備を頼む。ある程度注意を引いたら湾内から戦艦ミズーリを引き抜くぞ」
「分かった。船体起動、外部マニュピレーター接続開始…………完了。BB-63ミズーリへの連結作業を開始。水流噴射推進による逆噴射準備。作業完了まで残り9分28秒」
アイオワの周りにデータ環が出現し船体への指令を送る。恐らく外部アームをミズーリの船体に突き刺して水流噴射推進を逆噴射して湾内からミズーリを引きずり出すのだろう。今、湾内には半潜航状態のアイオワの船体が潜んでいるはずだ。それまであの軍人達の注意を引ければこの作戦は成功だ。
それから2分程経った時、準備を整えた部隊が動き出した。
「海斗、来たよ。街の正面から1個分隊10人に歩行兵器1機。街の左側面から同数の部隊が侵入」
正面と側面か。歩兵の数は20人程だが、あの歩行兵器が2機くっついてる。あの歩行兵器も恐らく歩兵戦車並みの火力は持ち合わせているだろう、どうしたものかな……。
少しばかり憂鬱な気分になりながらも計画をアドリブで練り上げる。海斗としてもここで兵士達を殺傷するのはアイオワの考えに反することになる。それだけは出来ない、ならば歩行兵器を無力化した上で戦意を挫くしかない。
「アイオワ、だいぶ予定は狂ったが準備はいいか?」
「もちろん!OKだよ!」
2人のメンタルモデルの失敗と霧への底知れぬ恐怖を持つ人間達の過剰反応から生まれる戦闘。ハワイ島の平穏は13年目という不吉な数字をもって終わりを告げた。
今回は話がかなりグダグダです。
次の話も合わせればハワイ編だけで3話分……まだ14話しか書いてないのにハワイ率が凄まじいです……。
8/2 無反動砲の口径を84mmから105mmに変えました。
84mmだったら歩兵で十分だと後で気づいたので……
あと、本文中のクサい説明付きの兵器はアルペジオに出た日本陸軍の岩蟹とよく似た米軍の歩行兵器です。ぶっちゃけ歩行兵器自体がリアルだと使い道が少ないので頭を絞って米軍十八番のバリエーションの多さを利点にしてみました。
そして次回メンタルモデルとの激突!!(嘘)
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