蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth14 過剰反応

ハワイ諸島オワフ島。その寂れた旧市街区に向かう20人程の兵士達、M249ミニミ軽機関銃やM240汎用機関銃、M4A1を抱えた兵士もいれば、M24SWSやM32グレネードランチャー背負った兵士も2人程いた。そして何より目を引くのは4本の足で歩く歩行兵器(ピース・キーパー)だろう。彼らは各々配置に着くと、ヘッドギア越しに報告を行う。

 

A班(アルファチーム)、突入準備完了」

 

B班(ブラボーチーム)、所定位置に到着した」

 

C班(チャーリーチーム)、砲撃ポイントへ到着。指示を」

 

無線越しに伝わる声、それはすっかり寂れた基地の司令塔へ繋がっている。そしてこの基地を動かす男にもその声はスピーカー越しに聞こえていた。

 

「中佐、全ての地上ユニットの配置が完了しました」

 

ヘッドホンを付けた完全武装の兵士が報告を行った。

 

「ああ、分かった。それでは作戦を始めてくれたまえ」

 

50代程の老けた軍人、しかしその杖をついた老いた姿とは裏腹に鋭い気配を漂わせていた。白の軍服の左胸には幾つもの勲章が輝き、両肩にはこの男の階級を表す金のラインが入っている。白髪混じりの頭には金色の装飾の入った白黒の海軍帽を被っており、それによって作り出された影が顔のシワを印象付けている。

 

ウィリアム・クーパー中佐。かつて新鋭防空巡洋艦アイゼンハワー級のネームシップであるアイゼンハワーの艦長として大海戦に望み、他艦との連携により、霧の軽巡洋艦を戦闘不能にまで追い込んだ猛将である。

 

しかしその過程で巡洋艦アイゼンハワーは霧の攻撃により中破、そして運悪く攻撃は艦橋近くに命中。ウィリアム自身も重傷を負うこととなった、その時の後遺症により今では杖が手放せない体となっている。その後船を降り、このオワフ島海軍基地にやって来たという訳だ。

 

「A班.B班は所定の位置より旧市街区へ進行。C班は準備完了後、指示あるまで待機」

 

先程の兵士がヘッドホンを通じて各ユニットへ指示を出して行く。

 

「しかし、ウィリアム中佐。私が指揮をとって宜しかったのですか?」

 

最もな疑問だ。彼からすればウィリアムは大海戦の功績のこともあり、階級は中佐。彼から見ればウィリアムは雲の上の人間だろう。

 

「私は合衆国軍人には違いないが、生憎私は海軍だ。したがって今回の作戦は海兵隊出身である君が指揮官だ。君が気に病むことは何一つ無い」

 

落ち着ついた低い声、歴戦の軍人の気迫を漂わせる仕草や喋り方。人生を軍に捧げた男の貫禄、それがウィリアムにはあった。

 

「しかしこのまま動かないのも野暮だ。良ければ部下にメッセージを送らせてもらえないだろうか?」

 

「了解しました」

 

兵士からマイクを受け取ると、一呼吸置き部下へのメッセージを伝える。

 

「諸君。今回の働きは大変素晴らしいものであった、君たちのおかげでこのオワフ島の民間人は誰一人負傷すること無く避難することが出来た」

 

「だからこそ諸君には命令を出しておく。間違っても敵と刺し違えるなどと考えるな」

 

「諸君の持っている武器は消耗品だが、兵士は消耗品では無い。そこを履き違えるな、私からは以上だ」

 

マイクを置き、今まで座っていた椅子に座り直すウィリアム。途端に体の一部が痛み出す、やはり身体は精神について来れない様だ。

 

(兵士は消耗品では無い……か。以前の私なら果たしてここまで断言出来ただろうか?……いや……無理だろう。しかし私があの若造にここまで影響されるとはな)

 

脳裏に焼きついている記憶、大海戦の最中に重傷を負った自分を救った一人の海軍大尉。

 

(いくら老いが来ようと私も未熟者か)

 

その老いた皺顏には微かに自嘲が漂っていた。

 

 

 

オワフ島旧市街区

 

「作戦は説明通りに行う ! 各自持ち場より市街区へ進行せよ ! 」

 

M4A1を抱えた分隊長が指示を飛ばす、それを合図に各ユニットが動き始める。

 

「始まったな、狙撃手(スナイパー)は左方のビルに観測手(スポッター)と共に展開しろ」

 

「機関銃手は右方の売店屋上へ急げ ! 進行する兵士を援護するんだ ! 」

 

命令と共にM24SWS装備の狙撃手とM240汎用機関銃装備の機関銃手が左方と右方の建物に展開する。

 

「これで準備は整った。これより旧市街区へと突入する ! ピース・キーパーを盾としながら進め!!」

 

そして4足歩行のピース・キーパーを中核に2つのユニットは旧市街区へと突入して行った。

 

 

 

「それより中佐のスピーチだけどよ、やっぱ指揮官はああで無いとな」

 

M249ミニミ軽機関銃を抱えた若い海兵隊員が呟く。

 

「そりゃこんな状況なんだから仕方ないだろ。俺達には本当の意味でも替えが効かないんだからさ」

 

「中佐は水兵だけどな。でもまあ、曲がりなりにも心配してくれてるのは有難いよな」

 

「お前達 ! 作戦中なんだぞ ! 中佐の話なら帰ってから話せばいい」

 

他の兵士からの注意、敵が周囲にいるかもしれない中で話をするなど言語道断なのだろう。

 

そんな中分隊長が立ち止まった。それと同じく分隊の動きが止まる。

 

「ブラボーリーダーよりウォーカー1へ、周囲に敵影は見えるか ? 」

 

先程の分隊長が無線機を手に自分の隊のピース・キーパーに確認を取る。

 

「こちらウォーカー1、周囲に敵影は見え無い。ウォーカー3はどうだ ? 」

 

画面からの薄緑色の光に照らされた2人の操縦手。狭く堅苦しく機器が所狭しと並んだピース・キーパーのコックピットに座る2人の内の一人が分隊長に答え、別分隊のピース・キーパーにも確認を取る。

 

「こちらウォーカー3、こっちもだ。反応一つない」

 

リズミカルに揺れる歩行兵器のコックピット、しかし先程から操縦手はこの状況に嫌な予感がしていた。

 

(まさかジャミングを使用しているのか ? このピース・キーパーの観測装置で捉えられ無いなど……)

 

その予感は見事に的中した。

 

「こちらブラボー5 ! 目視にて前方に人影を発見!!繰り返す ! こちらブラボー5 ! 目視にて前方に人影を発見!!」

 

双眼鏡を覗いていた兵士からの報告、その一言で隊の空気が一気に張り詰めた。ピース・キーパーの観測装置には映らず、目視で確認出来たということは目当ての敵が発見されたのだ。

 

「ブラボー1からブラボー6へ、射撃準備。ウォーカー1へ、火器管制システムをオンラインにしておけ」

 

分隊長がM4A1を目標に向けながら命令を言い渡す。6人程の兵士が物陰に隠れながらM4A1を向け、ピース・キーパーはオフラインだった火器管制システムをオンラインに切り替えていく。そして準備が整った時、分隊長は声を張り上げた。

 

 

「此方は合衆国海兵隊だ!!抵抗の意思が無い場合は速やかに武器を捨て、両手を頭の上で組め!!」

 

静寂が辺りを支配する、すると人影はゆっくりと此方を向いた。すると見えたのは海軍帽を被った東洋人の少年。隊員に動揺が走る、自分達が今銃を向けているのは子供では無いかと。しかし分隊長は違った、月明かりに照らされた東洋人の少年は微かに笑っていたからだ。

 

「分かったよ、こうすればいいのか」

 

少年は言われた通りに頭の上で両手を組む。しかしその瞬間少年の身体に蒼色のバイナルパターンが浮かび上がり、周囲には軽い衝撃波が走る。

 

「くっ ! 撃て ! 撃つんだ!!こいつは人間じゃない !! 」

 

分隊長の叫び声と共に一斉に銃を撃つ海兵隊員とピース・キーパー。M4A1とM249ミニミ軽機関銃が放つ5.56mmの軽い射撃音にピース・キーパーが内蔵するM134ミニガンとM2重機関銃が発する7.62mmと12.7mmの重い射撃音。数秒の間にばら撒かれた5.56mm弾と7.62mm弾と12.7mm弾の弾丸、しかしその弾は少年に命中する前に全てが弾かれる。

 

「クソ ! なんなんだよあの壁は!!」

 

「50口径でも貫通しないなんてあり得ねえ!!」

 

存在自体は知られているものの実物を見たものは大海戦を生き抜いた一握りしか存在しない霧の障壁ことクラインフィールド。クラインの壺に似た性質を持つ霧の防御システムであり、これを突破する為には侵蝕魚雷での雷撃や超重力砲の直撃、またはそれに匹敵しうる程の火力をぶつけなければならない。歩兵が持ち歩ける程の火力などで破れる代物では無いのだ。

 

「ピース・キーパー!!105mm無反動砲で奴をぶっ飛ばせ!!」

 

分隊長がピース・キーパーへと命令する。最早アサルトライフルや重機関銃でどうにか出来る相手では無いと悟ったのだろう。

 

「了解、砲弾装填……完了。目標補足、105mm無反動砲発射準備完了」

 

コックピット内でモニターを触ると同時にピース・キーパーが前屈みの射撃姿勢となり、装甲から突き出た無反動砲の砲身が目標へと向けられた。

 

「発射!!」

「了解、発射」

 

モニターに表示された発射スイッチを触ると同時に後方にガスを噴き出しながら無反動砲の砲身からは105mm砲弾が飛び出し目標へと突進する。

 

「着弾」

 

爆風と共に直撃した対戦車砲クラスの砲弾、誰もが撃破出来たと思い込んでいた。

 

しかし爆風が絶えると其処には蒼い障壁に守られた少年の姿、海兵隊員達はゾッとした。今目の前にいる存在は対戦車砲クラスの兵器を持ってしても傷一つ付けられないのだ。

 

「化け物がっ……」

 

思わず呟くピース・キーパーの操縦手、今自分の操縦しているピース・キーパーの最大火力をぶつけた結果がこれだ。元々安定性の問題から通常の戦車用120mm砲や135mm砲を搭載出来ない歩行兵器の為に開発された新型105mm無反動砲、その威力は下手な対戦車兵器に引けを取らない程だった。

 

しかし結果はどうだ、倒すどころか足止めになっているかすら怪しい。105mm砲弾の残弾数は残り14発、ミニガンに至っては既に残弾無し、M2重機関銃も残弾数は50を切っている。果たしてこのままで仕留めきれるのだろうか ?

 

「分隊長 ! こうなったらアルファチームのウォーカー3をここに呼ぶしかない ! 」

 

自分達ブラボーチームだけでは抑えきれない、今は相手が何もしてこないがこのまま何もしないとは限らない。なら作戦位置より移動出来ないチャーリーチームのウォーカー5を除いた戦力を集めればいい。

 

「分隊長 ! このままでは……」

 

物陰に隠れながら暫し考え込む分隊長。

 

「良し ! アルファチームを呼ぼう ! 現在地を伝えるんだ ! 」

 

「了解 ! アルファチーム、応答せよ ! アルファチーム、応答せよ ! 」

 

ピース・キーパーに内蔵された相互通信システムを使いウォーカー3へと連絡を取る。

 

「此方アルファチーム、ウォーカー1、どうした ? 」

 

「大至急応援を求む ! 繰り返す、大至急応援を求む ! 現在位置h……」

 

 

 

現在位置は旧市街区中央、そう告げようとした時、頭上から何かが引き裂ける様な騒音がした。

自分の真上から聞こえた音、恐る恐る見上げるとハッチがあった場所が潰れていた。

 

そしてハッチが根元から引き千切られ、1人のシルエットが月明かりに照らされ浮かび上がる。白の可愛らしいセーラー服に先程の少年と同じ海軍帽を被っている少女。しかしその身体に浮かんでいるものは少年と模様違いのバイナルパターン、操縦手は絶句した。敵は1人では無かったのだ。

 

「ブラボーチーム ? 何があった ? 何故通信を切った ? 」

 

耳元から聞こえる通信、しかしもう頭には残っていない。これから殺される、そんな考えしか思いつかなかった。

 

「降りなさい、死にたくは無いでしょ ? 」

 

そう言われると操縦手は一目散にハッチだった場所から這い出る、逃げるなど恥だなんて考えは浮かばなかった。そんな余裕すらなかったのだから。

 

「何っ!?クソっ!ウォーカー1がやられたぞ!!」

 

操縦者を失い力なく倒れこむピース・キーパーを目にした海兵隊員の一人が叫ぶ。

 

「俺達だけでどうしろって言うんだよ!?」

 

「もうお終いだ!!」

 

各々叫び出す海兵隊員達、唯一対抗可能だったピース・キーパーが無力化された上に敵数は増加。最早地獄だろう、そんな叫び声の中ピース・キーパーの残骸の上から少女が5つ程の何かを投げた。

 

コロッ

 

薬莢塗れの足元に響く軽い音、円柱の形をした黒い直径4cm程の筒。

 

「伏せろぉぉ!!手榴弾だぁ!!」

 

分隊長が叫ぶと共に今まで叫んでいた海兵隊員達も反射的に地面に這いつくばる、しかし幸いだったのは相手に殺傷の意思が無かったことだろう。

 

投げられた筒は破裂すること無く灰色の煙を吐き出して周囲に広げていく。

 

「ゲホ…………ゴホ……これ、手榴弾じゃねえ……」

 

1人の海兵隊員が気付く。

 

「ゲホ……ゲホ……これは、M32の……ゲホ……ゲホ……」

 

「御名答、貴方達の仲間が持ってたM32グレネードランチャーの催涙弾だよ。まあ、死ぬことは無いから安心して」

 

そう言いながらクラインフィールドによる打撃で海兵隊員を気絶させて行く少女、凄まじくシュールな光景である。

 

 

 

「さて海斗、引きつけ役ご苦労様。おかげで大分スムーズに終わったよ」

 

先程とは一転柔らかな話し方に戻る少女。

 

「おいおいアイオワ、途中からハッタリばっかりだったんだぞ。主砲撃たれた時はどうなるかと」

 

2人して海兵隊員達にハッタリを掛けたアイオワと海斗、今回の目的であるミズーリの回収は後2分もしない内に終わる。

 

気絶させたので負傷者は若干いるが、アドリブの予定通り海兵隊員の死傷者は0。2人にとっても文句の無い結果であった。

 

「じゃあ船体にまで戻ろうか、今から戻れば丁度いい位の時間だよ」

 

「良し、じゃあ戻るとしようか」

 

1つの分隊を行動不能にした以上あと2つの分隊は安否確認優先の為に俺達を捜索することは困難になる。それだけの時間があれば楽勝だ。

 

 

作戦は無事成功、そう思っていた。しかしどれだけ綿密に考えてもイレギュラー要因から逃れることは出来ない。その要因が良かろうと悪かろうと変わらない事実だということを俺達はこの後知ることとなる。

 




実は今回メンタルモデルと海兵隊は戦ってません。
海兵隊員がひたすら海斗を撃ってただけなのでハルナさん無双みたいな被害にはなっていません。(歩行兵器のハッチをアイオワさんが引き千切った ? 細かいことは気にしません)

美味しい出番を新キャラのおじさんとアイオワさんに全て持って行かれて主人公(笑)状態になっていますw

まあ、人間よく分からない存在は異様に怖がるものです。それを考えるとアルペジオの陸軍もあながちおかしな反応とは言えませんね。海軍は霧の恐ろしさを知っていたから強硬にならなかったって説明されてますし。

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