蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
今私の置かれている状況は最悪だ、いや正確には使われ方を間違えられていると言えばいいのだろう……か?
「こら ! ボルチモア ! 蒼葉艦長と旗艦アイオワから頼まれた仕事をサボるな ! 」
通常回線では無く概念伝達を通じて送られて来る私への愚痴。
現在私はサモア島近海、正確にはその水深500m程の海中に潜航待機している。そして蒼葉艦長と
今現在、補給艦ミシシネワは船内設備を稼働させて侵蝕作用を持つ機雷を量産している。我々からすれば侵蝕弾頭は魚雷以外の使い道など考えつかないが、実際この機雷という兵器を見たのは初めてでは無い。
大海戦の時には人類の兵器としてよく見かけた代物だ、しかし我々霧には全くと言っていい程効果が無かった為か然程警戒はしていなかった。
しかし結果はどうだ、スールー海での一度目の侵蝕機雷散布での戦果は駆逐艦6隻轟沈、重巡洋艦のクラインフィールドを8割も削り取ったという素晴らしき物だった。
我々霧には考えつかない戦法や戦術を編み出し、効果的に使いこなす様はまさに我々霧が兵器として目指すべき目標だろう。この機雷の件だけでも霧が思考と戦術を備えることへの魅力と義務に溢れていると言っていい。
しかし不満なのはそこでは無い、1番の不満はこの艦隊でのアイオワに次ぐ戦闘艦である私の運用方法だ。
確かに護衛が無駄とは言わない。しかし毎日毎日何かをやり遂げた様な表情で帰ってくる巡航潜水艦の2隻といい開発性が疼くと機雷製造に没頭している補給艦といい、特に仕事の無い私が見ていると来るものがある。
仮にも私は重巡洋艦、それもボルチモア級のネームシップだ。その私が何故こんなにも憂鬱な時間を過ごさなければならないのだ…………
「あの自堕落め……、着いて行った私が馬鹿だったのか……」
「愚痴を言わずに仕事仕事。重巡洋艦なんだからこれぐらい簡単だろう ? アトランタなんて文句も言わないぞ ? 」
私の甲板に立つミシシネワ、今度はわざわざメンタルモデルで来た様だ、というかアトランタは文句も何もまず喋らないだろう。
”失敬な、私はおとなしいだけだ”
共に潜航待機している軽巡洋艦アトランタからの批判が直ぐ様送られてくる、しかしやることが無いのがこれ程苦痛だとは…………メンタルモデルを持ったが故だな…………全く……
そう言えば何処かの国の情報に”働いたら負け”や”働きたく無いでござる”なんて言葉が有ったな。なんて甘美な響きなのだろう……このままアイオワやこいつのことなんて忘れて…………。
「いやいやいや!!目を覚ませ私!!あの自堕落を補佐せねばならない私まで自堕落に身を堕としてどうするんだ!!」
「現実、さっきからお前は働いて無いな」
グフゥ!!かなり刺さる言い方をしたな…………もう少しオブラートに出来ないのか、ミシシネワ。
口に出さずに毒づいていると概念伝達越しに通信が入ってきた。
『ボルチモア、ミシシネワ、大戦艦アイオワ只今帰還。私が居ない間ご苦労様だったね』
やっとアイオワが帰ってきた様だ、これで2対1という不利な状況は終わった。
『旗艦アイオワ、このニート重巡洋艦はどうにかならないか ? 』
ミシシネワァァァ!!
『え⁉︎ボルチモアがニート⁉︎……うーん、というか任務が任務だからミシシネワから離れなければ問題無いと思うよ ? 』
『それならば良いんだ旗艦アイオワ』
まずい……このままでは唯でさえ弄られやすい私のアイデンティティが働かない重巡洋艦となってしまう。それだけは避けねばなるまい!!
『それより2人共、私の船体まで来てくれる ? 海斗からのちょっとした話があるんだ』
概念通信からのアイオワの要請、何か進展があったのだろう。
『了解した旗艦アイオワ』
『私も今直ぐ行こう』
海中に停止していた補給艦ミシシネワと重巡洋艦ボルチモアの船体にバイナルパターンが浮かび上がり、出力を抑えていた重力子機関が作動する。
「なあボルチモア、旗艦アイオワなんだが、レーダーに2隻映ってないか ? 」
「確かにそうだなミシシネワ。まさか北大西洋巡航艦隊の大戦艦ミズーリでも攫って来たのか ? 」
『2人共、私は妹相手にそんな手荒な事しないよ』
「「なっ!?」」
暗い海の中、いきなり目の前に現れたのは船体右舷に廃船寸前のアイオワ級戦艦を括り付けた大戦艦アイオワの船体。
ミシシネワとボルチモアの前に現れたアイオワは自分達の想像の斜め上をいっていた。
「じ、人類のボロ船を持ってくるだなんて何を考えているんだアイオワ!!」
「こりゃあ……たまげたな」
面食らったボルチモアと呆気に取られるミシシネワ、そうなりながらもアイオワの船体に降り立つ2隻。
「何って……私のデコイに……」
船体ハッチから顔を出しながらそう言ったアイオワ、ボルチモアとミシシネワを見ながら若干不貞腐れている様に見える。
確かに活性化したナノマテリアルを振りまいた上に小型の重力子機関を船体内部に放り込んで置けばアイオワ級専用の立派なデコイが完成するだろう。普通に囮とするも良し、相手の近くに肉薄させて機関の暴走で重力子爆弾にするも良しの使い勝手の良いデコイである。
ただしオワフ島を騒がせてまで手に入れる必要性があったかは知らない。
「まあまあ、落ち着いてくれボルチモア。提案したのは俺なんだから」
そう言いながらアイオワとは別のハッチから甲板上に這い出てくる海斗。
「という訳だ。ミシシネワ、機雷製造で忙しいのも承知だが新たにこの仕事を引き受けて貰えるか ? 」
海斗より補給艦ミシシネワの元へとアップロードされる幾つかのメモ、それを読むにつれてミシシネワの表情が明るくなる。
「随分ブラックだな……だが……この仕事受けようじゃ無いか!!」
恐らく開発性のミシシネワにとっては堪らない内容だったのだろう。
「次にボルチモア、ガトーとソーフィッシュの護衛に入ってくれ」
「私を護衛に入れるというのは……」
ミシシネワとの憂鬱な時間があったせいかやや消極的なボルチモア。しかし海斗の提案はボルチモアの考えと正反対だった。
「いや、護衛はついでだ。本当の仕事はガトーとソーフィッシュが狩り尽くせない相手の対応だ」
「それはつまり……本質は戦闘と言うことなのか ? 」
「そうだな。用心棒みたいな感じだな」
心の中でガッツポーズをするボルチモア、これで働かない重巡洋艦とは言わせない ! その一言に要約される心情だ。
「簡単に説明すれば、アイオワ達の艦隊が主力部隊、ボルチモア達の艦隊は遊撃部隊、ミシシネワの艦隊は支援部隊、ざっとこんな感じだ」
「主力艦隊はアイオワを中核に能力的にバランスの取れた軽巡洋艦を配置して敵を迎え撃つ」
「分かった、頑張るよ」
「一方ボルチモア、ガトー、ソーフィッシュは敵の撹乱、どっちかと言えば破壊工作に近いやり方だ。存分に暴れまわってくれ」
「良いだろう。ガトーとソーフィッシュには私から説明しておこう」
「最後にミシシネワ、損害を被った艦艇の修理と補給が第1目的。第2目的は罠の配置だ、今回は特定の海域に敵を誘い込む。従って主戦場をトラップの宝庫にしてもらいたい」
「お任せあれ、蒼葉艦長」
海斗からの説明、アイオワが艦隊に合流した夜に話したノースカロライナとサウスダコタの撃沈。そのための最終準備であり、作成概要の説明であった。
「俺は間接的にしか作戦には参加出来ない、無理を言っているのは承知だ」
幾ら優位に立とうとしても相手には4隻の大戦艦と1隻の重巡洋艦、そして数は減ったが多数の軽巡洋艦や駆逐艦がいるのだ。戦力的には絶望的である、しかしそんなことはアイオワ達も承知済みだ。
「問題無いよ海斗、寧ろ私達こそこんなゴタゴタに付き合わせて申し訳無いよ」
「心配するな、それくらい熟せずに戦闘艦など成り立たん」
「今が一番充実しているな、心配するな蒼葉艦長」
「分かった、決戦場所はソロモン海、日時は5日後を予定している。それまでに最大限の準備をしようじゃ無いか」
「「「了解 ! 」」」
サモア島近海、ノースカロライナとサウスダコタとの決戦の準備は着々と進んでいた。
今回はいつもより少ないです。
と、言うのも艦これSSに手を出してしまった作者。
海は共通だからと手を出して色々地獄を見ております(自業自得)
さて、タラタラ進むこのSS
何時になったら決戦になるんでしょうね……まだまだ長そうです。
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