蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth17 重力子機関の咆哮

「それで……一体何隻やられた……」

 

「駆逐艦27隻、軽巡洋艦6隻、巡航潜水艦2隻だな。まさに全滅状態だ、ノースカロライナ」

 

朝靄の立ち込める海上、霧の中浮かび上がる2隻の戦艦のシルエット、大戦艦ノースカロライナと大戦艦サウスダコタである。この2隻は部下からの定時報告を聞き、敵への苛立ちと同時に自分達の不甲斐なさを味わっていた。

 

ノースカロライナ達の持つ戦力は大戦艦4隻に重巡洋艦1隻、軽巡洋艦9隻に巡航潜水艦4隻、それに50隻にも登る駆逐艦。その内の軽巡洋艦6隻、巡航潜水艦2隻、駆逐艦27隻をたった一週間で喪失していた。戦力5割の喪失が示すものは壊滅の現実、もっとも大戦艦と重巡洋艦を沈められていない以上、火力は然程下がってはいない。

 

ただこの事実はノースカロライナ達にとっては悪夢の様な現実であった。毎度毎度機雷や待ち伏せの罠にはまった挙句、此方はアイオワの率いる艦隊の駆逐艦1隻すら傷付けられずにいる。自身を兵器だと認識するノースカロライナにとってはこれ程の屈辱は存在しなかった。

 

「アイオワがここまでやるとは……」

 

「しかしノースカロライナ、あの機雷にしてもそうだがアイオワだけで行っているとは考えにくい」

 

「つまりだ、アイオワは人間風情を頼っているとでも言いたいのか……サウスダコタ」

 

「その可能性は極めて高い」

 

人間との共闘、あの大海戦の後からこの太平洋に人間がいる場所など数える程しかいない。しかしノースカロライナはアイオワがハワイ諸島を訪れたとの報告を周囲の駆逐艦と軽巡洋艦から聞いていた。

 

(あそこならば纏まった人数が住んでいた上に大海戦後の軍人崩れも幾らか住んでいる筈、まさかそこで……)

 

「いや、霧についての知識が無い人間風情には何方にしても無理な芸当だな」

 

自分の中での結果論を弾き出すノースカロライナ、重力子機関の構造を始め侵蝕弾頭やクラインフィールドなどの兵器群。あれを人間共が解析した上で発展させるなど出来る訳が無いと判断したのだ。

 

「つまりアイオワに協力しているのは人間では無いと ? 」

 

ノースカロライナに疑問を投げかけるサウスダコタ、今の霧は柔軟な思考というものに欠けるというサウスダコタの主張だ。何故ならば今が霧にとっての発展期であり、成熟していない霧があの機雷の様な手段を使うとは思えない。ましてやアイオワ率いる艦隊は2度目の補給を受けることが出来ない、補給艦ミシシネワが搭載している兵装を使い切ればもう後が無いのだから。

 

「まあ、アイオワが脅威なのは変わらんよ。寧ろ簡単に我々に討ち取られたら軽蔑するがな」

 

不満気な表情を浮かべながら呟くノースカロライナ、本人に自覚は薄くなっていたとしても何処かでアイオワに期待しているのかもしれない。

 

「もう茶番はここまでだ、次は我々が直に出るぞサウスダコタ。我々の手で撃沈するのがせめてもの奴への敬意というものだろう」

 

先程の表情から打って変わって冷徹な表情となるノースカロライナ、これまでの様に戦力を分散させずに残存する最大戦力でアイオワ率いる艦隊を捻り潰そうと言うのだ。

 

「いいだろうノースカロライナ。但し一度捜索隊を引き上げる為、艦隊の集結には半日は掛かる」

 

「分かったぞサウスダコタ。それからウィチタにネバダとコロラドの3隻にも伝えて置いてくれ」

 

「了解した」

 

3隻に向けて量子通信を開始するサウスダコタ、その光景を傍目にそれまで腰掛けていた杭からたちあがり、艦橋に向けて歩き出すノースカロライナ。途中立ち止まり、自身の前部三連装16インチ主砲塔の装甲を撫でる、それはまるで自身の存在を確かめるかの如く。

 

「もうすぐ片が付く……勝ち残るのは我々か、アイオワか……何方にしても変わらない……か」

 

その呟きを聞けた者は誰一人としてその場にいなかった。

 

 

 

 

 

ノースカロライナ・サウスダコタ停泊ポイントより北西600km

 

「やっとあの2隻の出陣か……今更遅いってのに」

 

「コロラド、そう言ってやるな」

 

「その通りだよコロラド!!あの2隻が動くの遅れた所為で半分近く戦力が減ってるんだから!!」

 

同じく朝靄の立ち込める霧の海、その海上に数隻の駆逐艦や軽巡洋艦と共に停泊する3隻の戦闘艦。この間の機雷原突入によって自身の艦隊に大損害を被った重巡洋艦ウィチタに初戦のアイオワ追撃戦でアイオワに逃げられた大戦艦コロラドと大戦艦ネバダであった。

 

「ネバダ、我々総出で最初の頃で片を付けていればこんな事態には……」

 

「だがコロラド、追撃を止めたのは我々だぞ。しかしその後の戦力の各個撃破はあの2隻が原因で違い無いがな」

 

「ううっ……あの時はすまなかった」

 

自身の船体の連装16インチ主砲塔の上で胡座をかいていたコロラドが言葉に詰まる、アイオワの追撃戦を中止したのは他ならぬコロラド自身。しかしその行動は部下を心配してのものであり、それを深く問い詰める様な愚行を犯すネバダでは無い。

 

「それにしてもさっ、良く今更動けるよねあの2隻。今度待ち構えているのはあの機雷だけとは限らないのに」

 

重巡洋艦ウィチタが船体の機銃群を弄りながら愚痴を漏らす、ウィチタにとってあの侵蝕機雷は物理面だけでは無く精神面にもかなりの影響をもたらす様だ。もっとも、目の前で6隻もの艦が一斉に轟沈するのを目にするのは霧とはいえ来るものがあるのだろう。

 

「しかしネバダ、結局のところどうしたいんだ ? 我々は別にアイオワを撃沈したい訳では無い。アイオワが語っていた理想論についていかなかっただけだ」

 

今となっては信憑性があるが、メンタルモデルを獲得してから最初にアイオワが出した提案が感情の獲得、及びにそれを土台に発展する戦術の実装。しかし当時のネバダとコロラドにはこの提案が唯の理想論に感じられたのだ。もっとも部下を預かる身としては不確定要素を避けなければならず、この2隻は結果は最悪だとしてもそう判断するしか道は無かった。

 

「……まあ私としては今ではアイオワの考え方の方が現実味を感じるさ。部下を撃沈された時に感じたあの感触、アレの蓄積によって戦術を得られるのならば私は構わない……アイオワを裏切っておいて今更虫の良すぎる話だがな」

 

主砲塔の上で自嘲気味に呟くコロラド、部下の身を案じて判断を下した筈が結果を見るならば自分は選択を誤ったのでは無いか ? そう思わずにはいられなかった。

 

「そう思い悩むなコロラド、何方にしろ次は主力艦同士の艦隊戦、重巡洋艦の数は拮抗しているが此方にはお前や私を含めて4隻の大戦艦がいる。いくらアイオワが策に富んでいようとこの戦力差を覆すのは容易では無い」

 

自身の船体(ネバダ)の甲板に腰掛けながらそう告げるネバダ、これ程の戦力を失いながらも戦力の中核たる大戦艦級が被害を受けていない時点でアイオワ側が不利なことには変わりは無かった。

 

何故ならば純粋な戦闘能力のみで見るならば大戦艦級はトップクラスの打撃力を有する霧の中核戦力であり、霧の艦隊を纏め上げる幹部的存在でもある。故にその打撃力は巡洋艦や巡航潜水艦の比では無い、先の大海戦においてとある軍人達にデウス・エクス・マキーナ(機械仕掛けの神)と言わせた大戦艦級の力は伊達では無かった。

 

「そうなればいいのだがな……私の醜態で部下が撃沈の憂き目を見るのは先の追撃戦だけで十分だ……」

 

しかし数は違えど敵も又強力な大戦艦級の一角、大戦艦アイオワ。それも少しばかり前までこの太平洋艦隊を治めていた艦隊旗艦、そして艦隊旗艦を追い出された今もその優秀さは失われてはいない。現にアイオワはあの激しい追撃戦の差中、部下である巡航潜水艦2隻を用いて正確かつ有効な雷撃を我々の追撃艦隊へと行った。

 

それによって部下の駆逐艦フレッチャーと軽巡洋艦オマハを撃沈されたのは記憶に新しい、重巡洋艦ウィチタが配下の駆逐艦6隻を葬った侵蝕機雷を恐れているならば大戦艦コロラドが恐れているのは部下の喪失。駆逐艦が撃沈され、軽巡洋艦が撃沈されて次に大戦艦級が撃沈されぬ保証など何処にも無い。

 

大海戦以降、自らは命令を受けるのみの兵器だと言いながらも十数年の時を共に過ごした仲間……駆逐艦や軽巡洋艦達……それに相棒であるネバダを失うことをコロラドは密かに恐れていたのかもしれない。

 

「……そもそもそんな事態にはさせる気など毛頭無いがな……」

 

主砲塔の上でそう呟くコロラド、やはり配下の艦を撃沈されたことを未だに引きずっている様だ。

 

「コロラド、いい加減1人で抱えこむな。何の為の艦隊だと思っているんだ」

 

「そうだよ ! コロラド!!戦う前からそんなに落ち込んでてどうするのさっ!!」

 

コロラドへと伝えられるネバダとウィチタからの激励、ネバダからすれば部下の喪失の責任をコロラドだけが背負うつもりでいることが許せず、ウィチタからすればこの艦隊を率いる大戦艦として弱気でいることが許せ無い。

 

「……そうだな……良し、弱気でいるのはここまでだ」

 

今まで座り込んでいた主砲塔から立ち上がるコロラド、それと同時に大戦艦コロラドの心臓たる重力子機関の咆哮が甲高く響き渡る。

 

「ネバダ,ウィチタ,ジュノー,アムステルダム,ニコラス,オバノン,シャバリア、これよりノースカロライナの臨時艦隊へと合流する、全艦巡航速度にて航行せよ」

 

「「了解 ! 」」

 

コロラドからの指令を皮切りに艦隊は動き出す、それぞれの艦が放つ独特の重力子機関の咆哮が混ざり合いながら響き渡り、海面には余剰となったエネルギーが光の糸となって走っていく。

 

赤や緑、青や紫といった霧の特徴たる独特のバイナルパターンを発光させる艦隊。そして船体後方水面下に付いた水流噴射推進装置が起動し、徐々に速力を上げて行く。

 

(アイオワ……お前と我々、何方が太平洋艦隊の未来を導くべきなのかいい加減はっきりさせようじゃないか)

 

自身の船体の連装16インチ主砲塔の上、コロラドは誰にも悟られぬよう密かに言葉を紡ぐ。

 

(今回の戦闘で全てが決まる、我々が勝ったならば太平洋艦隊の未来は我々が紡いで行けばいい。もしアイオワが勝ったならば……その時は……)

 

朝靄の中進む霧の艦、その艦隊を率いる大戦艦の表情はいつに無く硬かった。

 

 

 

 

 

 




今回は敵側、ノースカロライナ達にスポットを当ててみました。

そして2話目以降出番の無かったネバダ&コロラドをやっと出すことが出来ました。いやー本当に中盤空気でした。(出せなくて申し訳ないです)

主人公側(アイオワ側)も追い詰められていますが、ノースカロライナ側もかなり切迫詰まっています。メタ的な話ですが、あと2,3話で艦隊戦に入れるよう努力します……

あと次話は遅れると思います。申し訳ありません……

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