蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
Depth18
ソロモン海、パプアニューギニアやソロモン諸島、ビスマルク海や
その海を睨む様に配置された数多の艦艇、朝靄の中独特なバイナルパターンを発光させる霧の艦艇群。駆逐艦群と巡航潜水艦を周囲に展開させ、その背後に軽巡洋艦を配置、そしてその後方に司令官の如く陣取る4隻の大戦艦。巡航潜水艦2隻,駆逐艦23隻,軽巡洋艦3隻,重巡洋艦1隻,大戦艦4隻、総勢33隻の霧の大艦隊。当初の半分近くまで数は減ってしまったが、アイオワ率いる艦隊の攻撃を逃れた残存艦艇を全て投入して来たのだ。
ソロモン海に到着した霧の大艦隊、その艦隊旗艦たるノースカロライナはある反応が検出されたその海を見つめていた。
「ノースカロライナ、間違い無い。大戦艦アイオワと重巡洋艦ボルチモアがクラインフィールドのダメージを放出したのはこの海域だ」
ノースカロライナに調査結果を報告するサウスダコタ、霧の艦艇が持つクラインフィールドはそれぞれ特徴の様なものが存在し、それから排出された熱量を解析すれば少なくとも艦種は判明する。通信などの欺瞞が可能な類とは違い、霧の痕跡を辿る確実たる証拠となり得るのだ。
そしてこのソロモン海で検出されたクラインフィールドのダメージ放出時の熱量はアイオワ級とボルチモア級のものだった、故にノースカロライナはこのソロモン海へと残存艦艇全てを投入しての決戦を決意したのだ。
「今まで随分手こずらせてくれたが……最早これまで、逃がさんぞアイオワ……」
「我々が勝つか、アイオワが勝つか……どちらにしてもこれで片が付く」
艦隊の中央に居ずわる大戦艦ノースカロライナと大戦艦サウスダコタ、2隻にとってこの大規模攻勢はまたと無いチャンス。
ここで失敗すれば再びアイオワ達による戦力の各個撃破を受けることとなる、ノースカロライナにとってアイオワが欠陥を起こしたと言い切った以上は他の巡航艦隊からの増援は望めない。
否、そんなものは望んではならない、今回の決戦にてノースカロライナは自身の正しさを証明せねばならないのだから。
「それでは作戦開始だ、ネバダ,コロラドは部下を率いてビスマルク海方面より回り込んでくれ。アイオワの逃走だけは防ぎたい」
「了解した、これよりノースカロライナ艦隊より離反、別行動に入る」
ネバダとウィチタ、その他数隻の直属の部下である駆逐艦と軽巡洋艦を連れて別方面へと向かうコロラド。ノースカロライナ達がこのまま島嶼群を抜けてソロモン海へと侵攻するのとは裏腹にコロラド達が行うのはアイオワの逃走阻止、そしていざとなれば超重力砲による長距離援護射撃を行う砲艦役である。
アイオワに対して速力と直接的な打撃力で劣っているが故にコロラドとネバダは支援役に抜擢された、ただし本人達はそんなことは自覚済みであり、寧ろ自分の部下を危険に晒さない裏方役への抜擢を快く引き受けた。
艦隊を離反していくコロラド達を傍目にノースカロライナは全艦艇に命令を下す。
「全艦艇に告ぐ、これよりソロモン海島諸群へ向けての侵攻を開始する。全艦艇戦闘配置に着け」
「駆逐艦は前方と左右に展開、その後ろを軽巡洋艦、巡航潜水艦でカバーするんだ。これまでの機雷の件もある、何かを探知したら直ぐ様知らせろ」
ノースカロライナが指令を出し、サウスダコタが補足をする、今回もアイオワは相当の罠を仕掛けて待ち構えていると判断した2隻は駆逐艦をピケット艦として前衛に出し、軽巡洋艦と巡航潜水艦を艦隊中部に置き、トップクラスの火力を有する大戦艦級がその背後に配置される。
但し前衛の駆逐艦達は良く言えば艦隊の目、悪く言うならば戦車で言うタンクデザント兵である。クラインフィールドを削る侵蝕機雷の機雷原も場所が分かってしまえば巡航潜水艦の観測の後に対潜弾で吹き飛ばせる。万が一アイオワ達が正面斬って攻勢に出てくれば大戦艦級2隻の火力を持って排除する、それがノースカロライナの描いた作戦だった。
その命令より10分後、ノースカロライナとサウスダコタより離れること距離5000、艦隊前衛に展開するフレッチャー級駆逐艦であるシュレーダーはセンサーを研ぎ澄まし、周囲の変化を観測していた。
するとソナーに映り込む2つの反応、シュレーダーはそれを即座に自身のコアへと送り解析を開始した。
ーーポイントD175-E685より水深305m地点、南西へ相対速度−30ktでの移動をする対象を発見。対象物の観測を開始……完了、重力子機関の反応及びにパターンよりこれを巡航潜水艦ガトー級2隻と判断、危険レベル高に指定ーー
ーー並びに同ポイントに60基程の浮遊物体を確認、侵蝕反応が皆無であることから侵蝕機雷では無いと判断、危険レベル低に指定ーー
ーーこれまでの情報を旗艦ノースカロライナへと伝達、及びに全艦隊への
駆逐艦シュレーダーの報告と第一種警戒態勢の要請はノースカロライナを通じて全艦艇へと伝達される、それと同時に対潜弾が各艦のVLSへと装填されていく。そして対潜弾への座標入力が完了し、撃ち込もうとした矢先、それを探知してか2隻の巡航潜水艦は一気に120ktまで加速し離脱を開始した。
「クソっ!!逃げられたか ! 前衛駆逐艦と軽巡洋艦、巡航潜水艦は直ちに追跡を開始、あの巡航潜水艦を逃がすな!!」
ノースカロライナの命令と共に発射シークエンスを完了した対潜弾640発が打ち上げられ、海面へと着弾していく。着弾後、目標にむかって雷速250ktで突進する対潜弾。
「反応が6つに……アクティブデコイとは、最後の悪足掻きか ? 」
その時巡航潜水艦の反応は6隻へと増加、疑問を感じるサウスダコタだが、それでも640発の弾幕の前にアクティブデコイ4基だけなど誰もが無駄な足掻きだと思っていた。
しかし放たれた640発の対潜弾は1発として目標には命中しなかった、数には数で押し切る収束弾頭型の迎撃魚雷や重力変化を起こして対潜弾を狂わせる特殊弾頭魚雷、それらが一斉に海中の浮遊ユニットより発射された。
そして直前に放ったアクティブデコイは唯のデコイでは無く命中すれば辺りの対潜弾諸共自爆する達の悪い存在だった、数多の手段を使いながら対潜弾の弾幕をあざ笑うかの如く2隻の巡航潜水艦は海域より逃走して行く。この様にに腸が煮えくり返る様なノースカロライナだったが、逃げている巡航潜水艦も己が張った弾幕に気が気で無かった。
アクティブデコイの自爆や迎撃魚雷が飛び交う中を120ktで突っ切る2隻のガトー級巡航潜水艦、クラインフィールドを目一杯に張りながら海域を離脱して行く。しかし衝撃波まで防げる訳は無く揺さぶられる艦内、その中枢区間でソーフィッシュは愚痴を垂れていた。
「こんな弾幕の中を突破するなんて旗艦アイオワは何を考えているんだ!!」
緊急離脱時に船体が揺れたおかげで身体中を強打したソーフィッシュ、メンタルモデルなのでそれ程の痛みは感じ無いが、それでも違和感があるのか自身の鼻を摩りながらモニターで周囲の状況を確認している。
『口を動かす暇があったら足を動かせソーフィッシュ、次はポイントD189-G156で第3デコイが起爆態勢に入った、距離を取らんと巻き込まれるぞ』
僚艦のガトーより入る通信、あの厄介なアクティブデコイがまた自爆するらしい。防衛面での戦果は素晴らしいがもう少し使う方のことも考えてもらいたいものだと思うソーフィッシュだった。
「分かっているガトー!!取り舵一杯、アップトリム5!!アクティブデコイより距離を取る!!」
ガトー共にソーフィッシュが進行方向を変える、120ktでの航行中に曲がった為か艦内には凄まじいGが掛かる。そしてガトーとソーフィッシュを追跡する57発の対潜弾、しかしその57発は最後のアクティブデコイによって阻まれる。
轟音
再び海中に衝撃波が伝わり船体の軋む音が僅かに聞こえる、半径70m内の物体を根刮ぎ消滅させるアイオワの16インチ重力子砲弾入りのアクティブデコイ。
「これより現海域を離脱、騒音を目一杯立ててノースカロライナを例の場所に誘い込むぞ」
『了解した、キルゾーンへの誘導に失敗は許されないからな。ノースカロライナが追跡することを願おう』
その通信を終えて2隻は約束の海域へと向かう、通常の潜水艦では自殺行為である騒音を撒き散らし、ノースカロライナ達をキルゾーンへと誘い込む。しかしノースカロライナがその罠に気付くのはキルゾーンに入った時だった。
「このまま逃げるつもりか…………いいだろう!!貴様らが逃げるなら我々は狩りたてるまでのこと!!全艦隊最大戦速!!あのガトー級を追跡しろっ!!」
「全艦隊、ガトー級の漏らした騒音を観測、それを目印に追跡を開始。後、対潜弾の残弾数が怪しいものは発射を控えろ、以上だ」
これまでの各個撃破に加えていざ敵を目の前にしての己の失態、ノースカロライナは激情に駆られて最早正常な判断を下せなくなっていた。
そのノースカロライナの艦隊命令に続いてサウスダコタが補足、それによって駆逐艦や軽巡洋艦は重力子機関に過負荷をかけてまで出力を捻り出す。それによって70ktで動き出す艦隊、そのままノースカロライナ達は罠であるキルゾーンへと向かって行った。
ソロモン海域島諸群にて
ーー目標ヲ補足、駆逐艦23,軽巡洋艦1,巡航潜水艦2,大戦艦2ヲ確認。量子通信ヘノ割リ込ミ……完了、通常通信ヲ妨害……完了。コレヨリ座標Q195-X205ヘノ攻撃を開始、使用弾頭ハEMP弾頭、マズハ敵艦隊ノ無力化ヲ図ルーー
ソロモン海域の島諸群より発せられる機械的な声、それと同時に幾つかの島の表面が盛り上がり、その中から筒を束ねた箱の様な代物が姿を現す。
その筒の中に入っているのは侵蝕弾頭や重力子弾頭、更にはEMPシステム搭載弾頭や囮の空弾頭など。そしてこれらを搭載した大量の多連装ロケット砲の数々である、霧の艦の本質的な弱点を突いて陸上に設置されたアイオワの罠であり、理屈上は弾切れになるまで破壊され無いことになっている。
その島諸群へと侵攻する艦隊、ガトーとソーフィッシュに誘い込まれたノースカロライナ達だった。
多連装ロケット砲は海中に漂う観測ブイから信号を受け、着弾位置を修正して行く。何故ならこのロケット砲の弾頭はある段階を踏む為に一部を除いて非誘導式の滑空弾である、しかし命中率の悪い滑空弾を確実に当てる為に海底ではある魚雷の準備が終わろうとしていた。
「ノースカロライナ、今からでも一回引いて立て直そう。この海域は嫌な予感がする」
ノースカロライナの隣に並んだサウスダコタからの意見の具申、先程からの敵の動きやこの海域に違和感を感じ取ったのかもしれない。しかし激情に駆られたノースカロライナは撤退の2文字を認めかった。
「今更後になど引けるものか!!今まで沈められた37隻の仇討ちもせずに逃げ帰れと言うのか、サウスダコタ!!」
「そうでは無い ! 落ち着くんだノースカロライナ!!お前には残された32隻の運命が掛かっているんだぞ!!」
普段は物静かなサウスダコタもノースカロライナに食って掛かる、しかし今のノースカロライナにとっては撤退は裏切りと同義、敵艦隊を殲滅するまで引く気は無いらしい。
「貴様が臆病風に吹かれたなら勝手にしろサウスダコタ!!全艦隊島諸群への侵攻を再開、敵艦隊を殲滅しろ!!」
「くっ ! ノースカロライナ ! 話を聞くんだ!!」
サウスダコタの船体を強引に押しのけて前に進むノースカロライナ、2隻のクラインフィールドがぶつかり合い、周囲に紫電を撒き散らす。しかしそんなことはお構い無しにノースカロライナは艦を進める、全ては敵を討つ為にと、しかし皮肉にもノースカロライナはサウスダコタの悪い予感を現実のものとするのだった。
ーー頭上ニ敵艦隊ヲ補足、コレヨリ頭上の敵艦隊ヘノ攻撃ヲ開始シマスーー
海中の観測ブイが頭上にノースカロライナを捉え、システムの声と共に同じく海中に沈められた15基の魚雷入りコンテナが一斉に起動、特殊弾頭持ちの魚雷60発を雷速220ktにて頭上に打ち上げる。
「早速仕掛けてきたか……だが、侵蝕弾頭では無い魚雷など無意味だ!!」
ノースカロライナの三連装16インチ主砲がバーベットごと盛り上がり右舷へと傾く、そして無理やり砲身を下に向けてレーザーを斉射する。その他の艦もノースカロライナに続き、5インチ砲や6インチ砲での海底への斉射を始める。
次々と数を減らして行く魚雷、それでも不意打ちを完璧に阻むことなど出来ない。それを証明するかの如く1発の魚雷がノースカロライナの近くの軽巡洋艦の艦底へと着弾した、しかし魚雷が炸裂した時にその弾頭を知ることとなる。
「くっ!!重力変化だと!?一体何の為に!!」
命中と共に一度漆黒の闇に包まれた軽巡洋艦だが、直ぐ様それは縮小して喫水線下まで小さくなる。そして軽巡洋艦を皮切りに密集体型を取っていた艦隊はその殆どが魚雷の餌食となる、しかしノースカロライナにはある疑問を抱かずにはいられ無かった。
(何故だ!?この魚雷は迎撃用兵装のハズ、一体何を考えているんだ!!)
自身も3発の魚雷に捕まり、動きを制限されるノースカロライナ、傍目に見ればサウスダコタも同じく魚雷に捕まっていた。しかしこの魚雷は本来迫り来る魚雷や砲弾を重力変化で狂わせる為の迎撃用兵装、もし艦に命中したとしてもある現象を除いてダメージなどは一切入らないとされている武装だった。
(艦に命中しても機動力の低下以外には…………まさか!?)
魚雷や砲弾を狂わせる程の重力変化を起こす魚雷、それは数発の命中で大戦艦級すら行き足を止められる程の力。そしてノースカロライナの考えは見事に的中した。
次第に大きくなる風切り音、それは5発程の小さな弾頭が奏でる音だった。その弾頭はノースカロライナ達へと吸い寄せられる様に肉薄すると共に青い紫電を当たりに撒き散らす。
「何なんだ……今のはっ ! 」
自分の船体にダメージが無いことを確かめているとふと感じる違和感、先程の弾頭によってレーダーが全て停止していたのだ。
「ノースカロライナ、防空レーダーは完全に使用不能!!今のはEMP弾頭だ!!」
サウスダコタからの叫び、自分達に撃ち込まれた弾頭の正体に気付いたらしい。
EMP
高高度核爆発や雷などによって引き起こされるパルス状な電磁波、あらゆる電子機器を狂わせる現象であり、先程の弾頭は大海戦時に多くの人類の船を葬った霧愛用の悪魔の弾頭、シールドシステムなどを突破出来る霧のEMP特殊弾頭だった。
重力変化によって行き足を止められ、EMP弾頭によって防空レーダーを封じられる。この次に行われるであろう事を想像するのは難しくは無かった。
ーー重力変化及ビニEMP弾頭ハ正常ニ機動、コレヨリ第3段階へト移行スルーー
ノースカロライナ達に向けられる島諸群に設置された数多の多連装ロケット砲、最早行き足を止められた上に防空レーダーを使用しての防御もままならない。
これよりソロモン海では一方的なまでの蹂躙劇が始まろうとしていた。
2週間も空いてしまい申し訳ありません。
話は変わりますがタグにオリジナルを入れた方がいいのでしょうか?某ガンバスターアニメなんかに出てきそうなオリジナル兵装のオンパレードだったのでそろそろオリジナルのタグをつけようか迷っている真っ最中です。
ご意見ご感想お待ちしています。