蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
世界三大海洋の一つである太平洋。
本当なら貨物を輸送する輸送機が飛びまわりタンカーや貨物船が行き来していた。
しかし、現在はタンカーどころか漁船すらいない状態である。それらの代わりに存在する船は禍々しい模様を浮かび上がらせる第二次世界大戦時の船を模した船。即ち、霧の艦隊である。
スーパーコンピュータをも超える膨大な演算能力にあり得ない速度を現実のものとする重力子機関、通常兵器では突破困難なクラインフィールド、あらゆる物質を侵蝕し消滅させる侵蝕兵器。そして上位艦艇のみが保有可能であり、霧の艦艇の最終兵器と言っても過言では無い超重力砲。
霧の艦隊は全艦艇が一箇所に固まっている訳では無い。
日本海及びその近海の海上封鎖を行う霧の東洋方面艦隊。
インド洋及び東南アジア一帯を封鎖する霧の東洋艦隊。
ヨーロッパ一帯の海上封鎖を行っている霧の欧州艦隊。
そして太平洋の海上封鎖を担う霧の太平洋艦隊。
それぞれの霧の艦隊にはリーダーである大戦艦級が艦隊旗艦として存在している。
しかし、その大戦艦級を統率するのは唯の霧では無い。霧の艦隊の頂天に君臨する者こそ超戦艦ヤマト率いる総旗艦艦隊である。
とあるイレギュラーの少年をこの世界に招き入れた超戦艦ヤマトのメンタルモデルはまるでプレゼントを貰った子供の様にはしゃいでいた。
「楽しみで仕方が無いわ!あの男の子がどこまでやれるのかとっても楽しみ。そうは思わない?ヤマト」
セーラー服を身に纏った少女が嬉しそうに話す。
「そうですね、コトノ。今の霧には変化が必要でしょう」
その話に純白のドレスを纏った少女が答える。この2人は唯の少女では無い。霧の頂点に君臨する超戦艦ヤマトのメンタルモデルである。
「こんな事をしてよろしかったのでしょうか?」
緑色のポンチョを来た少女が、ヤマトとコトノの会話に疑問を持ち話しかける。
「402、今の霧には変化が必要です。その理由は様々ですが、強いて言うなら」
402と呼ばれた少女。この少女も唯の少女では無い。最大級の全長と排水量を誇り、メンタルモデルの形成すら可能な総旗艦直属の巡航潜水艦イ402。そのメンタルモデルである。
「大海戦に霧が勝利出来たのは我々が何者をも防ぐ盾と何者をも突き通す矛を持っていたからに過ぎない。だから私達は戦術を学ばなければならない。総旗艦はそうおっしゃりました」
大海戦。霧に人類の存続を掛けて行われた戦闘、だが結果は人類側の大敗北であった。残存艦艇を寄せ集めて構成された最終決戦艦隊もその7割が無残にも撃沈された。対して霧の損害は微々たるものだったのだ、これにより人類は海洋から駆逐され、陸地へと追いやられた。
しかし、超戦艦ヤマトはいつまでも霧が優勢であることを考えていなかった。
「そうね、私たちが行なったのはただ単に相手を力で叩き潰しただけだった」
「いずれ人類が霧に対抗可能な兵器を持った時戦術を持たない霧は敗れ去るという事ですか?総旗艦、コトノ様」
「そういうことよ402。大海戦以来、人類は凄まじい早さでの立て直しを行っている。この優勢がいつまで続くかは分かりません。貴方も臨機応変に動いてみては?」
「そうですね、コトノ。402、貴方には暫く人類のドックにいる401の観察をしてもらいます」
「はい、総旗艦様」
402はヤマトとコトノにお辞儀すると海中から潜水艦が浮上してくる
全長122m 最大排水量6560t
第二次世界大戦中に日本海軍に建造された伊400型潜水艦を模した402の船体であり、402のポンチョと同じく船体には薄い緑色がかかっている。
超戦艦ヤマトのデッキの上からクラインフィールドを足場にして海面に浮かぶ自身の船体へと向かう。イ402は自分の船体に飛び乗るとハッチから中に入り潜行して行った。
「重力子機関始動。各種センサー類の起動を確認。巡行速度を維持。進路、横須賀」
402が呟くと船体にバイナルパターンが浮かび上がると同時に水流噴射式の推進機関が作動する。
「臨機応変にか。総旗艦の考えている事には謎が多い」
自分の中にある疑問はしばらく消えないだろう。しかし、命令は命令である。巡航潜水艦イ402は横須賀を目指し海中へと消えて行った。
超戦艦ヤマト艦上
「行っちゃったね」
「ええ、そうですね」
先程と違い話相手が居ないと寂しいものがある。それは超戦艦ヤマトといえども同じこと。メンタルモデルを持つ前までは考えすらしなかったことだ。
「401の事は402やコンゴウたちに任せればいいしね」
「東洋方面艦隊なら上手くやってくれるでしょう」
自分達が信頼する霧の大艦隊。大戦艦級10隻を含む3つの巡航艦隊。実際彼らなら上手くやってくれると確信している。そうしているうちに新たな話題は見つかった。
「ところで、あの男の子は上手くやってくれるかしら?」
「それを期待してこの世界へと導いたのでしょう?」
とある兵装の試運転時に偶然起きたアクシデントにより超戦艦ヤマトによってこの世界に連れ込まれた少年、しかしそのまま放っておく超戦艦ヤマトでは無い。
「そうね、あの男の子には霧の太平洋艦隊で数少ない私たちの理解者であるアイオワを助けて貰わないとね」
大戦艦アイオワ。史実のアメリカ海軍が保有した大和型をも超えうる全長と速力を有する高速戦艦であるアイオワ級。それを模した霧の大戦艦級である。また、霧の太平洋艦隊の艦隊旗艦として君臨している存在であり、超戦艦ヤマトの考えに賛同する数少ない上位艦艇。しかし彼女を取り巻く状況は良いものでは無かった。
「大戦艦アイオワはあの事件が原因で霧の太平洋艦隊で感情を持ち始めた最初の上位艦艇。しかし霧で無くなろうとしていると部下から疑われ、ついには追われる身となった」
「アイオワの直属の部下であるノースカロライナやサウスダコタは霧が感情を持つ事は霧としての規律を乱すって理由で嫌ってるしね」
艦隊旗艦である筈のアイオワ。しかし彼女の主たる部下達はその思想に賛同しなかった。その結果霧の太平洋艦隊を指揮する筈の彼女は危機的状況へと追いやられる。
「私たちはムサシを始め、ナガト、ハルナなど上位艦艇の理解者が居るのですが」
「東洋方面艦隊のナガトみたいに理解してくれる上位艦艇が霧の太平洋艦隊にはあまり居ないもんね」
「ええ、そうです。蒼葉 海斗、貴方には期待していますよ」
超戦艦ヤマトの艦上で二人のメンタルモデルは太平洋を見つめていた。
その静けさは正しく嵐の前触れだったのだろう。
多少霧がメンタルモデルを持ち始める時期を早めました。