蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
「全く……カウンターに気を付けるのは基本中の基本だとあれ程……」
「すまないな、ミシシネワ」
ノースカロライナとサウスダコタ撃沈から経過すること1日、昨日まで戦場であったソロモン海ではボルチモアがミシシネワによって船体の修復を受けていた。
「前衛の軽巡洋艦連中が観測していたから良かったものの……」
「アトランタとクリーブランドに感謝しなくてはな……あの2隻がウィチタの重力子を検出してたおかげで私は助かったのだから」
「回避があと2秒遅ければお前は蒸発していたな。全く、私も弄り相手がいなくなって寂しくなるところだったよ」
何処か寂しそうにボルチモアの船体を見つめるミシシネワ、13.600tの排水量を誇るその船体の艦尾部分は最早原型をとどめていなかった。船体後部にウィチタの超重力砲が直撃した為か後部三連装8インチ主砲塔は周りの船体諸共消滅、辺りには崩壊したナノマテリアルである銀砂の山が出来上がっていた。
「それじゃあ始めるとしようか、まず崩壊したナノマテリアルを回収する。損傷部分は船体後部だけか ? 」
「ああ、主砲塔があった場所から艦尾方向に28m程だ。大体1800t程持って行かれた訳か」
自身の崩壊した船体部分を見つめるボルチモア、船体にはぽっかりと空いた穴から銀砂が輝いている。もしあの時に回避が遅れていたら……もしあの時に軽巡洋艦部隊からの警告を聞いていなかったら……と思うと背筋が寒くなる。
「うぅーカウンター決まったと思ったのになぁ」
そんなボルチモアの心情を知ってか知らずか実行犯たる重巡洋艦がボルチモアの隣へと浮上する。
「ウィチタ!!一体何しに来たんだ!?」
ボルチモアの隣に並ぶ様に浮上して来たウィチタ、いきなりの実行犯の登場に焦るボルチモアたがそんなことはお構い無しと言わんばかりのウィチタ。彼女の青色の船体をボルチモアの船体に接舷させると共に自身の艦橋からボルチモアの甲板へと軽々と飛び移る。
「様子見に来たんだよ。それに私の一撃除けちゃうんだもん、酷いよボルチモア」
「私にお前の超重力砲の直撃を受けろと言いたいのか……」
開口一番物騒な言葉を口にするウィチタ、悪気が一切無いのが尚更恐ろしい。
「全く……キャンベラやクインシーやお前といい、私の周りに問題児ばかり集まるのは一体何故だ ? 」
「失礼だよ!!というか何で私まで妹と同じ扱いなの!?」
「お前も大して変わらんよ、まずその落ち着きの無さを改善することを勧めておく」
手をバタバタと振りながらボルチモアへ抗議するウィチタ、しかし当人は手の掛かる妹のことで腰に手を当て溜息をついている。
「くうぅ……ボルチモアの方が妹なのに……」
「な、なんだと!?」
「私の次級の形を模してるんだから私の方がお姉さんに決まってるよ!!」
「姉妹艦のいない単艦ボッチが何を言う!!」
「「ぐぬぬ」」
自分達が模した艦艇のネタを逆手に取ったウィチタ、ボルチモア級はウィチタ級の次級であるので間違ってはいないが霧の艦相手にそれを言うのは如何な物だろうか。そしてウィチタが単艦で姉妹艦がいないことを逆手に取ってボルチモアが反撃する。
「お前ら2隻ってつくづく仲良いな」
「「うるさい!!」」
「はいはい……」
そんな2隻をミシシネワが少しからかうと息ピッタリで反論、内心呆れながらも微笑ましいミシシネワだった。
「とにかくだ、私はやることが山積みなんだ。ミシシネワ、ナノマテリアルの補給を頼む」
「あいよ、ナノマテリアル1837tを重巡洋艦ボルチモアへと譲渡、と」
帳簿を付ける様にデータ環に情報を書き込むとミシシネワの船体上の給油パイプの形を模した補給装備がボルチモアの損害箇所の真上へと伸びて行く。
「重巡洋艦ボルチモアへの補給を開始する」
パイプからナノマテリアルがボルチモアの損害箇所に降り注ぐと共に船体を構築していく、船体、主砲塔、機銃に至るまで銀色のオブジェとなり形が出来上がると灰色を帯びたボルチモアの兵装の再構築が終了する。
「やはりこうで無いとな……何処か欠けているのはやはり落ち着かない」
「修理出来て何よりだ。しっかし……これで私の備蓄ナノマテリアルはすっからかんになってしまったなぁ、まあアリューシャン方面でまた積めばいい話か……」
満足気に自身の再構築した主砲塔を撫でるボルチモア、戦闘艦としては装備の欠落は落ち着かないらしい。反対にミシシネワは備蓄性があるのか積んでいた積荷が無くなってしまったことに何処かションボリしていた。
「それにしてもさっ、アイオワも甘いよね。私自身ペナルティが無いのは有難いけど私がやったことは反乱と変わらないのに……」
何時もの戯けた口調ながらも何処か暗いウィチタ、自分達がやった行為は紛れもない艦隊旗艦アイオワへの反乱。なのにペナルティは一切無し、この事実に疑問を持つなという方が難しい。
「なんだ ? ペナルティが欲しかったのか、ウィチタ ? 」
「ち、違うよ!!……でも、何だか変な気分になるから……」
「何か勘違いしている様だがウィチタ、アイオワがやりたいことはお前達を叩き潰したり罰することでは無い」
「で、でも……」
「此度の戦闘はアイオワの目指す未来への直線上にあったから起きたまでのこと、アイオワはお前達には一切の失望も怒りも元より持ち合わせてはいない。お前は心配せずに今までのままの重巡ウィチタでいればいい」
「うん、分かったよボルチモア。私は私なりにまたやって行くよ」
ボルチモアの熱弁に諦めたのか微笑みながらそう言い放つウィチタ、やはりなんだかんだで仲の良い2隻である。
「それじゃあウィチタ、お前にもやって貰いたい仕事がある」
「何でも言ってよ!!」
ボルチモアからの頼みに得意気に胸を張るウィチタ、初仕事が如何なるものか楽しみにしているのだろうが、それは凄まじく地味であった。
「撃沈した艦艇のコア探しだ」
「え……まだ回収して無かったの!?」
「その通りだ、手数が欲しいからお前も手伝え」
「ちょっと!!それなら沈めた本人が責任を持って……」
「アイオワは忙しいから無理だ」
「うぅ……何か嵌められた気がする……」
「愚痴を漏らすなウィチタ、1日も掛からんだろうから」
直ったばかりの船体のワイヤーでウィチタを捕まえて曳航して行くボルチモア、ヤダヤダと甲板上でジタバタするウィチタだがそんなことはお構い無しに連れて行かれる。
「本当に仲のいい2隻だな。さあ、私もさっさと仕事するとしよう」
そんな2隻の微笑ましい後ろ姿を見つめるミシシネワ、しかし補給艦たる彼女も暇では無い。損害艦艇の修理に点検、ナノマテリアルはボルチモアの修復に使い切ってしまったが出来る仕事が無くなった訳では無い。戦闘能力は有していなくともその高い修復能力で彼女は艦隊を支えているのだから。
「次の依頼はガトーとソーフィッシュか……何々、侵蝕魚雷の補給か。まったく補給艦も楽じゃ無いな、まあ楽しいからいいんだが」
次なる要望に応える為に海上を走るミシシネワ、この海域に1隻しかいない補給艦の彼女にとって今日もまた忙しい1日が始まるのだ。
人物紹介 Fog-1
蒼葉海斗
1997年8月27日横須賀生まれ
自衛官である父と主婦の母との間に生を受け、8歳年下の弟を持つ4人家族の長男。
幼い頃から弟と共に父に連れられ横須賀の海や停泊している護衛艦をずっと見ていた為か船や海に対する思い入れが人一倍大きく、高校卒業後は父と同じ海上自衛隊を目指していた。
性格は何処か戯けている様で冷静、ただし一部を除いた物事には比較的消極的であり、頭の回転は早いものの少々臆病。
2015年8月15日
2013年1月25日に開通した金田湾海峡大橋の歩道にて居眠り運転をしていたダンプの追突事故に巻き込まれ金田湾に転落。海上保安庁の決死の捜索も虚しく行方不明となった、なおその時のダイバーの証言では海中には帯びただしい量の銀色の砂の様な物資が確認されていたという。