蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
「はぁ……まさかアイオワの奴、ここまで処罰が甘いとはな」
大戦艦アイオワの甲板上、その機銃座に腰掛けながら憂鬱そうに呟いたノースカロライナ。悩みの種となりそうなのは船体を失ったことであるが、彼女の悩みはそのことでは無いらしい。
「いいじゃないかノースカロライナ、それともコアの封印ぐらいは覚悟していたのか ? 」
そんな鬱屈した様子のノースカロライナに気さくに話しかけるサウスダコタ、こちらは打って変わって雰囲気が真逆だ。
「少なくとも私がする側ならそれくらいはやるぞ……なのにアイオワと来たら……」
「まあいいじゃないか、私も実を言えばそれぐらいは覚悟していたがアイオワらしいと言えばアイオワらしいじゃないか」
この2人の話の種は自分達の処遇についてだ、客観的に見てもノースカロライナとサウスダコタの行ったことは反乱と変わらない。なのに自分達の処遇が軽過ぎるというのがノースカロライナの考え、下した本人が納得してるんだから受け入れればいいというのがサウスダコタの主張だ。
遡ること30分前
「今回はお咎め無し、ゴタゴタが終わり次第2人とも戦線復帰していいよ。あとは喪失した船体だけど来月辺りにアリューシャンから2人分のナノマテリアル86.374t分が届くから船体の修復はそれまでお預けだね」
アイオワに呼ばれて甲板上に来た2人に伝えられたあっさりとした処遇、罰を覚悟したノースカロライナとサウスダコタにとっては全く予想外の対応、2日前に砲火を交えたとは思えないほど軽い後処理だ。
「アイオワ……それだけか ? 」
「 ? ……そうだよ、これでお仕舞い」
信じられないと言わんばかりの表情のノースカロライナにさも当たり前と言わんばかりに返すアイオワ、ただこの一言がノースカロライナには分からなかった。
「何故だアイオワ!!何故私を罰しない!!」
分からない、理解出来ない。そんな感情がノースカロライナのコアを駆け巡る、砲火を交えた上にあまつさえコアの封印すら行おうとしていた我々をどうして許せるのかと、そんなノースカロライナの心情を察したのかアイオワは宥める様に言葉を紡ぐ。
「私には部下を虐める趣味なんてないよ、それに貴方達は貴方達なりに太平洋艦隊のことを考えてあの時私を追い出したんでしょ ? だったら責めはしないよ」
「そんな……だったら私は……」
優しげにそう言ったアイオワとは裏腹に何処か絶望の様な感情を抱くノースカロライナ、旗艦アイオワに反旗を翻し、翻弄され、いたずらに戦力をすり減らした愚かな自分への罰が欲しかったのだろう。
「サウスダコタ、ノースカロライナを頼めるかな ? 」
「承知した、旗艦アイオワ」
そんなノースカロライナを副官のサウスダコタに任せるアイオワ、彼女も部下のことは知り尽くしているがやはりそこは共に過ごした存在であるサウスダコタが相応しい。アイオワもノースカロライナが心配だが今自分が出れば火に油を注ぐこととなるのは目に見えていた。
そして冒頭へと至る
「それでは私が納得出来ないんだ……あれだけの醜態を晒しておいて処罰無しなど……」
「ノースカロライナ、罰せられることだけが償いでは無い。こう思えば少しは楽だぞ ? 」
思い詰めるノースカロライナとは反対に現実的に考えるサウスダコタ、思考パターンの柔軟さが導き出した答えをノースカロライナに伝える。それでもノースカロライナはまだ納得出来ていない様子だ。
「しかし……」
「まあ今更我々がぼやいた所で変わらんよ、それに轟沈した艦はウィチタとボルチモアが回収、コアの損傷が確認されたものは1つとして無い。ノースカロライナ、お前は誰1人失ってはいないよ」
「そうか……なら思い詰めるのも程々にしておくとするよ」
瞳を閉じて機銃座の椅子にもたれかかるノースカロライナ、その表情には安らぎの様なものが垣間見れる。
「ちょっと!!これじゃあ昨日悩みに悩んだ私が馬鹿みたいじゃない!!」
そんな2人に対して投げかけられた元気な声、声の方に振り向くと海中からアイオワの左舷に急浮上する艦艇、昨夜のコア回収でボルチモアにこき使われた重巡ウィチタだ。
「何さ何さ!!サウスダコタも酷いよ!!昨日のうちに私にもその言葉が欲しかったよ!!」
「すまんなウィチタ、お前のことだから大丈夫だと思って油断していたよ」
浮上した自身の船体から飛び移ると共に開幕サウスダコタに向けて怒るウィチタ、そして何事にも動じないかの如くウィチタをからかうサウスダコタ。
「うぅ……そんなぁ……」
「お前にも悩みなんて概念があったんだな……ウィチタ」
しょげたウィチタに機銃座でぐったりしていたノースカロライナまでもが間髪入れずに爆弾を投げる、普段のウィチタを知っていれば間違ってはいないがタイミングが悪過ぎた。
「もう!!そうやって私を馬鹿な子扱いしてればいいよ!!」
いじけた様に膝を抱えて甲板上にうずくまるウィチタ、本人からすれば本気なのだがノースカロライナとサウスダコタは子供っぽいウィチタにちょっぴり保護欲に駆られていた。
アイオワ艦橋内
「で、あの2隻は受け入れてくれたか ? 」
「サウスダコタの方は分かってくれたけど……やっぱりノースカロライナの方は難しいよ」
ノースカロライナ達との話を終えて戻って来たアイオワに成果を聞く海斗、しかしその内容は予想通りのものだった。
(太平洋艦隊の行く末を憂いて行動を起こしたのにこんな結末なら無理も無いか……)
感情の実装は霧を狂わせ弱体化させると掲げ、アイオワへ反旗を翻したノースカロライナ、しかしその内心は霧の太平洋艦隊を思ってのもの。だからこそ私欲にまみれた人間が起こす反乱やクーデターの様な後処理は難しい、彼女の内心はアイオワと全く同じものだったからだ。
「私的にはノースカロライナに責任は無いんだけど……そこは本人がうんと言ってくれなくてね」
「だけどそれは仕方がない、俺達がどう言ったってノースカロライナが認めなければな……」
2人の間に流れる沈黙、そしてその静けさは10秒としない内に破られた。
「……悪いがちょっと外に出てくる、この2.3日ずっと艦橋に缶詰めだったからな……」
「分かった」
艦橋後部のパネルを触り扉を開く海斗、廊下内の電灯の光が彼の肩を規則的に照らして行くのをアイオワはぼんやり眺めていたが、扉が閉まり彼の姿が見えなくなると共に物寂しくなった艦橋を見渡す。
「私は……私はノースカロライナ達の目にどう映っているのかな……」
その問いに答える者は艦橋にはいなかった。
「もう12時か……いつもなら腹が減るはずなのに全く違和感がしない。時間が分からないとそんな事すら忘れそうだ」
艦橋を出た後にハッチより甲板上へと這い出る海斗、腕時計は12を指しており以前なら母の作った昼食を食べていたころだ。しかし今はそんな事すら忘れそうな身体、数日間切り詰めていた為か空腹感はおろか欠伸などの生理現象すら起きなかった。人ならぬ存在、それに自分がなっていることに改めて気付かされる。
「……少し歩くか、この身体じゃああまり関係無いと思うけど」
甲板に手を掛け、ハッチからよじ登る。甲板上には強めの海風が吹き流れ、思わず目を細める。
「そう言えば……アイオワの船体は船内しか知らないんだよな、丁度いい機会だし見て回るか」
今までのゴタゴタの中でアイオワの船体に搭乗していたのに全くと言っていい程船体自体は見ていない、今までならばそんな暇は無いと言えたが安心すると欲が出るのが人間の性、興味のあるものだと尚更である。
「今いる場所が主砲塔付近だから……艦首に行ってみよう」
何処か浮き足立ちながら艦首へと向かう海斗、しかしそこには先客がいた。
「お前……アイオワと一緒にいたおかしな奴か」
頬に紫色のバイナルパターンを浮かび上がらせる白のワンピース姿の少女、ノースカロライナだった。
「アイオワの奴もおかしな者を拾ったものだな、いや……お前の様な存在をただのイレギュラー要因として考慮しなかったのも我々の落ち目という訳だ」
「ああ、あんた達には迷惑だったかもしれないがアイオワには恩がある」
何処かキツイ物言いのノースカロライナ、ただその表情には既に怒りや妬みなどの感情は無く、淡々としている。
「なる程な……アイオワの奴に手を貸していたのはやはりお前か。道理で戦術や罠に人間臭さがあった訳だ」
「どうしてそんなことまで……」
「私達とてただアイオワに反対していた訳では無い、代用策として人類の主な争いや戦術は一通り目に通したからな。もっとも……我々が敗北した時点で無意味に等しいのかもしれないがな」
諦め、目の前のノースカロライナを見てそんな言葉が海斗の脳裏に浮かび上がる。何処か空虚であり空っぽの様な存在、目標を見失った人間そのものだ。
「心配するな、お前やアイオワに対しての恨み辛みは一切無い。全て私の自己責任だからな」
そう呟きながら左舷甲板を見つめるノースカロライナ、その視線な先に見えるものはサウスダコタと帰還したボルチモアに宥められるウィチタの姿、つい数日前までは敵対していたとは思えないほどの溶け込み様、これには何かくるものがある。
「皆仲が良い……いや、仲が良いのには違い無い。だが、結局俺達がやったのは力で相手を屈服させただけなんだよな……」
小声でそう呟いた海斗、自分は恩人であるアイオワの為に何が出来たのか。そんな考えがふと脳裏に浮かぶ、だがそれを打ち消したのはノースカロライナだった。
「お前が気に病む必要は無い。結局のところ私はあれ程の戦力差がありながら敗北した……撃ってから狙うのでは順番が違う、戦いの核たる戦術の獲得に私はアイオワほど野心的では無かった。戦術獲得の重要性すら分からなかった愚か者は私なのだから」
ノースカロライナは自嘲気味に続ける。
「自身の持つ戦力を使い潰した上に私自身も船体を失った。アイオワの方が正しかったのは誰が見ても明らかだろう。もしそれを気に病んでくれるぐらいなら残った者達をアイオワと共に導いてやってくれ」
「ああ……勿論さ」
自分が成し遂げられなかったことを託す、ある意味海斗はノースカロライナにとって信頼に価すると判断されたのだろう。
「そうか、あともう1つ聞かせて欲しい……お前……名は何と言うんだ ? 」
「海斗、蒼葉海斗だ」
「海斗……いい名前だ」
朝靄の中、ノースカロライナは何処か微笑む様にそう言った。
人物紹介 Fog-2
大戦艦アイオワ
大戦艦アイオワ級のネームシップであり、霧の太平洋艦隊旗艦を務める大戦艦級。13年前の大海戦時においては太平洋艦隊の特徴たる圧倒的な戦力をもって国連軍艦隊を蹂躙、またアイオワ級の艦影と蒼色のバイナルパターンも合間って米海軍にブルー・アイのコードネームを付けられている。
大海戦後は配下の艦艇を率いての太平洋海域の掃討戦を開始、数多くの人類側輸送艦艇を撃沈した。またアイオワ自身は霧の弱体化を嫌い異常艦艇の粛清も同列に行なっていたが1隻目の駆逐艦ティエラ粛清時に何らかの異常を起こし2ヶ月間の間のみ臨時艦隊旗艦を部下である海域強襲制圧艦レキシントンへと引き渡している。
アイオワの戦線復帰後と被る様に超戦艦ヤマトよりメンタルモデルの概念が霧に浸透、アイオワもこれを実装し配下の艦も真似る様にメンタルモデルを形成、しかしメンタルモデル形成後に霧の感情の実装を目的に掲げた為にアイオワを慕っていた配下の艦達から疑問を持たれる。
その後の掃討作戦においても以前とは全く別のドクトリンを掲げ部下との軋轢を生む、結果配下の艦である大戦艦ノースカロライナと大戦艦サウスダコタによる艦隊旗艦返上の要請が掛かり、数隻の部下を率いて太平洋南部へと行方を晦ます。
その後ソロモン海で大戦艦ノースカロライナ及び大戦艦サウスダコタを撃破、再び艦隊旗艦の座へと返り咲いた。
容姿はブラウンカラーのロングヘアーに蒼眼、服装は白地に青の模様入りのセーラー服と同様のスカートに白地のハイソックスを着用しており頭には白の海軍帽も被っている。なおセーラー服やハイソックス、海軍帽には霧の紋章たる錨を模したマークが付けられており、本人曰く少しのこだわりらしい。
性格は大海戦時の冷徹さや非情さは全く無く部下を思いやる節や心配する様子から以前とは別人の様になっている。
しかし部下のボルチモアから自堕落と呼ばれる辺り不器用な面も存在している。
船体データ
全長270.43m
全幅32.97m
満載排水量57450t
速力
水上/海中
120kt/120kt
巡航速度
65kt
主機
重力エンジンS型296基
コア
G-1 デルタコア
武装
超重力砲1門
3連装16インチアクティブターレット3基9門
連装5インチアクティブターレット10基20門
40mm近接レーザー防御システム60基
20mm近接レーザー防御システム60基
艦底部魚雷発射管128門
VLSセル384基
船体カラー
白色
バイナルパターンカラー
蒼色