蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth23 駆逐艦ティエラ

 

 

 

「笑ってるノースカロライナか……艦隊旗艦やってる中で始めて見たな……」

 

艦首機銃群の場所に座り込む海斗とノースカロライナに向けられる視線、艦橋上部の露天スペースにもたれ掛かったアイオワはふとそんなことを口にする。人間ならば見えはしないが霧の上位艦艇が形成するメンタルモデルは思考回路の形成だけでは無く驚異的なまでの身体能力も併せ持つ、故にアイオワの目には僅かながらにも微笑むノースカロライナの姿が映った。

 

あのノースカロライナが、常に太平洋艦隊のことに神経を尖らせていた彼女が僅かとはいえ微笑みを浮かべる、それがアイオワにとっては何よりも衝撃的だった。

 

(やっぱり私は役不足なのかな ? )

 

思考の海へと沈んでいくアイオワ、自身は彼女達の上に立つべきなのだろうか ? そんな感情がコアに生まれては消えていく、そんな連鎖を断ち切ったのは彼女の部下だった。

 

「すまんアイオワ……少し伝えておきたいことがあるんだが良いか ? 」

 

思いに耽り気力無くフェンスにもたれ掛かったアイオワに背後から掛けれた声、振り返るとそこにはボルチモアがいた。

 

「回収したコアについてなんだが……コイツ(・・・)はお前にも話しておいた方がいいと思ってな……」

 

「駆逐艦タイプのシングルコア ? 反応からしてフレッチャー級みたいだけど……」

 

この間の決戦時に破損したコアでもあったのだろか ? そんな考えがアイオワの中で浮かび上がる。そんなアイオワを傍目に軍服のポケットからオレンジ色のコアを1つ取り出すボルチモア、そして彼女が発した次の一言でその場の空気が変わった。

 

「お前や私を含めた旧旗艦艦隊が粛清した……フレッチャー級駆逐艦……ティエラのシングルコアだ」

 

艦隊旗艦時の闇、あの粛清の記憶がアイオワの中に再び流れ込む。鉛色の空、ティエラを囲む旧旗艦艦隊の面々、自身が彼女に向けて放った主砲、海中に響く崩壊音、そして自分に流れ込んで来たティエラの負の感情。メンタルモデルの概念すら無かった時代の記憶が寸分狂わずアイオワの中で蘇る、自分がこの手であの海に沈めた駆逐艦ティエラ、彼女のシングルコアが今目の前に再び存在しているのだ。

 

「でも……でも、あの子はあの海域で沈んだはず……私がコアを海に落としちゃったのも同じ場所だったのに」

 

「どうやら太平洋東部から海流に乗ってこのソロモン海近辺に流されていたらしい、あの後お前は一時的にレキシントンに艦隊旗艦を任せて引きこもるし私達もそれ絡みで忙しかったからな」

 

後であの海域を探しても道理で見つからなかった訳だと口遊むボルチモア、自分がレキシントンに艦隊旗艦を任せて戦線から離脱していた間にそんなことをしてくれていたと思うと結果はどうであれボルチモアには感謝せずにはいられなかった。

 

「で、どうするんだアイオワ ? 」

 

「え…… ? 」

 

「コイツをどうするかはお前次第だアイオワ。戦線復帰させるも良し、言いたくは無いが……このままコアを封印するのも……な。あの粛清には私も一枚噛んでいたんだ、お前がどんな選択を下そうと私は従うよ」

 

旧旗艦艦隊からの付き合いであるボルチモアの言葉には何処か己への嘲がある様にアイオワには見えた、メンタルモデル無きあの時代の力に酔い痴れ道を外れた自分達への後悔、そんな感情を目の前のボルチモアに垣間見た。

 

「……私は……」

 

自分でも分かっている、こんなことは唯の自己満足だ。だがそれでも立ち止まる訳にはいかない、所詮は自分で撒いた種なのだ、背を向けて逃げることなどは許されない。

 

「私は……この子に謝りたい、私を狂わせて……私を私にしてくれたこの子に……」

 

微笑みながらもそう口にするアイオワ、その言葉は言葉としての意味は矛盾している、しかしその言葉の本質は誤っていない。頭の固い艦隊旗艦だった自分を狂わせ今の自分にしてくれた、自分に感情を持つ機会を与えてくれた、自分の全ての始まりとなった立役者、駆逐艦ティエラ。

 

「そうか……お前らしいな、そう言うと思っていたよ。受け取れアイオワ」

 

ボルチモアが左手に握っていたティエラのコアをアイオワに渡す、金属の様な冷たい感触が肌に触れると共に質量と比べ異様に軽いことに少しばかりの驚きを得る。

 

「それじゃあ始めようか……」

 

愛おしむ様にティエラのコアを一撫でするとそう呟いたアイオワ、すかさず彼女の周囲にはデータの環が展開される。

 

「ID19430612、サブコードブラッドフォード。これよりフレッチャー級駆逐艦ティエラへの4%の演算補助並びにコアの再起動を開始します」

 

コアが空中へと浮き上がりアイオワのデータ環に様々な情報が流れていく、言わば数年の間仮死に近い状態で置かれていたコアの再起動。艦隊旗艦の能力を有するG-1コアの成せる技だ。

 

 

 

『アイオワ……さん…… ? 』

 

 

 

作業中のアイオワに聞こえる声、幼くも凛とした声、あの日途絶えた忘れることの無い声。

 

「ティエラ……ティエラなんだね」

 

『……はい……そうです、アイオワさん。後……ボルチモアさんですか ? 』

 

「ああ、当たりだティエラ」

 

落ち着いた声、嫌味の一つでも言われるだろうと身構えていただけにボルチモアは毒気を抜かれた様に突っ伏していた。

 

『皆さん無事だったん……ですね、あの時私があんなことになったばっかりに……アイオワさん達にも迷惑をかけて……』

 

コアより消える様に漏れるティエラの声、あの時とは数年前の粛清のことに他ならない。自分のせいでアイオワに迷惑を掛けた、そう怯える様に話すティエラ。そんな彼女のコアをアイオワは優しく撫でる。

 

「ううん……あれは私の自業自得、貴方が負い目を感じる必要なんてないよ……ティエラ」

 

『やっぱり……アイオワさんは私が大好きなアイオワさんです……あの強くて怖かったアイオワさんも……今の優しいアイオワさんも……』

 

言葉に詰まるアイオワ、昔の自分は強硬な手段を平気で実行し凡ゆる存在を力で蹂躙していた狂気の存在。そんな自分を慕っていてくれたティエラに自分がした仕打ちを思い出せば胸が痛む様な感覚に囚われる。

 

『アイオワさん……私……またアイオワさんと一緒に居たいです……ドジで……不器用だけど……一緒に居たい……です』

 

「分かったティエラ、ありがとう。それと一つ聞いていいかなティエラ ? 」

 

『はい……アイオワさん』

 

「ティエラ……貴方はメンタルモデルを持ちたい ? 」

 

少しばかりの静寂、ティエラのコアは先程までの声すら黙らせてしまった。アイオワに不安が募る、しかしその不安は数秒と立たず打ち消された。

 

『持って……みたいです……だけど、いいんですか……アイオワさん……アイオワさんの負担になるんだったら……』

 

「心配しないでティエラ、これは私自身が決めたことでもあるんだから」

 

『ありがとう……ごさいます、アイオワさん』

 

一呼吸、海斗がやっていた深呼吸を真似るアイオワ。ティエラのコアが空中に再び浮き上がり頬に蒼のバイナルパターンが発光、データ環の動きが加速器の如く激しくなっていく。

自分達の周りのナノマテリアルをアイオワがメンタルモデルの形成の為に一部解放し、きめ細やかな銀色の砂となったナノマテリアルが人型の形を作りあげていく。

 

ガトーやソーフィッシュと然程変わらない低い身長、癖っ毛のある髪、アイオワと何処か似た服装、銀色のマネキンは次第に変化しある一点を超えた瞬間銀色一色では無くなる。

 

小学生程の身長にオレンジベースの癖っ毛の強い長髪、赤や黄色などの明るい配色をベースにしたアイオワと似たセーラー服、コアと同色の橙色の瞳、1人の小さな駆逐艦のメンタルモデルがアイオワとボルチモアの目の前に立っていた。

 

「うぅ……アイオワさん ! 会いたかったです ! 」

 

メンタルモデルを形成してすぐさまアイオワに抱きつくティエラ、腰に手を回すティエラと腹部辺りの高さにある頭を撫でるアイオワ。その光景を隣から眺めていたボルチモアは2人が幸せそうなのを見てか頬が緩んでいた。

 

「えっと……アイオワさん ! ボルチモアさん ! サブコードブラッドフォード改めフレッチャー級駆逐艦ティエラです ! 改めてお願いします ! 」

 

一度アイオワから離れると敬礼しながらそう言ったティエラ、霧の太平洋艦隊はちょっぴり賑やかになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




人物紹介 Fog-3


重巡洋艦ボルチモア

ボルチモア級重巡洋艦のネームシップであり大海戦時からアイオワ率いる艦隊に所属する霧の重巡洋艦。メンタルモデル形成前より戦術の実装化をアイオワに具申するなど霧の強化に貪欲であり、彼女自身もボルチモア級のネームシップとして恥じぬ戦闘能力を有している。ティエラ粛清時までは旧旗艦艦隊の補佐を行っていたが、アイオワの戦線復帰後は彼女専属の補佐役として抜擢された。

その時から全く別物のドクトリンを掲げるアイオワに振り回された反動か性格は至って誠実、補佐役としての彼女自身の能力は高くアイオワと別行動中だった逃亡艦隊が無事だったのは単に彼女の功績が大きい。

昔に散々無理難題を突きつけられた為か普段は度々口論になるもののアイオワの良き理解者であると共に艦隊を纏め上げる縁の下の力持ち的存在である。

なおミシシネワやガトーを始め逃亡艦隊の面子から見ればその誠実さと馬鹿正直さ故に若干弄られキャラとして定着している。

容姿はブルネットカラーの髪を後ろで短いツインテールに括っており、瞳の色は焦げ茶色、灰色一色な軍服チックな服装と同色のショートスカートを着用しており服装には霧の紋章たる錨を模したマークが赤地で付いている。
アイオワとは反対に堅苦しいイメージを持った彼女だが、本人は気に入っているらしい。

船体データ
全長205.3m
全幅21.6m

満載排水量17.200t

速力
水上/海中
85kt/40kt
巡航速度
55kt

主機
重力エンジンS型108基

コア
G-1 シングルコア

武装
超重力砲1門
3連装8インチアクティブターレット3基9門
連装5インチアクティブターレット6基12門

40mm近接レーザー防御システム48基
20mm近接レーザー防御システム24基

艦底部魚雷発射管64門
VLSセル128基

船体カラー
灰色

バイナルパターンカラー
赤色
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