蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth25 ベーリング海の艦隊

 

 

 

 

 

「見苦しい所見せたけど、それじゃあ始めようか、まずティエラの紹介からだね」

 

先程までソファに倒れこんでいたアイオワが持ち直し、会議が始まった。まず最初にティエラを自分の艦長たる蒼葉海斗に紹介することから会議は始まる。

 

アイオワがそう言うと共にボルチモアの隣に立っていた少女が海斗の目の前へと出た。

 

「フレッチャー級駆逐艦、ティエラです ! よろしくお願いします、海斗さん ! 」

 

幼さが残る満面の笑みで海斗に敬礼するティエラ。身長が小学生程しかない為海斗からは見下ろす形となってしまうが、必死に海斗を見上げる仕草はこの上なく可愛らしい。

「よろしくティエラ。俺はアイオワの艦長をやらせて貰っている蒼葉海斗だ」

 

そんなティエラに海自式の敬礼を行う海斗。流石は自衛官の息子と言うべきだろうか、着ている服と海軍帽も合間って敬礼している姿は中々様になっている。

 

「え、アイオワさんの艦長さん!?」

 

海斗の自己紹介が終わるや否やそんな可愛らしい声が会議室へと響き渡る。

 

「てっきりアイオワさんに拾われた人だと思ってました……ごめんなさい……」

 

(俺ってそんな風に見られてるのか…… ? )

 

どうやら海斗のことをアイオワに救助された人間だと思っていたらしい。彼がアイオワの艦長を務めるまでの経緯を考えればあながち間違ってはいないが本人からすれば何とも言えない気分になる。

 

「まあ、それはいいとしてだ……記憶が正しければティエラって名前のフレッチャー級はいなかった気がするんだが俺の記憶違いだろうか ? 」

 

米海軍が建造した駆逐艦、フレッチャー級。その建造数は175隻、発展型も合わせればその数は329隻にも登る。アメリカ合衆国の桁外れた工業力の結晶とも言える駆逐艦だ。

 

しかしティエラという小洒落た名前を米海軍時代に付けられたフレッチャー級はいなかった、それ故に海斗は疑問が生まれた様だ。

 

そんな疑問に敬礼していた右手を下ろしティエラは答える。

 

「はい、私の正式名称はフレッチャー級駆逐艦ブラットフォードです。なのでティエラの名前は気に入っているから使っているだけですよ」

 

どうやら正式名称がちゃんとあったらしい。しかし己の名前を気に入っからと変更するのは霧から見て大丈夫なのだろうかと疑問に感じる海斗。そしてその疑問にはアイオワが答えた。

 

「そこは心配には及ばないよ海斗、サブコードでブラットフォードの名前は残ってるからね。あくまで私達がティエラと呼んでいるだけだよ」

 

海斗とて霧の全てを理解している訳では無い、だがアイオワの説明を聞くに別番号の様な物がティエラには割り振られているらしい。霧と言えどもコロコロ名前を変えられるのは困るようだ。

 

「なる程、霧にもいろいろあるんだな」

 

「その通りだよ海斗、ここは癖の強い子が多いからね」

 

癖の強い子が多い、そんなアイオワの言葉に隣のボルチモアがそれはお前だろうと言いた気な顔をしてたがそんなことは御構い無しに会議は進む。

 

「じゃあそろそろ話し合いを始めようか。まずはソロモン海での後片付けからだね。ボルチモア、お願い」

 

「ああ、ソロモン海での損傷艦艇及びに撃沈艦艇の修復進行度は79%程、恐らく1ヶ月もしない内に全艦が戦線復帰できる算段だ」

 

たった1ヶ月、あれ程の戦力の消耗がたった1ヶ月で補完出来る。つくづく霧の恐ろしさが感じられる報告だ。

 

たとえどれほどの損壊を被ろうとナノマテリアルとコアさえあれば撃沈されようが幾らでも霧の戦闘艦として蘇ることが出来るのだ。

 

そしてそれは駆逐艦や巡航潜水艦などの小型艦、軽巡洋艦を筆頭とする中型艦だけではなく大型艦たる重巡洋艦や大戦艦も無関係では無い。現にソロモン海にて撃沈された2隻の大戦艦級の戦線復帰も時間の問題となっていた。

 

「後はノースカロライナとサウスダコタだが来月辺りに船体構成用のナノマテリアルの補給が完了する。其の後は本人達次第だな」

 

「備蓄ナノマテリアルを提供してくれたアリューシャン方面のレキシントンとエセックスにも感謝しておかないとね」

 

大型モニターを背面にした机にもたれ掛かったアイオワの口からまた2つ新しい名前が漏れた。

 

(レキシントン……エセックス……。どっちも空母の名前だな、というか海域強襲制圧艦って艦種か)

 

アイオワの話を聞き海斗の頭に浮かんだのは2隻の米空母。旧帝国海軍の赤城や加賀といった空母と時を同じくして生まれたワシントン条約の産物たるレキシントン級航空母艦と第二次世界大戦中に17隻もの数が建造された米工業力の底力を見せた不屈の空母たるエセックス級航空母艦だ。

 

(そう言えばレキシントン級は2ついたな。どっちのレキシントンだろうか ? )

 

米空母においてレキシントンの名は2つある、レキシントン級の一番艦の方が珊瑚海海戦にて撃沈されてしまった為にエセックス級の方にもレキシントンの名が存在する。他にもヨークタウンやホーネット、ワスプなども同類である。

 

先程のティエラの例を考えるに同名の艦艇が複数いるのは事務的に大丈夫なのだろうかと思わずにはいられない。

 

「__斗!__斗!」

 

(ん ? )

 

誰かに呼ばれている様な気がして俯いていた顔を上げると目の前には頬を膨らませたアイオワの顔。海斗が会議に参加せず思考の海に浸っていた為かどうやらご機嫌斜めらしい。

 

「ごめんアイオワ、聞いてなかった」

 

「この場合は素直でよろしい。とでも言えばいいのかな ? 全く……」

 

自分に非がある場合は謝る。それのお手本の如くアイオワが何かを言う前に謝罪しておく海斗、当然アイオワは不満気な表情を浮かべるが毒気を抜かれた為か直ぐに収まった。

 

「で、何について考えてたの ? 」

 

自分に非があると認めているならせめて考えごとの中身だけは聞いておきたい。そんなアイオワの本心を察してか海斗は何一つ隠さずアイオワに白状する。

 

「今出てきた2隻のことさ」

 

「レキシントンとエセックスがどうかしたの ? 」

 

「ああ、霧の太平洋艦隊の元になった米海軍は沈んだ船の名前を引き継いだりすることが多いからそれを再現した霧が同名の艦が複数いる場合のことが気になってね」

 

もっと複雑なことを考えているのかと思いきや己の艦長の考えごとはものすごく単純なことだったことに少々アイオワはがっかりする。だが先のティエラの話題から考えればあながち間違った疑問の持ち方では無いだろう。

 

「昔はメンタルモデルが無かったから任意の艦に直接回線を繋いでたんだけどね。でも艦隊再編成の時に同じ名前の艦が同じ巡航艦隊に配属されないように分けたから変な混乱は無かったかな」

 

「なるほど……」

 

全艦隊への通達の時は艦種をつけて呼んでいたからね、と先の説明に付けたしておくアイオワ。先程までの不機嫌さはどこ吹く風と言わんばかりの変わり様だ。

 

「あ……段々話が脱線してきたから会議に戻そうか」

 

アイオワが付近にあった椅子を無造作に取り寄せて座ると共に会議室内の大型モニターに太平洋海域の図面映し出された。

 

「今の私達がいる場所はパプアニューギニア北西450kmのこのポイントだね。そしてナノマテリアル受け取り場所はアリューシャン方面、ベーリング海」

 

モニターの海図にはパプアニューギニア付近に青い点が映り、北方のベーリング海に赤い点が映し出された。

 

「このベーリング海には現在、第一巡航艦隊(Fleet-01)の艦隊旗艦である海域強襲制圧艦エセックス率いる強襲制圧艦群とその護衛の2個艦隊が付近の守りを固めている。このアリューシャン方面は人間と一番近い場所だからね」

 

アイオワの説明に呼応する様に海図はベーリング海にズームされ、多数の艦の表示が書き込まれていく。エセックス級、レキシントン級、インディペンデンス級、カサブランカ級、ボーグ級。かつての米海軍を代表した空母と護衛空母の名前が次々と海図に上げられていく。

 

それだけではない。その海域強襲制圧艦の護衛を務める艦艇も次々と表示される。ボルチモア級、クリーブランド級、アトランタ級、フレッチャー級、ガトー級、バラオ級……。

海域強襲制圧艦隊を守る40隻を超える霧、それは表示のみですら圧巻の一言に尽きる。

 

「で、エセックスとレキシントンが快く承諾してくれたお陰でナノマテリアルは大丈夫なんだけど、ここからがプランの変更点。最初はミシシネワに輸送を頼む予定だったんだけど大戦艦2隻分のナノマテリアルをアリューシャンからミシシネワに運ばせるのは酷かと思ってね」

 

大戦艦2隻を構築出来るナノマテリアルの量となれば86.000tを軽く超える。確かにそれだけの量を補給艦に運ばせるのは酷というものだろう。このプラン変更には何処かでミシシネワも胸を撫で下ろしていそうだ。

 

「ノースカロライナとサウスダコタを向こうに連れて行って現地で修復する方向になりそう、つまり日程を組んだら私達はアリューシャン方面に行くってことだよ」

 

「つまり私もですか ? アイオワさん」

 

今まで感心した様にアイオワの説明を聞いていたティエラが口を開く。

 

「そうだよティエラ、貴方だけお留守番ってことは無いから安心して。あとボルチモア、貴方も来るんだよ」

 

心の何処かに自分だけ留守番ではないだろうかと思っていたのかアイオワの返事にティエラはほっと胸を撫で下ろす。

 

「ん……ちょっと待てアイオワ、私も連れて行くと言ったな。エセックスの所のボルチモア級ってまさか!」

 

先程まで静かに話を聞いていたボルチモアが何かを思い出した様に慌て出す。そしてそんなボルチモアの様子を見て待ってましたと言わんばかりにアイオワはボルチモアに理由を明かす。

 

「そう!貴方の愛しの妹キャンベラとクインシーに会えるよ!やったねボルチモア!」

 

己の艦長より教えてもらった通りに親指を立てサムズアップをボルチモアへと向けるアイオワ。明かし方を見るにどうやら普段の諸々の仕返しも若干混じっているらしい。

 

「やめろ!やめてくれ!あいつらに会う必要はこれっぽっちも無いんだ!これ以上私の悩みの種を増やすのはやめてくれ!頼む!」

 

普段の落ち着いた彼女からは想像も出来ない程の慌てっぷり。姉妹艦であるボルチモア級のキャンベラとクインシーにはあまりいい思い出は無いらしい。

 

「頼むから取り消してくれ!あの妹どもに会うくらいならまだ単独哨戒任務の方がマシだ!」

 

座っているアイオワの肩を掴み揺らしながら訴えかけるボルチモア、しかし現実は非情だ。

 

「ダ〜メ、艦隊旗艦の言うことはちゃんと聞きなさい」

 

しかし決定事項は変わらないと言わんばかりにアイオワはボルチモアへと旗艦命令を行う。

 

これ程までに分かりやすい職権乱用は無いだろうと途中から蚊帳の外になっていたティエラと海斗は思い浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




艦隊紹介

The Pacific Fleet of Fog(霧の太平洋艦隊)

Fleet-01(別名:第一巡航艦隊)

ベーリング海を中心にアリューシャン列島全域、及びにその周辺海域を封鎖する霧の巡航艦隊。
主戦力は巡航艦隊旗艦、海域強襲制圧艦エセックス率いる大小18隻の強襲制圧艦隊と42隻の2個艦隊の護衛によって構成されている。

構成艦艇はエセックス級1隻・レキシントン級2隻・インディペンデンス級3隻・カサブランカ級6隻・ボーグ級6隻の海域強襲制圧艦である。
そしてこれを守る護衛艦隊はボルチモア級2隻・クリーブランド級6隻・アトランタ級3隻・フレッチャー級25隻・ガトー級3隻・バラオ級3隻の2個艦隊となっている。

このFleet-01は大戦艦級などを有していないが、霧の艦隊の中でもまずまずの戦力となっている。しかし、現時点でのこの艦隊の役目は海域封鎖であると共に各太平洋戦域へと派遣される強襲制圧艦の待機場所であるとも言える。
事実この艦隊の強襲制圧艦の数は艦隊旗艦のエセックスを除き一定期間毎に増減を繰り返している。他の巡航艦隊からの需要があれば現戦力の一部を派遣し、その必要性が薄れればこのFleet-01へと帰ってくるという仕組みだ。

また、この艦隊が停泊するベーリング海には太平洋に数箇所存在する太平洋艦隊用のナノマテリアル貯蔵庫があり、かつては270mクラスの強襲制圧艦16隻と大戦艦2隻が守りを固めた難攻不落の海上要塞と化していた。

しかしそんな大艦隊も大型艦はエセックスとレキシントン級のレキシントンとサラトガの計3隻のみであり、重巡洋艦のキャンベラとクインシーを入れても僅かに5隻。艦隊としての規模は以前より格段に縮小されている。これは単に霧に対する脅威が薄れた結果であり、霧に対する何かしらの脅威度が上がればすぐさま以前の様な大艦隊に早変わりするようだ。


余談だが、目と鼻の先にこの艦隊が存在するカナダとアメリカからは絶えず艦隊数を変化させる活発的な霧だと警戒されている。
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