蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth26 家族との記憶

 

 

 

 

 

 

「イヤだ……あの2隻に会うのだけは勘弁してくれ……」

 

アイオワ艦内の会議室の一角、壁付けのソファーの上にはボルチモアが暗いオーラを漂わせながら蹲る。今の彼女には何時もの凛々しさや厳しさの一欠片も感じられない、自分の姉妹艦の中でもトップクラスに異質な2隻に合わなければならないことを嘆いていた。

 

「そこまで悲観することないよボルチモア、貴方の妹でしょ ? 」

 

先程は流石にやり過ぎたと思っているのかアイオワが落ち込んでいるボルチモアを抱きしめ慰めている。

 

「……取り乱してすまんなアイオワ、もう大丈……」

 

アイオワの介抱あってか一旦落ち着くボルチモアだがそんな彼女の演算粒子の中にふとクインシーとキャンベラとの記憶が蘇る。

 

『あはは、ボルチモアだぁー』

『お姉ちゃんが来たぁー』

 

「うわぁぁぁ ! やっぱり私には無理だ ! 」

 

とても重巡洋艦のメンタルモデルとは思えない姉妹2隻の有様が脳裏に浮かびアイオワの腕の中でボルチモアは身悶える。そんな彼女の様子を見て先程から置いてけぼりだった海斗とティエラはボルチモアの妹に興味を抱かずにはいられなかった。

 

「なあアイオワ、ボルチモアがこんなになるってクインシーとキャンベラはどんな船なんだ ? 」

 

「確かに気になります。アイオワさん、ボルチモアさんの妹さんってどんな方なんですか ? 」

 

今のアイオワとボルチモアの様子を見ての2人の疑問、あのボルチモアがこんなになるボルチモア級の姉妹艦とはどんな存在なのだろうか。2人の疑問は簡略化すれば上記のままだ。

 

「クインシーとキャンベラはね、子供っぽいと言うか甘えん坊と言うか……」

 

「甘えん坊 ? 」

 

(ああ……そう言うことか、大体分かった気がする)

 

アイオワの説明で大体察しがついた海斗とは裏腹にティエラは甘えん坊と身悶えることの接点が分からずアイオワに再度尋ねる。

 

「そう、あの2隻は可愛らしいんだけどイマイチメンタルモデルの見かけとの矛盾が激しいと言うか……まあエセックスの艦隊にいるから少しは変わってるかも知れないけどね」

 

ボルチモアの背中を落ち着かせる様に撫でながらティエラに答えるアイオワ、そして先程まで疑問を浮かべていたティエラも海斗同様に何かを察する。

 

「なるほど、つまりボルチモアさんが身悶えていた理由は……」

 

「そう言うこと。可愛らしい妹がいるのは悪いことじゃないとは思うんだけどな……」

 

近くに寄ってきたティエラの頭を撫でながら優しげにそう呟くアイオワ、そんな彼女にはネームシップの悩みの様なものがある様に見えた。

 

「可愛らしい妹……ですか」

 

「まあ、そんな感じかな」

 

ボルチモアはボルチモア級重巡洋艦の、アイオワはアイオワ級戦艦のネームシップだ。

姉妹艦のいない重巡洋艦ウィチタの様な例外も存在するが霧の中でもトップクラスの兵力を有する太平洋艦隊故に彼女らには多数の姉妹艦がいる。

例えるならば彼女らは多くの妹を束ねる姉と言っても過言ではなく、以前は単なる同型艦という区別が今では姉妹間における一つの繋がりとも言えるベきものとなっている。

そしてこの傾向はメンタルモデルの存在により以前よりも確固たるものとなり、ある意味霧にとってのメンタルモデルの一つの成果と言えるだろう。

 

「お前は3隻しか姉妹艦がいないからそんなことを言えるんだ……アイオワ。私みたいに2桁台の妹がいる身で考えてみろ」

 

 

先程まで身悶えていたボルチモアは柔らかな表情を浮かべるアイオワにジト目で呟く。

アイオワ級戦艦が4隻なのに対しボルチモア級重巡洋艦は14隻、姉妹艦を可愛らしい妹と言うならば3倍近い数の妹を抱えている己の苦労を考えてほしい。そう訴えかけている様だ。

 

「ニュージャージーやミズーリが沢山……確かにちょっと自信無いかもしれないね」

 

ボルチモアが言っていたことを想像したのかアイオワは苦笑いを浮かべていたが何処か嬉しそうだ。

 

 

___________________________________________________

 

 

 

(姉妹も大変だな……いや、俺も兄弟がいる身だったな)

 

アイオワとボルチモアの話を聞いていればふと頭の片隅に浮かび上がる思い出と少年の姿。

港に駐留している護衛艦や空母が見たいと駄々をこねられ荷台に弟を乗せた自転車で汐風吹く横須賀の岬を駆けた記憶。街に出ていた水兵からお菓子をもらっていた弟を遠目に見つめていた記憶。

かつて人間だった頃の記憶のページが次々と海斗の頭の中へと開かれていく。

 

(翔太も元気にしてるかなぁ……)

 

今まで自分達の事で手一杯だった為か落ち着けば今まで心の奥底にあった疑問が湧き上がってくる。

 

(あの世界は……俺のいなくなった世界……父さん達はどうなったんだろう……)

 

自分の最期は今でも鮮明に覚えている。車線を超えて突進して来た大型トレーラー、自分の意識を刈り取るかの様な痛み。叩きつけられた水の硬さ、そして紅の混じる海中から見上げた水面の姿。

 

(あの世界じゃあもう行方不明か死亡扱いになってるよな……)

 

自分はこの世界に飛ばされたが、元居た世界はどうなっているのか、そして友達や家族はどうなったのか。普通に考えれば行方不明の事故として処理されるがひょっとすれば自分という存在が無かったことになっているかもしれない。

 

(いや……アイオワ達の前でこんなことを考えるのは止めよう)

 

自分がいなくなった世界、自分の存在が無かったことになった世界。そんなことを想像する度に鬱屈した気分になる、それなら考え無い方がいい。海斗が最終的に下したのはそんな自己防衛にも等しい考えだった。

 

(とりあえずこの世界の情報を集める必要があるな。このまま無知でいる訳にもいかない)

 

勝手に向こうのことを想像して勝手に絶望するよりも1つでも多くこの世界の情報を手に入れる。今はアイオワ達と一緒にいるがいつまでも彼女に頼りきりでいる訳にはいかない、そんな考えもあったのかもしれない。

 

(情報収集か……最悪後で何処かのデータバンクにハッキングでもかけてみよう)

 

情報を集めるにしても彼女達霧のネットワークに自分が介入するのはあまりいいことではない、ならば何処かで生き残っている人類のネットワークにアクセスすれば少なくとも歴史くらいは分かるのではないか。

 

そんな考えを頭に浮かべていたがそのネットワークからすれば霧のハッキングをまともに受けるのだからたまったものではないだろう。そんなことも思い浮かべ海斗は内心苦笑いせざる負えなかった。

 

 

 

「何故そんなに余裕でいられるんだアイオワ……出来るなら物静かなミズーリと私の馬鹿な妹とを交換して欲しいものだ……」

 

「そう ? クインシー達も可愛らしいしそれはそれで……いやいや、こんなこと言ってたら『お姉様は変わりませんね』ってまたミズーリに毒吐かれちゃうからダメだね」

 

 

頭痛の種を本音と共にぶち撒けるボルチモアと何処か嬉しそうに彼女をからかうアイオワ、思考の海から抜け出してみれば先程の両者の妹話がヒートアップしていた。

 

「邪魔しちゃ悪いよな」

 

アイオワとボルチモアを見てそう呟くと席を立つ海斗、説明は終わり後は甲板上のノースカロライナ達にも連絡を通しておくのみ。アイオワの予定としては殆ど完了している上に特に遅れがある訳でもない。

 

「それに早いに越したことはないしな」

 

海斗の目的はこの世界の情報収集、つまりこれから向かう場所は通信設備の整った大戦艦アイオワの艦橋でありそこの各種装備が目当てである。

以前通った艦橋から会議室までのルートを思い出しながら会議室を出ようとすると背後の誰かにシャツを引っ張られた。

 

「海斗さん、何処か行くんですか ? 」

 

振り向いた先にもいたのはシャツを指先で摘みながら不思議そうに海斗を見上げるティエラ、海斗が部屋から出て何処に行こうとしたのか気になったらしい。

 

「ああ、ちょっと資料集めがしたくてね。アイオワの艦橋に行こうとしてただけさ」

 

海斗は資料集め、と柔らかな言い方をしたが正確には何処かのネットワークへのハッキングだ。しかしそんなことは分かっていたのか海斗の考えをティエラは汲み取っていた。

 

「なら私も手伝いますよ、海斗さん。もともとアイオワさん達直属の特務艦でしたし情報集めには慣れてますからね」

 

えへへ、と照れる様に微笑みながらそう言ったティエラ。昔の情報収集も今の自分と変わらない結構強引なやり口だったのだろうかと不安を覚える海斗だが、正直ティエラの手伝いはありがたい。

 

「そうか……なら頼むよ。アイオワとボルチモアは暫くそっとしておこうか。アイオワにはメッセージを入れておくけど」

 

『調べ物の為に艦橋の設備を少し借りる』

 

目の前に現れた浮遊画面にそんなテキストを打ち込み届け先をアイオワに設定して送信する。本来なら数コンマ秒のラグも無い通信が可能だが今の取り込み中のアイオワからすれば量子通信で割り込むよりメール方式の方がいいだろう。

 

『了解、ロックは解いておいたよ』

 

数秒待つと浮遊画面にアイオワからの返事が書き込まれた。

 

「良し、報告終わり。アイオワからの返事と許可も来たし行こうかティエラ」

 

「はい、海斗さん。えっと……アイオワさんの艦橋は確かこっちですね、行きましょう ! 」

 

まるで兄妹の様にティエラに右腕を引っ張られながら艦橋へ歩いていく海斗。

 

彼はこの異世界の情報を得ることを第一目標とした上で帰る方法を見つけることも目標の視野にいれていた。

しかし異世界から元の世界への帰還という彼の大前提は後のある人物の存在によって根本から破綻することになる現実を彼はまだ知る由もなかった。

 

たとえその人物がかつての家族だったとしても__。

 

 

 

 

 

 

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