蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー   作:酸素魚雷

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Depth02 大戦艦の追撃

霧の海洋分断によって航空機や船舶が居ない太平洋。しかし、静かな筈の海は騒がしかった。

 

海上を閃光が走り。飛び交う砲弾やミサイルが幾つもの轟音で空気を震わせる。それらを撃ち落とす為に放たれる迎撃ミサイルやレーザーの光が海面を染める。人類の船ではあり得ない速度で海を走る艦隊達がそこには存在した。艦艇ごとに違った色と模様を発光させて、まるでパレードの様にも見える。激しく攻撃を行いながら海上を進むのは霧の太平洋艦隊である。しかし、霧の艦艇が攻撃を行っているのは人類の船ではない。

 

スラッとした船体に高くそびえる艦橋。側面にズラリと並んだ高角砲と防空機銃。そして、見る者を圧倒する3連装16インチ主砲。白い船体に蒼い模様と紋章が浮かび上がる霧の戦艦

 

霧の太平洋艦隊旗艦

大戦艦アイオワ

 

 

 

対して大戦艦アイオワ率いる艦隊を追撃している2隻の大戦艦はアイオワとは違った印象を与える大戦艦だった。

 

少し古い印象を与える膨らんだ船体に前後2つ並ぶ籠マスト。背負い式砲塔に片方は14インチ砲10門を持つ霧の大戦艦

 

大戦艦ネバダ

 

片方はネバダに酷似した艦影を持ち、背負い式砲塔に16インチ砲8門を搭載した霧の大戦艦

 

大戦艦コロラド

 

 

しかし、その砲が放つものは砲弾などでは無かった。砲身がアイオワに向けられるとネバダの14インチ砲とコロラドの16インチ砲はその姿を変化させる。

 

砲身は上下2つに割れながら重なり砲塔は4つ程に割れ、中の禍々しい機械が顔を見せる。

 

砲身が紫電を帯びネバダから赤のコロラドからは緑のレーザーがそれぞれアイオワ目掛けて発射される、そしてアイオワに当たる寸前にアイオワのクラインフィールドがレーザーを防いだ。

 

「クソ ! サウスダコタとノースカロライナの野郎。アイオワがおかしくなったからって急に艦隊旗艦気取りかよ ! 」

 

ゴツゴツとした焦げ茶色のコートを着込み、ややキツめの表情に澄んだ碧瞳、そしてショートヘアーの金髪が艦橋に吹き抜ける風で揺れている。

大戦艦コロラドの艦橋に立つ少女、彼女はコロラドのメンタルモデルだ。

 

 

コロラドは現状にイラついていた、何故自分達があの2隻にこき使われなければならないのか。

確かに自分達はアイオワには着いていかなかった、しかしこんなことは望んでいない。そんな思いが頭から離れずにいたのだ。

 

 

「仕方が無いコロラド。今回の戦闘ではどんなに上手くやっても大戦艦級一隻が失われるんだ。あの二隻もこれ以上の損失が出る事を嫌がってるんだろう」

 

「つまり、我々は捨て駒って訳かい ? ネバダ」

 

捨て駒。勿論本当の意味での捨て駒とは訳が違うだろう。しかし、あの2隻の考えることなどあまりいい気がしない。

 

「悪く言えばそうなるコロラド」

 

ネバダと呼ばれた少女がコロラドの問いに答える。

ボーイッシュなコロラドと全く別の印象を抱かせるなりの少女。

 

 

漆黒のドレスに同色のソックス、やや垂れ目な緑の瞳に風に揺れるブルネットのロングヘアー。

コロラドより大人びており、落ち着いた雰囲気を漂わせる少女、大戦艦ネバダのメンタルモデルだ。

 

 

 

 

そしてネバダの言うこの戦闘の目的、すなわちコロラド達の目的は誤作動を起こしたとされる大戦艦アイオワの処分、並びにそのコアの封印か破棄である。

 

また、大戦艦ノースカロライナと大戦艦サウスダコタが大戦艦コロラドとネバダを送ったのには訳がある要因が絡んでいる、大戦艦級の中でも存在する優劣だ。

 

圧倒的な違いは無いが速度や防御能力や火力などノースカロライナ達に比べコロラド達は劣っている。霧の太平洋艦隊は他の封鎖艦艇に比べて大戦艦級の数は多い。しかし、それ以上に封鎖する海域も広いことを忘れてはいけない。

 

太平洋艦隊の中でもアイオワ級は最強クラスの存在であり、しかもアイオワはネームシップであり艦隊旗艦でもある。

 

つまり、ここで此方の大戦艦4隻を出して万が一にも全艦艇が撃沈でもされれば太平洋封鎖網には確実に弱体化する。ならば撃沈された場合であろうと少しでもリスクの少ない艦にネバダとコロラドは選ばれた。本人であるノースカロライナからすれば極力リスクを減らした考え方なのだ。最もその思惑には薄々この2隻は感づいているが。

 

「それにしてもアイオワを撃沈しろとは大層なことを言ってくれるな、元とは言えアイツは艦隊旗艦だぞ」

 

「コロラド、アイオワの撃沈を実行に移したのはノースカロライナとサウスダコタだ。恐らくアイオワの影響を他の霧の艦艇が受ける前に潰したいんだろう」

 

誤作動艦艇の隔離。最早アイオワは必要無いと言い切っている様にすら感じられるやり方。確かにコロラド達を含めて太平洋艦隊の多くはアイオワの新たな考えに同調しなかった。

しかしその存在が不必要とまでは思わない。何しろ今日までこの太平洋艦隊を導いて来たのは他でも無いアイオワなのだから。

 

「あの2隻は気に食わないねぇ、全く」

 

「 ! コロラド、潜水艦スコーピオンから報告。アイオワがクラインフィールドのエネルギーの放出を完了したそうだ」

 

「クソ、やっぱり一筋縄ではいかないか」

 

 

時間にして凡そ1分、その微かな間に戦闘の流れは変わろうとしていた。

________________________________________________

 

 

「全く……きっついなぁ」

 

大戦艦級2隻からの攻撃を修復した大戦艦アイオワ、その艦上に息を切らせる一人の少女。

 

腰まで伸びたブラウンヘアーに白地に青のセーラー服と同色のスカートの服装。白磁の様に白い肌に澄んだ蒼色の瞳、そして頭には錨の様なマークのついた海軍帽がちょこんと載っている。

 

彼女は大戦艦アイオワの保有するメンタルモデルであった。

 

「クリーブランド ! アトランタ ! 損傷報告 ! 」

 

アイオワが叫ぶと目の前に2隻の軽巡洋艦からのデータが即座に表示される。クリーブランド、アトランタ共にクラインフィールド飽和率は3割を超えていない。

 

「どちらの艦も特に被害は無し。クラインフィールドの飽和率もそんなに高くないね」

 

送られてきたデータを見てアイオワは判断した。

軽巡洋艦は艦として分類するならば弱い艦艇では無い、高火力と秀でた航続能力を持つバランスの取れた戦闘艦だ。

しかしながら相手は大戦艦級2隻、標的は自分であり攻撃も自分に集中している。しかし万が一にも運悪く大戦艦級の攻撃が当たれば轟沈は免れないだろう。

 

「駆逐艦や補給艦は先に逃がしてあるし、相手の主力であるネバダとコロラドは比較的低速な大戦艦級、今この艦隊にいるのは軽巡洋艦2隻に巡航潜水艦2隻。今は私が主目的だけど、軽巡洋艦に流れ弾が当たらないとも限らないし」

 

彼女が悩んでいると艦隊直下の潜水艦ガトーとソーフィッシュから海底のデータが届いた。

 

「ん ? …… ! そうだ ! これを利用すれば ! 」

 

データに記されていたのは複雑な海底地形、以前は島だった場所が沈み、それほど深くは無いものの複雑な構造物が海底に広がっており、海上からの探知はほぼ不可能。さらにその先には海溝が続いている。この海底建築群を利用して隙を作り、海溝に逃げ込めばいいのだ。

 

「そうなれば、ガトー ! ソーフィッシュ ! 魚雷管に注水。1番から2番に通常魚雷 ! 3番、4番、5番、6番侵蝕魚雷 ! 後方7番.8番音響魚雷 ! 目標、敵軽巡洋艦オハマ及び駆逐艦フレッチャー ! 」

 

アイオワの命令と共に後続に潜んでいた潜水艦ガトーとソーフィッシュの魚雷管への注水が始まる、目標は艦隊前衛を進む駆逐艦フレッチャーと軽巡洋艦オマハ。

 

途中フレッチャーが微かに漏れた魚雷管の注水音を拾ったがもう遅い。

 

距離にして凡そ1500、この超至近距離から放たれた雷速300ktのスーパー・キャビテーション魚雷からは逃れる術など存在しないのだから。

 

「魚雷、撃てっ!!」

 

アイオワの命令とともに放たれる16発の魚雷。

時間にして着弾まで10秒、アイオワへの攻撃シークエンス中であったことが運の尽き。

防御らしい抵抗は何一つ出来ないまま通常弾頭魚雷にクラインフィールドを削り取られ、次に命中した一発目の侵蝕魚雷でクラインフィールドは消滅、二発目の侵蝕魚雷を駆逐艦フレッチャーと軽巡洋艦オマハは受けた。

 

元々耐久性が高いとは言えない駆逐艦と軽巡洋艦にとっては致命傷である被雷。

タナトニウムの自壊が始まり2隻の喫水下の船体の一部がゴッソリ抉り取られた、勿論耐えられる筈が無い。2隻は大爆発の末轟沈し銀砂を吐き出しながら海の底へと沈んでいった。

 

(ごめん……フレッチャー、オマハ)

 

声には出さず身の内で呟くアイオワ。しかしゆっくりしている間などあるはずも無く、直ぐに艦隊へと命令を飛ばす。

 

「フレッチャーとオマハの撃沈を確認、これより全艦急速潜航 ! 音響魚雷のノイズがあるうちに戦闘海域より離脱する ! 」

 

重力子バラストを作動させ、潜航を始めたアイオワに続き軽巡洋艦のアトランタとグリーブランドは海底建築群のすぐ近くを這うように潜行して行く。海中には音響魚雷がノイズを出したおかげで海上からの確認は不可能だった。

 

 

 

「雷撃だと!?フレッチャー ! オマハ ! 応答しろ ? 無事なのか!?」

 

コロラドが叫ぶも2隻からの応答は無い。まさかコアごと消滅したのか、コロラドの思考にはそんな最悪のケースが表情されていく、しかしそれは杞憂に終わった。

 

「コロラド、巡航潜水艦スコーピオンからの報告だ。フレッチャーとオマハのコアの反応を確認した。しかし、音響魚雷のノイズで発見には時間がかかるそうだ。どうする?コロラド、このまま我々だけでアイオワを追撃するか ? 」

 

 

2隻が無事だった事に安堵するコロラド、ネバダに対しての回答は自分の本心を隠すようなものだった。

 

「追撃艦隊旗艦コロラドより全艦艇に通達、現時点を持って追撃戦は中止。繰り返す、中止だ。これよりフレッチャーとオマハのコアの回収に当たれ」

 

量子通信を用いて艦隊に作戦終了を宣言するコロラド、下位艦艇はそれに従いコア探しに動き始める。

 

「コロラド……いいのか ? 」

 

「部下を探す方が優先的だ。それに今更追撃したって、ただでさえ水中の索敵が苦手な艦艇である我々が音響魚雷のノイズの中からアイオワの逃げ道を見つけられるとは思えないからな」

 

 

そんな様子を見てクスッと笑うネバダ、そして笑われたことにコロラドは不満気な表情を浮かべる。

 

「むっ、何がおかしいネバダ」

 

少し不満げにコロラドがネバダに問う。何故か自分の心情を見透かされた様に感じたのだ。

 

「すまない、コロラド。我々もアイオワも似たような物だと思ってしまっただけだ」

 

(我々がアイオワと同じ……か)

 

確かにアイオワの言った感情の実装にコロラド達は反対した。

しかし実際部下が目の前で撃沈された時コロラドは何物にも表現出来ない感覚に襲われた、それは物理的な存在では無く始めての感覚だ。

さっきはアイオワを見つけられないと言ったが、本音は部下の轟沈を見たくないだけ、しかしこれではアイオワのことをどうこう言えないでは無いかと内心自嘲する。

 

「まあ、艦隊の一員として部下の安否を気にするのは当然だな」

 

せめてもの本心は隠させてもらう、内心そう思いながらコロラドはムッとした表情を浮かべる。

「そうだな、コロラド」

 

(しかしコイツ(ネバダ)には筒抜けの様な気がする)

 

そんなことを考え少しばかり鬱屈するコロラド。しかし海は先程までの戦闘が嘘のように静かになっていた。部下が見つかるまでの間、夕日の海には2隻の大戦艦の影が細長く映っていた。

 




性格的には
コロラドはキリシマさんイメージ
ネバダはハルナさんイメージです。
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