蒼き鋼のアルペジオ ーThe blue oceanー 作:酸素魚雷
太平洋の天気は変わりやすい
鉛色の雨雲が空を覆いつくし、豪雨が海面を打つ様に降り注いでいる。天候は船にとっても無視出来ない存在である。それは人間だけに限った話では無い。霧の巡航潜水艦アルバコアはそう思っていた。
発 霧の太平洋艦隊
巡航潜水艦アルバコア
宛 霧の太平洋艦隊
大戦艦ノースカロライナ
報告内容
本日0835時においてアイオワ率いる逃亡艦隊の航路の変更を確認。
アイオワ率いる逃亡艦隊はソロモン諸島近海を迂回し、ニューカレドニアからフィジー方面へと航路を変更した模様。恐らく、荒天候に紛れた欺瞞工作である可能性が高い。
引き続き観測を継続する。
アルバコアが展開していた索敵ユニットを格納する。人の乗る必要が無い霧の艦艇は船体を目一杯使う事が可能である。自艦の船体そのものを砲身と化す超重力砲などが良い例だろう。
巡航潜水艦は基本的に大火力の武装を持つ事が難しい。人類の艦艇と比べれば比較にならない程の重武装だが、霧の中で観れば武装の少ない艦種である。蒼き鋼のイ401の様な特異な例もある為、一概に潜水艦が高火力を持てない訳では無い。無理をすれば強力な武装の搭載も可能である。
しかし、文字通り無理をすればである。霧における巡航潜水艦の任務は諜報や情報収集、それに通商破壊。高い火力を持つ事よりか隠密行動に長けていることが大切であり、またこの長所は荒天時において最も役に立つのである。
荒天時においては水上艦艇は索敵性能が通常時に比べ低下する。それは霧の艦艇でも同じであり、索敵性能は著しく低下する。まさに隠密行動を取るにはうってつけの状況だ。この豪雨の中、巡航潜水艦一隻を発見するのは水上艦艇には極めて困難だろう。
そう、相手が水上艦艇のみならば……
アルバコアは油断しきっていた
大戦艦ノースカロライナに送信するデータは完成した。後は送信すれば報告は終了。その後に停泊場所のデータを記録出来れば任務は完了だ。
観測を終えて、大戦艦ノースカロライナへの報告を開始しようと回線を開くアルバコアだったが、運命は皮肉であった。アルバコアを隠している豪雨はアルバコアへの攻撃をも隠していたのだ。
アルバコアの頭上には数多の対潜弾が打ち上げられていたのだった。
数分前大戦艦アイオワ艦上にて
「なるほど、霧の武装で最も高火力なのが超重力砲。但し連射は不可能、発射時は迎撃能力が低下する……か」
「そうそう、発射報告のクラインフィールドも開く必要もあるからあんまり使いたく無いんだよね……連射も出来ないから外すと大変だし」
大戦艦アイオワの
「で、この侵蝕魚雷って奴は重巡洋艦なら4発、大戦艦級なら12発か、軽巡洋艦以下は1発でクラインフィールドが飽和する。で、良いのか?」
「演算の補助がある場合は大分変わってくるけどね」
昔やった戦艦ゲーム(鋼○の咆哮)も大概だったけど、まさかリアルでこれをやるとは……
呆れ果てるしかない。半永久的に稼働する重力子機関にあらゆる物質を空間侵食する侵蝕兵器。挙句の果てに船体そのものを砲身と化す
今なら断言できる。これは戦艦じゃ無い。戦艦の形をした何かだ……。
もう、頭痛しかしない。
頭を抱えているとアイオワからの提案が出た
「折角海斗もメンタルモデルなんだし、演算の補助も経験する?」
演算の補助?
「分かりにくいよね、演算の補助の利点は負荷の減少。侵蝕魚雷を防ぐ侵蝕反作用計算を早く確実に行えたり、超重力砲の発射時間の短縮なんてのも可能だよ。デメリットは特に無いと思う」
なるほど、処理能力の向上がメリットか。メンタルモデルは演算の余ったスペースで形成されていた筈。俺には船体も無いし、唯一の演算負荷は
「分かった。アイオワの船体へとアクセス。演算補助を実行」
「OK、海斗。まずは何か動かしてみて、ロックは解いてあるから」
アクセスした途端、頭の中へ様々なデータが流れ込んで来た。
重力子機関の状態や各武装の情報。周辺の索敵結果や実体弾の残弾数まであった。
「まずは主砲へアクセス。左舷90度旋回、仰角30度」
アイオワの一番砲塔及び二番砲塔が目前で左舷へと旋回する。普通の戦艦の様な鈍足な旋回ではなく現代艦艇並の早さだったのは言うまでも無い。
「すげぇ!16インチ砲が動いてるなんて感動的だ!」
そりゃ興奮する。
アイオワ級はアメリカに行けば博物館になっているが見ることが出来る。しかし、動いているものを見られるのは感動的だ。
「上手くいったね海斗。じゃあ、次は索敵ユニットを操作してみて」
索敵ユニット……索敵ユニット、あった。画面の中からレーダーを映し出す。丸い画面に緑色のレーダー画面では無かったが。
「次にどうすればいいんだ?アイオワ」
「アクティブ・ソナーを使ってみて、海斗。」
「アクティブ・ソナー……この艦首にあるソナーだよな?アイオワ」
「それそれ。じゃあ、やってみよう!海斗」
えらくテンションが高いな。しかし、アクティブ・ソナーか。確か鯨にとって悪影響が出るとかって叩かれてた奴だな。
「アクティブ・ソナー作動。索敵開始」
画面にノイズが映りこむ。というか、ノイズ塗れになった。
海中の様子だが、随分と荒れている様だ。まあ、海面がこの状態だからソナーも索敵しきれて無いだけか。
しかしそこは大戦艦級と言うべきか。こんな荒れた海でも最低限の探知は出来るみたいだ。
「アイオワ、海中に3隻の艦影を確認した」
ん?……ちょっと待て、3隻?
巡航潜水艦は2隻では無かったのか?
後の1隻は一体なんだ?
……まさか⁉︎
「アイオワ!艦隊直下のガトーとソーフィッシュに確認させろ‼︎もし本当に1隻居たら厄介な事になる‼︎」
アクティブ・ソナーを使用した2隻から通信が来た。
”アクティブ・ソナー作動、補足した”
”厄介な奴が紛れ込んでいた”
ガトー達から座標とデータが送られてきた。それは紛れも無く3隻目が存在する証拠だった。
重力子機関の僅かな反応を確認
該当潜水艦
バラオ級巡航潜水艦アルバコア
”重力子機関の出力をかなり絞っていたんだろう”
”気が付かない訳だ”
「こいつが3隻目……アイオワ‼︎1番から24番までの対潜弾発射用意!他の艦艇にも攻撃準備を頼む‼︎巡航潜水艦2隻は敵潜水艦の座標をマークし続けてくれ‼︎」
「了解、クリーブランド!アトランタ!7時方向、距離9000!1番から8番までの対潜弾発射用意!」
アイオワから24発。クリーブランドとアトランタから各16発ずつの対潜弾。先発艦隊と合流するまでいたずらに弾は消費出来ない!当たってくれ!
「対潜弾発射‼︎」
「了解‼︎対潜弾発射‼︎」
命令と共にアイオワの艦首のVLSが開き24発の対潜弾が飛来する。クリーブランドとアトランタも8発ずつ発射した。後はガトー達の座標からズレるなよ……!
「対潜弾着水!着弾まで8秒!」
頼む……当たれ……!
「魚雷管への注水音補足‼︎」
レーダー画面を見ながら祈っていると、突然アルバコアが3つに増え、此方に4つアイコンが向かって来ていた。
タナトニウム反応アリの画面表示
「アルバコア、2発のアクティブデコイを発射‼︎そして、本艦に向けて4発の魚雷発射!4発全てにタナトニウム反応を確認!侵蝕魚雷だよ!」
「アクティブデコイと侵蝕魚雷か……だが、遅い‼︎」
5秒 大丈夫だ……!
4秒 外れるな……!
3秒 当たってくれ……!
2秒 頼む……!
1秒 ‼︎
0秒 着弾
水面に轟音と共に巨大な水柱が上がった。アルバコアがデコイと共にレーダーから消失した。
しかし、まだ終わっていない!アルバコアが撃沈間際に発射した4発の侵蝕魚雷がこちらに向かっている!
「侵蝕魚雷!距離6000に接近中‼︎対潜弾の誘爆で1発迎撃!残り3発!」
「25番から32番までのVLS解放!迎撃弾発射用意!目標、侵蝕魚雷!」
アイオワの艦首のVLSハッチが次々開いていく。
「準備完了!」
「アイオワ!迎撃弾発射‼︎」
「了解‼︎迎撃弾発射‼︎」
アイオワの艦首から8発の迎撃弾が発射された。先程の対潜弾と同じく海中へと突撃する。
意思を持ったかの如く迎撃弾は侵蝕魚雷に食らいつく。侵蝕魚雷も必死に回避を続けるが迎撃されてしまった。8発の迎撃弾により2発の侵蝕魚雷の迎撃に成功。残り1発。
「アイオワ!クリーブランド!アトランタ!弾種はレーザー!各種迎撃システムで迎撃しろ‼︎」
「「「了解‼︎」」」
アイオワは三連装16インチ砲2基を使い、クリーブランドは三連装6インチ砲2基、アトランタは連装5インチ砲3基を使用、その他20mmや40mmの近接防御システムもフル稼働だ。レーザーによる迎撃が始まった。
3隻のレーザーによる迎撃を交わしながら侵蝕魚雷はアイオワ目掛けて突進する。
「侵蝕魚雷、距離1000‼︎」
アイオワに命中する瞬間、目を閉じた。
しかし、いつまで経っても何も起きない。恐る恐る目を開けると、眼前には赤黒い球体が広がっていた。
危機一髪で迎撃に成功したのだ。レーザーによる誘爆で侵蝕魚雷は為す術無く自壊し虚空に消えて行った。
「迎撃……成功……したのか?」
目の前に広がる赤黒い球体。しかし、呑まれていないということは無事である証拠であった。
「た、助かった……」
隣で床に座り込むアイオワ。緊張の糸が切れたのだろうか?
「大丈夫か?アイオワ」
「うん……大丈夫だよ、海斗」
「さっきの潜水艦は?」
「対潜弾50発も受けたんだから当然撃沈したよ、コアの反応はあるけどさ……」
攻撃も仕掛けずに単艦で追跡して来ていた以上、恐らくアルバコアの任務は観察。なら、当然報告も行なっていたはずだ。コアは生きてる……。なら、あのやり口が使えるはず。
「ガトー、ソーフィッシュ。アルバコアのコアを
「な、何をする気⁉︎」
”了解した”
”待っていろ、今拾ってくる”
2隻はアルバコアの撃沈ポイントへと向かっていった。
「アイオワ、上位艦艇は下位艦艇に対してハッキングは可能か?」
「そりゃ、ハッキングは出来るよ。一応機械だし」
その確認がしたかった。これで準備は整った!
「アイオワ、アルバコアの任務は何だったと思う?」
「単艦で追跡してくるぐらいだから私達の報告だと思うよ」
「そうだよな。なら、アイオワ。その報告をデタラメなものにしてしまえば相手はどうなると思う?」
「きっと偽りの情報そのまま信じるんじゃ無いかな。一隻しか追跡してないみたいだし………あ!」
気がついたかな?
「つまり、アルバコアのコアにハッキングを仕掛けて偽りの情報を流すってことかな海斗?」
「そういうこと。かなり陰湿な手口だけどな」
戦力的に負けてる以上、せめてもの情報だけは優位に立ちたい。アイオワの話によれば相手が動かせる艦艇は然程多くは無い。なら、この手を使わないとな。
”艦長、コアの回収完了した”
”ついでに崩壊していないナノマテリアルと未使用の侵蝕魚雷も鹵獲した”
ガトー、ありがとう。ソーフィッシュ、なんか頼んで無いことまでやってるがまあいい。
ガトーの船外アームからアルバコアのコアを受け取り、ロックをハッキングで解除して
報告フォルダ
FG05-00(未報告)
発 霧の太平洋艦隊
巡航潜水艦アルバコア
宛 霧の太平洋艦隊
大戦艦ノースカロライナ
報告内容
本日0835時においてアイオワ率いる逃亡艦隊の航路の変更を確認。
アイオワ率いる逃亡艦隊はソロモン諸島近海を迂回し、ニューカレドニアからフィジー方面へと航路を変更した模様。恐らく、荒天候に紛れた欺瞞工作である可能性が高い。
かなりしっかり記録されてるな。わざと迂回したのも記録済みか。送信される前で良かった。なら、やることは一つ。
「アイオワ、改竄頼むよ」
「了解」
「じゃあ、航路をソロモン諸島近海からパプアニューギニアを抜け、セレベス海へに変更しよう。相手には南方で時間潰しをしてもらうとしよう」
「そして、3日後にスールー海にて先発艦隊と合流と流しておけばいいだろう」
「分かった。改竄開始!」
「アアアァァァqあwせdrftgyふじこlp!」
アイオワがデータの改竄を始めるとアルバコアのコアは声にならない悲鳴を上げていた。若干同情する。
それにしてもコアって悲鳴上げるんだな……南無
「改竄終了。ちょっとうるさかったけど終わったよ」
報告フォルダ
FG05-00(未報告)
発 霧の太平洋艦隊
巡航潜水艦アルバコア
宛 霧の太平洋艦隊
大戦艦ノースカロライナ
報告内容
本日0835時においてアイオワ率いる逃亡艦隊の航路の変更を確認。
アイオワ率いる逃亡艦隊はソロモン諸島近海から、パプアニューギニアを経てセレベス海へと航路を変更した模様。恐らく、先発艦隊とはフィリピン沖で合流する可能性が高い。
OK、OK、これでいい。巡航潜水艦を一隻しか出していないから確かめようが無い。切羽詰まってるのは相手も同じ。
「じゃあ、送信……完了。終わったよ」
偽情報の送信は完了。後は合流ポイントまで行けば任務完了だ。合流ポイントは確か……
「さて、そろそろ先発艦隊に合流するとしようかアイオワ」
「そうだね。今私達がいるのはニューカレドニア沖合。そこから北上してフィジーを通過」
「そして合流ポイントのサモア島近海へ」
「早く行かないとまたボルチモアに絞られるよ……」
「まあ、そう落ち込むな」
そんなに恐ろしいのか?重巡洋艦ボルチモアは。
「じゃあ、アイオワ。サモア島近海までは潜行して行こう。もう追跡してくる潜水艦はいないだろうし」
「分かった。それで行こう海斗」
なら、後は命令を出すだけだ。
「全艦に通達。これよりフィジー島近海を北上し、合流ポイントのサモア島近海まで航行する。航行手段は少しばかりのリスクはあるが潜行しての航行を行う。全艦潜行準備。巡航速度にて航行を開始する!」
「「「「「了解!」」」」」
水上艦である大戦艦アイオワと軽巡洋艦のクリーブランド、軽巡洋艦アトランタの船体がゆっくりと潜行を始める。
3隻の水上艦は海中へと消えていった。
目指すはサモア島近海
先発艦隊との合流である。
始めて5000文字を突破しました。
これが標準文字数になるように努力します。
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