「よかった、悟飯ちゃんが無事で。」
悟飯の家に着くと血相を変えたチチが出迎えた。すぐに悟飯を抱きとめ、寝室に寝かしつける。
「ライさん、夕飯まだだろ、食ってってけろ。時々気を抜くと大量に作っちまうんだ。」
悟空が死んでから早二年。チチは吹っ切れようとふるまっているが、時々こういうことがある。
「…せっかくですから、いただきます。」
ライはその好意を受け入れる。ただ、純粋な好意だけではないだろう。
「早速聞くのもどうかと思うけど、悟飯ちゃんに何があったか、聞いてもいいだか?」
暖かい夕飯の前で、雰囲気はお通夜のように暗い。
「私や、ピッコロ、ベジータでも太刀打ちできない敵が現れました。破壊衝動の塊で、人を殺すことに愉悦を感じるような奴らです。」
「やつらってことは一人じゃないんけ。」
「ええ、人造人間十七号に十八号と名乗る、化け物二人組。島を破壊するので私やピッコロと一緒にみんなで戦いましたが、私達以外はもう…」
「じゃあ、誰も太刀打ちできないのか。」
「ベジータだけはまだ戦ってはいませんが、おそらく無理でしょう。」
「そ、それじゃあ…」
「私はしばらく人造人間から隠れて修業します。奴等は気を探れないみたいですから。…悟飯は、こちらからは誘いません、どうするか話し合ってください。」
話し合えなんてなんて白々しいのだろうと、ライは思う。実質的な一択。カリン様が言ったように悟飯は人が殺されていくのを我慢できない。きっと悟飯は自分の元に来る。
「すいません。ブルマさん達にも事情を話さなければならないのでこれで失礼します。夕飯ごちそうさまでした。」
さっさと口にご飯をかき込み席を立つ。
「またいつでも食べに来てけれ!」
悟飯が離れてしまうことを察しているのか、いつでも一緒に戻ってこいと言ってくれたような気がした。
*
「そう、ヤムチャたちが死んだのね。」
あらかたの事情を話し終えた後の第一声がそれである。以外にも冷静にブルマは答えた。
「チチさんにも思いましたけど、母親って強いですね。」
「ええそうよ。母親は強いの。トランクスを守ってあげなきゃって、そう思えば泣いてなんていられない。」
そう言ってトランクスを抱くブルマに強さは凡人のそれなのに敵わないと思った。
*
「おい、貴様。」
カプセルコーポレーションから出ようとしたとき、ベジータに話しかけられる。
「…ベジータ。」
何か用かと目線で問う。
「ピッコロは負けたんだな。」
「…ッ!分かっていたなら、戦いがあったことを知っていたなら!どうして助けに来なかったんだ!!」
ベジータが来ても勝てないと半ば確信しているが、もしベジータが来ていたら、死人はもっと少なかったはずだ。ベジータが自分の生存を優先したうえで、だ。怒鳴り散らすライに対して、ベジータは冷静に返す。
「悟飯でなく貴様に聞いている理由を考えろ。お前ならそんな面倒がないと思っていたんだがな。」
そう言ってにらみつけ、吐き捨てるように二の句を継ぐ。
「貴様は最初に地球人の雑魚どもが次々と死んでいったときに助けに行こうと動き出したか、あのヤムチャとかいうやつが向かって行ったから、お前も向かったんじゃないのか?」
お前は自分が正義のヒーローのつもりなのか、と。仲間を助けに行ったただの人ではないのか、と。
「お前が命に優先順位をつけて見殺しにしたように、俺にとっての貴様等もその対象だったというだけだ。」
まさかこのベジータに正義のヒーローであることを期待したのか、と。
「そ、れ、は」
「俺を糾弾できるのはそうだな、今回でいえばヤムチャだけだろうぜ。最も死んでしまってはそれもできんがな。」
死んでしまったなら、正義のヒーローとしても間違った行為。あの世からヤムチャがベジータを謗ってもそれに何の意味もない。
「失言でした。撤回します。」
ライはその理屈を飲み込める。悟飯ならばそれにも我慢できず食って掛かっただろうが、ライは納得も理解もできてしまう。どうにかそれだけ言うと、ライは亀仙人の元に向かった。
「ピッコロでも勝てないのならば、それは俺よりも強い可能性が万が一にもあるということだ。そいつらは俺が倒してやる。この俺がナンバーワンなんだ。」
*
(亀仙人さんにも話は通したし、きっとウミガメたちと潜水艇にでもひきこもるだろうからここは安心かな。)
彼もまたこの話を聞いても冷静だった。何年生きてるんと思っとるんじゃといわれた。言っても百二十くらいだろうと思ってたら三百歳以上と言われた。そこからは数えてないんだとか。そう言えば占い婆は五百歳を超えていたなあとか思った。
そして数日の時が流れた。悟飯はライの元に来ない。そして人造人間が次の町を襲撃する。
*
「南方の島の次はここか。この俺様の近くを襲ってきたことを後悔するといい。」
ベジータは西の都のカプセルコーポレーションに住んでいる。すぐ近くにいた。ベジータは人造人間が現れたことを感じ取ると舞空術で戦場に向かおうとしていた。
「…力ずくで止めようってんなら受けて立ってやるぞ。」
振り返らずに後ろの襲撃者たちに向かって言い放つ。
「!」
ライは構えを解く。
「一応確認、引き留めたら受け入れてくれるか?」
「ありえないな。」
無意味なことをするものだと、あきれた声音でベジータは言った。
「だろうな。」
分かっていたことであるが、それでも残念そうにライはそうこぼす。話は終わりだと飛び立とうとする直前、ベジータが思い出したかのようにライに言う。
「この俺が負けることなど万に一つもあり得ないが…万が一が起こった時は、トランクスを頼む。あいつが六つになるまでで構わない。守ってやってくれ。」
急にらしくもないことを言うベジータにライは言葉に詰まる。
「な、なにを言って…」
サイヤ人の親子関係は地球人のそれとは違う。一人で戦えるようになるまでは面倒を見て、それが終われば親子の絆などないかのように戦士として扱う。トランクスはまだ戦士には程遠い。ライ達をを置き去りにベジータは戦地に赴く。実力差を感じていながらなぜベジータが戦いに行ったのか、それはベジータにしか分からないのだろう。
「身勝手な
ライの言葉はもう行ってしまった者には届かない。
*
「十七号、どうしてこんなしょぼいとこばっかり狙うんだい?四つの都を落とせばすぐじゃないか。」
「楽しみがなくなってしまうと、前も言っただろう。そこを落としたら軍隊も来なくなってしまう。それじゃあ楽しめない。」
「まあもういいけどね。私は新しい服さえ手に入れられればさ。」
そう言って十八号はいまだ破壊していない場所に行く。今だ人造人間たちは世界に認知されておらず、離れたところを襲ったのはそう言う側面もある。
キュゥゥン!ドガアン!
「人造人間だか何だか知らないが、ピッコロを殺したらしいな。」
まさにその場を離れようとした十八号の背中に気弾が当たる。撃った主は黄金色の気に身を包み勝気な顔で上から二人を見下ろしていた。
「んなっ!せっかくの服が台無しじゃないか。せっかくあの忌々しい服から変えたってのに!」
「そんなことはもうどうでもよくなるだろうぜ。貴様等は今日ここで死ぬんだからな。」
「お前は、ふむ、ベジータだな。その姿はデータにはないが、相当強いみたいだ。」
人造人間たちとベジータの戦いが始まる。
*
「悟飯、私のところに来たってことは、学者の夢をあきらめるってことだけど、本当にいいのかな?」
ベジータに取り残されたライは先のベジータをなぞるように後ろを振り向かずに悟飯に問う。
「ええ。この数日、いろんな場所を見てきました。襲われた島とか、まだ人造人間のことを知らない町。お母さんともたくさん話して、僕は、お父さんのように、守れるようになりたいって思ったんです。」
「死ぬかもしれないよ。」
「それでも。僕は、
最強たる父と、魔王でない、何者でもない、ピッコロ。その二人の意志を引き継ぎたいと、そう思っている。その決意を聞いてライも覚悟を決めた。
「それじゃあ、私も、君の師匠だ。私の戦術や技術をすべて教える。でも悟飯、その前に一つだけ、受け入れてもらわなければならないことがある。」
そう言ってライは悟飯の方を振り向く。目を合わせて、それが重要であることを伝える。
「私が力をつけるのは
一呼吸置き、ライは言う。実際に言葉にするには物凄くためらわれる言葉。
「これから、私たちが人造人間を超えるまで、大切な人が危険に晒されない限りは助けに行かない。」
「そ、それは、これから地球のみんながどんどん殺されていくのを、地球人を見殺しにしろってことですか…?」
悟飯が信じられないものを見るような目で言う。しかし数瞬後には理解できてしまう。納得は出来なくても、助けに行っても死ぬだけだと。今まさにベジータを助けに行けないように。
「そうだ。私は正義の味方にはなれない。」
救いたい人は大勢いる。故郷にいる村のみんな、チチにブルマ、チャパに亀仙人、ウミガメや、ウーロンにプーアル、カリン搭にいる二人。でもライは彼らを振るい落とした。ライは確信していたのだ。人造人間に対抗できる人物はもはや自分と悟飯、そしてトランクスだけだと。希望をつなげるための最低限を残し、それ以外のすべてを諦めると決めた。そしてそれを悟飯にも強要する。
「悟飯、君にも決めてもらう。大切な人を。」
重い沈黙が流れる。長くも短くも感じる時間を経て、悟飯が口を開く。
「僕は、そんな風に誰かを、ましてやお母さんたちを振るいにかけるなんてできません。でも、それを通すだけの力がないのも分かるんです。だから、僕があなたを超えるまで、お母さんたち以外は守りません。少しでも早く力を、手に入れます。」
知らない人ではなく、知っている人は全員助ける。それが今の悟飯にできる最大限の譲歩。それをライは受け入れるのか。
「うん。それでいいよ。それじゃあよろしく、悟飯。」
そう言って手を差し出した。
*
「くそったれ!」
「ふむ、なかなかの力だ。だが、それじゃあ勝てない。俺たちのエネルギーは永久式で無尽蔵なんでな。」
ベジータの相手をしているのは十八号だ。服をボロボロにされた仕返しに一人で相手すると言い出し、十七号はそれを受け入れた。
「俺が、俺が、負けるかああ!」
ベジータが連続でエネルギー波を撃っていく。煙が舞い、十八号の姿が見えなくなる。この時の連続エネルギー波は悪手。敵を気で探れる普段であれば悪くないが、人造人間、人間ベースの人造人間の持つ気はただの人のそれと変わらない。それでは精確に狙い打てない。
「馬鹿だねえ。あんたたちは気を探れるのが唯一の取柄だってのに、立ち向かってくるんだからさ。」
煙をかき分けて、ベジータの近くに接近する。
「そう来るだろうなあ!」
接近してきた十八号に対してベジータはカウンターの要領で攻撃を放つ。
「ガッ…ァァァ」
血反吐を吐くのはカウンターを成功させたベジータの方だ。
「チッ、なかなかうざいことをしてくれるじゃないか。」
ベジータのカウンターはこれ以上なく正確に十八号の腹を打ち込んだ。十八号も表情を歪めるほどの一撃だった。ただし、カウンターという性質上、ベジータは一撃を受ける必要があった。その一撃が致命打だった。十八号の拳はベジータの体を貫いていたのだ。
「あーあ、これじゃあこの服はもう着れないねえ。」
ボロボロになった時点で二度と着ることはなかったであろうが、ベジータの腹から流れ出る血を見てもそのような感想しか出てこない時点で何か大切なものが欠落しているのだろう。
「それじゃあ、そろそろ行こうぜ。この町ももう人は残っちゃいないだろう。」
無感動にベジータに止めを刺して人造人間たちは飛び立つ。
*
「「!」」
ライと悟飯は修業する場所を決めるべく移動していた。その最中、ベジータの気が消えたことを感じ取る。
「ベジータさん…」
悔しそうに悲しそうに言う悟飯に対してライは冷静に言う。
「こういうことは今後当たり前のように起こる。何も感じなくなれとは言えないし、私もできないけれど、いちいち反応していてもきりがないよ。」
「…はい。」
ライ達はこれから世界を転々としながら修業をしていく。
ベジータ450万
超サイヤ人で2億2500万。かなり強いです。生前の悟空に並び、宇宙最強でした。人造人間が現れるまでは。