「うぐっ、うあ…」
うめき声をあげ空を仰ぐ。自分の限界を悟り修業を中断する。修業に没頭していなければ目をそらしたい現実が思考を支配する。悟飯と二人で修業をしていた頃からずっと自分の実力が伸び悩んでいたこと。修業相手ができれば少しはましになるかと期待していたがその弟子は満足に育てられずに自分の元を離れて行ってしまったこと。
(悟飯ならきっと一人でも強くはなれちゃうんでしょうね。)
一人より二人でやった方が良いに決まっているけれど、それでも
(人工の月、作れるようにならなきゃ。)
最近は修業の合間にパワーボール生成やり方を調べている。ただの気弾を空中で破裂させればできるかと思えばそんなことはなかった。ゼロから生み出す大変さを実感すればするほど、多芸だったクリリンをはじめとする地球人戦士の強さも実感する。
バチバチバチ!
(気功波が発散せず、その場に留まるように気を回転、気弾の内側の気功波だけは発散させないといけないから…)
二つの異なった性質を持つ気功波を一つの気弾に込める難易度は半端じゃない。何かコツとかがあるにせよ、これができたベジータは相当凄い技量があったのだろう。
「はじけて混ざれ!」
パワーボールを作り空中に放り投げる。作られたパワーボールはその場に留まる。
(よし、これなら!)
しかし数瞬後には人工の月ははじけ飛んで散ってしまった。
(パワーボールの内部の気功波が外側の気功波を破っちゃったんだ。これじゃあ実戦には使いようもない。)
一度変身すれば少しの間は狼姿のままでいられるが、相手は永久に疲れない。今の実力で短期決戦を仕掛けられるほど強くはない。今日一番うまくいったはずのパワーボールも全く思った通りにならないことに肩を落とす。
「移動しないとな。」
人造人間たちが近づいていることを感知し、慣れ親しんだ修業場からの移動を始めた。
*
「ここは、オレンジシティか。そうかこんなとこまで移動してたんだな。サタンさん、元気かな。」
助けたのは十年以上前の話だ。にもかかわらずサタンのことを思い出せたのは、偶然目の前にあった二階建ての建物がサタンの運営する道場だったからだ。向こうはこっちのことを覚えていないだろうか、恩に着せるつもりはないが流石に命の恩人だ忘れてはいないと思いたい。
「道場破りも面白いかもしれませんね。」
修業がうまくいかず、虫の居所が良くなかった。そう言う意識はなかったが、自分も理不尽をばらまいてみたくなったのかもしれない。最も道場破りをしても看板を持っていくつもりもなければ道場を畳めと命令する気もなかったが。
「たのもー!」
私を見たサタンさんがどんな反応をするかワクワクしながら扉を両腕で開けてそう叫ぶ。サタンの弟子たちが何人くらいいるのだろうと気を探ってみるが、十名程度しかいない。少し意外だった。あの時会った時はお調子者感が強かったから、もう少し弟子を取るものだろうと思っていた。
「あんた、何者だ?ここに入門希望か?」
最初に話しかけに来たライの倍はあろうかというほどの大柄な男だった。
「いえいえ、いわゆる道場破りってやつをしに。」
巨躯の男に怯みもせず、堂々と言ってのけるライに対して一階にいる門下生たちが鋭い視線を向ける。
「道場破りか、このサタン道場に来るとはよほど腕に自信があるらしい。だが、道場破りに失敗したらここの門下生になってもらう決まりになっている。それでもやるのか?」
普通は道場破りを失敗したら半殺しにされそうなものなのに、ここの道場はずいぶんと甘いみたいだ。
「ええ。構いません。失敗したら門下生になりましょう。さて、師範の前にあなたを倒せばいいんですかね?」
道場の真ん中に入り、そして構えをとった。
「自分で言うのもなんだが、このピロシキ、師範に次ぐ実力があると自負している。」
「そうだ、そうだ~お前なんかピロシキさんにかかれば一瞬でやられちまうぜ!」
周囲のヤジにため息をつきながらピロシキも構えをとった。
「では、参るッ!」
そう叫ぶや否や凄まじい瞬発力で加速し急接近する。一瞬視線が交わる。ライの顔面目掛けて鋭いパンチを飛ばす。
「おっと。」
少し腕を左に押して逸らし、躱す。
「まだまだ行くぞ!」
ピロシキのラッシュを全てスウしい顔で回避して見せる。
(この人既にサタンさんより強いでしょ。普通に人外の強さだ。)
避けながらそんなことを考える。この人が天下一武道会に出たら、ほぼ確実に優勝するだろう。流石にチャパさんほどではないが、逆に言えばそれくらい強い人でない限りはこの人には勝てない。
(まあ、対人造人間の頼もしい仲間にはなり得ない程度でしかないかな。)
パンチを受け止める。その一瞬ピロシキの顔に笑みが浮かぶ。今まで腕しか使わなかった。蹴りには対応できまいと。
「おらあ!」
バシッ!
「よいっと!」
蹴りの一撃を受け止めてそのまま投げ飛ばした。
ドーーン!
死なないように、さらに言えば大きなけがができないように加減して投げ飛ばしたが壁に当たった衝撃が響き建物が揺れた。
「この建物丈夫ですね。」
壁にピロシキの形の穴が開くかと思ったが、意外にもピロシキはたたきつけられたままだ。衝撃が収まり壁からずり落ちたピロシキが起き上がる。
「まだ続けますか?」
「当たり前だ、ピロシキさんがこの程度でやられるわけないだろ。今のはちょっと力みすぎただけで…」
「いや、降参だ。二階に上がるといい、師範は今二番弟子のカロニーとトレーニングをしているはずだ。」
周りにいた門下生が挑戦的に言うが、ピロシキは今の一瞬で実力差が分かったらしい。両手を挙げて降参した。
*
「さっきの音はピロシキが投げ飛ばされた音だったのだな。相当骨のあるやつが来たようだ。」
二階に上がると先ほどまで組手をしていたのか、息を切らして膝をつく美丈夫と、あの頃のままのアフロヘア―の男、サタンがいた。
「ええ、ピロシキさん、相当強くてびっくりしましたよ。一番弟子を名乗るだけはありました。」
どうやら昔の命の恩人とは気づいてくれないらしい。
「しかしお前はその我が道場の一番弟子を倒したわけだ。」
「次はあなたです。」
「フフ、ピロシキを倒せるほどの相手だ。私が本気をだしても死ぬことはないだろう。全力で行くぞ。」
二人が構えをとった。
「先に仕掛けてきて結構ですからね。」
「では遠慮なく。」
そういって十秒間、サタンは微動だにしない。
(すぐに向かってこないってのは意外に冷静だな。ピロシキさんも相当だったけど、サタンさんはさらにその上をいくってことか。)
あの時のお調子者のようだったサタンさんから、ピロシキさんよりも強いなんてありえないだろうと思っていたが、どうやらそうでもないらしい。ピロシキさんと相対したときと同じ構えなのに突っ込んでこないことからもそれは読み取れる。
「こ…」
「はあぁぁ!」
来ないならこっちから行きますと口を開きかけた瞬間、サタンが突撃してくる。口を開こうとわずかにできた一瞬の隙、揺らぎを的確に突いた、ということだろう。
「とりゃぁぁああ!」
ピロシキよりも完成された連撃がライを襲う。しかしそれはライにとっては児戯に過ぎない。ピロシキの時と同じように腕をつかんで天井に向かって投げ飛ばす。
「波っ!」
投げ飛ばしただけではすぐに態勢を立て直して天井を足場に再突撃してこようとしていたために、気合砲で抑え込む。
「うぐっ!」
「なッ!師範が身動き一つとれていない!?」
壁に押し付けづづけ、ずり落ちないことにカロニーが驚愕の声を飛ばす。
「さて、とどめといきましょう。」
気合砲を止めて飛び上がる。
「まだだっ!」
相当な圧力がかかっていたはずだが、それに耐えきったというのだろう。舞空術の類を習得していない彼は落ちてくるだけだが、その中でもカウンターを入れようと構えていた。
(カウンターって、ハハッ!)
呆れての失笑ではない。圧倒的実力差がある相手に有効な攻撃なんて相手の威力を利用するくらいしかない。それを選択した目の前の相手に対して地球にこれほどの戦士がまだいることに笑みがこぼれた。
ドンッ!!
「うぐぉお…」
しかしそれも一撃耐えるというありえない前提を乗り越えたうえなければいけない。
「師範!」
「大丈夫死んではいませんよ。」
駆け寄ってくるカロニーにそう話して気を分け与えた。この男も目の前で師範を倒した相手の近くに危険を顧みずすぐに駆け寄れるだけで見どころがある。サタンさんの元には粒がそろってるのだろう。
「ん、うう…」
「よかった、無事で何よりです。師範!」
「俺は、負けたのか。」
「ええ、理不尽なことをしてしまってすいません。虫の居所が悪かったみたいです。」
呆然と、しかしどこか嬉しそうにそう話すサタンに少し疑問符を浮かべながらライは言った。
「理不尽なものか。俺はまだまだだということが知れただけで看板を渡す価値があるというものだ。」
「あー、まだ気づきません?一応お久しぶりなんですが。」
「?これほど強い人間の知り合いだったら絶対に忘れない。誰かと間違えてるんじゃないのか?」
「あっ…」
人間という言葉にハッとする。そう言えばあの日は満月で自分はこの人の前で狼姿しか披露してない。そりゃあ気づいてもらえるわけない。途端に八つ当たりみたいなことをして申し訳ない気持ちが沸き上がった。
「ちょっ、ちょっと外に出てくれますか?」
サタンを連れて外に出る。
「まだうまくは出来ないんですけどね。」
そう言って不完全なパワーボールを生成する。相変わらず一瞬しか人工月としての効果を発揮できてないが、それでもライの姿が人のそれから狼のそれに変わった。
「あ、貴方は、まさかッ!」
しかしそれでも狼姿になったライを見てサタンは気づいたらしい。
「あの時殺し屋から私を助けてくれた…」
「ええ、今度こそお久しぶりです。サタンさん。道場破りなんて申し訳ないことをしてしまってすいません。すごく強くなったようですね。」
「あなたに少しでも近づこうと必死で努力しましたから。あの時名前を聞いていなかったのをすごく後悔していたんですよ。」
「そう言えば名乗ってませんでしたね。人狼族のライです。」
嬉しそうに話すサタンだが、その門下生たちはサタンが負けてしまったことを知り表情が暗い。
「そうそう、心配している方もいそうですから一応言っておきますけど看板はいりませんからね。近くに来たから立ち寄るついでに、少し腕試しをしてみただけですので。」
「貴方にだったらこの道場を差し上げても一向にかまわないのですが。」
「はは、私は誰かにものを教えられる人間じゃないんです。この道場は引き続きサタンさんが師範のままの方が良い。」
門下生たちが胸をなでおろしていると、道場からピロシキが出てきた。
「師範、娘さんからお電話です。」
「なにっ!ビーデルからか!」
先ほどまでの威厳ある顔つきはどこへやら、すっかりだらしない顔で電話を受け取った。受話器越しに甲高い声が響く。
「もう、パパ!今日はママの誕生日なんだから早く帰ってくるって言ってたじゃない!」
「ああっしまった!つい…」
「ついじゃないでしょもう!ママさっき私が学校から帰ってきてからずっと機嫌悪いんだから!」
そう聞くや否や受話器を放り出しすぐに道場に引っ込みドッタンバッタンと豪快な音を響かせたかと思うと、道着から着替えたサタンが道場から飛び出す。
「サタンさん、タイミング悪くお邪魔したお詫びに送ってあげます。家はどこですか。」
今にも走り出していこうとするサタンを呼び止めてそう聞いた。
「いや、しかし…」
サタンほどの達人となれば、100mを五秒台で走ることができる。時速にして約72㎞、疲労により常にその速さを出せるほどではないが、車よりも早い。
「大丈夫、例え地球の裏側でも五分とかからず連れて行きますから。」
「本当ですかッ!じゃあ頼みます!」
その発言を聞いて、ライが乗り物ではなく自ら連れて言ってくれると確信したのだろう。少し不格好ではあるが、ライにおぶさって、住所を言った。
「大体わかりました。では行きますよ、しっかりつかまって!」
ドシュン!
「うぶぶぶぶぶ。」
舞空術を使って飛び立つ。圧力がかからないように気である程度緩和しているが、それでもサタンにとってはつらいようだ。ものの数十秒で着いた。街はずれの郊外にあるものだったこともあるのだろう。すぐ見つけられた。
「本当にありがとう!これで妻が機嫌を直すのも少しは楽になりそうだ。」
「それなら良かったです。いい家住んでますね。ベランダから街を一望できる。…そうだっ!」
サタンにベランダに奥さんと娘さんと一緒に出てきてもらうように言う。
「ささやかながら奥さんへの誕生日プレゼント、ですっ!」
(気功波を発散するように生成して…撃つ!)
そう言ってパワーボールの未完成品三発投げる。パワーボールは空中で飛び散り花火のようになる。
「ライさん!素敵なプレゼントありがとう!」
サタンの声を聞き、満足げに頷いてライはまた修業の日々に戻っていった。
さて、ライがパワーボールを完成させるまでの物語とビーデルのことを知っている理由付けの回でした。次の番外編はパワーボールの生成に成功したライとライの元を離れた悟飯が人造人間に立ち向かう話になるかなあ?