「お帰り、トランクス。」
「母さん、ただいま戻りました。」
「その顔だと、ちゃんと人造人間のことと、特効薬を渡せたみたいね。」
「ええ、少し手違いがあって、悟空さん以外にも会うことになってしまいましたが、ちゃんと悟空さんに渡せました。」
「そうだったの?でもそれはそれで良かったわ。どうだった、昔の私たちは。」
「母さんやライさんから聞いた通りの人達でした。ただ…」
そこまで言って周りを少し気にする。
「ただ?」
「その、ライさんのことなんですけど、ライさん、昔は女性だったんですか。」
「へ?」
「いや、その。俺が言った過去のライさんが女性だったんです。」
「ああ、そう言うこと。」
多少驚いたようだが、すぐに納得のいったような顔をする。
「ライは男よ。だいぶ前に一週間くらい一緒に住んでいたことがあったのだけど、その時に聞いたのよ。当時はまだ声変わりもしてなくてもおかしくない歳だったし。」
「なんか、悟空さんもそう言ってましたけど、ライさんの性別って声で判断してるんですね…」
一緒に修業をしていれば、ふとした瞬間の力のかけ方、重心の移動で性別なぞ一目瞭然だ。トランクスにとっては少し違和感を覚える。
「お前は声以外でも判断できるだろうな。トランクス。」
「うっ!ライさん。いつの間に。」
「過去のライさんが女性だったんです、っていったところからだな。」
「あら、気を消していたの?トランクスが気づかないなんて。」
「隠れてたわけじゃないんだが、常時気を探れるようになるにはそれなりの修業を積まなきゃならないからな。トランクスはできない。」
常に気を探り続ける能力はライ以外誰もできない。それこそ生前の仲間たちにも誰もいなかった。人造人間のわずかな気を感じ取って逃げ続けてきたライが長い年月をかけてものにした能力。今や眠っている間でも対象を定めれば見失ったりはしない。
「もちろん、俺はライの弟子ですから。」
過去のライさんには頬に傷がないしと、言葉にせずに思う。
「で、自分が過去では女だったって聞いてどう?」
「別にどうということはない。今の自分がそれで女になるわけじゃないからな。」
「でも、なんで女性なのかは気になりませんか?」
「それは単純なことだろう。俺が男であるか、女であるか、それは些末なことに過ぎないということだ。」
「そうでしょうね。ライの性別は世界線を分けるほどの差じゃないってことでしょう。」
ブルマは少し想像する。ライが女性だったらどうだろうかと。そしてこう結論付ける。”何も変わらない”と。きっとライはピッコロ大魔王打倒に力を尽くし、サイヤ人を倒そうとヤムチャたちと奮闘し、人造人間たちにあらがい続けているだろう。今のように。
(きっと、せいぜい私がヤムチャと今より早く別れていたくらいなのよね。)
ヤムチャと別れを意識したのは、いつだったか、孫君が死んでしまってからか、しかし気持ちはもっと早くにお互いに別方向に向いていた気がする。
「え?母さんはともかく、ライさんも納得できてるんですか。」
「俺の場合は納得というよりその事実を丸ごと飲み込んだという方が正しいがな。」
まだ疑問符が頭に見えるほどに混乱するトランクスにブルマが言葉を選びながら説明する。
「例えば、そうね。トランクスは今朝の主食はご飯とパン、どっちだった?」
「え?パンを食べました。というか、母さんも同じものを食べてたじゃないですか。」
「ええ、そうね。じゃあ仮に今すぐ今朝に戻ったとして、トランクスがご飯を主食に食べてたとしたら、それが自分の過去の話だと思う?」
「え、いやそれは俺が過去に飛んだことでまた別の未来ができてしまったのかと思いますが…」
「ははは、なかなか頭が固いな。」
「トランクス、難しく考えなくていいのよ。この世界は基本的に一本の線、世界線って考えてるからそう思ってしまうかもしれないけど、一本の糸だと思えば納得できるんじゃないかしら。」
「一本の糸?」
「糸はさらに小さい糸を結ってできているでしょう。私達がいる世界の糸もその大きい糸のひとつってことよ。」
「なるほど、少しくらいしか変わらない世界は同じ世界としてまとめられるってことですか。ん?ということは…」
「そう。俺が女であった過去で、トランクスが悟空に薬を渡さなかったら、俺はどうなってたと思う?」
「…」
トランクスは少し考える。そして口をひらいた。
「少なくとも、俺の知るライさんは、今と何も変わらないと思います。」
「つまりそう言うことだ。お前が過去に戻ってしたことはその世界の糸に切り込み入れる行為だったってことだな。」
切られた糸がいい方向に転ぶのか、それは今のところは誰にも分からない。
*
ピッコロから未来から来た青年の話をぼかされつつ聞いたライ達一行の間には衝撃が走っていた。
「にわかには信じがたいな。未来から来たなんて。」
「うん。」
「信じられない奴は遊んでいろ。俺は修業するぞ。死にたくはないんでな。」
ピッコロの話に天津飯、餃子がそう言ってブルマとクリリンも頷くが、ピッコロは早々にそう切って捨てる。
「まあ、ピッコロが言うならそうなんだろうぜ。」
「ええ。ピッコロがその青年の話を信用に値すると判断したから話したんでしょうし。」
ピッコロが言うなら、とライとヤムチャは修業をする構えだ。その様子をみて天津飯達もさらなる修業しようと決意を固める。
「お、俺も修業するぞ。」
「僕も!」
「俺もだ。」
全員が戦う覚悟を決めたところで、ベジータが悟空にどうやって生き延びたのかを聞き悟空が瞬間移動を覚えたことを聞いた。
「カカロット、貴様どうやってナメック星から生き残った。」
ベジータがそう聞く、悟空の仲間たちも同じ様に頷いた。
「フリーザの船は壊れちまってたんだろう?界王様も悟空は死んだって言ってたし。」
「おらももうダメだって思ったさ。もう死ぬんだって。けどな…」
そう言って悟空が事情を話す。ギニュー特戦隊の宇宙船を見つけられたこと、その宇宙船がヤードラット星に行くようにインプットされていたこと。その星で瞬間移動を教わったこと。
「ほかにもいろんなことができるらしいんだけどな。念話とか遠くの出来事を知る能力とか。でもあんまり長居するのも悟飯やチチに悪いと思ってな。期限を決めてやったから、瞬間移動しか習得できなかったんだ。」
「それはすごいな。やって見せろ。」
天津飯が驚きのあまり少し強い口調で言う。そうすると悟空はここから遠く離れた亀ハウスから亀仙人のサングラスを取ってきた。
「ここと亀ハウスは相当な距離があるんですけどね。」
「あんた今や何でもありね。」
ライとブルマがそう言って感心した。
「ねえねえ、ちょっと考えたんだけどさ、その人造人間ってやつを作ったドクターゲロってやつを今のうちに倒しちゃえばいいんじゃない?居場所が分からなくてもドラゴンボールを使えば見つけられるし、そうすれば三年後に苦労することは、ないわ。」
三年後の正確な日時と場所を聞いた後にブルマがそう言った。
「ふざけるな。そんな余計なことをしやがったら、貴様ぶっ殺すぞ!いいな!」
それを聞いたベジータがいうがそれを強気に言い返し、悟空や仲間に同意を求めるがほとんどがその作戦に乗り気じゃない。
「ライ!ライなら分かってくれるわよね!」
「え、と…」
その少し困った様子を見てブルマはライの意向がどこにあるか察したようだ。
「はあ、もういいわ。あんたたち戦闘狂に巻き込まれる私達一般市民はたまったもんじゃないけどね。」
「未来の平和は戦って勝ち取ろう!」
「「「「おー!」」」」」
「まるでどこかのやばい独裁者ね。変態よ!」
「「うっ…」」
悟空とライが少しダメージを食らっているが、最後にはブルマも付き合ってくれると聞き、胸をなでおろした。
*
ベジータと天津飯達がそれぞれ修業に飛び立ち、悟空達親子とピッコロ、ライ、ヤムチャ、クリリンが残る。
「ピッコロ、おらと悟飯と一緒に修業しねえか。」
「良いだろう。望むところだ。ただ…」
「ああ、私のことは気になさらず。少しやりたいことがあるので、とりあえず一緒に修業をするのは今日までです。」
「むう。」
ピッコロは少しだけ残念そうなそぶりを見せる。
「クリリンとヤムチャ、お前たちもどうだ、一緒に。」
「俺は遠慮する。ちょっと一緒に修業してみたいやつもいるし。」
「俺もいいや。武天老師様とでも一緒に自分のペースで修業するよ。」
「そうか。」
「ライ、本当にいいのか?」
悟空はあっさりと引き下がったが、ピッコロだけは今まで一緒に修業していただけに少しだけ引き留めるそぶりを見せる。
「やりたいことがあるので、悟空がいれば相手には困らないでしょう。一年か二年ほどしてそれができたら合流します。」
「分かった。」
そう言ったのを最後に悟空達はパオズ山に飛んでいった。
「さて、クリリンさん、私と一緒に修業しませんか?」
「へ、俺と?なんで俺なんだ?」
「私、今までいろんな人と一緒に修業しましたけど、クリリンさんとは一度も一緒に修業してなかったので。その技巧、参考にしたいな、と。」
「まあいいけど、足を引っ張ることになるかもしれないぜ。」
「大丈夫です。そうならないように、工夫しますから。」
「じゃあよろしく頼む。」
「ヤムチャさんはどうですか。」
「断ってばかりだが、俺はいい。」
「そうですか。じゃあクリリンさん、そろそろ行きませんか。」
「ああ、まずは武天老師様のところにこれ返しに行かないとな。」
クリリンとライも飛び立とうとしてライが思い出したように言った。
「ヤムチャさん、死なないでくださいね?」
今度こそ二人は飛び立つ。
「死なないでっていったい誰と修業するつもりなのよ。」
「それはな…」
*
「なあ、ライ、ヤムチャさんに死なないでって言ってたけど、ヤムチャさんは誰と修業するつもりなんだ?天津飯達じゃないのか?」
「きっと、ベジータですよ。」
「へ?ベジータ!?そんなことしたらすぐに死んじまうんじゃ…いや、あいつが一緒に修業するような奴じゃないだろ。」
「いえ、多分断りませんよ。一人より二人で修業した方が効率がいいのはベジータも分かってるでしょうしね。だから彼が超サイヤ人に覚醒するまでは、一緒に修業する…と言いたいところですけど、ヤムチャさん、最近は修業してなかったみたいですから、修業相手が務まるか微妙ですね。まあそこも含めて死なないで欲しいってことです。」
この作品のヤムチャに浮気する気がしないんですよね。だからサイヤ人編最初の話でブルマとヤムチャの絡みを少しだけ書きました。ほらほらもう一度読みかえしたいでしょう。ほらほらあ!
そうそう、忘れたころに頬の傷。これであの時の話ねとなった方は相当この作品を読み込んでくれている証拠。そんな人いないか。