「まさか、ゲロが生きていたとは。…神と魔王が一つになる時が来たようだな。」
天界でベジータとゲロの戦いを見ていた神はついに決断を下す。ベジータ優勢のその状況を見て、神様はベジータに気づけていない何かを感じ取った。それはピッコロ達が精神と時の部屋に入って一日が経とうかという頃だった。
*
「その程度!」
ゲロの蹴り技をベジータは軽く受け流し、足を掴んで投げ飛ばす。すぐに空中で態勢を整えられるが少しでも隙ができればそれでよかった。
「そらっ!」ピシュン!
気弾を放つ。それをゲロは吸おうとはしない。回避先を読んで殴り飛ばす。
ガン!
吹っ飛んだ先で土煙が舞い、ゲロが口元に着いた赤色の液体をぬぐう。
「流石はサイヤ人の王子だな。戦闘センスはかなりのものだ。それに…」
「当然気づいているぞ。貴様が俺の気をまとっている間は気を吸収できない。その上、吸収している最中は俺の力を使えない雑魚になり下がる。」
はた目から見て、実際にトランクスは気を失っているのではた目から見る人間などいないが、優勢なのはベジータであった。ベジータは不敵に笑う。
「もう逃がしはしない。ここで確実にスクラップにしてやる。」
「このっ!」
ベジータが再び突貫する。凄まじい連撃をゲロが迎え撃つ。ピッコロと戦った時では考えられない速度で反応し、ベジータの連撃を防ぐが流石に数発直撃する。
「お前はあの人造人間どもと違って永久式じゃないんだろう。だからエネルギーを吸収する必要がある。戦えば戦うほど、有利になるあいつらとは違い、条件は五分、いや、俺の気も使い切りだな?動きが格段に悪くなってきている。」
「ふん、私の計算に狂いなどない。貴様を倒すのなど今の実力で充分だ。」
「その虚勢がいつまで続くか、見ものだぜ。」
*
「一年か。使用制限までちょうど半分ってところだな。」
ピッコロとライとの修業が一段落つき、ミライがそういった。そこで三人にテレパシーが入る。
(ピッコロ、判断がついた。今必要なのは神でなく、強き者だ。)
「ようやくか。これで貴様等との修業も終わりだな。」
ターバンとマントを作り直して扉に向かう。
「この三年間の修業と同じくらいの濃密な一年でした。」
「俺なんかもっとだな。」
二人のライも扉に向かう。その二人にピッコロが光線を放ち、ボロボロだった服装が新品になる。
「「これは…!」」
「少しでも足手まといにならんようにしてやったまでだ。」
二人で顔を見合わせる。
「さて、人造人間を倒しに行くとするか!」
決意を新たにピッコロ達は精神と時の部屋を出た。
*
「俺達が修業している間にどうやら相当事態が悪化したらしいな。」
精神と時の部屋を出てすぐ、神様が立っていた。その後ろにはミスター・ポポも控えている。少しでも早く融合を済ませなければならないからこそ神様は精神と時の部屋のすぐ前にいるのだ。
「基本となるお前が、私に触れるのだ。」
「神様!」
黙って下を向いていたポポがそう叫ぶ。行かないで欲しい、そう言う意味が含まれているような、でも止めてはいけないと分かっているような、複雑な感情の乗った声音だった。
「今の地球に必要なのは私ではないのだ。」
過去を回想するように話していく。
「ピッコロの悪の気もだいぶ消えておる。もう二度と分離することはないだろう…世話になったな、ミスター・ポポ」
誰も口を開けない沈黙が数秒流れる。神様が叫び、光が神様を包む。ライ達がまぶしい光に目を閉じてしまい、目を開けた時には神様はもういなかった。代わりに別次元にパワーを高めた一人のナメック星人が立っている。
「さようなら神様、それにライも、死なないでください。」
三人を見送るポポがそう言う。
「もちろん。死んだりしませんよ。」
「「行ってくる。」」
*
「次で決めてやるぜ!」
「くっ!」
ゲロとの接近戦を制し、殴打と蹴り技を全て躱しきり反撃とばかりに一撃入れて少しの距離ができたところで特大の気弾を構える。
「ビックバンアタック!」
ただうち放つだけでない、ゲロがビックバンアタックを吸収しようとすれば、ゲロ自身を殴り壊せるように接近している。ゲロはビックバンアタックに向かって右手をかざす。
(そっちを選ぶなら俺の手で直接壊してやるまでだ。)
数瞬前に放ったビックバンアタック、それに追随するように迫る。ゲロに対しては間違いなく必殺の連撃だ。ゲロがビックバンアタックを吸収し始める。
「ばらばらにしてやるっ!」
拳をゲロの胴体めがけて打ち込む。拳で受け止めようとするが、吸収しているときならば受け止められるような威力ではない。勝ちを確信する。
*
「ピッコロ、事態が悪化したって言うのは、ベジータが気を開放していることと何か関係があるんだな?」
ピッコロを追いかけながらミライがそう聞く。ベジータの近くにいるはずのトランクスの気は感じられないことにライとミライは焦る。
「ドクターゲロが生きていた。それもベジータに匹敵する程度のパワーを持ってな。」
「いや、でもベジータに匹敵する程度だったらトランクスもいるんです。普通に戦えば負けるはずは…まさか!」
「一対一での戦いを望んで、そのためにトランクスを先に始末させたか。」
淡々としかし表情は険しく、ミライが最悪の想像を口にする。
「正解だ。急ぐぞ。ベジータが負けたら、取り返しのつかないことになってもおかしくはないからな。」
*
「なっ!なにい?」
必殺の連撃の一撃目であるビックバンアタックは吸収されている。だというのに二撃目、ゲロの身体を粉砕するはずだった拳はゲロの左手で受け止められていた。握りしめた拳を握り潰すようにゲロの左手がベジータの左手を包む。
「お前の見立ては正しい。確かにわしはエネルギー吸収型の時はお前達から手に入れた力を使うことができない。だがな、その力は片手ずつ独立しているんだよ。」
そう言うゲロの右腕は十九号のもの、だが左腕はゲロのもののままだった。
「くっ!離せ!くそっ、なぜ俺はこの手を振りほどけない!」
ゲロの話が正しいとすれば、ゲロは今ベジータの力をどんなに多く見積もっても半分しか使えないことになる。パワーではベジータに分があるはずだった。
「いったいわしがいつ、右手で吸収したパワーを左手で使えんと言った?」
「舐めるなあああ!」
力が吸われ始めたのを感じた。叫びながらも顔面に向かって両蹴りを打ち込む。しかし今度は十九号の時のようにゲロの腕はとれない。
「無駄なことをせずにお前もトランクスのように気を抑えたらどうなんだ。少しは孫悟空が勝つ確率が上がるかもしれんぞ?」
それが挑発で、自分からより多くの気を奪うためであることが分かっていても的確だった。
「なぜだ、なぜ俺がこんなやつに負けるんだ。そんなことはありえない…超サイヤ人は全宇宙最強なんだ!」
ベジータはありったけの気を開放して再び蹴りを入れる。
「ほう、まだそれだけの力を残していたのか。まだエネルギー吸い取れそうだな。」
しかしその蹴りは今や無駄な一撃でしかない。
「感謝するぞベジータ。貴様のおかげでこのわしが孫悟空と十七号、十八号を倒せるのだからな。」
ベジータの金色のオーラが収まり髪色が黒髪に戻る。それを確認して投げ捨てる。
「じゃあな。」
エネルギー弾がベジータとトランクスに向けて放たれようとするがそれは途中で止まる。ピッコロ達が着いたからだ。
「お、俺を…ば…」
薄れゆく意識のなか、猛烈な怒りがベジータを焦がす。
「間に合わなかった…!」
到着したライが投げ飛ばされたベジータを見てそうこぼす。
「おや、まさかエネルギー源の方からきてくれるとはな。」
ゲロが三人を見て嬉しそうに表情を歪める。
「ッ!」
「いや、ぎりぎり間に合った。それに、ベジータ二人分くらいの力なら俺でも五分までは持っていける。」
言外に、力を貸せと言われ二人のライが構えをとる。ピッコロに対してまだ青年だといったのはもう彼らの中では一年前だ。精神と時の部屋での一年、そして神様と同化したことにより、ピッコロを子供扱いはもうできない。ピッコロの言葉には安心感があった。
「それならここでこいつを仕留めましょう。」
「ああ、出し惜しみはなしだ。」
そう言うとミライの両の手のひらからエネルギーボールが生まれる。
「人狼族の変身は知っているな?満月の日しか変身できないという枷を、俺はこの二十年近くの修業で解いた。」
そう言って得意げに片手ずつ発生させた気功波を組み合わせ、パワーボールを生成した。しかしゲロはあきれたように手をかざす。
「狼化か。パワーボールも人工月になるまではただのエネルギー波だ。」
そう言うと手のひらに出されていたがパワーボールが吸い取られていく。
「あ、あらら…触れた気功波を吸収するだけじゃなくて吸い寄せることもできるのかよ。」
「そう言うことだ。この私が対策を取っていないとでも思ったか?」
得意げに言い放つ。しかしミライとピッコロの言葉がシンクロした。
「「まあ少しは。」」
「なに?」
ドン!
深紅のオーラに身を包んだライがゲロを蹴っ飛ばす。
「最近の私は不意打ち担当なんですねえ。」
「不意打ちがお前達の専売特許だとでも思ったか?さあ、ばらばらにしてやろう。」
「ピッコロ大魔王ごときがあまりいい気になるなよ。」
三人に囲まれながらゲロは不敵に言い放つ。
「残念ながら、人違いだ…!」
そう言うとピッコロは凄まじい速度で接近し、膝打ちを入れようとする。さながら最初にゲロとピッコロが戦った時のようであり、しかし結果は違う。ゲロはその膝打ちを左手で受け切った。
「確かにピッコロ大魔王にしては異常なパワーアップを遂げているな。」
「チッ!」
舌打ちを一つうち、左足で回し蹴りを放つがそれも右腕で受けられる。
「「はっ!」」
背後を取った二人のライが踵落としの要領で蹴りを打ち込むがすぐさまピッコロの攻撃を受け止めていた左手を放し蹴りを入れ、エネルギー波を放つ。
「ぐっ!」
「くそっ!」
二人も体をのけぞらせて回避しようとするが自力に差が大きい。回避はするも隙が大きくできる。
「他愛ないな。」
「なめるな人造人間!」
より大きな隙ができたライに向かうゲロの攻撃はしかし、ピッコロが気功波で止める。吸収するための動作の隙に態勢を立て直し、再びゲロを囲む。
「(こいつちょっと強すぎないか。ピッコロと互角って言うレベルじゃない。抑えきれてないだろ。)」
戦いながらテレパシーで作戦を練る。
「(勝てないなら引くしかないですけど、この化け物放置するわけにもいかないじゃないですか。ほっといたらもっと手に負えなくなりますよ。)」
「(いや、まだ勝ちの目はある。こいつ、さっき一瞬パワーが一段増しやがったが、その後の動きは鈍くなった。多分、吸収したエネルギーは自分のものとして使うと消費されるんだ。)」
「(それにしては動きがなかなか鈍らない気がするがな。)」
「(おそらく、気功波として放ったエネルギーのみ消費しているんだろう。)」
「(それって結局じり貧で負けるだろ。こいつが気功波を連発しなければならないほどの戦力差はない。)」
戦いが長引けば長引くほどにライ達は不利になる。ゲロは戦いながらわずかずつ気を吸収しているからだ。気功波を撃たずとも、否、撃たないからこそ接近戦は必至だ。
「(ああ、だから圧倒的な戦力差を作って一瞬で決める、隙を作るから両手を壊せ。)」
「(…了解。)」
そうテレパシーで話した直後、ミライがゲロに対して繰気弾を放つ。
「この期に及んで気功波とは馬鹿め!」
操れる気弾とは言えども、それはエネルギー波を吸い寄せる吸収装置には通用しない。せいぜい吸収時間をわずかに増す程度、しかしそれで充分だ。接近したピッコロの右腕が振りぬかれる。
「界王拳、二十倍!」
ピッコロの力が倍に跳ね上がる。右腕が曲がる。
「うがっ!」
「まだまだ行くぞ!」
ゴシャッ!グシャッ!バキッ!
左脚がつぶれる。左腕から血が噴き出す。右脚が爆ぜた。
「ライ!」
「…ッ!」
ミライがライに指示を出す。吹っ飛ばされたゲロの両腕を気で作った剣で切りかかろうと、二人のライが飛び出す。
*
「レッドリボン軍が、我が軍が壊滅した?」
十六年前のことは今でも覚えている。息子を失ってすぐのことだ。
「孫悟空という子供一人に?そんな、そんな馬鹿なことがあってたまるか!」
しかし、いくら事実を伝えてきた一般兵に詰め寄っても、それからしばらくして事実をこの目で、この手で調べても、孫悟空という一人の少年に壊滅させられたことは疑いようがない事実だった。そのときから、自分の目的は孫悟空の殺すことになった。息子を失ったゲロにとってもう寄る辺は軍だけだ。その軍が壊滅させられた今、もうそうしなければまともでいられなかった。否、もう自分はまともではなかったのだろう。息子が死んだあの日から。
「こいつを殺すには、今までの兵器ではだめだ。何か、革新的な何かが必要なんだ!」
「そろそろお休みになってください。もう何日もこもりっきりじゃないですか。」
「口を出すんじゃない!お前は、私に従っていればいいんだ!」
研究にとりつかれているうちに妻も病気に侵され死んでいた。自分は病名すら知らない。なぜ、妻が自分から離れなかったのか、今となっては知ることはできない。
*
全て、全てを捨ててきた。差し伸べられた手を拒んできた。だから
「わしは、こんなところで、終われんのだ!」
パワーが一段どころか、数段増す。空中で急停止し、気の刃を躱す。
「しまっ…」
両腕で二人のライを地面にたたきつける。ゲロの息が上がっている。エネルギーを吸収されていく。
「うぐぅ…」
「孫悟空を殺す、それを邪魔する者も殺してやる。」
「そこをどけ!」
再生させた足でピッコロがゲロを蹴り飛ばした。
「ハア、ハア。驚いたぞ。お前達がこれほどの強さにまで成長していたとはな。エネルギーの消耗も大きい、ここは引かせてもらおう。」
倒れているベジータとトランクスに向かってエネルギー波を放つ。
「させるか!」
ベジータとトランクスに向かったエネルギー波を気功波で防ぐ。土煙が舞う。
「この私の目的は誰にも邪魔させない。」
「待て!」
ゲロは逃走に成功する。
少しわかる、ドクターゲロの戦闘形態
ドクターゲロ(と十九号)には三つ戦闘形態があります。それぞれ一長一短。勝手な独自設定ですが知っておくと少しこの話が読みやすくなることでしょう。
・戦闘形態
気弾を吸収することは出来ません。吸収した力を行使するための戦闘形態です。ゲロなら1億5000万+吸収した力になります。
・吸収形態
吸収するときの形態です、と言いながら普段はこれです。気弾を吸収することに特化しており、吸収した力を行使することはできません。よってこの形態を使っているときはデフォルトの戦闘力(ゲロなら1億5000万)になります。そのおかげで気も感じ取れなくなります。
ゲロは十九号の腕と自分の腕を持っているので二つの形態を併用できます。さて、あと一つはなんやねんと思うことでしょう。それはまだ秘密です。
まあ細かいこと気にしないでゲロかませじゃないんだあ、程度に思ってくれればOKです。