十六号を造ったのは妻が、オトが死んでからのことだ。永久エネルギー炉を完成させ、孫悟空への復讐が成ると確信したとき、もう何日もオトが来ていないことに気づいた。
「はは、ハハハ!ついに、ついに完成したぞッ!!」
この喜びを共有しようとオトを探し回るも見つからず、自室にいるのかと興奮のままに扉を開けた。
「オト、聞いてくれ!永久エネルギー炉が完成したんだ。人類の英知に唾を吐きかける最強の機構が爆誕した!これで孫悟空に復讐できるッ!」
研究者の自室と聞いてどんな部屋を想像するだろうか。いろんな資料で雑多な部屋を想像する人が多いかもしれない。実際、ゲロの自室兼研究室は実験器具で散らかっている。そしてそれはゲロに匹敵するくらいに優れた研究者であるオトの部屋も似たようなものだった。
「オト?」
しかし、ゲロが入った部屋は間違えてしまったかと思うほどに綺麗になっていた。研究関連の物であふれていたはずの部屋にはほとんど何もない。数十年前に開発してプレゼントした睡眠カプセルだけが、その部屋がオトの物であると主張している。
「何だ寝ていたの…か。それ、は、すまなかっ、た。」
声が震える。カプセルの中で目を閉じているオトからは命の鼓動を感じない。ミイラのようだ。
「いや、質の悪い冗談だろう?」
このカプセルは健康状態もチェックする物だ。中の人に異常があればアラートが鳴る。それに気づけないことなんてあるはずがない。たっぷりと数十秒時間をかけてふと冷静になる。
「違うか。」
ずっと孫悟空の復讐のことだけを考えて、妻を顧みなかった自分が気づけないのは当たり前だ。悲しみはある。しかしそれは成果を共有できる者がいなくなったことに対してだ。愛する者が死んでしまったことに対しての悲しみではない。あんなに愛した妻だったのに、その愛情はどこに行ってしまったのだろうか。
「私は、何のために孫悟空に復讐したいのだったか。」
考える。自分の原点は、なぜ軍に傾倒するようになったか。机に置手紙が置いてあることに気づく。たった一文だけだが妻の字だ。一目見てそれと分かったことに驚きつつそれを読んだ。
ゲボに囚われないで
「ハッ!この私が息子に囚われているとはよく言ったものだな。」
囚われてるとすれば孫悟空にだ。そいつのために私は研究に狂ったのだから。しかし、ふと思う。
自分は今、息子に対して何を思う。妻に愛情がなくなってしまったように、息子に対しても愛情を感じなくなっているのだろうか。
どうなるのか、考えるのが怖かった。だから、彼をモデルにした人造人間を作ってみよう。今までの十五体のノウハウを集結して、開発したばかりの永久エネルギー炉を使って、最高の人造人間を造ろう。それを前に自分は何を思うか、確かめよう。
*
目の前にはくたびれた老人がいる。データによるとこの老人は私の父親のようだ。
「目覚めたか、私はお前の生みの親、いや、お前を造った研究者ドクターゲロだ。」
父と入力されていたデータから創造主に書き換える。自分はアンドロイド、孫悟空を殺すために作られた殺人兵器。この人は息子を愛せなくなっていたらしい。
「お前の目的は孫悟空の抹殺だ。」
「そうか。しかし孫悟空のデータはまだ俺にインプットされていない。」
「まだ孫悟空のデータを集めきれていない。だからしばらくはお前を使うつもりはない。お前を起動したのは動作確認と最終調整だ。数日後それが終わればまたしばらく眠っててもらう。」
「分かった。」
やはり自分は孫悟空に囚われている。自分はただの復讐鬼だ。十六号を見て、見た目はゲボとうり二つのそれを見て、ゲロは復讐に身を焦がす。
*
「俺はあなたに、過去と決別して欲しかった。」
ボロボロの十六号にそう言われて思い出す。自分が孫悟空に復讐したかったのはレッドリボン軍が壊滅させられたからだと思っていた。それはある意味で正しくある意味で違う。レッドリボン軍に入れ込んでいたのは、依存していたのは、ゲボの死に囚われていたからだ。
自分はなんと愚かだったのだろう。過去に囚われた私を変えようと十六号は、私の作った息子はやりたくもないはずの人殺しを忠実に遂行しようとしていた。そのように振舞わせてしまった。
「もういい、もういいんだ。十六号。私が間違っていた。」
気づけばそう言葉を発していた。
前話の滲み文字は過去と決別して欲しかったって書いてありました。まあ滲み文字ってちょっと工夫すれば読めるようになるのでもう知ってる人もいるかもしれませんけどね。これどう考えても欠陥仕様。