(第六十一話)全宇宙の危機
「凄まじい生命力だよ。私は正直君が運ばれてきたときには助からないと思っていたんだけどね。もう峠は越えた。時期に会話もできるようになるだろう。」
目を覚ましたトランクスが口を開こうとするがそこから言葉は出てこない。目の前の医者が言う通り、しばらくは会話できないのだろう。あのとき力の限り叫んだ影響だろう。肺に負荷がかかりすぎた。
「……!」
巡回に来た看護師に聞きたいことがあると意思の疎通を試みる。何か言いたいのだろうと紙とペンを持ってきてくれた。
ー俺の母さんと、俺の近くにいた人は無事ですかー
「それは…」
看護師は言いよどむ。それが既に十分答えになっていた。
ー覚悟はできてますー
そう書くと、看護師は二人が死んだことを伝えた。
「……!」
涙があふれ出す。今だけは声を出せなくてよかったと思った。
それから一週間後、全治数か月と言われた彼の怪我は完治していた。
*
「お世話になりました。」
「君の生命力には驚くばっかりだったよ。怖くすらあるくらいに。君ならそう簡単には病気にもかかるまい。辛いことがあったばかりだが、気を強くな。」
お世話になった医者に頭を下げて病院を後にする。人造人間と戦い続けてきた日々の仲間はもう誰もいない。孤独になってしまったトランクスは一人、修業の日々に入る。
そして四年間の月日が流れた。
*
「母さん、ライさん今日で四年ですよ。人造人間ですらない何者かに殺されてからそんなに経ったんです。」
世俗を離れた生活をしていると日付感覚が狂っていく。だから母さんとライさんの死んだ日と、悟飯さんの死んだ日の二日間だけは、必ず墓参りに行くようにしている。
「あの時、俺が常に超サイヤ人になってたらって…悟空さんの修業の成果を見たのに。」
ごく自然に超サイヤ人の状態になれるような特訓を悟空さんと悟飯さんは完成させていた。それが超サイヤ人を超える修業よりもさらに優れた効果を生み出す修業だったことを知ったのは取り返しがつかないことになってからだ。
「って去年もおんなじこと言いましたね。俺はあの時からなんも変わってないみたいです。」
超サイヤ人の限界をさらに一つ越えた姿を得たトランクスはさらに先を目指し続けたがゆえに、基礎をおろそかにしてしまったのだ。
「また来年来ますね。」
そう言ってトランクスは飛び立とうとするが背後にいる二人の気を感じ取り、気を入れる。
「不意打ちは効かんぞ。」
「き、貴様、界王神様に向かって無礼だぞ。」
言いよどんだのはトランクスの凄まじい気に当てられたからだろう。
「キビト、こちらは依頼する立場なのですよ。」
振り返れば地球人基準で見れば大柄な男と小柄な男の二人だった。地球人の限界をはるかに超えた強さ、人造人間すらもを超えうる力を持つ二人組にトランクスは警戒レベルを引き上げる。
「初めましてトランクスさん。私はシン、この宇宙の界王神をしています。」
「カイオウシン?」
「地球の神よりも上位の界王よりもさらに上位の存在ととらえてくれればよい。界王くらいは聞いたことがあるだろう?」
「え、ええ。」
ライの使っている戦闘力を何倍にも引き上げる御業、界王拳。どうやって身に着けたのかを聞いたことがあるが、その時に界王の存在を教えてもらった。だが…
「証拠がないでしょう。急にそんなことを言われてもすぐには受け入れられません。仮にカイオウシンという存在がいるとして、そのお方が何の用ですか?」
圧倒的に強大で刺々しい気には不釣り合いなほどに綺麗な魂。師匠を二度失くしたことがトラウマになっているのだろうと界王神は察した。
「この地球に巨悪の影が忍び寄っている。貴方にはそれを払う手助けをしていただきたいのです。」
「巨悪の影?」
「ええ、地球だけでなく、宇宙の危機です。」
「意味が分からない。突然何を言い出すんですか。まさかそんなことが…」
動揺するトランクスはしかし、すぐさま否定はしない。自分より強い存在が急に現れることはありうることだと身をもって知っているからだ。界王神は事情を説明し始めた。
「魔人ブウが復活してしまえばこの宇宙はお終いです。どうか、その力を私たちに、いえ、宇宙に貸してください。」
「あなたが界王神であるということも含めて、すぐに信じられる話ではないですね。」
頭を下げる界王神に対してトランクスは力を貸そうとはしない。
「下界の人間が、立場をわきまえろ!」
後ろに控え、頭を下げた界王神に戸惑っていたキビトが不遜な態度をとるトランクスに向かって不機嫌を露わに言葉を放つ。
「キビト」
その言葉は短く、しかし威圧感があった。
「私が悪いのです。界王神の使命は人間を見守り導いていくことだというのに、人間の力で成長しないと意味がないなどと言って地球を地獄のような世界にしてしまった。」
頭を下げたまま言葉を発する界王神の言葉にトランクスはひどく心を揺さぶられる。この人が二十年前に来れば、悟飯さんもライさんも、他の仲間たちも死ぬことはなかった。母さんだって死ななかった。頭に血が上る。
「ふ、ふざけるなッ!それだけの力があって、地球の危機を知っていながら二十年も見過ごしたやつに、誰が力を貸すかッ!」
気づいたときには怒鳴りつけていた。界王神から釘を刺され黙っていたキビトが我慢の限界とばかりにトランクスに怒声を飛ばした。
「時を逆行し、未来を捻じ曲げた大罪人の分際でなんという態度だ!」
「キビトッ!」
その声はそれほど大きくない。しかしその言葉に乗せられた怒気は怒りの矛先が向けられていないトランクスでさえも竦んでしまうほどだ。
「私は地球が人造人間に蹂躙されているときに手を差し伸べなかった。だというのにこんな時だけ神を名乗って協力を仰ごうというのがどれだけ身勝手な話なのか分かっています。ですがどんなに見苦しく無様であろうとも私にはあなたの力が必要なのです。どうか、私に力を貸してください。」
界王神が言い切るころにはキビトも腰を折り頭を下げていた。
「魔人ブウ復活阻止のために、どうか界王神様のお力になってはくれまいか。」
つい先ほどまで見下していた人物に頭を下げて懇願するキビトの姿は、宇宙を憂いて奮闘する神の矜持を感じ取れた。この人たちがいうことが本当なら自分たち人間は虫けらのような存在なのかもしれない。自分が彼の立場だとして頭を下げて懇願できるだろうか。すぐに首を振る。きっとできない。
「…分かりました。俺の力でよければお貸しします。」
目の前の人物がいうことを全て信じることは今すぐには難しい。でもそれとは別の話として、この二人は信用できるとそう感じた。
「魔導士バビディは地球のどこかに潜んでいます。その居場所は彼が魔人ブウのエネルギーを集めようと動き出さない限り見つけられないでしょう。彼が動き出すまでの少しの間ではありますが界王神界に来てください。貴方の力を見てみたいですし、さらなる力を得られるかもしれません。」
界王神に言われ、三人はその場から姿を消した。
*
「ここが界王神界…」
「大界王すらも来たことのない聖域だ。光栄に思うがよい。」
界王神に目線で制されてばつが悪そうな顔をする。
「あの世とこの世の理から外れ外側にある世界、それが界王神界です。この星はよっぽどのことがない限りは壊れない頑強さも持ち合わせています。」
万が一魔人ブウが復活してしまったならばキビトの能力でここに魔人ブウを連れて戦うことになるだろうと界王神は思案する。ここから下界に下りることは界王神以上の高位の神でなければ瞬間移動を使うよりほかにないのだから。
「さて、あなたにはまず、どんな力も手に入れることができるとされるZソードに挑戦してもらいます。」
暗い考えを払い、トランクスに向き直る。今まで何人もの界王神を拒んできたZソードがトランクスを受け入れるのであれば、今だトランクスを認めきれていないキビトもトランクスを、ひいては下界の民を認めざるを得ない。
「ただ岩に突き刺さっているようにしか見えないんですけど。」
道中Zソードについて説明をしたがまさにその剣を前にしたトランクスが不思議そうに言う。
「やってみれば分かる。私はおろか歴代の界王神様ですら引き抜けなかった代物だ。お前如きに抜けるとも思えんが。」
挑発するキビトを横目にトランクスは気を開放する。
「はあああ!」
「「!」」
「なんと!?」
「凄まじい気です、トランクスさん!」
その凄まじい気に驚愕する間にもトランクスは剣を両手で持ち引き上げにかかる。
「うおおおお!」
しかしその剣が動くことはない。
「は、はは。やはりな。下界の人間にこれは無理だろう。」
キビトがどこか安心したような声音で言う。
「パワーだけならまだ上があります。」
ボンッ!バンッ!
筋肉は肥大化し、後ろでまとめられた髪は破裂したかのように逆立つ。
「あ、ああ…」
スピードが殺される欠陥変身と言えど、気は爆発的に増える。それこそ、魔人ブウの恐ろしさを知る界王神が圧倒されるほどに。しかしその変身をすぐに解いた。
「どうしたのだ。そ、それほどのパワーがあればZソードを引き抜けてもおかしくないだろう。」
キビトが動揺してそう話すがトランクスは首を振った。
「いえ、この変身で剣を引き抜いても意味なんてないんです。また同じ過ちを繰り返すところでした。」
その姿は誰かを想っているようで、心を読むことのできる界王神たちはそれ以上追及することができない。
「ま、まあ下界の人間としては考えられないほど高い実力だ。それほどの力なら必ず界王神様の力になるだろう。」
そう言ってその姿は聖域にふさわしくないと手をかざすとトランクスの服装が変わった。服の形状は界王神やキビトと同じく、しかし色はキビトや界王神と違って青い。そして。
「その耳飾りは大界王よりも高位の神である証。界王神様の付き人であるものの証だ。色が黄色に近ければ近いほど、界王神様に近いと言える。」
自慢げに言った。トランクスについているのは青色の耳飾り、キビトは黄緑、そして界王神は黄色だ。そんなキビトを横目に界王神が陣を描く。
「では、トランクスさん、あなたには私の付き人となるための儀式を受けてもらいます。バビディが動き出すまで時間はありませんが、三日間ほどで終わります。その程度であれば問題ないでしょう。」
「三日間!?そんなにかかるんなら途中で動き出す可能性も十分以上にあるじゃないですか。」
「トランクスさんにとっては三日は長く感じるかもしれませんが、私達や魔導士バビディにとってはそんな長い時間ではありません。」
地球人の寿命は宇宙にいる人間の中でも短い部類に入る。何千年と生きる者にとっての百年が人間でいうところの数年であるように、数万年と生きる芯人にとって三日は地球人で言うところの数秒としか感じない。そして時間という枷から解き放たれた界王神にとってはまさに瞬きする間にしか感じないだろう。そしてそれは数百万年以上を生きるビビディやバビディも一緒だ。
「魔導士バビディを倒し宇宙に平和をもたらすために、万全を期さなければならないのです。大丈夫、キビトには地球で動きがないか見ていてもらいますから。」
付き人になれば復活パワーに瞬間移動といった界王神を補佐するに必要な能力が身に着く。これは本来は副産物としてではあるが、戦闘の幅が大きく広がる。そして今はその副産物こそが必要だ。
「分かりました。では、お願いします!」
そう言って界王神に向き直ったトランクスは不思議な踊りと掛け声でトランクスの周囲を回る界王神に言葉を失った。
ネットで見つけたんで信ぴょう性は微妙ですが界王や界王神って木から生まれるらしいですね。しかも平均寿命が三万年だとか。でも魔人ブウは五百万年まえから暴れまわってたという…は?