「フンフンフーン、フッフフフーン…」
界王神トランクスの周りをまわり始めて五時間ほどが経とうとしていた。
「これで儀式は終わりです。」
トランクスの正面に来た時、界王神は止まってトランクスに言った。
「これでトランクスさん、いえ、トランクスには瞬間移動やテレパシー、そして復活…」
界王神が付き人になることによって身に着けられる能力を説明しようとしたときキビトが割って入る。
「界王神様、バビディが動き出したようです。」
魔術でかくしていた宇宙船はバビディが外にでて行動を開始したことでとらえることができた。それは自分たちを誘うようにも思える。
「!分かりました。説明は後にしましょう。今はあなたに必要最低限なテレパシー能力だけお伝えしておきます。」
そう言ってテレパシーの能力を説明し始める。曰く、その力は思考の共有。付き人に界王神が伝えようとしたことが伝わる。逆もまたしかり、界王神が伝えようとしたことが言葉にせずとも付き人に伝わる。この力は自分と付き人の間でしか発動しない。めったなことでは使わないが、界王神の方は任意で付き人の心を読むことができるらしい。作戦のやり取りはこの力を使うことになった。
「(では界王神様、トランクス、行きましょうか。)」
「!」
急に言われてもできるわけがないと戸惑っていたトランクスだったが少なくとも受信の方は問題ないらしい。キビトの言うことが伝わり自分もわかりましたと思念を送る。
「(大丈夫、私にもキビトにもちゃんと聞こえていますよ。)」
その念話に胸をなでおろし、トランクスは界王神と同様にキビトの手を取った。
「カイカイ」ピシュン!
次の瞬間には慣れ親しんだ地球の景色が目に入ってきた。
*
「(二人とも、バビディの野望は一刻も早く阻止しなければなりません。仕掛けるは速攻。行きましょう。)」
界王神が飛び立ち少し遅れてキビト、トランクスと続く。人が多い都に紛れているかと思いきや意外にもバビディの拠点は人気の全くない山岳地帯だそうだ。周りを気にしないで良いことは利点だが逆に何か罠を貼っているのは間違いないだろうと気が引き締まる。
「死ねぇっ!」
「ッ!ハァッ!」
ガン!
トランクスの懸念の通り、バビディの拠点までほど近くについた頃バビディからの刺客だと思われる戦士が不意打ちを仕掛けてきた。しかしそれは読めていたか、トランクスは苦も無く対応する。
「今の不意打ちが防がれるとは思わなかった。それなりの実力を持っているということか。」
「直前に殺意を出す攻撃など不意打ちとは呼ばない。」
「確実に当たると判断したから声を上げたんだがな。」
そう言うと目の前の刺客の雰囲気が変わる。相手が本気を出したことが伝わる。それに対し界王神とキビトが警戒レベルをさらに引き上げた。
「(界王神様、トランクス、こいつはそれなりの強敵です。三人で連携して確実に無力化しましょう。多少なりとも消耗してはいけません。)」
テレパシーが脳内に響く。それは界王神やキビトの実力を考えれば当然の判断だがトランクスからすれば悠長すぎた。
「(いえ、この程度なら俺一人で充分です。界王神様、最初に行ってたじゃないですか。速攻を仕掛けると。)」
バビディが動き出した時点で魔人ブウ復活の算段が立った可能性が高い。一刻も早く野望を阻止する必要があった。それを理解したのか、界王神は臨戦態勢を解き警告をする。
「(バビディの魔術で宇宙船の一部屋とこの空間をつなげたみたいです。部屋の仕掛けには注意してください。)」
地上をみると確かに明らかに自然のものではない丸いドアのような模様があった。そしてすぐさまバビディの魔術によるものか、周りの環境がガラッと変わる。
「これは…」
「俺の故郷の星だ。俺の故郷は地球などとは比べ物にならないくらい過酷な環境でな、満足に動けないだろ?」
惑星ズンは地球の十倍以上の重さがある。常人なら重力が倍になるだけでもほとんど身動きが取れなくなるだろう。それでも。
トランクスにとってこの変化は枷にすらなり得ない。
「この程度何が変わるということもない。」
ピシュン!
「消えた!?どこだッ!」
プイプイが視線をさまよわせるが、トランクスの姿を捉えられない。
「後ろだ。」
キーン、ドガ―――アン!
攻撃の瞬間、居場所をばらす。これが本当の不意打ちとでもいうかのように。気功波が消え去った後には何も残らなかった。
*
「まさかあのプイプイが全くダメージを与えられずにやられるなんてね。」
「とはいえ、あの程度の実力であれば、私が出れば間違いなく倒せます。しかし…」
宇宙船の最奥では今回の騒動の元凶であるバビディ、そしてその一の部下である暗黒魔界の王ダーブラがプイプイとトランクスが戦う様子を見ていた。
「奴等三人を倒しても魔人ブウ復活にはエネルギーが足りないと思いますが。」
ダーブラが当然の疑問を出す。魔人ブウ復活にはきれいな魂を持つものの気が必要だ。実力だけで言えば少なくともダーブラ二人分は必要だろうとバビディから聞かされている。
「それは心配いらないよ。何のために僕があのトランクスとかいうやつの儀式が終わるのを待って動き出したと思ってるのさ。」
「はあ、何か関係がおありなのですか?」
要領を得ない解答にダーブラは首をかしげる。
「最初にエネルギーをため始めてから分かったことなんだけど、魔人ブウの復活エネルギーに使えるいわゆる’きれいな気’って言うのは地球人の中でも一部の人間しか持っていないんだ。だから地球人全員のエネルギーをかき集めても大した量にはならない。もっと言えば界王神たちから気を搾り取っても足りない。」
「それでは復活は諦めると?」
驚いた表情と動揺が乗った声音でダーブラがバビディに聞く。それを見て満足したか、バビディは得意げに話し始めた。
「いいや、僕はそんな程度のことで諦めるほど愚かじゃないよ。気を増やす方法がないか調べ上げて、そしてこの装置を造った。」
そう言ってバビディは目の前の装置をなでる。ブウの玉に取り付けられたそれはエネルギーを一時的にためておく容器が二つ。その容器に何か無骨な装置もつけられている。
「メタモル星人って言う種族がこの宇宙にはいてね。その種族に伝わるはヒュージョンって技からヒントを得たんだ。全く同じエネルギーの量、そして似通った体格の二人がポーズをとることで合体し一人の戦士が生まれる。その戦士のエナジーは足し算では測れないほど強大なものとなる。」
「まさか、バビディ様…」
「想像の通りだよ。その融合を復活エネルギーどうしでさせるのがこの気の融合装置だ。」
「ですがトランクスとかいうやつの儀式を待ったのはそれと何の関係が?」
「ヒュージョンの場合はポーズによって二人のエネルギーが溶けあうように変化するんだけど、残念ながらエネルギーにポーズを取らせることはできないからね。だから二人の気が勝手に溶け合うコンビを見つけるしかなかったんだけど…」
ハッとした顔になる。
「界王神の付き人という気の性質どうしの気なら溶け合うコンビとなりうる。」
「正解だよ。あいつら程度の力でもこの装置を使えば魔人ブウ復活にたるエネルギーになる。」
バビディにダーブラは感心して頭を下げた。
「流石はバビディ様。出過ぎたことを進言して申し訳ありません。」
「さて、プイプイ程度じゃ相手にならなかったことだし、次はヤコンにでてもらおう。」
ダーブラが少し目を見開いたが、すぐに部下にヤコンに出るように告げた。
*
「(これ以降はどんな会話もテレパシーを使いましょう。バビディに動きを見られている前提で動くべきです。)」
「(相手の意表を突くために速攻を仕掛けるはずだったのですが、うまくいきませんな。)」
すぐさまテレパシーに切り替えて界王神とキビトが会話を始める。
「(おそらく刺客はどんどん来るでしょう。一刻も早くバビディたちの元へ向かいましょう。)」
それに倣うようにトランクスもテレパシーを始めた。
「(いえ、むしろここで待っていればいいんじゃないですか?動きながらだと警戒は薄くなりますし、向こうが空間をつなげられるなら勝手に刺客を送ってくるはずです。)」
トランクスが待ちを提案するがその案にキビトと界王神は渋い顔をした。
「(いえ、こちらからも宇宙船を目指すべきでしょう。相手が宇宙船の場所を魔術でこちらに移してくると、相手はバビディの意志一つで宇宙船に逃げることができます。態勢を立て直されてはまずい。)」
「(そうですか…分かりました。それでは急ぎましょううか。)」
ボゥッ!
そう念話を送るとトランクスは超サイヤ人化する。そのままにキビトの後ろから鋭い爪を振り下ろそうとしていたヤコンに向かって気弾を放った。
「オワッ!貴様、良ク気ヅイタナ。気ハ消シテイタハズナンダガ。」
怪物らしく少し濁った声が響く。その声を聞いて界王神とキビトは顔をこわばらせた。特にあわや戦闘不能になっていたであろうキビトは青ざめている。
「魔獣ヤコン、まあ、この程度の戦力は整えなければ目立った動きはしないでしょうが!」
少しばかり苦しそうに界王神が言う。その表情を見たからか、キビトは深呼吸をして平静を装って言った。
「界王神様、トランクス、ここは先に行ってください。バビディはこいつをここで切れるほど、強者を手元に置いているということでしょう。」
「しかし…!」
「戦力を小出しにしている理由なんて一つしかありません。奴等は時間稼ぎをしているのです。一刻も早くバビディのところへ。」
その覚悟の表情を汲んで界王神は先に進むことを決意する。
「無理だけはしてはいけませんよ!」
ヤコンは界王神たちを追いかけることなく先に行かせた。その場にキビトとヤコンだけが残る。
「まさか先に行かせるとは思わなんだ。」
「界王神ハバビディ様ガ直接手ヲ下サルソウダカラナ。一人トドメテ置ケバ十分ナンダヨ。ナニセ、バビディ様ニハダーブラ様ガツイテイル。」
「な、なんだと…!?」
「貴様ヲ殺シテバビディ様ノ悲願ヲ達成シテヤルサ。」
振り下ろされる腕をいなすように動くが爪がキビトの皮膚を浅く切り裂く。芯人の戦い方は敵の攻撃をいなし捌き、翻弄するものだ。そのスタイルは同じ芯人を相手にすることに想定されている。ある種当然の話だ。芯人よりも強い生命体など、基本的に下界には存在しないのだから。だからこそ。
「ぐ、ぅ…」
魔獣との戦いに対してキビトが身に着けていた戦法は攻撃を受ける時にめっぽう相性が悪かった。自分より格下の相手には戦法の相性など無視できるが、自分と同格、あるいは格上の相手に対して相性の悪さはいかんともしがたい不利要素だ。
「口ホドニモナイ。」
ずっと劣勢を強いられ、致命傷こそ何とか避けているものの、無数の切り傷が全身に刻まれて装束が血でにじむ。
「神の無力さを、自分の見識がいかに狭かったのかをここ最近ずっと感じている。」
違う。神が無力なのではなく自分が未熟なだけだ。
「ソロソロ止メトイコウ。コノ程度ノ雑魚ニ時間ヲカケスギタラバビディ様ニ怒ラレテシマウ。」
シュン!
「!」
スパスパッ!
咄嗟に念力でヤコンの動きをわずかに鈍らせ、後ろに飛び退く。しかしその懸命の回避行動むなしく肩口、左の脇腹を爪で強く引き裂かれ、膝にも同じように引き裂かれた。
「う、が…」
すぐさま傷の状態を確認する。傷は深く血が噴き出し、肩をやられた影響か右腕が動かせない。念力を自分にかけて傷口を強引につなぎ、止血とする。
(あなたのお役に立って見せます。例え死ぬことになっても。)
「今ノデ即死シナカッタノハ褒メテヤルガ、次コソ確実ニ殺シテヤル。」
右腕がだらりと下がったキビトに対して、魔獣は笑った。
*
「(心配しなくてもキビトがそう簡単にやられることはないですよ。)」
不安そうにしている心の内を読まれたか、いや、顔に出ていたのだろう。界王神がトランクスに念話してきた。
「(そうですよね、いざとなったら瞬間移動でここに来れるでしょうし…)」
「(キビトは負けませんよ。)」
トランクスの言葉を遮ったその言葉は願望に聞こえる。元付き人だった界王神は瞬間移動がそうそう都合の良い物でないと、復活パワーを自分にかけられないことを、勝ち目が薄いことを、知っている。
それでも。
界王神とキビトが一緒に過ごしてきた日々は人間の尺度で言えば永遠ともいえるほどの時間だ。その日々は二人にしか分からない信頼を積み重ねた時間だ。だからこそ。
その言葉は確信だ。