トランクスに槍を渡した直後、界王神はバビディに攻めあぐねていた。
「ビビディよりもはるかに厄介な魔術だ。」
何より面倒な魔術はバリアだった。界王神の力では破壊することのできない硬度のそれは界王神の焦りを助長する。
ガギィン!
界王神の気をまとった手刀がバリアとぶつかり鈍い音を立てる。優勢なのは界王神でもその戦いをコントロールしているのはバビディだろう。
「ふふん、僕が君を殺したがっている理由の一番はパパの復讐だよ。パパの弱点がそのまま僕に使えると思ったのか?」
「確かに攻撃は防がれているがこちらもお前からの攻撃はほとんど効いていないぞ。」
挑発してくるバビディに言い返す言葉は全くの負け惜しみというわけでもない。バビディの存在を知ってから魔術に対する対抗策として神術も磨いてきた。この戦いに限って言えばどちらが勝ってもおかしくない。この戦いに限るのならば。
(トランクスの気の消耗が激しい。少しでも早く援護に向かわなければ…!)
バビディと界王神の実力は拮抗していてもバビディの勢力と界王神の勢力は拮抗してはいないのだ。
「びりびりの魔術!」
バビディの魔術によって粘性の球体がいくつも飛んでくる。それを躱し、あるいは念力で弾き、バビディに接近する。
「ぱっぱらぱっぱー!」
しかし、界王神の拳が届く距離に入る前にバビディが別空間とつなぎ界王神の周りに球状のマグマドームを造り出す。魔導士の名に偽りはなく、界王神はこの戦いで同じパターンの攻撃を受けていない。
「…」ブゥゥン!
周囲を囲うように現れたマグマに対し界王神は神術を掛けて熱に対する耐性をつけマグマの中に飛び込む。
「んなっ!」
マグマに飛び込んでくるとは思ってもみなかったのだろう。遠隔で攻撃できる魔術を構築していたのか、背後のドームが凄い速度で収縮していったが既にドームを飛び出した界王神にとってまたとない攻撃のチャンスだった。
「バリアー!」
この期に及んでも即座にバリアを展開するその周到ぶりしかし、今はそれこそが望んでいた展開だった。
「ホール!」
界王神の生み出した手刀の斬撃が、バリアをすり抜けてバビディを切り裂く。
*
「はぁぁあああっ!」ピシィッ!シュッ!ガッ!
トランクスから連続で放たれる槍の攻勢を防ぎながら、キビトが念力で操る槍の攻撃を気合砲で弾く。
「うっとおしい!」ドガッ!
トランクスの攻撃の隙間をついて爆発波を放つ。思わずのけぞってしまったトランクスを置いてキビトに仕掛けに行く。
「キビトさん!」
「(構えろっ!)」
念話はイメージしたことを伝える能力だ。どのように動いて欲しいか伝わった。
シュッ!
崩された態勢から手に持っていた槍を投げつける。ダーブラの拳は既にキビトに迫っている。ダーブラもうっすらと槍の存在を確認し、槍から逃れるよう態勢を変える。それでも。
「ッ!」
「食らえぇ!」
キビトとトランクスの位置が入れ替わる。ダーブラに100の実力があろうと、
ドンッ!
「しまっ!」
吹き飛ばされ、態勢を立て直し、唇に付いた血をぬぐう。
「貴様等ァ!!」
「(入れ替え技、ブギウギは自分以外とでも発動できるが強制発動は自分以下の実力でないといけない。目を媒体に発動するため視認できれば発動できる。)」
トランクスが先ほどキビトの意図を察せたからこそ発動できたのだ。ダーブラに直接使うことはできない。
「(分かりました。では多用せずブラフにしましょう。)」
使いすぎるとダーブラと入れ替えられないことに勘付かれる可能性がある。方針を決めて激高したダーブラにトランクスとキビトが相対する。
*
「ぐうっ!」ぎしゃぁ!
界王神が放った斬撃がバビディの左腕を切り裂き血が噴き出す。それと同時にバリアが解かれた。
「とど…んなっ!」
接近して攻撃しようとした界王神がとっさにバビディの右腕を弾こうとほぼ反射的に動く。バビディは魔導士、直接攻撃に威力はほとんどないはずだというのに界王神がとっさに動く。その拳を振るう速度が今までよりはるかに速かったからだ。
ゴン!メキミシッ!
界王神が軌道を逸らそうとしたのにも関わらず全くその軌道は逸れず、界王神の腹に直撃し人体からおおよそ鳴ってはならない音が響く。
「ゴハッッ!」
吹き飛ばされ地面を転がり土煙が舞う。
「ふふ、ふはははは!無様だねえ、界王神!」
「この、この威力は…ありえない!」
界王神から食らった斬撃で左腕から血を噴き出しているというのに、全く意に介さずに勝ち誇る。
「どんな気分なのかな。魔導士である僕の殴打で致命傷を食らうってのはさ。」
「バビディぃぃ!」
倒れていた界王神が起き上がり、バビディに突撃する。その手のひらから放たれる発勁を受け止める。
「おや?まだそんなに動けたんだね。」
「クッ、ハアッ!」ビュゥン!
ありえない、ありえないありえない。念力でバビディの動きを止めながら考える。バビディが魔術で肉体を強化してもここまで圧倒的な力を得るような呪法は存在するはずがないのだ。そんな呪法があるのなら神術に精通する界王神が知らないはずがないのだから。神術にできないことが魔術にできても神術の限界をはるかに超える魔術は存在しえない。なぜなら、魔術は
「そんなもの、今の僕には通用しないよ。」ゴン!
「ゴフッ!」
念力を振り払い、再びバビディの拳が叩き込まれる。万全の状態かつ両腕で放つ念力はとある世界では孫悟飯をも止めうるものだが、今の状態で放つ念力にはそのような強力な阻害効果はない。
「まだだあ!」
バシッ!
「おかしいね。僕の攻撃を二撃食らってもそんなに応えてないみたいじゃない…かっ!」
バビディの念動力によって動きを封じられ、連打を浴びる。
ドン!ゴン!ゴシャッァ!
「どうなってるんだろうね。体はボロボロなのに全く痛みを感じているように見えない。それに…」
嫌な目つきだ。勝負を諦めていない者がする目つき。ダーブラを洗脳するときもそうだった。心をほとんど奪われていたはずなのに尋常じゃない覚悟が含まれている目。潜在能力を引き出した洗脳後の方が強いはずなのに、今のダーブラが暗黒魔界の王として君臨していた過去のダーブラに勝てるように思えない。
「こ、このぉ…」
「苛立たしい苛立たしい、本当に苛立たしいよ。この状況を覆す方法などあるはずがないのに敵意だけは失わないってのがさ。」
魔導士に戦闘力で負ける、それがどれほど界王神の心を折るのか精神をズタズタにできるのか、この戦闘力を借りる魔術を思い付いたときは想像するだけで笑みがこぼれたほどなのに、実際には肉体的にどんなに追い詰めても精神的に追い詰められているようには見えない。その目を屈服させるためにさらにダーブラから力を借りて殴っていく。
*
「相手と自分の位置を入れ替える、実に厄介だ。」
その選択肢があるというだけで、常に警戒しなければならない。未だ使ってこないが、
「だがまあ、貴様等を殺すのに問題はない。」
その入れ替え術を大技を打たれる前に使わせることができたのは幸運だったのだろう。
「少しずつ動きが悪くなっているようだが?」
バビディ様に力を貸し続けている現状では思うように戦えない。それも事実ではある。それでもだ。
「負け惜しみはその辺にするんだな。」
「負け惜しみ?それは違う、これは時間稼ぎだ。」
会話により動きが止まるトランクスとダーブラ。その隙をキビトは援護の準備を整える。
ザッ!バババ!
大量の槍の切っ先がダーブラに向かう。
「行くぞッ!」
射出される。しかし涼しい顔してダーブラは言い放つ。
「槍での援護も鬱陶しいと思っていたところだ。」
ダーブラの目が光ったかと思うとキビトが操っていた槍を全てひとまとめにした。
「「んなっ」」
「念力が貴様等だけの能力だと思ったか?」
キビトとトランクスが動揺のあまり声を出す。援護がなくなったトランクスに対して強力な拳が振るわれる。
ドンッ!
「うがっ」
吹き飛ばされ地面にたたきつけられる。
「止めだ。」ゴン!
地面で悶絶しているトランクスに蹴りの追撃を入れて唾を吐き出す。悶絶しているトランクスに対して避けることなど叶わない必中必殺の一撃だ。
(いやだ)
思考が加速する。だからこそというべきか体は全く思うように動いてくれない。加速した思考は自分が石化唾から逃れることができないことを残酷に判断する。
(イヤだ、こんなところで、まだ何も…)
何も為せてない。悟飯さんに、ライさんに、生かしてもらった意味を果たせてない。地球を脅威から、守れてないのに。
「そう簡単にはやらせんよ。」
キビトの念話が脳内に響く。
「(待って、だめだ!俺じゃあ!)」
パッ!
もう誰かを犠牲にしたくないのに、咄嗟に拒絶の言葉が出てきているのに、キビトとトランクスが入れ替わる。石化唾が掛かる。
「(あとを頼むぞ。)」
念話を済ませて石化する体を厭わず手を伸ばす。
「ただでは死なんッ!」
「(やめてくれッ!キビトさん!!)」
決して離さないと残りの命を燃やして両腕をつかみ、念力を掛ける。
「俺ごと石化するつもりか、無駄なことを。」
(「キビトさん!!」)
(「近づくな!」)
石化する体に構いもせず叫ぶ。どうせもう、間に合わない。
「お前の実力からしたら今の俺ですら止められるはずがないというのにその念力はどういう仕組みなんだか興味はあるが…」
「ぐ、ぬう…」
キビトの両腕が石化される前に頭部が石化され始める。それと同時に念力が解かれる。
「残念だったな。お前がこと切れる方が早かったようだ。」
そう言って未だ生身のキビトの両腕を切り落とす。本来石化で死ぬことはないが、既にキビトは限界だった。腕を両断されたダメージが最後の一押しとなった。
「次はお前だ。」
「は、ハハ、俺は、俺はまた、あの時と…ハハ、ハハハ、ハハハハハ!」
認めたくない、知りたくない。それでもキビトが死んだことは認めるしかない現実だ。ポタラが黄緑色に変わる。
「気でも触れたか?」
ダーブラが聞いてくる。そんなわけない。この程度で気が触れるなら俺はとっくの昔にぶっ壊れてるというのに。あるいはついに限界に達したのかもしれないけれど。
「今度は、今度はあの時と違うッ!憎むべき相手がはっきりと分かるッ!こんなに嬉しいことはない!」
ドォン!バチバチバチ!!
トランクスから凄まじいオーラが走り、稲妻がほとばしる。
「敵討ちを今度こそ果たしてやる。」
ずっと果たせなかった師匠の敵討ち。分かっている。これはキビトの敵討ちであって師匠の敵討ちではない。その代わりにはならないと知っていても今のこの気持ちを留めることなんてできない。
*
「気を失ったかな。苦しむ姿が見たかったのにつまらない。」
ボロ雑巾のようになった界王神を投げ捨てる。
「死んじゃいないだろうね。魔人ブウが復活した姿を見せたかったのに。」
曇ったその顔は少し晴れる。魔人ブウ復活エネルギーがたまり気の融合装置が稼働し始めたからだ。
「ははっ、ようやくだ。僕が世界の王となる時が来たんだ!」
「そうはさせない。」
ゾクッ!
「ヒッ!」
強烈な悪寒が走り思わず飛びのく。その判断が正しかったと、直後には知る。ものすごい速度で拳が耳元を掠めた。
「お前まだ戦う気、いやそもそも…もう動ける体じゃないはずだ!」
徹底的に痛めつけてやったのだ。界王神の傷の深さはあるいは本人以上に知っている。だからこの状況が理解できない。
「私は、この宇宙の最高神としての責任を果たさなければならない。どんな手段を使ってでも…!」
「ふ、ふはは!そんな体で?どうせさっきの一撃も精一杯の動きだったんだろう!?」
パワーもスピードも界王神を大きく凌駕している。しかし肉体は貧弱な魔導士のままだ。今のバビディは不意打ちに弱い。界王神はそれをこの一瞬で見抜けたのだろうか。
(さっきは危なかったが不意打ちが失敗した以上もうこいつにやられることはない。…
「ッッッ!」
戦慄する。今の自分はダーブラから借りていた強大な力がない。ダーブラに力を借りることを拒否されている。
「(何やってるんだダーブラ、僕に力を寄越すんだよ!)」
魔術を使って直接ダーブラの脳内に話しかけるが応答がない。
「このグズッ」
毒を吐いて仕方なしに自己強化魔術を掛ける。
「こ、このっ」
この力では界王神と何とか渡りあうので精一杯だ。
「魔人ブウはあと数十秒後には復活するんだ。お前如きそうなれば一瞬で…」
バッ!
「ぎゃあ!」
粋がるバビディに界王神の気合砲による衝撃が襲う。地面に倒れこむ。
スッ
「今すぐ魔人ブウを再封印なさい。しなければお前を消します。」
無機質な声と表情で耳もとに手をかざし界王神が言い放つ。
「出来るものならやってみるといいよ。どうせお前は僕を殺せない。」
バビディを殺せば魔人ブウを再封印できなくなる。だからこその余裕。
「
「無理さ。言っただろう。勝ちの目は残さないとね。」
界王神がこれ以上の対話は無意味だと悟る。耳元にかざしていた手に握られている
「業腹です。貴方にこの手段は使いたくなかった。」
神を寵愛する融合装置。ヒュージョン以上の効果を秘める
「たとえこの身を汚そうとも、貴方の全てをもらい受ける…!」
それは人格が界王神のままであるという効果。
「ぱっぱらぱー!」
バビディが魔術を唱えるがもう遅いとポタラをバビディに取り付けた。
キイィィン!
「うがッ!」
ポタラを取り付けた油断に、バビディの攻撃が襲う。ポタラが作用しないことに呆然とする。
「な、ぜ…?」
「融合拒絶の魔術なんて存在しないよ。」
その言葉がさらに界王神を混乱へと誘う。
「今唱えたのは…拘束の呪文さ。」
「ッッ!」
その言葉とほぼ同時に界王神の意思に反して身体が浮き上がり球状の火球が自身を囲う。
「パパの復讐を果たすためにお前を殺そうと思っていたが、気が変わった。お前には殺すより残酷な復讐を思い付いたからね。」
「くそっ!私の攻撃が通用しないのか!?」
火球を吹き飛ばそうとするが攻撃が通っている様子がない。
「こちらからも攻撃ができない代わりに僕が死なない限りは壊せない檻だ。さあ、魔人ブウが復活して僕の意のままになる宇宙を指をくわえてみるといい。ひとしきり満足したら殺してあげるよ。」
バビディが指をさしたその先にはブウが封印されていた玉がある。その玉から煙が噴き出して二つに割れた。
呪術廻戦の東堂葵の術式名をお借りしました。