界王神たちが下界に戻ってきたときとほぼ時を同じくして、バビディの火球が解けて魔人ブウが解き放たれる。
「バビディ様はだいぶ往生際が悪かったようですね。」
ええと頷きながら界王神は思考する。火球による封印呪文、魔人ブウにおいても破壊できなかったことを見れば、その封印呪文はかつてビビディが魔人ブウ封印に使ったものと同系統の魔術だったのだろう。神術での解呪も叶わず本当に必殺の封印だった。バビディの悪趣味によって外の景色をみることができたからこそ、ブギウギを発動できたのだろうがそうでなかったらと思うと恐ろしい。
…
「ッ!」ビュオン!
念力を掛ける。界王神界でトランクスから回復を受けたから、それなりに強力な行動阻害効果があるはずだ。
「なにを…?ッ!」
自分があの魔導士をなんと呼称したのかに気づいたのであろう。自分の人格の主を担うのがどちらなのか。
「大丈夫、大丈夫です界王神様。俺はトランクスだ。」
一瞬の逡巡の後にそう言って魔人ブウに気を向けた。心を読めば少なくともトランクスの人格の方が強いことが見抜ける。今はそれでよいとしよう。
「お前、強いな?」
火球がバビディのものと本能的に悟ったブウがバビディを入念に気で消滅させた後心底嬉しそうにこちらに、トランクスに視線を向ける。
「ああ、お前よりも圧倒的に。」
大丈夫、大丈夫だ。どこからか湧いてきているバビディ様、バビディへの忠誠心はバビディが死んでも消えてくれたりはしなかったが、ダーブラも俺も魔人ブウを亡ぼすことに関しては一致している。それならばこいつを殺すの
「ブウー--!」
頭から蒸気を出したかと思うとブウが突っ込んでくる。その速度ははるかに速いものだ。単体の戦士としては最高の速さ、そして
ドオン!
振るわれる最高の威力な右拳。それを同じく右手で受け止める。受け止められる。
グシャッ!
握り潰す。ピンク色のジェル状の細胞が弾けて地面に落ちる。
「ブィーブウー-!」
ブウはすぐさま再生して拳の連撃を繰り出し始めた。
「さんざん馬鹿にしてくれたなあ、魔人ブウ。」
「てりゃあああああ!」
それもすべて簡単に躱す。今の俺にはこの程度の連撃の隙など簡単に避けられる。
「そおれっ!」
「があああ!」
蹴りの一発でブウは倒れる。
(さっきの借りがこんな簡単に返せるなどとは思わなかった。…違う、借りなんてない。)
甚振るような戦いなどヤメてさっさと止めを刺すべきだ。
「ブウ!ブウ!ブウ!ブウ!」
気弾を撃ってくる。簡単にかき消せる。気弾の弾幕を全て消し飛ばし、隙だらけな腹に殴りこむ。
「うごぉ…」
「ハハハッ!」
空いた左手をブウの口元に持っていく。ここまで圧倒できるなんて思わなかった。
「体内が爆発したことはあるか?」
そうじゃない、体の外からの攻撃がだめなら中からだ。この攻撃はただ苦しめたいからじゃない。
バッ!キーン、ズギャアアア!
「う、ご、があ…ギッ!」
ドォン!
体内からの攻撃でも再生できるようだ。ダメージを受けても一瞬で復活される。だったら気で消滅させればいいだけだ。いいや、自ら死を求めるように懇願するまで徹底的に痛めつけてしまえばいい。それで殺してやるんだ。バビディ様を殺した報いを受けさせてやる。
「うぐっ!おがっ!おひっ!うがあ…」
ブウの触覚を掴みサンドバックのように殴り続ける。豊満な体がぼこぼこにへこむ。
「少しは恰好よくなったんじゃないかな?」
パッ!ピシュゥン、ドーーン!
「ギッアァ…」
「再生能力はあるのに痛覚があるのか。痛めつけがいがある。それに、どんなに殴ろうとも痛めつけようとも再生してくれるってのはいいものだな。バビディ様の仇をとれ、る。」
頭を振る。思考をクリアにする。俺はトランクスだろう。仇を取れるからなんだそんなことがしたいんじゃない、さっさとこいつを殺す。
「よくも、よくも俺を馬鹿に…!ブウー--!」
怒りに震え、蒸気を出すその姿からはまだ戦意喪失してはいないようだ。だが。
「ギャッ!」
放たれた気功波が魔人ブウの右手を抉る。
「お前を殺すぞ、ブウ。」
ダーブラの思想に飲まれる前に、こいつを滅してしまおう。
ポンッ!ピィー-!
宣言を煽りととらえたのだろう。怒りに飲まれて再び蒸気が出る。右腕が再生する。
ドゴォッ!
「ごッ…」
スパッ!ガシッ!
鳩尾に深い一撃を与えれば動きは止まる。気のブレードで首を切り飛ばし、体を気功波で消滅させた。
「く、くそー」
残りの顔だけでもブウは復活し始める。でもブウ自身も分かってる。自分がもうすぐ殺されることを。ただ悔しそうだ。死への恐怖、死という概念が分かっていないのかもしれない。
パッ
「これで終わりだ。」
「ブ、ガアアアー-!」
ヒートビームアタックがブウを消し去った。
「あっけないな。」
一息つく。魔人ブウは子供みたいなものだった。どこかで何かが違えばこんな化け物にならなかったかもしれないのに。最初に会ったのが界王神様であったならきっと頼りになる付き人になっていたかもしれない。
「これで宇宙は救われます。お疲れ様でした。」
界王神が頭を下げてくる。不味い、界王神様に頭を下げさせている。顔を上げてもらわなきゃ。
「いえ、あなたの神具があればこそ、あの魔人に借りを返せたのです。これは俺達の勝利ですよ。そして…」
そして…なんだ。次はバビディの敵討ちだとでも言うのか馬鹿め。
「あと数十分の辛抱ですトランクス。少し眠りなさい。」
その不自然さを感じ取ったのだろう。界王神が何事か呟くと界王神の気が全身を覆い瞼が急に重くなる。衝撃波を撃てば簡単に突破できるだろうけれど、頭がおかしくなりそうな精神状態の今は神術に身を任せるべきだ。
「カイカイ」
意識を失う直前、界王神がそう言う声を聞いた。
*
「もうすぐ一時間ですか。」
魔人ブウを倒しもう憂いはない、そう言えればよかったのに。合体したトランクスにかけた神術は合体が解除されると同時に切れる。そうすれば最後の戦いの幕開けだ。私の援護は確実な勝利を呼び込めるほど強くない。
(キビトを失い、トランクスさんに苦痛を強いて、それでもこんな私についてきてくれた二人に報いなければ。)
キーン、パッ!
合体戦士が光って二人に、トランクスとダーブラに分離する。
「波アァッ!」ビュウィン!
「フン!」パッ、キラッ!
分離直後の無防備な瞬間に動きを封じてしまおうとするが気によるバリアで防がれる。その一瞬の隙に。
「フィニッシュバスター!」
トランクスが急襲する。
ペッ、ジャキン!
唾を吐きかけ石化した気功波の球を切り裂く。魔人ブウ復活という枷がないダーブラはありとあらゆる攻撃を繰り出せる。それに対して。
「そこだ!」ドンッ!
トランクスがその全力のダーブラに匹敵する実力を身に着けたのもまた事実。
ドン!ドドン!ダン!ガン!バン!
(速すぎる、動きを目で追うので精一杯だ。)
分離直後の奇襲でトランクスに先手を取らせることには成功したがそれだけだ。その早すぎる戦いに、界王神は干渉できない。
「(身代わりにはなれます。いざというときは使ってください。)」
干渉できなくとも役に立つ方法がある。トランクスとダーブラが分離するまでの数十分何もせず待っていたならばそれこそ無能の烙印を押される。
「エンチャント・アンチカース!」
戦いを有利にする付与の神術、アンチカースは呪いの拒絶。
*
ペッ!
ダーブラの唾が吐かれる。
ピシッ!
それを気弾で弾く。石化唾自体は気弾で簡単に弾けるが、それに気を取られれば他の攻撃が来る。だから距離を詰めたいダーブラと距離を取りたいトランクスの戦いは膠着する。
「それッ!」
「うらぁ!」
生成したカッチン鋼を投げ、それをダーブラが念力で弾く。
「(接近なさいトランクス!)」
界王神の指示が脳内に響く。それと同時に界王神の術がトランクスの身を包む効果を理解したトランクスはすぐさま接近戦に躍り出た。
ガキン!
「チッ!」
剣を生成して切り込むと、ダーブラも同じ様に剣を取り出し防ぐ。急に距離を詰めてきたトランクスにダーブラの対応は一歩遅れる。
「マキシマムフラッシャー!」ズァッ!
片手で放つ気功波、父から学んだ必殺技だ。
「うぐおっ!」
「波ああ!」
「グガァ!」
気功波に吹き飛ばされて界王神界の地面にたたきつけられる界王神界は他の星と比べてはるかに硬く、トランクスとダーブラの戦いでも壊れることはない。
*
吹き飛ばされたダーブラは界王神界にできたクレータの中からトランクスを睨む。
(界王神の援護がやつの攻撃の起点になっているな。)
界王神程度の実力などはっきり言って大した脅威になり得ないと思っていたがなかなかどうして厄介なものだ。先の石化唾の無効化に始まり視界を制限する霧、分かっていれば隙などできないが、そうでなければわずかに隙ができる。
(俺に直接干渉した技は使ってこないから戦えてはいるが…)
自分より劣っていたトランクスとの戦いを何とか成立させていたキビトの力量を思えば、それよりも優れたる界王神の援護が効果的なのは当然のことかもしれない。
(ならば、まずは界王神を殺すか、いや…)
入れ替え術のことを考えれば界王神を先に殺すのは至難の業だ。二人を殺すことの難しさを痛感する。きっと無理だ。
(俺は、負けるのか。)
バビディ様、私はどこで間違えたのでしょうか。
そんな問いは無意味だ。答えは分かってる。バビディ様に私の忠誠を信じてもらえなかった。植え付けた忠義をあの方は信用しきれない。
伝えればよかった。私が自身の心を操る糸に気づいていたことを。その糸に私の意志で身を任せていたということを。
死後の世界があるのなら、私はバビディ様に会えるだろうか。
ガキィン!
「うっ!」
戦いのこと以外に思考を割いたのだ。ただでさえ押されていた。この結果は必然だ。抗うことを諦めた者にふさわしい末路。特大の気弾がトランクスの両手の上で輝く。
「エンチャント・エンハンス!」
界王神の声が響くとその特大の気弾はさらに力強く輝く。ああ見事だったよ。アンチカースに始まり、時間が掛かるはずの付与術を連発して、お前も間違いなく私の敗北の立役者だ。
「フィニッシュバスター!」
ズガアアァ!
巨大な気弾がダーブラを滅ぼした。
*
「これで全てが終わった。」
「ええ、これで宇宙が平和に。」
彼等が宇宙の平和を守ったことを彼等以外に誰も知らない。
「っと、大丈夫ですかトランクスさん。」
界王神には復活パワーを使うことができない。ずいぶん無理をしたトランクスをねぎらうことしかできないことをもどかしく思いつつ、肩を貸す。
「この宇宙の救世主ですよ、トランクスさん。」
「ようやく、ようやく地球を守れました。俺はようやく師匠たちに顔向けできそうです。」
自分を捕えていた因果をやっと張らせた。ようやく前を向ける。
「私以外にその偉業を称える者がいないのが少し勿体ないですが…だからこそあなたが望むならこのまま付き人として修練を積んだ後にこの座を譲り渡すこともできます。」
芯人でない者が界王になる例はあれど、界王神になる例は今までで一度も無い。それでもその働きに報いるならば前例を作るくらいはするつもりだ。
「いえ、俺には界王神の座は性に合いませんよ。俺は地球に戻ってこれからも地球の平和を守っていきます。この体がそれを許す限り。」
そう言ってトランクスがポタラをなでる。
「この座はお返しします。」
「界王神になれば寿命という枷から解き放たれます。半永久的に地球を守ることもできますが。」
それこそ地球が自分の力なくても大丈夫だと思えるまで、と続ける界王神にトランクスは首を振る。
「俺は地球人として生きていきたいんです。後進も育てます。地球が地球人の手で守れるように。」
「そうですか。私も頑張らねばなりませんね。宇宙の危機をこの私の手で守れるように。」
「界王神様は今のままでも十分強いですけどね。」
戦闘力という意味ではなく、その他のあらゆる意味でこの方は強い。人として完成されている。でもそれは神の目線で言ったら違うのだろう。
「ハハ、ありがとうございます。」
「さてと、それじゃあ俺は地球に戻りますね。もう会うことはないでしょう。さようなら。」
そう言ってポタラを外して界王神に渡そうとするが界王神は首を振った。
「いえ、その力はこれからの人生に役立つでしょう。何かあれば私とあなたをつなげる物でもあります。何かあったら頼ってください。」
界王神のトランクスに対するせめてもの礼。付き人の能力に加えて神具のポタラだ。その言葉にトランクスの顔が綻ぶ。
「ありがとうございます。それでは…また会いましょう。」
そう言ってトランクスが下界に戻った。この平和はトランクスと界王神によって守られ続ける。
この小説はいつから異能力バトルになったんでしょうね?
以下この話の概略
トランクスとダーブラの合体戦士がブウを圧倒し倒す。界王神界にもどったら二人の体力の平均で分離してしまう。トランクスとダーブラが戦ってトランクスが勝つ。
たった二行で語れることが五千字に増えるとかどうなってるんだ?