「ブウッ!」
殴り飛ばしたブウはすぐに態勢を立て直してきた。
ピシュン!ドンドンドンドンドンドン!
頭の触覚を掴んで毬のように何度も殴る。
「そりゃああああ!」
触覚が伸びきったところを地上に投げ飛ばした。地上は魔人ブウが滅ぼした村の跡地だ。生きている人間など一人もいない。
「ほぉいっ!」ピピピピピピピピピ!
魔人ブウが両手を挙げて気弾を連射する。ベジータが得意とする連続エネルギー弾。きっとベジータとの戦いで学び盗ったのだろう。
「チィッ!」ガガガガガ!
ベジータの技を受けたのは一年前、でもおらにはそれで十分だ。ある程度対応は出来る。
ピシュン!
しかしその技の対応をしていればブウに対して隙ができる。背後を取られた。
「それっ!」
腕を伸ばして殴り掛かってくる。その攻撃はピッコロで知ってる。瞬間移動で避ける。
シュウィン!
「うがっ…!アグッ」
避けた先に攻撃が置いてあった。戦いの中ではたった一度しか見せてないというのに対応された。そして攻撃されたら緻密な気のコントロールに綻びが出る。
「ブウーーーー!」
ピシュンピシュンピシュン!
追撃をしてくるブウから瞬間移動で引き気味に躱しながら時間を稼ぐ。
(今ッ!)ドグッ!
ブウが怒って攻撃が単調になったところでカウンターを仕掛けた。直撃したはずだが体が埋まり始める。
「イヒィ…」
「な、うぐぐぐ…うがあああああ!」
圧殺してこようとしてくるブウに対して爆発波を浴びせた。
「チッ!」
爆発波を至近距離で食らわせたら普通ばらばらになって飛び散るだろうに、ブウは体を平べったくすることで衝撃を逃がしたらしい。息を吸い込むことで何事もなかったかのように復活する。
「お前、本当に強いな。もっと、もっと戦おう!まだまだ満足できない!」
戦いとはわくわくするものだ。目の前の相手はそうなのだろうに自分はそんな感情に浸れない。かつては自分が一番戦いを楽しんでいたはずなのに。ああ、格上の相手に対してわくわくしたのなんていつの戦いが最後だったろう。
ドン!ドドドドドン!
肘と肘、膝と膝、右拳と右拳がそれぞれぶつかりあってスパークを生む。界王拳はただ発動するだけで大きく体力を奪っていく。ライやクリリンのように界王拳を使いこなせれば、そんな風に修業中何度思ったことか。
「ぐぅ!」キィン!
「ブゥ!」ダァン!
殴打がお互いの頬に刺さる。お互いに同じ威力のダメージが蓄積されるが再生できる魔人ブウに比べて悟空が圧倒的に不利だ。お互いの身体が密着したのをいいことに魔人ブウの身体が紐のようになって悟空の全身に巻き付いた。
「こういうのはどうだ?」
爆発波は通用しないことは先ほど証明されている。
「うらあ!はあっ!どぉおりゃああ!」ダン!バン!ドゴォン!
なんとか自由が利く左腕で巻き付いたブウに拳を何度も打ち付ける。
「ブウッ!?ぐうッ!?おがぁ…」
再生能力があっても痛みが無いわけではない。それも普通の人間と比較すればだいぶ鈍いのだろうが、しつこく連撃をくらわすことによって解放させた。
「拘束技なんて使い勝手の悪いもんだ。おらの仲間だってめったに使わねえ。」
使うとしたら大技を当てるための時間稼ぎだ。拘束している間は攻撃の恰好の的だし致命傷を浴びることだってある。さっきの爆発波だって普通はそれで決着がつくはずだ。魔人ブウが粉々に吹き飛べば気で完全に消滅させていた。
「じゃあこんなのはどうだ?」
そう言うとブウが体の一部を切り離す。かと思えばその細胞片が意志を持つかのような動きを見せた。
「なに?」
速度はブウに匹敵し、動きはブウよりはるか変則的、その細胞片が右足に絡みつく。ブウの目が少しだけ邪悪に見開かれる。
「ブウッ!」
ブウが再び肉弾戦を仕掛けてきて悟空もそれに応じる。ブウの攻撃を右腕で受け、左膝で攻撃を放つがそれを左腕で防がれる。続いて繰り出されるブウの足蹴りを右足で受け止めようとして、そして。
「!」バァン!
絡みついた細胞片がその動きを阻害した。
「グワッ!」
「それが邪魔で動きにくいだろ?」
バンバンバン、ババンドン!
その一撃を皮切りにブウが悟空を滅多打ちにする。
「ブウ~~~~!」
ドォォン!
止めというように放った連撃最後の一撃を悟空は受け止めた。
「こんなものでおらは止められねえ!」ドグゥッ!
そう言ったかと思うと右足で蹴りを放つ。
「うぎゃあ!」
腹を抉るように蹴りをいれた。
「波ああああ!」
気功波を放ち、それをブウはもろに受ける。体に大穴があく。
「うううう…ブウッ!」ポンッ!
少し気を入れるだけで魔人の身体は再生する。
「チッ!この強さで不死身なんだからインチキもいいとこだ。」
「今の面白い。俺もやってみよ!」
そう言うとブウが両手を合わせてかめはめ波を放った。
ビシュゥゥン!
「不味いッ!」
位置取りが悪かった。斜め下に放たれた気功波はいずれ地球に直撃する。そうすれば地球はお終いだ。
「ぐ、ううう…がァッ!!」
気功波を受け切り衝撃波で気功波をかき消す。
「ハア、ハア…」
「やっぱりお前、強いときと弱いときがあるな。お前が俺と戦えるの、紅いオーラが出てる時だけ。しかもちょっとずつ紅いオーラが出てる時間が短くなってないか?」
(勘もいいんだからやってられないぜ。)
ほぼ常時十倍にはしているがそれでもほんの僅か、水中で息継ぎが必要なように、体がぶっ壊れないように界王拳を解除しなければいけない瞬間がある。そしてその時間は戦いが長引けば長引くほど長くなる。
「ハハ、当たり。」
「おまえと戦うの面白い、けどお前の力どんどん減ってる。面白くなくなっっちゃたら俺すごく嫌だ。だからこれで終わりにする!」
再生能力があるお前とは違うんだよ。普通の人間は戦えば体力が減り、最大パワーが出せなくなるものだ。
「ハハァ…!」
特大の球状の気弾、別の次元では破壊と殺戮の純真となったブウが放った大技、プラネットバースト。この局面でこれほどの大技を放たれることに愕然とする。
「ハ、ハハ、マジかよ。」
戦いの気力が削られる音が心に響く。何とかできると思ってた。これまでがそうだからといって今回もそうである保証はどこにもないというのに。おらは自分で思っていたよりずっと、人間だったんだと思い知らされて。
「(孫!)」
ピッコロ達の声が脳内に響く。神と同化したことにより会得した念話術。
「(お前は孫悟空だ、孫悟空にできないことなんてない。そうじゃないのか?自分を信じろ。孫悟空!)」
「(ああ、そうだ、そうだったなピッコロ、おらは孫悟空だ。おらは最後まであきらめない!)」
おらは自分で思っていたように、素晴らしい仲間に囲まれていると再確認して。
「地球には、地球には指一本触れさせはしねえ!うおおおおおお!」
両手に気を目一杯にため込む。
「十倍超界王拳!」ボウッ!バアアアア!!
「ブウッ!」シュッ!
「でえええりゃあああああ!」ズアッ!!
両腕から放たれたかめはめ波がブウの放たれたプラネットバーストを変形させる。
「うおおおおおおおお!」
その全力のかめはめ波がプラネットバーストを貫こうかという瞬間。
「おまけっ!!」
ズオン!
「お、おい!?」
大技を打っているはずだ。そのエネルギー波はそうそう連発できない類の威力だ。そんな常識をこいつは軽々と超えていく。
「く、くっそおおおおお!」
体から悲鳴が上がる。筋が引き裂かれ、腱が切れる。界王拳を維持するためにわずかに肥大した皮膚から血が噴き出し始める。
「(まだ終わってないだろ。どんなときだってどんなピンチだって今まで跳ね返してきたじゃないか。)」
クリリンの声が響く。それだけで体から聞こえてくる悲鳴を覆いつくすような闘志がわいてくる。
「二十倍だあ!」
ガアアアア!
二つのプラネットバーストをそれでも悟空のかめはめ波はプラネットバーストに抗った。それでも。
プシャッ!
「うぐぉおおわあ…あ、あ、あ、がああ!!」
体から血が噴き出し、血色のスパークが悟空を苛む。プラネットバーストがかめはめ波を押し返しだす。
「(大丈夫だよ悟空。いっつも一人で何とかしてきたから今回もひとりでなんとかしようとしたのかもしれないけれど、悟空、君が今まで積み上げてきたものを思い出して。)」
願わくば、そこに自分が入れれば良かったのだけれど、地球の命運を守るは今を生きる者たちだ。
「父さん、あなたの背負っているものを少しだけでも僕に分けてください。」
「お、おめえ死んじまったんじゃ…」
界王神界で修業をしていた悟飯が、なんとか間に合ったと悟空の肩に手を置く。
「僕達の力も!」
「使ってよ!」
悟天とトランクスが悟空の背中に触れて。
*
「すまねえな、悟空、悟天とトランクスを止められなかった。」
天界でヤムチャが座り込み独り言つ。
「でもしょうがないじゃねえか。あんな目をされたらさ。流石お前やベジータの息子だよ。」
仮に悟天やトランクスより強かったとしてもきっと二人を止められなかっただろうから。
*
「おらの背負ってるもん、一緒に背負ってくれ!」
その一声で悟飯たちが満面の笑みになる。三人の気が送り込まれて、今のおらなら何でもできる気がするんだ。
「波あああああああああ!」
全力のかめはめ波が二つのプラネットバーストを打ち破る。
「ぶうううううう!」
かめはめ波を魔人ブウは受け止めて、
ピシュン!ドゴォン!
「うぎァ…」
一日だけの復活をとげたベジータがビックバンアタックが最後の一押しとなって、魔人ブウは細胞一つ残さず消え去った。
*
「今を生きる者たちって思ってたのに、水差してくれたね。ベジータ。」
「フン、貴様の感傷なんて知ったことか。」
あのあと、二十四時間復活できるはずのベジータはただの一発であの世に戻ってきた。誰と会話することもなく。
「まあこれくらいの後押しは見逃してやるんだな。最後に何か一つくらい息子に残してやりたかったんだろうぜ。」
「チッ!」
ピッコロの言葉にベジータが忌々しそうに舌打ちを打つ。父親として死んだ彼はしかし、罪を犯しすぎていた。地獄に落ちる魂は悪の気を浄化されて生まれ変わる。悪の心が強いものは浄化に時間が掛かるが、ベジータならそうそう時間もかからないうちに浄化が完了するだろう。
「何のプライドか知りませんけど、時間あったんですから最後にブルマさん達に会いに行けばよかったのに。」
息子や妻に会いに行く、それくらいのわがままは許されるはずなのに。
「俺は今更父親面をする資格なんてないんだよ。」
ぶっきらぼうにベジータは言った。
「そうですか。」
なればこそ、ライもぶっきらぼうに返して立ち去る。表情をのぞき込むなんて悪趣味だから。
「なあピッコロ、俺達生き返れると思うか?」
「地球のドラゴンボールじゃ無理だな。全員一度死んでいる。」
閻魔大王の館から少し離れた蛇の道、三人が会話を交わす。
「それでもナメック星のドラゴンボールなら生き返れます。神様の帰省ついでにドラゴンボールを使わせてもらえれば。」
私達だけ生き返れる方法を知ってるのはずるい気がしますけどねとライが続ける。
「まあそれだけの功績はあげてるだろ。」
「だから肉体を与えられてるわけだ。気にしすぎる必要もないだろう。数日後にはまたいつもの日常が戻ってくるさ。」
その言葉通り、死んでしまった者たちはすべからく生き返る。ただ一人、ベジータを除いて。
*
キビトの復活パワーによって体力を取り戻した悟空達は神殿に向かいながら話をしていた。
「へえ、それでおめえ生きて修業してたってわけだ。生きてたならおら達にちょっとだけでも顔見せてくれればよかったのによ。」
「すいません、お父さんやベジータさんが死んでしまったと思っていて少しの時間も無駄にできないと思ったんです。」
まあ無駄になっちゃいましたけど、と背中の剣に視線を向けながら言った。
「無駄じゃねえさ悟飯。おめえたちの気が合ったから最後何とかブウを倒せたんだ。少しでも気が足りなかったら駄目だったかもしれない。おめえのおかげでもあるんだよ。」
「「もちろん俺(僕)たちもね!」」
「ああ、みんなありがとな。」
(ベジータもな。サンキュー!)
悟飯たちは最後にベジータが来たことには気づいてないだろうから、続く言葉を飲み込んで、悟空は笑った。